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基本プロフィール
- 選手名:遠藤航
- 生年月日:1993年2月9日
- 国籍:日本
- 身長:178cm
- ポジション:DMF
- 背番号:3
- クラブキャリア:湘南ベルマーレ(JPN/10-11~), 浦和レッドダイヤモンズ(JPN/16-17~), シント=トロイデン(BEL/18-19~), シュツットガルト(GER/19-20~), リバプール(ENG/23-24~)
- 市場価格:€6.50Mill.
- 契約終了年:2027年6月30日
プレースタイル
2022年のカタール・ワールドカップにおいて日本代表不動のボランチとして躍動し、チームの決勝トーナメント進出及び大会9位評価認定に大きく貢献。日本のサッカーファンにはもはやお馴染み“日本のデュエル王”がリバプールFCへの挑戦権を得た。
ストロングポイント
やはりと言うべきか、一番の武器は他国籍人種にも引けを取らない1対1への対応能力。“日本のデュエル王”の名に恥じないだけの実績を残しており、ブンデスリーガで2シーズン連続デュエル勝利回数1位(20-21、21-22シーズン)、 W杯のドイツ戦において15回中11回勝利のデュエル勝率73.3%(ちなみに10回以上のデュエル機会を条件としてW杯のドイツ戦で、過去これよりも高い記録を残しているのは元ブラジル代表CBダヴィド・ルイスのみ)など、彼のデュエルに関するポジティブなスタッツは多く存在する。
遠藤自身が守備的ポジションを主戦場としているということもあってか、彼とデュエルを結びつけて連想する際は「ボールを奪いにいくアクション」という印象のみがどうしても強くなりがちかもしれない。
だが、彼が所属していたドイツリーグ連盟(DFL)はこのデュエルという表現について「フィジカルコンタクトの可能性がある状況において自分たちのボール保持にしようとするアクション」と定義しているため、ボール保持の際に発生するフィジカルコンタクトに耐えて次のプレーに繋げることもデュエルの成功と定義できる。
実際、遠藤自身もドイツでの試合や代表戦においてボールを持っている状況で相手にプレスをかけられても簡単に倒れずにキープし続ける場面を見せることが多々あるため、彼のデュエルに強いという評価は言い換えれば「ボールを奪えて簡単に奪われにくい」ということになる。
遠藤のデュエルに対する自信を作り上げているポイントは全体的に肉付きの良い厚みのある胸板等の身体的要素だけではなく、彼自身が様々な知見を持ってプレーをしているところにもある。
味方の立ち位置や相手がボールを置く位置と言った状況を観察・考察し、駆け引きを仕掛けて勝負する点。相手が力をかけてくる動きを利用して自分の体を上手く流し、ドリブル等の動きに繋げる点。
特に2点目は全身の力を使ってソリをコントロールするスキルが求められるボブスレー競技の元五輪代表選手に効率的な体の使い方を学ぶためのトレーニング教示を依頼しているとのことで、彼なりにドイツの地で戦うために試行錯誤していることが窺える。
ただ闇雲に体を鍛えて相手との純粋なぶつかり合いで優位に立とうとする訳ではなく、体を鍛えた上で欧州における自分の立ち位置を理解し、様々なアイディアを持って工夫を凝らすことが出来る思考能力が日本のデュエル王たる秘訣と言える。
また、上背が178cmと特別な高さを誇る訳ではないが、その高さの割に考えると優れた水準の空中戦性能も併せ持つ。空中戦の勝利に必要な能力の1つとして挙げられがちな落下地点予測に長けており、相手より先にボールが落下する位置を判断して望ましいポジショニングを取り、自分より上背のある相手であればその体を利用することも厭わず果敢に競合いに挑む。
昨シーズンまでリバプールで不動のアンカーとして猛威を奮ったファビーニョ(現アル・イテハド)が190cm近い高身長だったことを考えると物足りなさを感じずにはいられないかもしれない。ただ、試合において理不尽とも言える空中からの蹂躙に一番曝されやすいポジションはCBのため、正直なところアンカーとして考える分には彼の水準があればそこまで大きな問題は無いと思われる。
メンタリティに目を向けると、とりわけ目を惹くのがキャプテンシーと責任感。19歳にして早々に湘南ベルマーレでキャプテンマークを巻いており、23歳の頃にはリオデジャネイロ五輪のサッカー日本代表にてキャプテンに抜擢。
彼のパーソナリティ面を語る上で早い時期から強い責任感を求められる役回りに立たされてきたというエピソードは外せない。それは今も変わらずで日本代表のキャプテンや前所属のシュツットガルトのキャプテンを務めており、多くの環境で仲間を引っ張り続けている。
その責任感の強さはプレーにも表れており、特に顕著なのがピッチ内でのハードワークぶり。ブンデスリーガではシーズン走行距離ランキングに3シーズン連続でTOP10入りを果たしており、(20-21シーズン4位、21-22シーズン7位、22-23シーズン7位)、強い責任感と使命の下懸命に汗をかく男であることが見て取れる。
与えられた使命に対して誠実かつ愚直に取り組む姿というのは日本人が海外で求められがちな部分とはよく言われるが、遠藤は現役の日本人サッカー選手の中でそんな理想像に一番近い選手と言っても過言ではない。
クロップが標榜しているのはヘビーメタル・フットボールと称される勇猛果敢なチーム作りだが、そういう意味では遠藤が併せ持つ人間性はそれにマッチしているのかもしれない。
ウィークポイント
遠藤の課題としてよくピックアップされがちな能力として、ボール保持の際の立ち回りがある。現代サッカーにおいてはボールの主導権を握った後、如何にしてスムーズに攻撃へと移行させるかが強く求められる。彼はその主導権を握るまでの働きはある程度計算が立つものの、攻撃に転じるプレーは光るものを持っているとは言い難い。
前に対する意識は持ち合わせているため、しばし鋭い縦パスやドリブルでの持ち上がりを試みて成功することはある。とは言え、そこの能力に関しては例えば日本代表の中で見ても取り立てて優れている部類ではないため、そもそもそういったプレーを彼に求めるという計算はあまりされていないだろう。
リバプールのビルドアップに関してはフィルジル・ファン・ダイクやトレント・アレクサンダー=アーノルドと言ったお馴染みの選手らに加え、新しく加わったアレクシス・マクアリスターやドミニク・ソボスライ等、中盤〜後ろにかけて優れた能力を有している選手が多数いる。
そういった環境のため、正直なところ(もちろん状況次第ではあるが)主導権を握るまでの働きに徹し、それ以後の展開は彼らに任せて無難に立ち振る舞いさえすれば致命的なボールロスト等大きな危険を招くことは少なく抑えられるだろう。
このことから、ビルドアップに繋げるまでの動きとしてはボールを奪った後に失わずに粘り強くキープすることで味方に自由に動き回る時間を与え、以降はそのボールを無難に渡して他のMFやアーノルドらに決定的なチャンスを創出してもらうという働きが出来れば望ましいと感じる。
その他に気になる点としては、先ほどストロングポイントとして挙げたメンタリティが時折状況によってはウィークポイントとなってしまうところ。一人で何とかしようとしてしまう過剰なまでの責任感からの強迫と負けん気の強さ故か、しばし自分の現況で行える限界値以上のプレーに走ろうとし、危険を招くシーンも度々見受けられる。
東京五輪において3位を決めるための対メキシコ戦では疲労もあったとは言え、普段の彼らしからぬ過剰なまでの熱が入りすぎた動きをし、結果空回り気味に終わると言う低調なパフォーマンスに終始してしまった。
少なくともプレミアリーグの上位を争いたいというレベルのクラブにおいては遠藤1人に過剰な負担がかけられるような不甲斐ない展開にはならないとは思われるが、もし彼がイングランドサッカーへの適応に苦しんだ時。焦りからその責任感の強いメンタリティがウィークポイントに傾くことがないよう、心は熱く頭は冷静にプレーして欲しいと願うばかりだ。
ポリバレント性にも目を向けてみると、過去にアンカーやボランチ以外でもCBや右SBでのプレー経験があることも含め、しばしば「ジェームズ・ミルナー(現ブライトン)の後継的存在になる可能性」と評されている。
しかし、実際にCBや右SBとしてのプレー経験があるのはその多くが日本とベルギーでのプレーをしていた頃。ドイツに来てからもクラブが2部だった頃に2試合のみCBとしての出場経験があるのみ(うち1試合はカップ戦にて1部のバイエル・レバークーゼンが相手)。
このことから、5大リーグレベルの水準においては守備的MFとしてのプレー経験しか無いことが分かる。勿論5大リーグ以外での経験値も伊達では無いため、そのポジションに就いた際の立ち回りの心得を持っていることは間違いない。
しかし、あくまでリーグレベルの話で考えた場合。守備的MF以外のポジションで通用するかは未知数と言えるため、ここに関して必要以上に過度な期待を寄せるのは少々酷かと思われる。
仮にそんな心配が杞憂に終わり、他のポジションでも計算が立つポテンシャルを彼が持っていた際にはベンチのやりくりが楽になるため、是非過度にならない程度の期待はしたいところだ。
幾らデュエル等のスタッツが優れているとは言え、ブンデスリーガで降格圏間際を争っていたチームの30歳、それもプレミアリーグ未経験者かつ貴重な非HG枠選手にそれなりの移籍金を賭けて獲得に走ったというところでフロントに対する不信感が募っている状況は否めない。
加えて、他の本命アンカーの獲得に失敗している立ち回りのこともあるため、フロントの行動に関しては正直擁護できない。
しかし、この一連の移籍劇に関して遠藤本人に罪は無い。そして遠藤自身もプレミアリーグでのプレーを夢見ていたという背景があるため、非常に応援したくなる。
あくまでフロントに対する不信感と遠藤に対しての応援したい気持ちは切り離して考え、アンフィールドでの彼の活躍を祈りたいところだ。
環境の変化に惑わされず、ブンデスリーガで発揮していたポテンシャルを余すことなく放つことが出来ればチームとしても有難い存在となり得るだろう。
エピソード
◆地元は神奈川県横浜市戸塚区。少年時代には横浜のJリーグクラブ、横浜F・マリノスのジュニアユースに落選しており、中学生時代は学校の部活動でサッカーを続けていた(後に湘南ベルマーレユースへと加入)。余談だが、マリノスはこの時期に同じく日本代表の伊東純也(スタッドランス)も落選させている。逃した魚は大きかったとはこのことか。
◆19歳で結婚しており、現在は4人の子を持つパパ。プレースタイルでも触れた彼の責任感の強さは、若い頃から家庭を持っている影響もあるのだろうか。
◆シュツットガルト時代にはマリオ・ゴメスと同僚だった時期も。マリオ・ゴメスと言えばかつてシュツットガルトやバイエルン・ミュンヘン、ドイツ代表等でストライカーとして活躍し、リーグ得点王獲得の実績もある2000〜2010年代のドイツサッカーを彩ったうちの1人。
当時シュツットガルトに加入したばかりで全然出場機会を与えられていなかった遠藤に対し、ゴメスはめげずにトレーニングを続けるよう励ました。そしてある試合の前日。遠藤はゴメスから「準備は出来ているか」と声をかけられたが、何と翌日のスタメンには自身の名が入っていた。実は練習時の遠藤の姿に感銘を受けたゴメスが首脳陣に遠藤を起用するよう直談判してくれていたとのこと。遠藤は与えられたチャンスで最高のパフォーマンスを発揮し、それ以降はシュツットガルトの主力として定着。そしてチームが1部に昇格したことを置き土産にゴメスは引退。今の遠藤があるのは、間違いなくゴメスのおかげと言って良いだろう。もっとも、その遠藤の働きによってゴメスの母国であるドイツ代表がW杯2大会連続グループステージ敗退という悪夢を見せられたことは皮肉な話だが…。
そんなゴメスもつい先日、遠藤について「ワタルのことが大好き」という一文から始まるコメントをメディアに残している。
初スタメンの前日に「準備できてるか?」って言ってくれたことですかね。
— 遠藤 航 (Wataru Endo) (@wataru0209) June 30, 2020
当時の監督は当日にならないとスタメンわからなかったので本当に出るのかわからなかったんですけど、後々聞いたらマリオが僕のことスタメンで出すべきって監督に伝えてくれてたと、、
それ聞いた時は素直に嬉しかったです😊 https://t.co/MtPiRP2kE8
◆試合中は常にマウスピースを付けてプレーしているが、これはマウスピース装着によるパフォーマンス向上の可能性を歯科医から紹介されたことがキッカケ。遠藤の歯の形状に合わせた完全オーダーメイドであり、シュツットガルトでは赤色を、日本代表では青色を付けてプレーしている。値段はこれまでかかった総額で高級車1台が買える程だとか。リバプールのチームカラーも赤のため、シュツットガルト時代の物を使い回すことが出来るという点ではお財布に優しいだろう。
◆ナサニエル・フィリップス(通称:ナット)とはシュツットガルト時代のチームメイト。ナットは19-20シーズンにリバプールからシュツットガルトへローン移籍をしていた。
◆リオデジャネイロ五輪にて日本代表がグループリーグで敗退した後、当時から代表のチームメイトであった南野拓実(現ASモナコ)と宿泊先のホテルで会話。
遠藤が「ここからステップアップできる選手いるのかなあ」と呟いたのに対し、南野は「いや、いないでしょ」と辛辣な回答。
そんな会話をしていた両名共に後の人生でリバプール移籍を果たすのだから、人生は何が起きるのか分からないものだ。
◆21-22シーズン、シュツットガルトが残留争いで苦しんだ中で迎えた最終節。後半アディショナルに値千金の勝ち越しゴールを決め、結果的にクラブの残留を決定つけた遠藤。後日、彼の家の前の道路に近所の子供たちが「LEG“ENDO”」という名前をもじった粋な落書きをしていたという。シュツットガルトで如何に愛された日本人であったかが窺い知れる。
Guten Morgen☀️
— 遠藤 航 (Wataru Endo) (@wataru0209) May 15, 2022
昨日家に帰ったら近所の子供達が僕の家の前に書いてくれてました(^^)
When I got home yesterday,the neighbors kids wrote this for me in front of my house 🙇🏻♂️🔥
thank you 🙏❤️ pic.twitter.com/Hx8abxLZBr
◆自身の哲学等を綴った自著伝、「DUEL」を刊行している。Amazonでも販売しているので、是非日本のKOPは購入を検討してみては如何だろうか。
https://amzn.asia/d/5qBYyVw
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