You’ll Never Walk Aloneの歴史と名シーン〜世界のサッカースタジアムで歌われる祈り〜

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リバプール、ドルトムント、マインツ、セルティック、FC東京など世界中のサッカーチームのスタジアムで毎試合歌われるアンセム「You’ll Never Walk Alone」。一体この歌はいつどこで誕生し、どんな歴史を経てサッカースタジアムで根付いたのだろうか。筆者は2018年2月に行われたヨコハマ・フットボール映画祭 2018で映画「YOU’LL NEVER WALK ALONE」を鑑賞する機会を得てその理解を深めることができた。

本記事ではその一部を参考にさせていただきつつ、「You’ll Never Walk Alone」についてまとめていく。

You’ll Never Walk Aloneの誕生

相手チームを負かし、自らの力を示すスポーツ競技とはとても遠い場所に位置する、「祈り」とすら表現されることのある歌がYou’ll Never Walk Alone。だからこそ、試合に負けていても尚美しく響く「歌うクラブと一緒に成長する歌」とも呼ばれているのかもしれない。そのルーツは1945年のブロードウェイミュージカル「回転木馬」。You’ll Never Walk Aloneは元々、劇中歌としてチャード・ロジャースとオスカー・ハマースタイン二世のコンビニより創られた一曲なのだ。「回転木馬」は日本を含む世界各国で演じられ、映画化もされている名作である。

「回転木馬」の原作はハンガリー出身作家のモルナール・フェレンツが造った「リリオム」。モルナール自身と妻との不安定な関係、男性の欲望を描写したその戯曲は戦前に各国で親しまれた。モルナールは「リリオム」の原作に拘りがあり、ブロードウェイでの再編・再演に乗り気ではなかったが、当時積まれた莫大な版権料を見てすぐに承諾。その後「回転木馬」は原作に変更を加えつつも元々の良さを残した作品として親しまれている。「リリオム」が「回転木馬」としてブロードウェイの舞台に立ったことでYou’ll Never Walk Aloneが誕生したのである。

では、ミュージカルの劇中歌がどんな過程を経てスタジアムに根付いたのだろうか。まずアンセムとして親しまれ始めたのはリバプールのアンフィールドだ。

リバプールとYou’ll Never Walk Alone

画像出典:This Is Anfield Flicker

You’ll Never Walk Aloneとリバプールを結びつけたのは1960年代に活躍したマージサーイドを活動拠点としたロックバンドジェリー&ザ・ペースメイカーズ。同時期にはザ・ビートルズも活動をしていたが、ヒットチャート1位を争うなど人気を博していた。そんな彼らが3曲目のシングルとしてリリースしたのがYou’ll Never Walk Aloneのカバー。4週連続でヒットチャート1位となり全英で親しまれた。

その頃、リバプールのスタジアムアンフィールドでは毎週DJがその週のヒットチャートソングを流していた。もちろん、そのひとつとしてYou’ll Never Walk Aloneが流れサポーターが歌ってていたわけだが、同曲がヒットチャートから姿を消してからも「You’ll Never Walk Alone」はその名残でスタジアムで歌われ続け、サポーターからは毎試合流して欲しいと強いリクエストありアンセムへと定着した。映画「YOU’LL NEVER WALK ALONE」では港町としての産業が廃れ街全体が貧しくなったが喜びを見出すしかないという時期に、サッカーという文化とYou’ll Never Walk Aloneのメッセージが絶妙に合致したという考察でリバプールとこの歌の結びつきを伝えている。

続いて近年You’ll Never Walk Aloneがリバプールの重要な歴史の中で歌われた2つの場面を紹介しよう。

イスタンブールの奇跡とYou’ll Never Walk Alone

Embed from Getty Images

「負けていようが俺たちがついている、いけ!」そんな誰にでもわかる合図として、当時最強と称されたシェフチェンコ、カカ、カフー、マルディーニらが率いるACミランに対して0-3の絶望的ビハインドで折り返したハーフタイムにYou’ll Never Walk Aloneの大合唱がはじまった。その効果が現れたのか、リバプールは後半54分のジェラードのゴールを皮切りに6分間で立て続けに3点を奪い試合を振り出しに戻す。その後もACミランの猛攻撃に晒されるが、GKデデゥクが神がかり的なセーブを見せてPK戦へ持ち込むと、最後にシェフチェンコのシュートをストップしリバプールに5度目のビッグイヤーをもたらした。「イスタンブールの奇跡」と呼ばれ、リバプール、そして、You’ll Never Walk Aloneを改めて世界に発信する機会となった。

ヒルズボロの悲劇とYou’ll Never Walk Alone

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ヒルズボロの悲劇はFAカップ準決勝のリバプールFC対ノッティンガム・フォレストで発生した死者96人、負傷者766人を出した警察の過失により起きた惨事のことである。シェフィールドのヒルズボロスタジアムで行われた一戦で、スタジアム外に溢れた2000人のファンの誘導ミスで当時存在したテラスと呼ばれる立ち見席が圧迫され、その後の対応が遅れたことで酸欠や圧迫、頭部の強打などで上記の人数の方が犠牲となる。当時、The S*Nを中心にフーリガニズムに依拠した報道が多くリバプールサポーターの飲酒や強引な行動が事の原因とされる傾向にあった。

しかし、遺族を中心としたグループが情報の開示を求め続け、2016年4月26日に発表された死因審問の評決ではサッカー史上最悪の惨事の原因が警察にあることが正式に認められ、リバプールのアンセムとしてYou’ll Never Walk Aloneが響き渡った。

事が起こった当時、大衆紙の「ザ・サン(The Sun)」は「真実」と題打って原因はリバプールサポーターにあり、警察の賢明な対応の最中にもサポーターが差別的な言葉を発したり暴力行為に出ていたという趣旨の内容を大々的に報じ、リバプール市民から大反発を買う。過失は警察にあった事が法廷で正式に認められた訳だが、リバプールの街ではザ・サンの不買運動は続いており、クラブは2017年2月10日に同新聞社の記者によるアンフィールドと練習場への入場の禁止を決定した。

〜次章へ

ここまでリバプールとYou’ll Never Walk Aloneの関係について紹介してきたが、冒頭でも紹介した通りこの祈りの歌は他のクラブでも愛されている。そのひとつがかつてユルゲン・クロップが指揮をとったボルシア・ドルトムントである。

ドルトムントとYou’ll Never Walk Alone

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ドルトムントは海に面していないが、流通網となる運河がありかつてはそれを中心として産業が発達した。しかし、時代の流れとともに産業が衰退する過程の中で、サッカー文化が街の中で喜びを見出す重要な役割をになったという点でリバプールとの共通している。そんな繋がりもあってかサポーター団体から「リバプールのYou’ll Never Walk Aloneのようなテーマソングが欲しい」という要望が上がったそうだ。それならYou’ll Never Walk Aloneをドイツ風にアレンジして歌えば良いということで、新しい音を入れてベース音を強くしてファンをスタジオに集めて収録しスタジアムでも歌い始めた。ドイツではドルトムントに加えマインツ、シュトゥットガルト、FCザンクトパウリなど数多くのチームがYou’ll Never Walk Aloneをスタジアムで歌っている。

それでは近年、ドルトムントでYou’ll Never Walk Aloneが歌われた印象深い場面を2つ紹介しよう。

サポーターが他界したマインツ戦でのYou’ll Never Walk Alone

2016年3月に行われたドルトムント対マインツ。試合は香川の得点含む2-0のホームチームが主導権を握る試合展開となったが、選手交代時も得点時も8万席が埋まっているスタジアムは静けさを纏い時間が進んでいく。その日スタジアムに足を運んでいた80歳のドルトムントサポーターが心臓発作で亡くなったのである。お互いのサポーターはSNSなどを通じて訃報を知りチャントを歌うのを止めたのだ。その雰囲気のまま試合が終了した。選手たちも何が起きたかを知り、自然発生的に歌われたYou’ll Never Walk Aloneの壁の前で肩を組んだ。

ある選手は試合後に「時に、サッカーよりも大事なものがある」と述べたが、この大変悲しい出来事に当事者として対面した選手と観客はYou’ll Never Walk Aloneに想いを乗せ、哀悼の意を示した。

リバプール対ドルトムントでのYou’ll Never Walk Alone

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ドルトムントはリバプールから輸入する形でYou’ll Never Walk Aloneをスタジアムに定着させた訳だが、アレンジも加え独自の雰囲気を醸すチャントへと昇華させている。この両チームが準々決勝で衝突した1516のヨーロッパリーグ。ユルゲン・クロップ監督の古巣対決という背景も相まって注目を集めた一戦は合計スコア5-4の劇的な展開でリバプールが決勝に進む事になるが、勝敗のみならず互いのサポーターが創り出した感動的なスタジアムの雰囲気が世界から賞賛され「FIFAファン賞」を合同受賞。アンフィールドで行われたセカンドレグはヒルズボロの悲劇から27年の前日の試合であったこともあり、アウェーサポーター含め追悼の意を表すモザイクをスタンドに浮かべた。

また、試合前の路上でも両サポーターが互いをリスペクトするかのようにYou’ll Never Walk Aloneを大合唱した様子も話題となった。

 

〜次章へ

You’ll Never Walk Aloneを歌うサッカークラブはまだまだあるがその中から3クラブを紹介しよう。一チーム目はリバプールでもKOPから絶大な人気を得ていた無尽蔵のオランダ人が帰還したあのチームだ。

2 件のコメント

  •  この歌はド派手に盛り上る曲調ではありませんが、選手やファンの「内なる闘志

    を燃やす」アンセムだと思います。 なんとなく!?「君が代」に通ずるものが

    あるのかな・・・って勝手に考えました♪

  • 自分はFC東京が好きで、よく、味スタのゴール裏でユルネバを歌ってます。リバプールサポが歌ってるのとは少し雰囲気が違いますがみんなが一つになれるような感じがして好きです。

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