リバプール復活の影の立役者〜アーノルドとロバートソンという世界最高のSBコンビ〜

アーノルド ロバートソン
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マジスタ

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惜しくもプレミアリーグ制覇は叶わなかったものの、6度目のチャンピオンズリーグ制覇という素晴らしい形で1819シーズンを締めくくることができたリバプール。
そんなリバプールにおいて、ファンダイクとアリソンという2人のゲームチェンジャーがチームを数段階上のステージへ押し上げたことは筆を執るに足らない周知の事実だが、特筆すべき数字を残し、魔法のシーズンを実現する最重要ファクターとなったのは、数年前までは無名の2人の英国人サイドバックであった。

画像出典:TAA公式Twitter

本記事では驚異的な速度で成長を遂げ、チームが苦しい時にいつもその両足から歓喜を演出した2人の小さな英雄のデータから、リバプールにおけるサイドバックの活用と重要性について再確認したい。

チームの得点を+8上乗せする類い稀な得点演出能力

ロバートソンは11アシスト、アーノルドは12アシストと両翼揃ってプレミアリーグのDF年間アシスト記録を残し、2人でチームのゴールの25%を演出してみせた。
アシスト数にフォーカスすればチーム全体の40%以上のアシストが彼らから生まれている。(PL)
ここでunderstat.comに掲載されているアシスト期待値(様々な因子から算出されるその選手が記録しうるアシスト数)を確認したい。

データで算出された昨季の2人のサイドバックのアシスト期待値は、アーノルドが7.22、ロバートソンが8.06であった。
上述した実際のアシスト数と比較してみると、前者が4.88アシスト、後者が2.94アシストを追加で演出していることがわかる。
2人合わせれば約8ゴール分。これはプレミアリーグでの3〜5勝分にあたり、彼らの存在がなければシティとの歴史的な優勝争いをすることはできていなかったことになる。

さらに今季最も重要な活躍を見せたのは、CLセミファイナルでバルセロナを相手にアンフィールドの奇跡を演出したアーノルドの2アシストである。
1st legの右SBがより守備能力に長けたゴメスだったことを考えても、アーノルド、そして逆サイドのロバートソンの存在なしにあの魔法のシーズンの完結はあり得なかった。
それだけ昨季のリバプールの両サイドバックは異色の出来だったと言える。

彼らの得点演出能力は欧州全体を見渡しても傑出しており、中盤でのプレーも多いバイエルンのヨシュア・キミッヒを除けば、サイドバックの選手で彼らよりも高いオフェンススタッツを残した選手はいない。
リバプールが世界に誇るべき才能は、若くしてチームの攻撃を彩る2人のサイドバックだ。

SPORT360°が選出する現代SBのヒエラルキーにはリバプールのサイドバックが揃って上位選出されており、ロバートソンがジョルディ・アルバとともに最上階層、アーノルドがカルバハルとともに第3階層に選ばれている。

リバプールが見出した魅力的なハイブリットプレー原則。

下図はプレミアリーグのTOP6チームのサイドバックのアシストに関するデータであるが、黒いグラフがアシストの期待値、赤いグラフが実際のアシスト数、そしてその差が選手の能力で“チャンス以上に”演出したアシスト数を示している。(逆に黒いグラフの方が高い場合は、チャンスを“活かしきれなかった”と考えられる)

名だたるライバル達と比較しても、リバプールの両サイドバックの異常なアシスト期待値、アシスト数が窺える。
彼らの得点演出能力に関しては既に前項で確認したが、本項で着目していきたいのは、リバプールのサイドバックにおける突出したアシスト期待値である。
アシスト期待値は選手のポジショニング、状況、DFとの距離、キック位置など様々な因子から算出される数値であるが、リバプールの2人はこの数値がはなから異常に高い。
それは彼らのポジショニングなどサッカーIQの高さや視野の広さなど個人の能力も関係しているが、これだけの差が生まれるとなるとチームがとった戦術的な役割も大きく関与していると考えるのが妥当だ。

ここで1718シーズンと1819シーズンのチームのアシスト数に占める各選手の割合を確認したい。

上図からサラーとフィルミーノのアシスト占有率はほとんど変化していないにもかかわらずコウチーニョ、チェンバレン、マネのアシスト数を見事に両翼でカバーしたことがわかる。また2シーズンでチームの総アシスト数はほとんど変化していない。
クロップは、前年にチームの22%のアシスト数を占めたコウチーニョとチェンバレンというチャンスメーカーのロスと、戦局を無視した理不尽なゴールを量産したサラーへの警戒を考慮し、明確な狙いを持って新たな得点演出方法をデザインしたと考えられる。

山口遼はリバプールのプレッシングに関するプレー原則を

①ウイングは外を切り、攻撃を中に誘導する。
②ボール周辺のカバーシャドー。
③2度追い、3度追いを辞さないアクションの連続性。
④1対1のデュエルを作り出し、ボールへ直線的にアタックする。

https://www.footballista.jp/column/68653

と推測している。

これらの準原則により、相手に時間的余裕を与えず「時系列上で相手の認知に負荷をかけ続け、相手のミスや対応の遅れを誘発する」というクロップらしい“ストーミング”のスタイルが確立されている。

しかし1819シーズンからクロップはリバプール(ストーミング)vsシティ(ポジショナルプレー)という二項対立的認識に矛盾するかのようにリバプールにポジショナルプレー的プレー原則を取り入れた。

この攻撃時におけるプレー原則を山口遼氏は

① [2-3-5]のバランスの取れた配置。
②ポジションチェンジしてもバランスを崩さない。
③前のスペースにダイレクトにボールと人を送り込む。
④ハーフスペースへのバーティカルなランニング。

https://www.footballista.jp/column/68653

と推測している。

①②のポジショナルプレー的原則によって得られる「ピッチ上での選手のバランスのとれた配置」により、ちょうどシティと同じように攻撃時から自分たちの秩序を安定させつつ、ボールを奪われた際の自分たちにとっての致命傷を防ぎ、理想的な配置でのゲーゲンプレッシングの開始を可能にした。

記事内でも言及されているがここで着目すべきは、クロップが導入したこのプレー原則の目的はシティのそれとは異なっており、あくまで自分たちの持つダイレクトでスピーディーでエネルギッシュなフットボールのためのものであること。

クロップはドルトムント時代から指摘されている「引いた相手」への崩しの手段としてMFナビ・ケイタを獲得し、このポジショナルプレー的原則を導入したことが考えらる。しかしケイタのフィットの遅れと度重なる怪我から、これが継続的な成果を残すには至らなかった。

そこでクロップはチームの新たな武器として2人のサイドバックの活路を見出したと考えられる。
実際プレシーズンやシーズン開幕直後は、ケイタが崩しの局面に広く絡み、特に左サイド深い位置でマネとのコンビネーションからの局面打開を狙う場面が散見されたが、ケイタの欠場が増すにつれて、そのエリアでボールを受けるのはロバートソンが担うようになっていった。
このことは後述するシーズンを通した2人のクロス数やアシスト数の変化からも顕著に見てとることができる。

前述の攻撃時のプレー原則①によりリバプールの攻撃時の選手配置[2-3-5]は

となり、アーノルドとロバートソンが大きく横幅を取り、サラーとマネがよりゴールに近いハーフスペースに位置する形が計画的に生まれることになる。
シティの場合は幅をとるのが両ウイングで、サイドバックは”偽SB”としてリバプールでいうMFのように振る舞うため、上述のウォーカーやジンチェンコのアシスト期待値も当然の結果である。

この配置自体は近年多くのチームが取り入れるオーソドックスな配置ではあるが、リバプールが特殊だったことは、前年に32ゴールと爆発的な活躍をみせたモハメド・サラーと超人的な身体能力を誇るサディオ・マネ、そして”偽9番”として中央のスペースメイクに優れたロベルト・フィルミーノのトリデンテを擁したことだ。

クロップは前年にスコアラーとして覚醒したサラーをよりゴールに近いエリアに配置した。対戦相手がサラー対策をすすめ警戒が強まったことで厳しいマークにあい、前年のような得点機会は見られなかったものの、常にサラーが相手マークを引き連れることで大外レーンには広大なスペースが生まれた。
このスペースは、ジェラードに憧れ磨いたキックを持つスカウサーがゴール前の味方を認知し、鋭いクロスを供給するには十分なスペースだった。
昨季はフィルミーノが一列落ちることで生まれたペナルティエリアのスペースに、超人的なバネのジャンプ力を備えたマネがあわせるというシーンが明らかに再現性をもって演出された。(今シーズン開幕戦vsノリッジでのオリギのゴールも)

決して強みとは言えなかったリバプールの両翼の選手に高い位置で幅をとらせ、彼らのキックを最大限に生かす戦術をとったのだ。

また攻撃時のプレー原則③「前のスペースにダイレクトにボールと人を送り込む」は前線のサラー、マネの狂気じみたスピード、そしてアーノルドとロバートソンの欧州トップクラスの鋭いキック能力を最大限に活かす。
ゲーゲンプレスでのボール奪取後は、相手DFブロックが整えられる前にサラーやマネが走り出し、アーノルドやロバートソンが高速のアーリークロスを入れる、といったスタイルだ。

とりわけ、アーノルドの鋭いスタイルのキックと、味方へのパスコースを見つけ出し、そのチャンス逃さない認知と判断の速度は欧州全体のサイドバックを見渡しても頭一つ抜けた存在であり、クロップがこれらを活かさない手はなかった。

画像出展:TAA公式Twitter

クロップはサイドバックの重要性について、
「サイドバックは本当に重要なんだ。(現代のサイドバックは)豊かな創造性を持って、頭をクリアにして、ペナルティエリア内の味方を見つける。それだけで大きく変わるんだよ」
と話している。

リバプールが志向する攻撃的なカウンタースタイルに、前線のスピード、サイドバックのキック力とクレバーな戦術眼が見事にマッチしたことで実現した昨季のスタイルだったように考えられる。

確かにアーノルドやロバートソンはフィジカル的に優れている訳ではなく、守備的なチーム戦術だった場合、平凡な選手だったかもしれない。
しかしクロップは彼らにスペースと時間を与えることで、再現性を持ってチャンスを演出できる世界最高のSBコンビを育てあげたのだ。

さらに増えうるサイドバックによるアシスト数と原点回帰の1920シーズン

昨季の両サイドバックのアシスト数とクロス数を試合ごとにグラフ化すると、面白いデータが得られる。

シーズンを通して稼働したロバートソンだが、そのアシスト数とクロスの数はシーズン後半(グラフの右側)で明らかに増加していることがわかる。
アーノルドにおけるこの変化さらに顕著だ。

シーズン後半には1人で4本以上のクロスを上げることも少なくなく、ワトフォード戦の3アシストをはじめ、明らかにそのアシスト数は増加している。

前述したようにこれには、ケイタのフィットの遅れによりシーズン途中からサイドバック活用路線にシフトした可能性や、2人の適応に時間を要したこと、経験を積んだことによる2人の覚醒といった理由が考えられるが、昨季の驚異的なアシスト記録はまだ限界値ではない可能性がある。

仮にシーズン後半のアシストペースを今季1年を通して披露したとすると、両サイドバック共にシーズン16〜18アシスト、2人合わせて30アシスト以上を記録する可能性すら秘めているのだ。
2人がアシスト数を競っているのは有名な話だが、成熟したサイドバック活用戦術で迎える1920シーズンの2人の活躍に期待せずにはいられない。

リバプールには世界の最前線を走るサイドバックコンビがいるんだ。

画像出展:TAA公式Twitter

しかし1718シーズンがサラーの年。
サラー対策が進んだことで1819シーズンは両サイドバックの年。

これだけの活躍を見せたことでプレミア各クラブがサイドバック対策をしないわけもなく、1920シーズンは新たな切り札の活躍が必要となると考えられる。

そして筆者としては1920シーズンはMF、とりわけオックスレイド=チェンバレンの年になると予測している。
サイドバック対策として相手が大外レーンのケアやゴール前のブロック構築をした結果として、中央レーンやハーフスペースにほころび、ミドルレンジにはスペースが生じる。これらを活かすことが出来るのは、リーグトップクラスのドリブル突破スタッツと、チャンスクリエイト能力、シティ戦に象徴される強烈なミドルシュートを備えたチェンボだからだ。

彼の中盤からの推進力は間違いなく今季真価を問われる。

一昨季のキエフのピッチで涙を流し、選手として大切な1年間失った彼が、辛いリハビリ生活を乗り越え、チームのラストピースとなる。
なんてシナリオだ。

画像出展:Oxlade Chamberlain公式Twitter

復調に時間がかかるかもしれないが、クロップが今夏の新戦力とした彼の活躍に最大級の期待をしたい。

最後に

クロップは「MFから生まれるゴールが少ないと聞くことがあるけど、我々は自分たちの長所を活かして、SBを活用してるんだ」と語った。
さて今季は2人のSBがさらなる飛躍を見せる年になるのか、はたまたチェンバレンをはじめとするMFが新たなチームの切り札となるのか。

画像出展:LFC公式Twitter


「我々は結束の固い組織だ。来季もまたタイトル争いをする」
これは昨シーズン終了時のロバートソンの言葉であるが、間違いなく今チームは一つの方向を向いて進んでいる。

さぁ、「どうなるのか見てみよう。

マジスタ#7

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