【リバプール試合レビュー】vsワトフォード〜衝撃の今季初敗戦は偶然か、必然か〜

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トリコレッズ

トリコレッズ

日本ではマリノスファンなので、Redsの虜(トリコロール=マリノス)という意味でトリコレッズという名前にしました 戦術・選手分析などをしていきたいと思います

ついに、この時が来てしまった……。

19/20プレミアリーグ第28節、ワトフォード戦。我らがリバプールは、0-3の敗戦を喫しました。

リバプールFC公式HPより引用

今シーズンはここまで26勝1分という圧倒的な結果を残し続けていたこともあり、この敗戦は諸方面で衝撃を持って受け止められました。

しかし、じっくりと見直してみると、これまでだましだましやってきたリバプールの弱点が、複数の要因によってさらけ出されたように見えたのも事実。

では、リバプールがこの試合に負けた理由を、いくつかの観点から振り返っていきましょう。

スターティングメンバー

スタメンは以下の通り。

リバプールは怪我人が続発しています。CBゴメスとマティプの怪我によりスタメンはロヴレン。IHはヘンドとケイタの怪我によりチェンボとジニ。3トップは元気にプレーしているとはいえ、アトレティコ戦の地味〜な敗戦もあり、やや気になるスタメンです。

一方のワトフォード。この試合リバプールを苦しめることになったサール、大きな怪我を負ってしまったデウロフェウ、素晴らしい活躍を見せたドゥクレ、そして巨漢トロイ・ディーニー。このあたりは結構圧巻の選手達です。

1. ワトフォードの見事な守備

ここに触れないのは明らかに片手落ちでしょう。この日、ワトフォードは試合を通じて見事としか言いようのない守備を見せていました。

この並びのポイントは二つ。

1.サイドを1対1で掴む

そこまで明白にマンツーマンだったわけではないと思いますが、サイドにボールが入ったときには必ずチェックするというのは決まっていたように思います。

2. ライン間を徹底的に消す

さらにこの日は、両センターハーフがしっかりと下がり、ディフェンスラインとの間にスペースを作らないという狙いがしっかりしていました。

そのため、ライン間で上手く受けることが得意なボビーが、ライン間から追い出されてしまい、相手のギャップを上手く作ることが出来ませんでした。

かつ、ドゥクレ、相手CH、相手CBが非常に集中しており、縦パスをカットしたり、縦パスが入った瞬間に潰していました。

2. 中を使えないリバプールの攻撃

この試合もアトレティコ戦もそうですが、リバプールの攻撃は基本的にサイドで完結することが多いです。なので、サイドを塞ぐという対策を取られた場合に攻撃が手詰まりになる感は否めません。では、なぜ中が使えないのでしょうか?検証してみましょう。

この試合のリバプールの攻撃時の配置はこちら。

そう、そもそも中に人がいません。

でも、これはある程度仕方ない点もあります。なぜなら、今のリバプールの攻撃は基本的にサイドを崩したいからです。というわけで、リバプールがサイドを攻略するために頻繁に見せていた動きがこちら。

リバプールの攻撃のキモはサイドと言いましたが、さらにいえばキモはサイドバックですよね。TAAとロボはどちらもキック精度が極めて高く、サイドで自由にボールを持たせれば、30メートルぐらいの距離であれば“点”で合わせることが可能です。

これは、そのサイドバックをできるだけ高い位置でプレーさせるためのポジションチェンジなのです。ウィングが敵SBを引き連れて下がり、そこに入れ替わりでリバプールのSBが上がっていきます。ただ、この試合ではあまり上手くいきませんでした。それには理由が二つあります。

相手がついてきた

まぁここまであからさまではなかったですが、とにかく上がっていったSBはしっかりチェックしていました。サイドハーフがそのまま下がる場合もあれば、敵SBがスライドして対応し、下がったウィンガーにはCHが対応するとか、色々ありました。とにかく、上がってくるリバプールのSBには対応する、というのが決まりでした。

インサイドハーフのポジションが低すぎor高すぎて、サイド攻撃に絡めなかった

お互い低すぎる場合
ジニは低すぎ、チェンボは高すぎる場合

もう一つの理由がこちら。この試合のリバプールの両IH、ジニとチェンボは、低すぎるor高すぎる位置にポジションすることが非常に多かったように思います。具体的には、ジニは低すぎる位置に、チェンボは低すぎる位置と高すぎる位置の両方によく位置していました。

ジニはファビーニョと並ぶような位置でボールを受け、ビルドアップを助けるような動きを見せていることが多かったと思います。これだと、サイド二人がポジションチェンジで相手を攪乱しようとしても、この二人のマークを受け渡すだけで済み、それ以上の混乱が起きません。

もし、ここにうまくインサイドハーフが絡むことが出来ていたら、サイドの二人で相手のサイドの二人を引きつけた上で、インサイドハーフがハーフスペースで受けることが出来ていたはずです。

切り替えのタイミングではワトフォードもプレスをかけてきましたが、いったん引いてからはそれほど最終ラインまでプレスを掛けてこなかったので、ジニはここまで下がる必要はなかったように思います。

ちなみに、後半途中でジニとチェンボに変えてララーナとオリギを投入し、4231にフォーメーション変更してからの配置はこちら。

こっちのほうがまだ状況は整理されていました。サラーは「ピン留め」役を果たし、相手CB2枚を押し込んでいます。そして2センターハーフは深めの位置を取ることで、トップ下のポジションに入ったボビー、あるいはボビーに代わって投入された南野には、比較的ポジションがあったように思えます。

ここに縦パスが入れば良かったのですが、前述したワトフォードの集中した守備で縦パスのコースを切られていたことと、後述する縦パスを入れる選手の不在により、ここにうまくパスを通すことが出来ませんでした。

3. ヘンダーソン不在が与えた戦術的影響

アトレティコ戦、そしてこのワトフォード戦に共に不在だった主力選手といえば、我らがキャプテン、ジョーダン・ヘンダーソンです。

ジョーダン・ヘンダーソン公式Twitterより引用

彼は類い希なるキャプテンシーを持つ選手なので、彼がピッチ上あるいはロッカールームにいないことはチームの士気に大きな影響を与えることでしょう。しかしもちろん、彼が担っているのはそれだけではありません。ヘンドが担っていたはずの戦術的な役割を担う選手がいなかったことも、この連敗の非常に大きな要因だったように感じます。

では、「ヘンドが担っていた戦術的な役割」とは、一体何だったのでしょうか?それは、最終ラインと前線の間の適切な位置にポジショニングし、各々をサポートすること

言葉で言うとちょっと曖昧ですが、具体的にどういうことか、攻守の場面に分けて見てみましょう。

攻撃時:主に右サイドの突破が上手くいかなかった場合、折り返しを受け取ってハーフスペースからクロス、あるいは逆サイドへ展開し直す

まず、ビルドアップの局面では、ヘンドは特に難しいことはしません。大体の場合は、シンプルにサイドバックへボールを渡します。

ですが、サイドでの突破が行き詰まった場合にはヘンドの出番です。少し下がった場所でボールを受け、逆サイドへ大きな展開をしたり、その場所からアーリークロスを放り込むことができます。

これがいわゆる「3人目の動き」で、ヘンド離脱後のリバプールの中盤に最も欠けている点です。サイドの攻撃時に3人目として絡んでいくプレーが今最も足りません。

ちなみに、ヘンドはTAAと入れ替わってサイドに出て、クロスを上げることも出来ます。こういったように、サイドの攻撃に彩りを加えることができるのがヘンダーソンです。あとは最近一発で相手バックラインの裏に落として前線の選手が一発で決める、いわゆる「タッチダウンパス」も出せるようになっていますね。

守備時:ピッチの横幅をほぼ全てカバーし、セカンドボールを回収しつづける

そもそも長めのボールを蹴ることがリバプール。深い位置まで突破してクロスを上げるというよりは、アーリークロスやバックラインからのロングボールが跳ね返ったこぼれ球を奪うというのが基本的に一番効率的な前進方法です。

このとき、当然ですがロングボールを放り込んだこぼれ球を拾う人が必要です。それを担っていたのがヘンダーソンでした。

また、被カウンター時には激しいプレスバックやカバーエリアの広さを発揮し、相手のカウンターの芽を摘み取るのもヘンドの仕事です。これもヘンドの唯一無二と言える働きです。ファビーニョはヘンドほど可動範囲が広くありませんし、ジニやチェンボはヘンドよりも高い位置まで進出することが多いので、プレスバックは間に合いません。

実際のところ、ヘンド以外の中盤センターの選手とヘンドのどこが一番違うかと言えば、この「プレーエリアの広さ」だと思います。ヘンダーソンには高い走力と、愚直なプレーを愚直にやり続けることの出来るメンタリティがあります。批判を受けることも少なくない彼ですが、チームのバランサーとして非常によい働きをしていたと思います。

ヘンドが果たしていたこのような役割は、ヘンド負傷後うまく引き継がれていないように思います。この試合、攻撃がなんとなくうまくいっていないなぁ……と思ったのは、攻撃を必ずサポートし、ダメならやり直すために走り回るキャプテンがいなかったことは大きかったと思います。

4. ロヴレンのパフォーマンスは本当に悪かったのか?

この試合の後、リバプールのメンバーの中で特にやり玉に挙げられていたのがロヴレン。もともと、彼は大きなポカをしやすいタイプの選手ということもあり、かつこの試合では失点に絡んだプレーを見せてしまったこともあり、非常に厳しい風当たりだったように感じます。

リバプールFC公式HPより引用

しかし、彼のプレーをもう一度見直してみて、正直思いました。

「……そんなに悪くない……」

もう一度言います。

あの試合のロヴレン、全体的にいえば、そんなに悪くないと思います。点数で言えば65点ぐらい。優・良はもらえませんが、可はもらえます。単位は出ます。大学生なんてそんなもんです(どうした)。

ただし、この評価には一つ注釈がつきます。それは、「ロヴレンの最大パフォーマンスを100点とする」ということです。

どういう意味かというと、「ゴメスやマティプと比較したわけではない」ということです。多くの方が、「あれがゴメスだったら……」「あれがマティプだったら……」という意味で、ロヴレンに辛い点を付けていたように感じますが、ここではそうではなく、彼のマックスパフォーマンスと比較して、という意味です。

でもこれって、ある意味当たり前じゃありませんか?ロヴレンが出るからには、ゴメスの100点と比較しても意味はありません。もしもロヴレンの100点がゴメスの100点よりも絶対的に劣るものであれば、それはロヴレンを責めるべきというよりは、そのロヴレンが試合に出る今のスカッドの状況を責めるべきでしょう、まぁ、とはいえ、ロヴレンは第4CBとしては贅沢すぎる選手だと思いますけどね。

さて、とにかくこの日のロヴレンの攻守を簡単に寸評してみましょう。

守備…全体的にはよく守っていたと思うが、ディーニーしか見えなくなってしまったことが問題

基本的に、この試合で彼に課せられていたタスクというのは、「ディーニーとのタイマン」です。とにかく、相手の巨漢CF、トロイ・ディーニーとのタイマンを制せよ、というのがメインクエストでした。

でも、器用な選手というのは、メインクエストをこなしつつ、たまには寄り道してサブクエストをこなすことができるものです。たとえば「たまに相手の中盤ラインの間を通すような縦パスを入れてみる」とか、「時にはディーニーを捨ててスペースを守ってみる」とかです。実績はそうやって稼ぐもんです。

しかし、それができないのが愛すべき不器用な漢ロヴレンディーニーをマークせよといわれたら、地の果てまでディーニーをマークしてしまうのです。

というわけで、ディーニーがロヴレンが押さえ込んでいる後ろにスローインがこぼれ、そのスペースを利用されて失点。ここからリバプールは不運もありましたが失点を重ね、最終的には0-3というガチめの大敗を喫してしまったのでした。自分不器用ですけん……。

ちょっとふざけましたが、ロヴレン自身のパフォーマンスがそこまで悪くなかったのは本当です。特に前半は主にディーニーとのタイマンだけというシーンが多かったので、空中戦に競り勝ってクリアしたり、たまにはカウンターを受けそうなシーンでディーニーから離れて他の選手にハードタックルをかましてみたり、実は結構見事なプレーぶりだったと思うのです。

ただ、1失点目のあと、ややディーニーを潰すことに心血を注ぎすぎた感じがあります。前半のようにある程度広いスタンスをとれればよかったのですが。たぶん、ワトフォード的にも「ディーニーを当てればロヴレンは消せる」と思ったのでしょうね。ディーニー自身も「ロヴレンを狙っていた」と発言していました。

攻撃面…パスの精度は不満。攻撃停滞の一因を担ってしまった

もう一つロヴレンに不足を感じるとすれば、キックの質。彼は針の穴を通すような縦パスを蹴ることはできませんし、浮き球も全体にフワッとしていて、かつしっかりと狙って蹴っていると言うよりはとりあえず前に放り込むという感じで、ロングパスというよりはロングボールです

例えばTAAやヘンド、ダイクのような、スッと伸びるような低弾道ロングパスを出すことは出来ません。しかも狙ったところに正確に届けることが出来るわけでもありません。

他のセンターバックに対してロヴレンが明確に不足している点といえば、守備面というよりはこの点でしょう。ゴメスは最近ロングフィードを蹴れるようになってきましたし、マティプはダイクとやりあえるほどのキック能力の持ち主です。特に、マティプは長めのグラウンダー縦パスを蹴り込むことが出来るので、その点ではロヴレンを大きくリードしています。

特にこの試合を硬直させてしまったのが、縦パスを蹴ることができる選手の不在。ワトフォードの選手達が上手く縦パスのコースを消していたことも大きいですが、この試合のリバプールには狭いコースに縦パスを蹴り込むことが出来る選手がダイクしかいませんでした。

ボーンマス戦、どうする?

ミッドウィークのFA杯チェルシー戦にも敗れ、まさかの公式戦3連敗を喫したリバプール。次のボーンマス戦も楽な相手ではありませんが、この辺りで立て直しておきたいところです。

リバプールFC公式HPより引用

ボーンマスの今シーズンについてはハリー・ウィルソンを追いかけている木靴屋さんの記事が詳しいので、詳細はそちらに譲るとして、ここでは前々節のバーンリー戦、チェルシー戦を眺めた僕の雑感から。

ボーンマスのフォーメーションは基本的に433or442、中盤3枚が激しく動き回って相手のボールを奪い取り、カウンターを打つ感じのチームです。逆に、ボールを長い時間持たされると、攻めあぐねるシーンも少なくありません。チェルシー戦は結構ちゃんと持ててましたけどね。

特徴的だったのがSBの持ち上がり。前にスペースがあると、スピードと推進力に優れた右SBのステイシーと左SBのスミスがグイグイと持ち運び、そこからコンビネーションでサイドを突破するような形が見られました。

特にバーンリー戦で目立っていたのが左サイド。SBのスミスに加え、左SHのキング、IHのゴスリングが良い距離間でトライアングルを形成し、左サイドを突破していました。

守備時は人に強いイメージで、相手のビルドアップまでしっかりとプレスに行きます。特に右IHに入るビリングは積極的に前まで上がっていくので、左IHのクックとアンカーのレルマがバランスを取る感じでした。

特に、サイドから攻撃される場合には、片方のサイドに人数を多くかけて縦パスを防ぎにかかっていました。3センターが全員片方のサイドに入ることもあり、その人数のかけ方は徹底しています。

ですが、裏を返せば逆サイドは大きく開いています。実際、チェルシー戦のチェルシー先制点は、右サイドで浮き続けていたリース・ジェームズに長いボールが入ったところから始まっています。

ということで、この試合のキモになるのは、

トレント・アレクサンダー・アーノルド

リバプールFC公式Twitterより引用

でしょう。もともと、リバプールの右サイドは「作るサイド」、左サイドは「加速するサイド」です。右サイドではTAA、ヘンド、サラーあたりが絡み合いながら前進し、そこで相手を引きつけた上で大きく開いた左サイドへ展開して、ロボとマネが加速していくのがリバプールの黄金パターンです。この形を見せることが出来るかが重要で、上手く使えれば、我らがサイドチェンジ番長TAAの右足がうなりを上げるでしょう。

本当は、この記事の前半で指摘したように、「中を使う」攻撃も出来るようになりたいのです。ですが、それはそう簡単にはいきません。中央を使うコンビネーションの構築は、基本的には恐らく来シーズンまで待たなければならないでしょう。


今はまさしく正念場です。ですが、毎シーズン調子の落ちる時期というのはあるもの。恐れることなく、前半戦のような強さを取り戻すことを信じて、今こそチームを支えましょう。

ジョーダン・ヘンダーソン公式Twitterより引用

それではまた。YNWA!!!

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