リバプールFCの左SB陣から見えてくる、現代フットボールで求められるSB像とは。

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結城 康平

結城 康平

月刊フットボリスタの連載に加え、複数媒体に記事を寄稿中の文筆業。留学中は、アンドリュー・ロバートソンの出身地であるグラスゴーの大学院に通う。セルティック時代に、スーパーで握手して貰ったヴァン・ダイクのファンでもある。サンダーランド時代からプレースタイルを何度も変化させてきた、ヘンダーソンも好きな選手。

現代フットボールにおいて、サイドバックは試合全体のパフォーマンスに直結する「要」だ。リバプールFCがCL決勝で相対するレアル・マドリードでは、WG並みの攻撃力とMF並みの視野を誇るブラジル代表のマルセロが常に違いを生み出す。今回はリバプールFCのSB陣を題材に、現代フットボールにおけるSB論を考察してみよう。

「アウトサイドレーン」型のサイドバック

画像出典:LFC公式Twitter

アルベルト・モレノは機動力に優れ、上下動を繰り返せるサイドバックだ。自分の前にスペースが広がっている局面で力を発揮する、「味方に使われる」タイプのサイドバックと言える。何より直線でのスピードがあるので、ショートカウンターの場面でも味方を追い越して攻撃に絡むことが可能で、長いスルーパスを供給するタイプと相性が良い。インテルでの長友とスナイデルの関係性のように、自ら突破するプレーを得意としないパサーをオーバーラップでサポートするのも、このタイプの特徴だ。彼らは大外のレーンを1人で請け負うことが出来るので、ウイングの選手は内側に切り込む動きや、中でボールを受けるような動きを増やしながら、サイドバックを中に寄せることで大外のレーンにスペースを生み出す。

アーセナルから加入したチェンバレンが左サイドのウイングで起用された2017-2018シーズン13節のチェルシー戦、チェンバレンは内側のレーンに入り込んでチェルシーのボランチを足止めし、コウチーニョがその背後からビルドアップの中心として機能。モレノはハーフスペースと呼ばれるレーンをコウチーニョとチェンバレンに使わせる為に、1人で大外を担当。この働きはジョー・ゴメスでは難しい。本職CBのゴメスの機動力では、どうしてもカバー可能な縦のエリアは限られるからだ。

広いスペースをカバー出来るからこそ、モレノのような「アウトサイドレーン」のSBは重宝される傾向にある。マンチェスター・シティのベンジャミン・メンディーは「アウトサイドレーン」型の理想とも呼ぶべき機動力とフィジカル、センタリング精度を兼ね備える選手だが、彼のような選手がいることでマンチェスター・シティはフォーメーション図では左サイドハーフに位置するアタッカーをハーフスペースと中央のスペースに送り込むことが出来る。右サイドのカイル・ウォーカーも同様に圧倒的なスピードで外のレーンを占有することを武器にしており、グアルディオラの補強はある意味で「アウトサイドレーン型」のSBが希少かつ貴重なものであることを示している。

攻撃面だけでなく、アウトサイドレーン型のスピードは当然背後のスペースを守る上でも重要だ。俊足ウイングとの一対一が求められることもあり、機動力に優れていることにはメリットが多い。特にハイラインを基本とするチームにとっては、背後のスペースを埋める保険にもなる。

「ハーフスペース」&「ゲームメーカー」型のサイドバック

画像出典:LFC公式Twitter

一方、スコットランド代表としても活躍するアンドリュー・ロバートソンは内側のレーンへの進出を得意とする「現代型」のSBだ。伝統的に後方から繋ぐ形を好む傾向のあるスコットランドの中でも「コンビネーション・フットボールの先駆者」として知られるアマチュアクラブ、クイーンズパークFCのユースチーム出身のロバートソンは、クラブの伝統的な価値観を象徴する「最高傑作」に相応しい。アマチュアクラブにも関わらず、その歴史的なスコットランドフットボールへの貢献によって代表の本拠地である「ハムデン・パーク」をホームグラウンドとし、プロリーグの参加が唯一許されている「アマチュアチーム」としても知られる彼らの練習を視察したことがあるが、彼らの練習において「サイドバックはボランチ的なタスク」を求められる。

スコットランド代表のホームグラウンドとして使われているハムデン・パークが、クイーンズパークFCのホームグラウンドである

逆サイドへの展開と中央のサポート、パス回しの中心であることをユース世代でも求められることで、自ずとサイドバックは難易度の高いポジションになっていく。セルティックのユースチームを「身長が低過ぎる」という理由で放出されたロバートソンはクイーンズパークの理論と哲学を吸収し、名門セルティックで鍛えられた技術の使い方を習得。ボールを受ける技術、周りを使って抜け出す技術に長けたサイドバックは瞬く間に頭角を現し、プレミアリーグのハルシティへ。当時の同僚だったハテム・ベン・アルファは「怪物になれる圧倒的なポテンシャル」と絶賛した。

大外のレーンを機動力で制圧する「アウトサイドレーン型」と比べ、このタイプは視野の広さとフリーランの幅に優れている。ロバートソンは、ダビド・アラバが得意とするインナーラップ(英語ではunderlapと呼ばれる)を得意としており、WGの内側からハーフスペースと呼ばれるレーンに進入する。この動きは相手の守備的MFをSBが引き付けることに繋がり、味方のマークを軽減させる。更にファビアン・デルフが「偽SB」という役割で起用されるように、中央に寄ることで「セントラルハーフのように、ビルドアップをサポートすること」が可能となる。

例えば、マンチェスター・シティ戦(プレミアリーグ第23節)のロバートソンはボールを受けると内側方向にドリブル。縦のコースを消そうとするWGを中央方向に外すと、センターハーフが代わりにプレッシャーに向かう。ただ、ワイナルダムに釣り出されたセンターハーフのデ・ブライネはロバートソンから距離が遠く、中央で自由を与えてしまう。CFもバックパスを消すポジションを取ろうとするので、結果的に最も危険そうなスペースに安全地帯が生じるのである。

▼ロバートソンvsマンチェスター・シティ:注目シーン32秒〜、2分9秒〜

ロバートソンはボールを冷静に配球出来るので、センターハーフの距離が近ければ味方にシンプルなパスを送るなど、ビルドアップの中核を担う。このような高い判断力が求められる役割にも対応可能なロバートソンは、欧州を見回しても希少な特性を持った選手と言える。彼はユルゲン・クロップの代名詞でもある激しいゲーゲンプレッシングを担うチームの一員でありながら、相手のプレッシングを回避する「鍵」なのである。

2つの異なった特性のSBは単純にどちらが優れているという訳ではなく、指揮官の目指すチーム戦術に合致するタイプが選択されることが多い。しかし、希少なのは間違いなく「アンドリュー・ロバートソン型」のSBである。マルセロ(レアル・マドリード)やアス・エコト(元トッテナム)、ダニ・アウベス(元バルセロナ)、内田篤人(元シャルケ)のような選手が次々と現れたことで、数年前には「ゲームメーカー型のSB」が現代的なSB像になるかと思われた。その予想に反し、WGがハーフスペースを使う傾向が顕著になったこと、守備のタスクが増加したこと、ビルドアップが自動化されたことなどが複合的に重なり、彼らのような繊細なSBは再び絶滅に向かうかと思われた。だが、前述したような「グアルディオラの戦術的工夫」が着目され、前からのプレッシングが緻密化したことで「SBにもプレスへの対応力が求められるようになったこと」によって、間違いなく彼らの価値は再認識され始めている。

戦術的な潮流を考慮すれば、ロバートソンを獲得し、チームの戦術に組み込んだリバプールFCと指揮官ユルゲン・クロップの判断は慧眼だったのではないだろうか。<完>

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