身体的特徴から見るジェラードの弾丸ミドルの秘密

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【序章】「まずはジェラードの弾丸ミドルを振り返りましょう」

先日のアンフィールドでのレジェンドマッチや、オーストラリアでの親善試合で、赤いシャツに袖を通した姿を披露してくれた我らがキャプテン、スティーブン・ジェラード。

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その最大の魅力は何といっても、何度もチームの危機を救い勝利をもたらしてくれた、右脚から放たれる強烈なシュート、俗に言う「弾丸ミドル」でしょう。

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画像だけだと物足りないと思いますので、動画でもその雄姿をもう一度ご堪能ください。まずは公式のもの(リーグのみ)を。

どうしても05/06FA杯決勝のゴールを見たい方はこちらを。


※FA杯決勝のゴールは4:09から始まります。

今回はこのジェラードの弾丸ミドルの秘密について迫ってみたいと思います。
なお、焦点をしぼって話をわかりやすくするために、極力「身体的特徴」に絞り、細かな「技術」はやや割愛して話を進めていきたいと思います。


【結論】「ジェラードの身体的特徴」

最初に結論から述べてしまいますが、筆者は、ジェラードが弾丸ミドルを撃てた身体的特徴として、以下の4点が特に重要だと考えます。

1.筋トレによる体重増で獲得した大きなエネルギー
2.エネルギーを増幅する長い手脚
3.柔軟で強靭なお尻の筋肉による軸足の股関節の深い内転
4.ミートポイントを広げる右腕の驚異的な後方への柔軟性

以下ではこれら4点について、ひとつずつ解説していきます。


【各論】

1.筋トレによる体重増で獲得したエネルギー

まず、ジェラードの体格について確認していきたいと思います。
wikiによると、ジェラードの身長は186cm、体重は83kg。
公称188mのロブレンと並んで立っても、それほど小さくないので、身長は180cm以上はあると思われます。

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しかしデビュー当初のジェラードはとても細く、恐らく体重も80kg以下だったと思われます。

’14年10月のDaily Mailの記事では、筋力アップのために毎日ジムでトレーニングを行っていたことを明かしています。
Steven Gerrard reveals fitness regime which includes Pilates, weight sessions and 90 minutes of training each day
開始時期などは不明ですが、上半身、下半身、柔軟性の3種のトレーニングを毎日行っていたそうです。

ところで、「強いボールを蹴る」には、足(foot)のスイング・スピードを速くしなければなりません。
スイング・スピードは上げるエネルギーには、体重移動による「運動エネルギー」と、重身の上下動による「位置エネルギー」があります。
物理学の「力学的エネルギー保存の法則」です。
※物理アレルギーがある方は、「体重があるほど、エネルギーは大きくなる」ということだけご理解いただいて、次の章までワープしてください。

体重をm、(水平方向の)重心移動の速度をv、重力加速度をg、重心の鉛直下方への移動距離をhとすると、

E(力学的エネルギー)=1/2mv^2(運動エネルギー)+mgh(位置エネルギー)

となります。
このエネルギーを利用して、脚(leg)をスイングして末端の足(foot)を加速させるのです。
要するに、体重mが大きければ大きいほど、運動エネルギーも位置エネルギーも大きくなり、より強烈なシュートを打つエネルギーを確保することができるのです。
ジェラードは、デビュー以降、トレーニングによる筋肉増で体重を増やし、弾丸ミドルを打つために必要な「体重」を獲得したのです。
※体脂肪で体重を増やしても、体重mは増加するので、キックのエネルギーを確保することはできます。
ただし、体脂肪で体重を増やすと、自らが移動する走動作には不利になります。


2.エネルギーを増幅する長い腕と脚

次に腕と脚の長さについてです。
ジェラードは身長180cm以上ある上に、脚もそれなりに長いです。

公称身長185㎝とほぼジェラードと同じ身長のクリスティアーノ・ロナウドと比較すると、ジェラードの方が脚が長いことがよくわかるかと思います。

足と頭の位置を合わせて、腰骨の出っ張り(上前腸骨棘)を比較しています。
赤の横線がジェラード、紫がロナウドの腰骨の出っ張りです。
※あくまで体型の比較を行っているだけです。他意はありません。

更に、上のロナウドとの比較画像でもある程度わかりますが、ジェラードは腕もかなり長いことがわかります。
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そりゃあ、腕を広げた姿もサマになるってもんですよ。

脚(leg)と腕(arm)は長ければ長いほど、最終的な末端である足(foot)や手(hand)のスピードはより容易に上がります。
また膝から下(脛)や肘から先(前腕)が長いほど、ふくらはぎ(下腿)や肘から先には筋肉量が無くても筋力を出すことができ、末端が軽くなり、その分更にスピードが上がりやすくなります。
※この事を物理学的に説明しようとすると、それだけで長大な文章になってしまうので、「ゴルフクラブで、ドライバーの方がアイアンよりも、回転半径が長く末端が軽いので、より遠くに飛ばせるのとほぼ同じこと」とご理解下さい。

「ゴルフクラブの比較」

右端がドライバー、左に行くにしたがってアイアンなど短い距離用のクラブになります。


3.柔軟で強靭なお尻の筋肉による軸足の股関節の深い内転

マティプの記事でも指摘させてもらいましたが、「蹴り足を高速で振る」と、遠心力によって「蹴り足側に体を持っていかれる力」が生じます。
この「体が持っていかれる力」に耐え、かつキックの威力を上げるためには、「軸足の股関節をできるだけ深く内転させる」という動きが重要になります。

「(右)股関節の内転・外転」

http://kokansetsu-itami.com/undougaku/2789/より

 

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ジェラードやメッシ、ベッカムの様に、軸足の股関節の内転角度が深くなればなるほど、助走で生み出したエネルギーを余すことなく足の加速に使うことができます。
小さなモーションでも、威力のあるシュートを放てるようになりますし、大きく助走を取れれば、より強烈なシュートが打てます。
もう少し詳しく記述すると、軸足の股関節の内転角度を深くすることで、軸足の足裏と地面が設置する位置を基準にして、重心をより軸足側に大きくずらすことができます。
この重心の移動(ずらし)ができると、他の余分な動作無しで蹴り足側に持っていかれる力に対処できるので、助走で蓄えたエネルギーの多くを蹴り足の加速に使うことができるのです。
このずらしができないと、マティプの様に右腕の動きで対処したり、上半身を軸足側に傾けるなどして対処しなければならなくなり、キックの威力はもちろん、精度も低下します。

「重心の位置と軸足の設置位置の関係」

青い丸:重心
赤い丸:軸足と地面の設置位置

ジェラードやメッシ、ベッカムの左股関節は、他の多くのプロ・サッカー選手と較べても、深く内転して大きく重心をずらしていることがわかります。

オスカル(元チェルシー)

マティプ(リバプール)

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本田圭佑(元ACミラン)
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長谷部誠(フランクフルト)
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どうでしょう?
オスカルくらいだと違いが分かりずらいと思いますが、下に行くにしたがって、如何にジェラード達がスゴイかがわかるかと思います。
世界レベルのキックをするには、あれくらい柔軟で強靱な股関節が必要なのです。


4.ミートポイントを広げる右腕の驚異的な後方への可動域

ジェラードのミドルの特徴として、バウンドしていたり遠ざかっていくボールに対しても、正確にインステップでミートできるという特徴があります。
このことは、FKなどで止まっているボールや、向かってくるボール以外の場合でもシュートのチャンスが生まれことを意味しますが、正確にミートするのが難しく、非常に難易度が高いプレイになります。
ジェラードがこういったプレイが可能だった要因として、右腕(肩甲骨)の可動範囲が非常に大きかったことがあると思われます。

下の動画で2:13から始まる、エバートン戦のシュートでの、右腕の動きにご注目ください。

丁度いいことに、この時の動画がジェラードの動きをアップで、しかも右腕の動きがわかりやすい後方から捕らえたものがあったので、コマ送り画像も併せて載せておきます。

エネルギーと左股関節についても併せて解説していきます。

Ⅰ.軸足着地直前

ジェラードから向かって右斜め前方にボールを小さく蹴りだして、助走してシュートモーションに入ります。
今までの言い方だと、「力学的エネルギーを蓄えている」という段階です

Ⅱ.軸足着地直後

助走で生み出した運動エネルギーと位置エネルギーを、左膝を伸ばし切った状態で左股関節で受け止めています。
更には左股関節の内転角度を深く保って、助走で貯めたエネルギーを右脚のスイング動作に転換させ、右脚が急加速を始めます。
まだ右腕の動きには、特筆すべき点はありません。

Ⅲ.インパクト時

ボールを捉えたインパクトの瞬間ですが、既に右腕がかなり後方に引かれている(伸展している)のがわかります。

Ⅳ.右肩関節最大内転位

インパクト後、インパクト面(足の甲)をシュート方向に向け続けるために、更に右腕が後方に引かれます(内転しています)。

Ⅴ.右肩関節最大伸展位

更に右肘が高く上がる(上腕が伸展する)ことによって、右膝が右股関節の高さまで上がってきても、インパクト面がシュート方向に向いています。
以上の右腕の後方への大きな動き(内転、伸展)ができることで、ジェラードはインステップシュートでのミートポイントを広く取ることができるのです。

インステップで低く速いシュートを打つべき場面で、ゴールバーを遥かに越えるシュートを打ってしまうのは、技術不足以外にも、こういった「蹴り足側の腕の可動域不足」という要因も考えられるのです。
シュート以外の場面でも、ジェラードの腕は目を疑うくらいの可動域があります。
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ちなみに、「腕の動き」に関して、筆者が様々なシュートモーションを確認した限り、蹴り脚側と軸脚側で役割が異なるようです。
右足で蹴る場合、軸脚側の左腕は肘を伸ばして軸足側に伸ばした後、一気に蹴り足側に振ることで、作用反作用の力でキックのエネルギーを生み出します。

「軸足側に伸ばして」
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「一気に蹴り足側に振ります」

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一方の蹴り脚側の腕は、今まで見てきたように、特にインステップやインフロントでキックする時、後方への大きく動く(伸展する)ことで、ミートポイントの幅に影響を及ぼすようです。
インサイドで蹴る時は、蹴り足側の腕を大きく後方に引く必要がないので、「蹴り脚側の腕の可動域」はそれほど大きくは影響しないようです。

腕の可動範囲が大きく、かつ体型もジェラードと同程度のサイズがあり、腕と脚も長い選手として、筆者が確認した限りでは、バルセロナなどで活躍したリバウド(身長185cm)がいます。

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彼もジェラードと同様、強烈なキックを武器としていた要因として、高度な技術はもちろん、今まで書いてきたような身体的特徴を持っていたからだと思われます。

ちなみに、腕の可動域は、肩はもちろん首の筋肉の柔軟性に大きく影響されます。
また、ストレッチやトレーニングで筋肉を柔軟にして、腕の可動域大きくすることもできますが、「借金で首が回らなくなる」という表現があるように、精神的ストレスによって動きが悪くなることが多いです。
よくプロスポーツ選手が、家庭内の問題などがあった際に、「練習に集中できなくてパフォーマンスが落ちている」と言われることがありますが、「精神的ストレスで首肩周りの筋肉が硬くなり、首はもちろん、腕の動きが悪くなっている」ことも十分に考えられ、そのことがパフォーマンスを低下させていることも考えられます。
ジェラードも自伝で、「(様々な問題に対して)理性的に解決し、落ち着きを取り戻すことができた」と語るように、精神的に落ち着き、ストレスを溜め込まないことの重要性を感じて、またそれをある程度実践できていたお陰で、腕の可動域を広く保つことができたのでしょう。
また、「(フィジオのモーガンに紹介されても、当初は)信じ切れなかった」としていますが、制御困難なストレスに対処するために精神科医に頼っていたことなども自伝では明らかにしています。
神経質に過ぎる感もありますが、心理的な部分の重要性をそれなりに感じていたようです。

ところで、ジェラードやリバウド以外でも、股関節や腕の可動範囲が大きい選手はいます。
例えば、リバプールではララーナ、Jリーグでは川崎フロンターレの中村憲剛です。

「ララーナ※左腕」

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「中村憲剛※右腕」

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ただ、このニ人はジェラードほど体が大きくありませんし、腕や脚の長さもないので、「強烈なミドル」を打つのは身体的に難しいです。
その代わり、ララーナはドリブルのターン、中村はショートパスやトラップのレベルが非常に高く、それらは「腕の可動域が広いこと」もひとつの要因となっていると思われます。

少し話が逸れましたが、以上の4点が「ジェラードが弾丸ミドルを撃てた身体的要因」だと筆者は考えます。

【終章】「ほとんど奇跡です」

以上の考察から、ジェラードの弾丸ミドルには、練習による技術習得はもちろん、「毎日の筋トレによる体重増」や「ストレス・マネジメントによる頚肩部の柔軟性の確保」が影響していたと思われるのです。
また、「手脚の長さ」という、努力ではどうにもならない「持って生まれたモノ」も絡んでいたと思います。
サッカーボールが、昔と比べて、軽く、よく飛ぶように進化したことや、スパイクも軽くなったことなど、用具の進化も見逃せないと思います。
こういった幾つもの偶然が重なった結果、あの弾丸ミドルは生まれ、我々はリアルタイムで、しかも愛するクラブのサポーターとして見れたのです。
これはほとんど奇跡の様な出来事だと思います。
こういった観点もあることを知っていただいて、もう一度冒頭の画像や動画をご覧いただき、新たな感動や発見がありましたら幸いです。
ちなみに、ジェラードの自伝では、’06年のFA杯の決勝のミドルについて、当時の感覚などが描写されていて非常に興味深いです。
それではまた。
YNWA

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【その他の参考書籍】
『流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則』エイドリアン・ベジャン (著), J. ペダー・ゼイン (編集), 柴田裕之 (翻訳)
『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学』デイヴィッド エプスタイン (著), 福 典之 (監修), 川又 政治 (翻訳)
『陸上競技ダイナミクス』トム・エッカー著、佐々木秀幸訳、織田幹雄監修

4 件のコメント

    • ありがとうございます。
      以前よりもコウチのミドルが、精度と威力共に良くなっているのには、何かしら原因があるとは思っています。
      何とかして、解明したいとは思っているのですが、これがジェラード以上に難儀でして・・・。少々お待ちください。

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