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【目次】
1.ミニョレ概説
2.ハイボール対応に求められる能力
3.画像等からわかるミニョレの現状と問題点
4.結論と「ミニョレに必要なトレーニング」
5.〔余談〕サッカーGKのハイボール対応の練習について
1.ミニョレ概説
最近目立ったポカも無く、守備にも攻撃にも安定感を増している感がある我らが守護神シモン・ミニョレ(既婚)。
シュートストップ能力はプレミアでも1・2を争い、PKストップも11/12シーズン以降ではリーグ最多の7を数えます(与PK数は不明)。
個人的に横っ飛び時の姿勢には「美」すら感じてしまいます。
「ミニョレの良いプレーなんて知らない」という方はこちらの動画をご覧ください。
おまけに今シーズン新加入のカリウスをチームに溶け込ませるためにGKだけの親睦会を開いたりと、性格的にも「良いヤツ」なのは間違いない彼。
真面目ダ!!!
一部の熱狂的日本人KOPからはその神憑りなセーブの数々から「神ニョレ」と名付けられるなど、その能力には疑いの余地はありません。
そんな彼が英国上陸7シーズン目、リバプール加入4シーズン目に入っても、未だに克服できていないのが「ハイボール対応」。
今回はこのミニョレのハイボール対応について、迫ってみたいと思います。
2.ハイボール対応に求められる能力
ハイボール対応でGKが行うべきことは、いち早く落下地点に移動して、落下してくるボールを相手が頭などで触るよりも先にキャッチ、もしくは弾き返すことです。
極まれに手を使う輩がいますが、基本的には守備側のGKしか手を使えないので空中戦は有利なはずです。
まずはこの一連の運動に求められる能力を整理していきたいと思います。
A.視覚能力
20~40m先から蹴られたボールの落下地点を予測するためには、ボールの初速や飛び出しの角度や方向、更には回転から落下地点を予測する必要があります。
厳密に言えば、落下地点の予測には蹴った際の音も参考になりますが、聴力は確認しようがないですし、大歓声の中では聞こえないこともあるので割愛させてもらいます。
B.ボール処理能力(専門技術)
落下地点に入ってジャンプしたら、腕を伸ばし極力高い位置でボールをキャッチしたり、パンチングでボールを弾き返す技術が必要です。
C.身体能力
C-1.リーチ:腕の長さです。
C-2.ジャンプ力:跳躍高です。
C-3.移動能力:落下地点に速く正確に移動する能力です。
C-1とC-2は主に垂直方向、C-3は平面上での守備範囲となります。
3.画像等からわかるミニョレの現状と問題点
次にミニョレの現状の能力について考察していきたいと思います。
ミニョレのハイボール処理の問題点として、「飛び出すべきシーンでゴールにへばり付いて、相手に至近距離から被弾する」ことや「飛び出したはいいが、ボールに全く触れずゴールをがら空きにしてしまう」の二つが上げられます。
上の動画の0:17が前者、0:34や1:23辺りのプレーが後者に当たります。
要するに「落下地点への移動」に難があることが考えられます。
今回もこの点に絞って考察していきたいと思いますので、B.ボール処理能力に関する考察は割愛させていただきます。
ただ落下地点に入って手が届いた時はキャッチング、パンチング共にそれなりのクオリティを発揮していると思うので、ミニョレの「キャッチ、パンチの技術が著しく低い」ということはないと思います。
A.視覚能力
シュートストップ能力が高いことから、ボールとの距離感を測る視覚能力は一定以上はあることが想像されます。
ちなみにこの距離感を測る能力は、「生まれつきのもので、高速になると差がつく」とする研究結果もありますので、尚更ミニョレは視覚能力が高いであろうことが考えられます。
C-1.リーチ
身長が193cmあり、下の画像からは極端に腕が短いこともなく、むしろ長いくらいに見えるので、この点もクリアかと思います。
プレミアの他のGKと比較しても極端に劣る事は無いと思います。
《参考データ&画像》
ティボー・クルトワ(チェルシー)身長199cm
ダビド・デヘア(マンチェスターU)身長192cm
カスパー・シュマイケル(レスター)身長185cm
※身長はいずれもPL公式より
C-2.ジャンプ力
横っ飛びの素早さ、その移動距離から下肢の筋力は十分にあることが伺えますし、下の画像からもそれなりにジャンプ力があることが伺われます。
C-3.移動能力
落下地点への移動で必要な能力は、単純な「走力」と言うよりかは「細かなステップを刻み敵味方を避けながら、当初予測した落下地点とのギャップを埋める、前後左右の細かな移動」になります。「走る」と言うよりかは「ステップ」に近い動きが必要です。
少し遠くに移動しなければならない場合でも、「前方から横」まではほぼ通常の「走り」と同じ動きになりますが、後方へは首を大きく捻りながらの走りになるので、一番バランスを崩しやすい「走り方」になります。
また一度前方に体重を掛けた後に後方へと移動し直す動きも、大きな力を伝えにくい方法で進行方向を変える動作になるので、非常に高い技術が必要です。そしてこの度、貴重な神のステップの様子を撮影した動画を入手することができました。
Gotowi na #HULLIV? 👊
Zobaczcie przygotowania the Reds: https://t.co/atgZZOkOco pic.twitter.com/xRDUIofuhZ
— LFC Poland (@PolandLFC) 2017年2月4日
ステップワーク、特に難易度が高い「前方に移動した後の後方へのステップ」がほぼ毎回無駄なステップが入っていて、切り返しが非常に遅いです。
特に0:23の切り返しはジニと較べると、如何に無駄なステップを踏んでいるかがよくわかると思います。
4.結論と「ミニョレに必要なトレーニング」
以上から「ステップワーク、特に前方に踏み出した後の後方への切り返しのステップが遅いこと」が、ミニョレのハイボール対応が改善していない大きな原因だと思います。
自分の後方への対応に自信がないと、苦手なファーへの意識が強くなりニアに対するケアも覚束なくなります。結局ニア、ファー両方の対応が疎かになってしまいます。
未確認ではありますが、マティプが相手のクロスをことごとく弾き返せているのは、身長が193cmと高いだけでなくミニョレとは反対にステップワークが秀逸で、落下地点にいち早く移動できるからだと思われます。ちなみにロブレンは188cmです。
従って、こういった競り合いの練習をするよりか、アジリティ系トレーニング、中でも下の動画の1:39の「リバースラテラルフィギュアエイト」の様な後方への移動を含んだトレーニングでステップワークを鍛える方が重要かと思います。
5.〔余談〕サッカーGKのハイボール対応の練習について-他競技経験者から見た雑感-
今回、ミニョレ以外のGKがどんな練習や動きをしているか確認するために、様々な動画をネットで見ましたが、洋の東西を問わずハイボール対応の練習が余りにもお座なりなのに驚きました。
ヨーロッパのチームでは、正面、横への反応練習や、頭上のハイボール練習ばかりで、ファーに上がったクロス、つまりGKがバックステップを踏みながら対応するクロスの練習をしている動画は1つも見つかりませんでした。
確かに正面、横、頭上のボールへの対応はGKとして基本技術です。しかしサッカーのレベルが上がってくると、特にプレミアリーグでは顕著ですが、ボールとマーカーを視野に入れにくい、つまりマークがズレやすいファーへのクロスが増えてきます。時間的にはニアの方が対応できる時間が短いので、GKを始めとするDF側の対応としてはまずはニアへの対応が優先されます。「ニアには来ない」と判断した瞬間に後方へのバックステップを開始して、その後自分の守備範囲内かどうかを判断することになります。
ミニョレの様にバックステップに自信がないと、ファーへの意識が強くなりニアへの対応も覚束なくなります。結局前後両方の対応が疎かになってしまいます。
冒頭のベストシーン動画でも、前や横に移動しながらの対処はほぼ完璧ですが、後方だけはベスト集にもかかわらず、ややもたついています(2倍速鑑賞推奨)。上手く対応したように見える2:30のアフェライ(?)のファーへのクロス対応も、最初のポジションをニアをかなり空けてファー寄りに取っているだけで、後方への動きはほぼ皆無です。
ちなみにネット検索してようやく見つけた、自分よりも後方に飛ぶクロスに対する練習の動画がこちらです。2:58辺りからご覧ください。
せっかくのクロス対応の練習なのですが、GKが「ニアへの対応」をほとんど意識していません。
つまり最初から頭上もしくは後方に飛ぶことがわかってしまっているので、「試合のための練習」ではなく「練習のための練習」になってしまっています。
他競技ですが、野球の外野手も後方に飛ぶボールに対応する能力が求められます。むしろその機会がGKより多い野球の外野手の方が、よりシビアに練習に取り組んでいるようにすら見えます。下の動画はソフトボールのものですが、後方へのフライの練習方法の動画です。
野球でもほぼ同様の練習は外野手の基本的な練習としてよく行われます。
こういった練習がサッカーのGK、特にファーへのクロスが多くなるレベルが高い試合になればなるほど必要な技術だと思います。
とまあこんな感じで、今後も選手のプレーについて、その「動作」から解説していきたいと思っています。今回はあまり使いませんでしたが、私の専門分野である解剖生理学やバイオメカニクスの知識を活かした記事も書ければと思っています。
ご意見・感想、メッセージなど頂けると幸いです。またリバプールの選手に限らず「○○はなぜこのプレーが優れているのか?」などご質問いただければ、わかる範囲でお答えしていきたいと思っています。
ご自身の体の状態と対処法を知りたい方もご連絡頂けると幸いです。
以前書かれていたヘンダーソンの記事に続き専門家ならではの素晴らしい記事で非常に参考になりました。今後の記事も楽しみにしております!
木靴屋さん
コメント&以前の記事を覚えていていただき、ありがとうございます!
次記事は「コウチのミドルの精度が上がった身体的要因」を考えています。
今回のミニョレのものより難儀しそうなので、完成&投稿はライトな記事を数本投稿した後になるとは思いますが・・・。
サッカー経験の無い見る専門なんで個人的な感想ですが、サッカーボールのサイズであり、また他の選手を避ける重要性を考えるといっそ一度目を切って後ろへ数歩走ってしまうのはダメなんでしょうか?完全に外野手の真後ろへのフライ処理ですが(笑
グッチさん
コメントありがとうございます!
私も専門は野球で、サッカーは専ら見る&時々フットサル程度です!
恐らくサッカーのクロスの方が野球の打球よりも、蹴って(打って)からキャッチするまでの時間が短いので(走る距離がGKの方が短いこともそのことを表しているかと)、一度目を切った後に振り返って再度ボールを視認する時間も短かくなると思います。
もちろん目を切った方が「走る」などの動作はしやすいですが、このわずかな時間で正確にボールを視認することは、人間の目ではかなり難しいと思います。
こういった理由から、GKがサイドからのクロスボールに対して、一度目を切るのはあまり有効とは思えません。
ただし距離があるハーフェーライン付近からゴールに向かって飛んでくるようなボールですと、時間もあるので一度目を切って周囲の状況を確認することもできるかもしれません。
すごく納得したことがあって、チェフなんかはあまりハイボールのミスをしないと思うんですが、チェフはドラマーでもあるんです。リズム感があると、ステップで失敗することは少ないのかもしれませんね!
せんいさん
コメントありがとうございます!
仰るとおり、ステップには「リズム感」がとても大切です!
下記動画(4:55のセスクのクロス※スロー再生推奨)で確認できましたが、やはりドラマー・チェフのステップはとてもスムーズでした。
https://www.youtube.com/watch?v=o0rbnyV5drQ
あとベストセーブ集を見ると、チェフから見て右サイドから右脚でファーに向かって蹴られた巻いてくるボールに対して、やや下がりながら右手で弾き出すファインセーブが多かったので、やはり後方へのステップは得意にしていると思われます。
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