モハメド・サラー徹底分析〜「エジプト王」のゴール量産理由を紐解く〜

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モハメド・サラーがリバプールでゴールを量産し始めた理由

画像出典:Mohamed Salah公式Twitter

まず議論をわかりやすくするために一つ数字を変換する。サラーがリバプール期のペースでプレミアリーグでの出場と得点を重ねるとシーズン31.2ゴールまで到達する。ローマ期の得点率で同じだけの時間ピッチに立つとシーズン17.6ゴール

この差、13.6ゴールの理由の内訳をデータを元に考えていこう。

※ローマ1617シーズンをローマ期、リバプール1718シーズン(29節終了時点)をリバプール期と呼ぶ。

①相対的なチームの攻撃力が上がった

画像出典:LFC公式Twitter

言わずもがな、チーム全体としての相対的な攻撃力が上がればその分各選手の得点機会は増加する。ではSquawkaのデータを参照させていただき早速ローマ1617とリバプール1718のチーム全体の一試合あたりのスタッツを比較してみる。結果は以下の通り。


リバプールとローマが実際にどちらが強いかはさておき、ローマ1617はセリエAにおいてプレミアで戦うリバプール1718より数多くのチャンスをつくっていた。シュート数は全くの同数で、ローマはエリア内でより多くのシュート数を記録している。つまり「リバプールはローマより攻撃力がある」という可能性は低く、チームの攻撃力上昇によりサラーの得点数の伸びを説明することは難しそうだ。

この仮説は棄却する。

②プレーするエリアが変わった

次の仮説はサラーのプレーエリアの変化だ。彼自身以下のように述べている。

画像出典:LFC公式Twitter

リバプールではクロップ監督の指示のもとこれまでのどのチームでプレーした時よりもゴールに近い位置でプレーをしている。練習からゴール付近に留まっておくように要求されているんだ。(Liverpool’s official matchday programme)

では実際に彼のプレーエリアが変わったのか以下のSquawkaのマッチレポートのデータを元に検証を行う。

画像出典:Squawka

◼︎エリア内でのボールタッチ率

以下のエリア内でのタッチ率をリバプール期とローマ期で比較する。前半戦19試合を対象とした結果がこちら。

(※ローマ時代は前半戦欠場したカードは同じ対戦相手の後半戦の試合のデータを参照)

この比較において2つのポイントに着眼したい。一つ目はシンプルにリバプール期の方がエリア内でのタッチ比率が高い。もう一つは折れ線の波形だ。リバプール期は安定して10%以上のタッチがエリア付近で行われているのに対して、ローマ期はかなりばらつきがある。ここからローマ期は試合ごとに担う役割が大きく変化していたことが推察できる。ローマには最前線に張ることができる大型FWのエデン・ジェコがいる。エリア内でのタッチ率が低い試合においては、監督がジェコとの関係性を考慮しサラーにチャンスメイカーとして振る舞う様な指示を与えていた可能性が高い。

画像出典:Mohamed Salah公式Twitter

サラー自身が述べている通り、リバプールではチームの中の役割としてエリア内でのフィニッシャーとして振る舞う機会が増えたことを数字で裏付けることができた。そして、プレーエリアの変化はサラーのプレーそのものの変化にも繋がっている。

◼︎サラーのプレーシェア率の変化

以下のグラフはローマ期とリバプール期におけるチーム全体の「シュート」「チャンスクリエイト」数の中に占める”サラー比率”である。各プレーにおいてサラーがどの程度の役割を担っていたかが確認できる。

「チャンスクリエイト」のシェア率が4.1pt下落しているのに対して、「エリア内でのシュート」のシェア率は13.9pt上昇している。実にリバプールのシュートのうち三分の一がサラーによって実行されている。偶然にもリバプールとローマの1試合あたりのシュート数は全く同数の13.8本であるが、もちろんシェアが増えているのサラーが得る機会数も増加する。サラーは自身の役割の変化によりローマ期一試合平均2.91本に対して、リバプール期は4.62本のシュートを打つようになった。また、STATS ZONEによるとサラーが一試合あたり得る「大きなチャンス」の数は0.87回から1.27 回に増加した。

シュート数は1.58倍、大きなチャンス数は1.46倍である。

「大きなチャンス」の方が単なるシュート数よりもゴール数への影響が大きいのでここでは上記の「1.46倍」をサラーのプレーエリアの変化による得点機会の増加と定義する。再掲となるが、サラーがプレミアリーグ第29節までのペースでリバプールで出場と得点を重ねるとシーズン31.2ゴールまで到達する。ローマの得点率で同じだけの時間ピッチに立つとシーズン17.6ゴール

17.6ゴールにプレーエリアの変化による大きなチャンス数の増加分と考えられる「1.46倍」を掛け合わせると25.7ゴール。「プレーエリアが変わった」ことの影響でサラーの得点率上昇の一定の説明はつきそうである。

しかし、残りの5.5ゴール分はまだ説明がつかない。5.5ゴールは2〜3勝に値するので混戦のプレミアリーグでCL権を獲得する上で極めて重要である。残りのゴール分は最後の仮説に繋がっていそうだ。

③サラー自身の能力が上がった

画像出典:Mohamed Salah公式Twitter

サラー自身の能力の向上が得点を生み出している可能性は大いにある。まず頭に浮かぶのが「決定率」の向上である。検証していこう。

◼︎決定率の向上

上述したSTATS ZONEにより計測されている「大きなチャンス」における得点率をローマ期とリバプール期で比較することでこの点を明らかにしたい。まずローマ期、24回の機会で10得点を記録している。対するリバプール期、31回の機会で14得点を記録。これを決定率に直すと、

ローマ期:41.66% – 45.16%:リバプール期

サラーの決定率は着実に上がっている。サラーがここまでのペースで機会を得続けた場合リーグ戦で年間合計40.6回の「大きなチャンス」を得ることになる。ローマ期の決定率のままだと16.9点に止まるのに対して、リバプール期の決定率だと18.3点。つまり、決定率の上昇によってシーズン1.4ゴール増加する見込みだ。

エリア内でのプレーの増加で説明しきれない5.5ゴールのうち1.4ゴールは「決定率の向上」で説明がつきそうだ。なお、サラーはプレミアリーグの中でも決して決定率が高い方ではなく、さらなる向上を期待したい。

画像出典:skesports

さて残りは4.1ゴール。

◼︎才能開花による新たな得点パターンの創造

筆者は本分析を進めるにあたり、様々な海外サッカーデータを扱うサイトでサラーのスタッツを確認した。その中でもとりわけ目を引いたのが「ドリブル」に関するスタッツである。上述の通り、リバプール期のサラーのプレーエリアはよりエリア付近に近づいている。エリア付近は対戦相手からすると危険な場所であり、言わずもがなゴールを守るために密集度が増す。にもかかわらずだ、サラーの90分あたりのドリブルの回数、成功率が顕著に増加・向上している。ちなみに、本記事を書いている時点で欧州4大リーグで20ゴール以上記録しサラーよりドリブル成功率が高い選手はリオネル・メッシしか存在しない。

さらに筆者はローマ期リーグ戦のゴールを全て確認したが、その殆どがスピードを生かしたゴールは抜け出しからの得点であり、密集地隊でのドリブル突破からのゴールは確認できなかった。リバプールでも裏に抜け出してのゴールは数多く見られるが、サラーが評価を大きくあげているのはまた別のパターンの点の取り方である。エリア内で大柄のCBを半身で背負いながら内側へ切れ込んでのフィニッシュ。サラーはリバプール期の第29節までにエバートン戦、ボーンマス戦、スパーズ戦で計3点この類のプレーからゴールを奪っている。ローマ期のリーグ戦でこの様なゴールは一つも存在しない。

サラーがここまでのペースを保つと、シーズン合計3.9ゴールはローマ期には見られなかったエリア付近での相手DFを背負いながらのドリブルからの得点が生まれる。これで説明できていなかった4.1ゴールとほぼぴったり計算が合致する。

サラーの得点量産理由まとめ

以上でサラーの得点量産の理由の分析とするが、議論をまとめると、彼の得点増加は以下の割合で説明ができる。

「決定率」という文脈ではまだ向上の余白を残すサラーであるが、これだけの小柄なスピードタイプがエリア内で上述のような振る舞いができるケースは類い稀であり、彼のポテンシャルは計り知れない。サラーを獲得したユルゲンクロップも「彼を獲得したときはシーズン20ゴールという数字は頭になかった」と述べているが、彼は典型的なセンターフォワードがいないリバプールにおいてある種偶発的に新たな機会に出会い、その可能性をすぐさま感じた監督により明確にストライカーとしての役割を与えられ才能が開花したのである。

画像出典:LFC公式Twitter

成長は何かしらの変化を必要とすることが多いが、サラーは自身にとって完璧なタイミングでアンフィールドにやってきたのだ。

最後に

画像出典;Mohamed Salah公式Twitter

サラーは自身の力でエジプトをW杯に導き、復活の兆しを見せるリバプールの本拠地アンフィールドの地で世界的な選手になろうとしている。チェルシーで自信なくピッチを漂う青年の姿から、彼が世界最高レベルで戦う”王”とまで呼ばれる選手になるとは誰が想像しただろうか。当時称されていた「エジプトのメッシ」という名も今では遜色なく、それどころかその呼び名に頼る必要などなく独自の存在感を打ち出している。これだけの結果を残しながらまだ大きな伸び代を感じさせる彼はその俊足で一体どこまで走っていてしまうのだろうか。置いて行かれないように、モハメド・サラーの更なる飛躍を見届けたい。

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