緻密な戦略と選手の組み合わせがもたらした静かな90分~第30節リバプールVSエバートン~

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たくみ(サッカーライター志望)
大学2年生。 noteにてJリーグの選手記事から欧州サッカーのレビュー記事まで幅広く投稿中。 Twitterで精力的に活動。フォローや記事の拡散をお願いします。 岡山→山口

首位を独走するリバプールのプレミアリーグ再開初戦の相手はエバートン。長い中断期間から明けたことによる試合勘やコンディションに対する不安は強度の高さから消えた。しかし、無観客試合ということもあり静かなダービーマッチとなった。

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試合結果

イングランド・プレミアリーグ第30節
エバートン 0-0 リバプール
at グッディソン・パーク

スターティングメンバ―

スタメンは以下の通り。

リバプールのフォーメーションは4-3-3。FWモハメド・サラーに代わって、FW南野拓実がうれしいプレミアリーグ初先発。最終ラインにはビルドアップでの貢献に期待できるDFジョエル・マティプ、DFアンドリュー・ロバートソンのコンディションを考慮してMFジェームズ・ミルナーが起用された。

一方エバートンのフォーメーションは4-4-2。対人守備に定評があるDFシェイマス・コールマンを右サイドバックに起用することで守備力の向上を図る。18歳のMFアンソニー・ゴードンはマージサイドダービーという大一番に左サイドハーフとして抜擢された。「ファン・ダイクよりも優れたDFはいる」と発言したFWリシャーリソンとDFファン・ダイクのマッチアップは注目ポイントのひとつ。

リバプールのプレスに臆することなく挑んだエバートンのボールを保持する姿勢

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リバプールの2種類のプレス

リバプールのプレスはいつも通りではあるが、「蹴らせるプレス」と「囲い込むプレス」の2種類が挙げられる。

1つ目の「蹴らせるプレス」についてプレスの基準点(プレスをかけ始める位置)はエバートンの最終ライン。FWサディオ・マネ、FWロベルト・フィルミーノ、FW南野の3トップでエバートンの最終ラインにプレスをかけに行くことでディフェンダーからボランチへの縦パスを出させないことに成功。前方ではなくGKへバックパスを出すことを誘導し、そのまま3トップの1人がプレスをかけることでロングキックを蹴らせる。エバートンの2トップに対して高さで十分なアドバンテージがあるリバプールのCBが空中戦で競り勝つことによってボールを回収するシーンが見られた。

2つ目の「囲い込むプレス」について。エバートンの中盤より前にボールが入ると1人の選手がボールホルダーに素早くチェックに行き、インサイドハーフのMFナビ・ケイタやMFジョーダン・ヘンダーソンで挟み込みボールを奪い取る。場合によってはウイングのFWマネやFW南野がサイドバックの位置まで戻ってくることで3人で囲む場面もあった。

リバプールは2種類のプレスを的確に使い分け、時には同時に使うことで少なからずエバートンを苦しめることはできた。しかし、試合の主導権を握るほどの威力は発揮されなかった。エバートンはリバプールの襲いかかるような前からのプレスに怯むことなくパスを繋ぐ姿勢を見せてきたのだ。

エバートンの配置と経路によるプレスの打開

リバプールのプレスが効果的に働きGKジョーダン・ピックフォードが前線にロングボールを蹴らざるを得ない状況はもちろんあったが、エバートンはボランチとサイドハーフのポジショニングによってプレス網をすり抜けるシーンを見せた。

エバートンのサイドハーフが外に張りながら高い位置を取ることでリバプールのサイドバックをけん制(ピン止め)し、DFラインを押し下げる。リバプールのDFラインに高い位置を取らせないことで間延びさせた。リバプールの3枚の中盤が管理しなければならないエリアを広くすることで「囲い込むプレス」の威力を軽減。ライン間で浮いたボランチを使って、外→内→外という展開でボールを前進させることができていた。

(図)内→外でボールを前進させたエバートン
逆サイドも同様

主導権を握らせなかったマティプの存在

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得意のプレスで相手を苦しめることができず、決定機らしい決定機が作れないリバプールだったが、決してエバートンに主導権を握らせることはなかった。

エバートンのプレス

エバートンは2トップが役割分担されたプレスを90分間徹底した。FWドメニク・カルヴァート・ルーインがボールを持つDFファン・ダイクにプレスをかけ、FWリシャーリソンがMFファビーニョへのパスコースを完全に消す立ち位置を取った。エバートンの狙い通り、DFファン・ダイクから前方へのグラウンダーのパスは多くなかった。

マティプのビルドアップへの高い貢献

しかし、エバートンの2トップを中心としたプレスはリバプールに混乱をもたらすものではなかった。それはDFファン・ダイクの隣にDFマティプがいたからだ。DFファン・ダイクは無理に縦パスを出さず、DFマティプへの横パスを選択。DFマティプはほとんどプレッシャーを受けていない状態でボールを受け、そこから中盤、時には最前線のFWフィルミーノまで鋭い縦パスが何本か見られた。

また、前方にスペースが広がっていると相手陣内へドリブルで運ぶ。CBのドリブルでの持ち運びを無視することはできないためエバートンの選手はプレスをかける。よってリバプールは相手陣内で少しずつズレを作ることができた。

73分DFマティプが負傷によってDFデヤン・ロヴレンと交代するまではエバートンの前プレスはあまり気にならなかった。DFマティプのビルドアップ時の状況判断の良さ、ショートパス・ロングパスの精度の高さを改めて感じた試合になった。

機能しなかった左サイドの攻撃

世界有数の破壊力を誇るリバプールのサイド攻撃。右はFWサラーではなくFW南野が出場していたため、FWマネの左サイドから崩していきたかった。しかし左サイドの攻撃はそれほど機能しなかった。考えられる要因は2つ。「コールマンの存在」と「ロバートソンの不在」だ。

粘り強くプレーし続けたコールマン

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エバートンの右サイドの奥深くへの進入を許さなかったのが30歳のアイルランド代表DFコールマンだった。抜群のスピードがある選手ではないが、裏のスペースを取らせないポジショニングとFWマネにパスが入ることを察知するとピタリと寄せる厳しい守備を90分間続けた。圧倒的なスピードと人間離れした身体能力で「理不尽」を発揮するFWマネをDFコールマンの「堅実さ」が封じ込めた。また、縦関係を組むMFアレックス・イウォビの守備でのサポートも早く、2対1の数的優位で守備ができたこともFWマネに仕事をなせなかった要素になるはずだ。

”左の槍”ロバートソンの不在

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欠場したDFロバートソンの不在はFWマネに役割過多をもたらしてしまった。

DFロバートソン出場時は外に張り、FWマネがひとつ内側、いわゆるハーフスペースにポジションを取ることが多かった。DFロバートソンが相手SBをピン止めし、FWマネが左SBとCBの間に立ち、2人を混乱させる狙いである。

左SBのミルナーはマネの後ろでカウンターに対応できる守備的なポジションを取っていたこと、そもそもMFミルナーがサイドの高い位置に張る選手ではないことから、内側と外の2つを使わなければならなくなり、FWマネのマークを分散させることができなかった。

対策としてMFケイタを左インサイドハーフとして先発起用したのだろうが、バイタルエリアで相手を脅かすまでには至らなかった。

”初先発”南野拓実の45分間

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FW南野拓実のプレミアリーグ初先発のプレー時間は45分、右ウイングを任された。単純に右ウイングのレギュラーかつチームのエースであるFWサラーと比較してしまうと物足りないと感じる部分はあったかもしれないが、中断前のどこかチームに馴染めていない感はかなり払拭させることはできたのではないだろうか。

「ソロ」ではなく「ユニット」で崩す攻撃

FWサラーと一番違う点は個人で局面を打開する単独突破ができるかどうかに違いない。たしかにFW南野がこの日、マッチアップのDFリュカ・ディーニュをドリブルで抜いたかと聞かれたら答えはNoだ。しかし、周りの味方のポジショニングや走り込むコースをしっかり観察し、状況に応じた的確なポジションを取ることができていた。

メインポジションはエバートンのDFメイソン・ホルゲイトとDFディーニュの間。そこから内側へ入っていくことでFWフィルミーノと入れ替り、DFトレント・アレクサンダー・アーノルドやMFヘンダーソンのプレーエリアの確保、また外側に張ることで左サイドバックをピン止めするなど南野自身がプレーしやすくなるだけでなく、味方もプレーしやすくなるような状況判断ができていた。

南野へのパス本数も増えており、中断期間に「南野拓実」という1人の選手を理解してもらうとともに、一定以上の信頼を勝ち取ることができたのだろう。

切り替えとプレスのコースは及第点

リバプールの代名詞でもある切り替えの早さにはついていくことができていたように見えた。立ち止まる時間が極めて短く、次に起こりそうな事象を常に考えながらプレーしていたことで、マイボールになった時と相手ボールになった時の反応スピードは速かった。

守備におけるウイングの役割の大部分を占めるSBへのパスコースを切りながらボールを持つCBへのプレスも十分できていて、ほとんどDFホルゲイトからDFディーニュへのパスはなかった。

FW南野が起点となってボールを奪い取り、カウンターのきっかけを作るシーンも見られた。

前述した2点はFWサラーにはあまり見られない部分であり、FW南野にとってリバプールの強力なライバル相手に対抗する武器になるはずだ。

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負傷交代が相次ぎ、残る一抹の不安

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長い中断期間が明け、最初の試合。公式戦独特の緊張感や強度の高さからなのか、負傷者が出てしまった。試合の途中にアクシデントによってピッチを後にする選手がいたことはチームにとって不安材料になるかもしれない。

今シーズンのリーグ制覇はすぐ目の前にあることは間違いないが、最終ラインから安定したパスを供給し、高さという武器をチームにもたらすDFマティプと闘志あふれるプレーで味方を鼓舞し、複数のポジションでプレー可能なMFミルナーの負傷は大きな痛手となるだろう。怪我が軽いもので済めば良いが。

ともあれ、過密日程が加速するプレミアリーグは残り8試合。交代枠と控え選手枠の増加をうまく使い、けが人を出さずにシーズンを終えたいところ。ユルゲン・クロップ監督の手腕と抜擢された選手の活躍に期待しよう。

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