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聖地アンフィールドで新進気鋭の若手集団が自らの価値を証明し、撃ち合いの激しい展開の試合を演じた。欧州王者は勝ち点3を苦しみながら取り切った。
試合結果
リバプール 4-3 ザルツブルク
【得点】
(リバプール)
9分 サディオ・マネ
25分 アンドリュー・ロバートソン
36分 モハメド・サラー
69分 モハメド・サラー
(ザルツブルク)
39分 ファン・ヒチャン
56分 南野拓実
60分 アーリング・ブラウト・ハーランド
スタメン
打撲で出場を見送ったマティプのポジションにスピードを活かしたカバーエリアの広さが武器のジョー・ゴメスが入った。他のポジションはリーグ戦でのお馴染みの顔ぶれだ。
4-4-2で構えるザルツブルク。南野は右サイドハーフで先発。注目のハーランドはベンチからのスタートとなった。
マッチレビュー
リバプールが主導権を握った序盤
Embed from Getty Images まずはザルツブルクの守備から見ていく。4-4-2のブロックを形成し、プレスの基準点はリバプールの中盤3人と高い位置を取ったサイドバック。時々ファン・ヒチャンがセンターバックにプレスかける。しかし2トップがセンターバックの前に立ち、縦パスのコースを切るというのがメインタスクだったのだろう。ただザルツブルクの中盤はフラットであるため、ファビニョとフィルミーノにはプレスをかけにく噛み合わせとなる。
ザルツブルクとしてはボールサイドに圧縮して奪いきるという狙いを持っていた。リバプールの右サイドバックがボールを持つと、逆サイドの南野はセンターサークル付近まで絞る動きが監督からの指示だったのだろう。逆サイドの場合も同様であった。ただこのやり方はリバプール相手にあまり効果的ではなかった。リバプールはザルツブルクが片方のサイドに密集する守備をスカウティング済み。精度の高いキックを有する両サイドバックはザルツブルクが密集するのを確認すると、速いボールでサイドチェンジ。SB to SBのパスを通すことでザルツブルクのスライドは間に合わず、時間的余裕を持って前進することができていた。
ザルツブルクの攻撃はセンターバックの裏を狙う一辺倒なものだった。どの位置からでもボールを奪うとセンターバックの裏のスペースに2トップを走らせるロングパスを蹴る。ここに立ちはだかるのがジョー・ゴメスとファン・ダイクだ。高水準のスピードと高さを備える彼らの背後を取ることは容易ではない。ザルツブルクの選手が蹴るボールの精度が高くなかったこともあり、すぐにスペースを埋められ、跳ね返されるシーンが多かった。DFラインの裏を狙うばかりでは相手もある程度予想ができる。ロングパスを蹴り続けDFラインを押し下げることができていたならば、MFとDFの間のスペースにパスを受ける選手、南野などにボールが入ればよりチャンスが生まれたのかもしれない。
次はリバプールの守備について。ボールを握る展開が続いてたが、ファイナルサードでボールを奪われるのがサッカーである。奪われると、ロスとした選手を中心に即時奪回プレスを発動。2~3人で囲い込み、奪い返すとショートカウンターでゴールに迫るプレーはクロップのサッカーそのものだった。この即時奪回プレスでカギを握るのがヘンダーソンだ。豊富な運動量と危機察知能力の高さで強度高いプレスを実施。ザルツブルクが行う縦に速い攻撃は先程述べたように、センターバックの能力の高さにより危ないシーンを作らせなかった。
攻撃では逆サイドへの展開の加え、ワイナルドゥムがベースポジションから斜め下へ降り、ロバートソンを押し上げる。この動きによって、南野のプレスのターゲットをかく乱させていた。大外のレーンをサイドバックが取り、ウイングとインサイドハーフがひとつ内側のレーン(ハーフスペース)にポジションを取ることで三角形を形成。相手に的を絞らせないパス回しができていた。そこにフィルミーノがアクセントを加えに、近づいてくるのでザルツブルクのDFは捕まえにくい状況が生まれる。
ザルツブルクのシステム変化がもたらしたもの
Embed from Getty Images中盤フラットの4-4-2での守備では上記の通りフィルミーノとファビーニョを捕まえきれない。戦術的に整備されたプレスをかけれていたとは言えない状況が続いていた。そこで30分からザルツブルクのマーシュ監督が動いた。フラットだった中盤の配置をダイヤモンドに変えたのだ。
この変化によって、トップ下の南野がファビーニョに、アンカーのユヌゾビッチが下りてくるフィルミーノにプレスをかけることが可能になった。誰にプレスをかけに行けば良いのか明確になり、ザルツブルクの選手たちのプレーから迷いが無くなった印象だ。この配置の変化がすべてを解消したわけではない。高い位置を取るリバプールのサイドバックにプレスをかけにくいという問題が生じる。この問題にはムウェプとショボスライが運動量を増やし、解決しようという意図が見えた。
配置が変わり、最も恩恵を受けたのは南野だっただろう。ボールを受ける位置が良くなった。ファビーニョの脇やMFとDFの間で反転し、2トップにパスを付けゴール前に入り込むランニング。攻守ともに後ろと前を繋ぐ接着剤の役割を完遂した。
リバプールのシステム変化がもたらしたもの
Embed from Getty Imagesヘンダーソンに変えミルナーを、ワイナルドゥムを下げオリギを投入。システムも4-3-3から4-2-3-1に変更。
守備力の高いミルナーとファビーニョを横並びに配置し、フィルミーノをトップ下に変えた。これによってミルナーとファビーニョは前に出ていく守備の機会を減らすことができ、失点の時に使われたMFとDFの間を使わせない意図が見えた。攻撃では両サイドハーフが大外でDFを引っ張り、中央をフィルミーノが縦パスを引き出し、巧みなボールコントロールで相手を自分に引き付ける。抜群のキープ力で再びサイドに展開。サイドと中を絶え間なく使い分けることで捕まえかけていたザルツブルクのプレッシングに混乱を生じさせた。フィルミーノの独特な感性を捕まえる選手、チームはこの先出てくるのだろうか。これからも稀代のマジシャンがもたらす「何か」を追い続けていきたい。
Embed from Getty Imagesゴールシーンを分析
世にも珍しい両サイドバックで奪ったゴール
Embed from Getty Images ここではロバートソンが決めたリバプールの2点目について言及する。1点目と3点目はハイライト動画の視聴を推奨する。
大外のレーンに位置するロバートソンがファン・ダイクからパスををすれると、勢いをもってプレスをかけた南野を内側にボールを運ぶことで外す。そこからゴールへ持ち運ぶことで、ザルツブルクのDFを人引き付けヘンダーソンへパス。ロバートソンはCBとSBの間に入りながらPA内に進入。ヘンダーソンとサラーのパス交換から高い位置を取ったアーノルドへ展開。1タッチでクロスが上がるタイミングでトップスピードでCBとCB間に走り込み、クロスボールをゴールに流し込んだ。
ここでポイントになるのがロバートソンの最初のドリブルである。再三、ロバートソンからマネへパスを出すなど、外から攻めていた。それを警戒した南野は内側から縦方向にいたワイナルドゥムへのパスコース切るようにプレスをかけたがそれを利用して内側へドリブル。ドリブルはDFの目線と意識を集めるには最良の手段である。意識が薄れた右サイドにスムーズに展開しDFの目線をさらに変える。二度目線を変えられたザルツブルクのDFは完全に崩された。状況判断の高さが生んだゴールだった。
ポテンシャルを見せたつけたザルツブルクの3得点
1点目は前線からのサイド圧縮守備がうまく機能した。ムウェプとウルマーでヘンダーソンを挟み込みボール奪取。ファビーニョの背後かつファン・ダイクの前でファン・ヒチャンがパスを受け、リアルなシュートフェイントでファン・ダイクを滑らせ、ゴールネットに突き刺した。前から圧力をかける強気な守備とファン・ダイクに屈せず積極的な仕掛けができたファン・ヒチャンをたたえるべきだろう。
Embed from Getty Images2点目はカウンター炸裂。縦パスを受けたショボスライがファールを受けるとリスタート。サイドに流れたファン・ヒチャンの前には広大なスペースが。深い位置まで運び、クロスを送ると中央でフリーの南野がダイレクトシュート。しっかり押さえの利いたシュートはGKの逆を突きゴールネットを揺らした。この得点ではリバプールの選手たちの足が止まった一瞬を突いた機転の良さと南野の位置取りがポイントになる。リバプールの選手が全員ボールをウォッチャーになり、ゴール前に入っていたダカ1枚に3人が引っ張られ、遅れて入ってくる南野には気づかない。空いているスペースを見逃さない眼とシュートテクニックの高さはトップレベルの相手にも通用した。
Embed from Getty Images 1点目と2点目に共通するのはリバプールらしくない守備対応があったことだ。1点目のファン・ダイクのスライディングもプレミアリーグの試合では見たことがない。2点目も被カウンター時だったとはいえ帰陣が遅かった。3点差に安堵したのか、少し気を抜いてしまった印象を受けた。
3点目はボールへの反応が素直だった南野からの絶妙クロスを途中出場のハーランドが押し込むだけ。リバプールの選手にとってはボールに対するアタックを誰がするのか、具体的にはファン・ダイクはボールアプローチはファビーニョが、ファビーニョはファン・ダイクがボールへアプローチするという相互の認識が一致しなかったため、迷いがなかった南野の後手を踏む形となった。もうひとつ注目したいのがハーランドのPA内でのボールを呼び込む動き。自分のマーカーであるジョー・ゴメスの背中を常に取り続け、ラストパスを待つ。南野→ハーランドのホットラインは確立したザルツブルクの武器であることは明らかとなった。
リバプールの真骨頂を発揮した勝ち越し弾
マネからフィルミーノ、突かれるも即時奪回プレス。サラーがオリギにクロスを上げるも、DFにはじかれる。クリアボールを拾ったショボスライのファーストタッチが大きくなった瞬間を逃さなかったファビーニョの素早いチェックでPA内にボールを蹴ると、フィルミーノがヘディングで抜け出したサラーの前に落とし、落ち着いてゴールに沈めた。襲い掛かるような即時奪回プレスを連続して行うこと、ファビーニョのボールに対する一歩目の早さはさすがリバプールといった感じだ。
Embed from Getty Imagesあとがき
Embed from Getty Images CLという全世界が注目する試合で、それも昨季の覇者ともなれば活躍して、自分の価値を証明する絶好の機会である。よりレベルの高いリーグへステップアップを狙う野心を持った選手の集まりであるザルツブルクは実力を遺憾なく発揮することができた。選手のポテンシャルだけでなく、配置の変更など戦術のぶつかり合いもあり、とても見どころの多い試合となった。これからの彼らの未来は明るいことだろう。
一方でリバプールは試合の経過と共に、難しい試合なった。中盤にテクニシャンタイプがいないだけに、局面の打開にフィルミーノを頼らざる負えない現状だ。強度の高い守備と素早いスライドを可能にしている中盤のいつもの3人はリヴァプールにとって重要な役割を担っているだけに欠かすことができないのは明らかだ。こういった面を考えると、復帰傾向にあるナビ・ケイタの存在はこれからのリバプールにとって明るい材料になること間違いない。
ザルツブルクがダークホースとして昨季のアヤックスのように旋風を巻き起こすのか、リバプールは組み合わせが決まった時に比べてグループリーグの印象は全く異なるものになったのではないか。グループEはこれからも目が離せない。
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