プレミアリーグの監督事情~なぜ優秀なイングランド人監督はいないのか?~

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戦術分析から軽い紹介記事まで、リバプールに関することや、プレミアリーグや他リーグのこともネタがあればkop目線で様々な記事を書きたいと思っています。よろしくお願いします。

今回はリバプールからは少し離れて、イングランド全体のことについて言及したいと思います。リバプールにもイングランド人選手は多くいますし、kopの皆さんの中にはイングランド代表を応援しておられる方もいるのではないでしょうか。そして、将来的にはブレグジットの影響もあり、イングランド人監督をリバプールが必要とする時もくると思います。そこで今回はなぜイングランドには名将がいないのかということを考察していきたいと思います。

増え続ける外国人監督と減り続けるイングランド人監督

イングランドがサッカーの母国でありサッカー大国であるということは周知の事実です。ワールドクラスのタレントも数多く輩出してきました。しかし、現在では監督の人材という面で他のサッカー強豪国に大きく遅れをとっています。イタリア、スペイン、フランス、ドイツでは有能な監督もたくさんいますが、イングランドにはいないですね。代表監督に名前が上がるのも外国人が多く、実際にイタリア人のファビオ・カペッロを招聘したこともありました。ライバル国では考えられないことですね。ではなぜイングランド人に名将がいないのでしょうか?前回の記事で触れた内容について今回は考察していきたいと思います。

プレミアリーグ創設以降、イングランド人監督がトロフィーを掲げたことはないということについては前回の記事で紹介しました。そして現在プレミアリーグで指揮を執るイングランド人は3人だけだとも(エディー・ハウ、ショーン・ダイチ、サム・アラダイスに現在レスターで指揮を執るクレイグ・シェイクスピアを含めると4人)。これは明らかに少なすぎますよね。ではなぜイングランド人監督は減少したのでしょうか?そもそも昔から少なかったのでしょうか?過去の3シーズン(97-98、05-06、12-13)について調べてみました。

97-98

イングランド 8、スコットランド 3、北アイルランド 1、フランス 1、オランダ 1、スイス 1でした。残りの5チーム(ダービー・カウンティ、コヴェントリー、ウィンブルドン、ボルトン、バーンズリー)の監督は調べきれませんでした。

ちなみにこのシーズン、ヴェンゲル率いるアーセナルがリーグ制覇を成し遂げていますが、これはプレミアリーグ史上初の英国圏(イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランド)以外の監督による優勝であるそうです。そして、このシーズンのリバプールの監督はイングランド人のロイ・エヴァンスという方だったそうです。リーグ戦の成績は3位で、イングランド人監督の中では最高順位です。そしてイングランド人2位の成績を残したはロイ・ホジソン率いるブラックバーンでした。残る5チームの監督の国籍はわかりませんが、この時代はまだまだ外国人監督が少ないことがわかりますね。

05-06

イングランド 7、スコットランド 3、ウェールズ 2、北アイルランド 2、フランス 2、アイルランド 1、ポルトガル 1、スペイン 1、オランダ 1

このシーズンはチェルシー率いるジョゼ・モウリーニョが2連覇を達成した年ですね。監督の多国籍化も少し進んでいるのがわかります。ここでのスペイン人はリバプールを率いたラファですね。この年の成績は3位でした。そして、イングランド人の最高順位は8位のビッグ・サムです。

 

12-13

イングランド 4、スコットランド 4、イタリア 2、アイルランド 2、北アイルランド 1、ウェールズ 1、フランス 1、ポルトガル 1、デンマーク 1、オランダ 1、スペイン 1

このシーズンにはイングランド人監督は絶滅危惧種になってしまっていますね。この年はセインツの監督がシーズン途中にイングランド人のアドキンスからアルゼンチン人のポチェッティーノに交代するという人事もおき、さらにイングランド人監督が減ってしまいました。そしてこの年のリバプールですが、ブレンダン・ロジャース就任1シーズン目でしたが、成績は7位に終わっています。SASを筆頭に快進撃を見せてくれたのはこの次のシーズンですね。イングランド人監督の1位はまたしてもサム・アラダイスですが成績は10位でした。

この調査の結果、近年にイングランド人監督が急激に減少していることがわかりますね。20年前のことはすべて調べきれませんでしたが、不明の5チームを除いたとしてもイングランド人の数は多いです。この5チームに関してもイングランド人が監督をしていた可能性は高いと思います。そして、10年前になるとイングランド人は少し減りましたがスコットランド、ウェールズ、北アイルランドと英国人が大半が占めています。しかし、12-13は英国人の割合も明らかに低下しています。

理由は複雑でいろいろあると思いますが、筆者は「戦術」と「お金」が大きな要因だと考えます。イングランドでは以前からロングボール中心のサッカーが展開されており、戦術的にイタリア、スペイン、ドイツといった大陸の国々に劣ると言われていました。そのため、各クラブが優れた外国人戦術家を招聘し始めました。そのため、戦術的に劣るイングランド人の監督たちは職を失い始めました。実際、近年のプレミアリーグで指揮を執ったイングランド人監督はサム・アラダイス、ロイ・ホジソン、ハリー・レドナップ、アラン・パーデューなど20~10年前に結果を出してきた監督がほとんどであり、2000年代後半~の期間にブレイクした監督を思い浮かべることができません。そしてこの外国人監督の大量輸入を可能にしたのが「お金」です。プレミアリーグのクラブは莫大な額の放映権料の影響で潤沢な資金を手にすることができます。プレミアリーグが今季から3シーズンで結んでいる契約では、ブンデスリーガやリーガ・エスパニョーラと比べると2倍以上の額です。これが、各クラブに振り分けられるわけですから、プレミアリーグの下位クラブは当然他国の下位クラブと比べてお金持ちです。そのお金がある程度の実績を持った外国人監督の招聘を可能にします。実際、プレミアリーグの放映権料が増加するにつれて外国人監督が増えていることもわかります。過去の放映権契約を見てみると、

1997年(4シーズン契約) 約184億円

2001年(3シーズン契約) 約440億円

2004年(3シーズン契約) 約493億円

2007年(3シーズン契約) 約623億円

2010年(3シーズン契約) 約653億円

となっています。1997年から現在にかけて放映権料はうなぎ登りです。先ほどの監督の国籍数からもわかるように、2000年代に入ってから外国人監督が増えてきています。外国人監督の増加とお金の関係は明らかです。結果的に外国人指揮官の大量輸入はイングランドサッカーの近代化につながっているわけですが。

現れない新世代の指揮官

放映権収入の額が高騰し、たくさんの外国人指揮官がプレミアリーグに参入し活躍し始めて以降も結果を残したイングランド人監督は数人ですがゼロではなかったと思います。フルアムでのロイ・ホジソンやスパーズでのハリー・レドナップなどは十分な成績を残したと言えるでしょう。しかし、彼らは1990年代から活躍していた監督たちであり、2000年代中頃以降に活躍し始めたイングランド人監督はいないのではないでしょうか。少なくとも筆者は思い浮かべることができません。最近になってエディー・ハウがボーンマスを下部リーグから率いてプレミアに昇格&残留させて、有望視されているくらいではないでしょうか。確かに各クラブが優秀な外国人指揮官を迎えたため、イングランド人若手監督にチャンスがあまり回ってこなかったということもあります。しかし、数多くいたイングランド人のスタープレイヤーたちが現役引退後、監督としての道を選ばなかったこともひとつの原因ではないでしょうか。他の国では選手として実績を残した選手が現役引退後、指導者としてのキャリアでも成功を収めている人物は少なくないです。ペップ、コンテ、シメオネ、ジダンなどなど。彼らは皆、代表クラスで活躍した選手でした。しかし、イングランドには現役引退後指導者の道を真剣に志したような選手を私はほとんど知りません。ギャレス・サススゲートくらいのものではないでしょうか。アラン・シアラーやギャリー・ネビルも監督を務めましたが、彼らはオファーを受けるまで指導者としての経験は皆無でした。

 

イングランドでは現役引退した元選手が指導者よりも解説者になる傾向を感じます。莫大な放映権料の煽りを受けた放送会社も高額な給料で元スター選手たちを雇うことができるため、引退後の生活に不安を抱える選手たちにとっても魅力的な仕事なのかもしれません。

危機感を覚えるFAの改革と将来への期待

自国人監督がなかなか出てこず、代表監督の候補に外国人監督の名前が上がり、主要な国際大会で結果を残せていない現状にFAもさすがに危機感を募らせているようです。 2012年には広大な敷地を持つ国立フットボールセンター、セント・ジョージズ・パークを公式にオープンさせました。この施設にはウェンブリースタジアムのピッチのレプリカや室内コート、宿泊施設やオフィス、会議室も完備されています。そして、FAの育成部門の本部も置かれています。FAは自国産代表監督の育成がチームの強化にも繋がると考え、指導者育成を重視しており、名将の育成に全力をあげています。

そして現在、指導者を目指すリバプールのレジェンドがいますね。スティーブン・ジェラードです。他の元スタープレイヤーの多くが解説者の道を選ぶ中、指導者を志してくれました。そして今は、監督育成にFAが力を入れており、プレミアリーグにはたくさんの名将がいる。リバプールにもユルゲン・クロップがいますし、学べる環境は完璧に揃っています。スティーブン・ジェラードが素晴らしい名将へと成長し、監督としても偉業を成し遂げる姿を今から願わずにはいられません。イングランド人に名将がいないという歴史を是非ジェラードの手で終わらせて欲しいものです。

 

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