リバプールのCL準優勝は決して”奇跡”ではない〜サラー涙の負傷を越えて、次のステップへ〜

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グラッド
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リバプールはチャンピオンズリーグ1718決勝でレアルマドリードに1-3で敗れた。準優勝と言えば聞こえはいいが、ここまで辿り着いてトロフィーを勝ち取れなかったのだ。監督、選手、サポーター共に抑えきれない悔しさで押し殺されそうな気分であることは言うまでもない。 試合序盤でモハメド・サラーを涙の負傷退場に追いやったセルヒオ・ラモスのラフプレーは故意かどうかの解釈が別れるところだが、これまでの彼の行いから、至極のエンターテイメントの時間を奪ったとして世界中のフットボールファンの批判の的となっている。

しかしながら、感情的になりそうなところをグッと堪え客観視するとレアルマドリードは間違いなく強かった。ラモスにどこまで悪意があったかは本人にしかわからない。筆者もリバプールサポーターとして言いたいことは言うが、水掛け論に決着を求める気は無い。本記事ではできるだけ客観的に試合の所感を殴り書いていく。

画像出典:UCL公式Twitter

筆者はこの試合、リバプールが最高のパフォーマンスを出せれば、レアル・マドリードが同じく最高のパフォーマンスを出したとしても、リバプールに勝機があると読んでいた。クロップのチームは瞬間最大風速がどこよりも速い。キエフでの決勝までに十分な休養期間、暖かい場所でのキャンプを行う余裕があった。スカッドの薄さとラマダン時期が被っている懸念はあるが少なからずリバプールが世界を驚かせる可能性はあった筈だ。しかし、それは叶わなかったのが事実。3つのポイントで試合を振り返っていくこととする。

サラー、負傷による涙の退場

モハメド・サラーの離脱があまりに痛かったことは試合を見ていての感覚だけではなく、スタッツが証明している。STATS ZONEによるとサラーがピッチにいた前半30分までにリバプールは6回チャンスを創出しているが、以降の60分間でのチャンス数は僅か2回。他方のレアル・マドリードは前半30分までチャンス数は1回のみであるのに対して、以降の60分間では9回。攻撃的な側面だけではなく、守備面においてもサラーの離脱はチームを弱体化させた。

サラー負傷後、クロップはサディオ・マネをサラーの左サイドに配置してアダム・ララーナを投入。フォーメーションを変えずに試合を進めるが、ここから一気にレアル・マドリードのペースとなり最後までそのままいってしまう。ララーナはとても優れた選手だが、負傷明けでフィジカルコンディションが十分ではない上に、元々スピードのあるタイプではなく、縦に早く仕掛けられる選手では無い。ライン間に落ちてきてタッチを増やすことで価値を発揮する選手である。故にサラー、マネの様にワイドの高い位置に粘り強くポジショニングし、カウンターの起点になるという役割を担わせるのは無理があり、結果としてリバプールは全体が押し下がることになってしまう。サラーを警戒して序盤は影を潜めていたマルセロのボールを受ける位置が前半だけを見ても一気に前方により始めていることがよくわかる。ララーナもまた合計8回しかボールを受けることに成功していない。

【前半30分までにマルセロのボールを受けたエリア】画像出典:STATS ZONE

【前半30分〜45分にマルセロのボールを受けたエリア】画像出典:STATS ZONE画像出典:STATS ZONE

 

サラーがプレーをしている間は、マルセロは比較的低い位置に止まり、イスコやベンゼマがワイドに流れることで対応をしていたがその縛りが外れたのである。確かに、サディオ・マネが奮闘するスペースが空いたため彼が単独で好機を作る場面が何度かあったが、両翼の片方がなくなったことでレアル・マドリードはリスクを取らずよりコンパクトな守備ができるようになり、彼は孤立した。この流れの中でマルセロ、モドリッチ、クロース、イスコらは次第にリズム掴み始め、セルヒオ・ラモスが繰り出す極上のサイドチェンジや一つ飛ばす浮き玉が織り交ぜられながらリバプールのゲーゲンプレスはいとも容易くかわされ始める。

カリウスの重大な2つのミス

画像出典:Liverpool FC news 公式Twitter

この大一番で2つの大きなミスを犯してしまったGKカリウス。リバプールはGKのみならず、最終ラインが不安定であると批評され続けてきたが、ファン・ダイク加入後少なからず改善の傾向は見られていた。最強の個が集まったチームであるレアル・マドリード相手に不安定さを露呈した時点で失点は免れない。しかしながら、DF陣は文字通り最高のパフォーマンスを見せた。マルセロを抑え込むアーノルド、頻繁に攻撃に関わりながら最後の局面で決定機を阻止するロバートソン、ロナウドやベンゼマのプレーを冷静に遅らせるロブレン、いつも通りのファン・ダイク。実際に、カリウスの2ミスとベイルの魔法のゴール以外失点していないだけでなく、シュートを招くエラーはゼロ。カリウス自身もミスを犯すまでは、鋭い飛び出しやセービングで存在感を示していた。しかしながら、サポーターの信頼を得つつあったドイツ人GKは決定的なスローミスとブレ球をキャッチしにいくという判断ミスにより2つのゴールを許してしまった。あの様なゴールが2回決まってレアル・マドリードに勝利するのは不可能と言わざるを得ない。

マネの同点弾

画像出典:UCL公式Twitter

サラーが負傷退場して劣勢に立たされている中、信じられない形で失点をした5分後にロブレンがセルヒオ・ラモスに競り勝ってからのマネの同点ゴール。精神面含めてかなり苦しい場面で追いつけたことで粘り勝つ可能性が僅かに残ったが、レアル・マドリードは途中からガレス・ベイル、時間稼ぎにアセンシオを繰り出せるチームなのだ。サラー離脱後、サディオ・マネは逆転された後も一人で状況を打開しようと試みるも逆転は現実的ではなかった。

総評

画像出典:Liverpool FC news 公式Twitter

冒頭で述べた通り、リバプールは最高のパフォーマンスを出せれば優勝できる可能性はあったがそれができなかった。この大舞台でロブレンが最高のプレーを見せたとしても、彼だけでは十分ではない。つまり条件が揃わなかったため、負けるべくして負けたのだ。一つ上のステージに上がり、大きな栄光を掴むにためには十分ではないことが改めて明示された。優先順位が高い課題は「選手層」「打ち手の幅」「弱点の強化」である。

選手層

スタッツや試合の流れからもサラーが離脱した時点でかなり苦しい状況になったことがよくわかる。当初のプランを遂行するにはせめてチェンバレンが必要だったが彼は負傷によるスカッドには入っていない。ララーナを入れる以外の選択肢はなかった。

打ち手の幅

となるとララーナを投入するわけだが、ここでプランを大きく変更すべきだった。クロップの頭脳とも言われるゼリコ・ブバチは「個人的な事情」でこの決戦を前にチームを離れてしまった。彼がいたら状況は変わっていただろうか。お金で解決することが難しいこの問題がどう動くかが来シーズン以降のリバプールの最重要の鍵になる。

弱点の強化

カリウスは2年前の加入時期からケアレスミスによりピンチを招くシーンが散見されていた。確かに少しずつ良いパフォーマンスを見せ始めているものの、致命的なミスは多く、例えばCL出場権のかかったチェルシー戦での失点も彼の微細な判断ミスがきっかけとなっている。この類のミスは物理的なスキルセットではなく判断能力であるため、優秀なコーチがいなければ改善されない。また、カリウスは2年間リバプールで一定のチャンスを与えられ続けているが、繰り返しこの類のミスをしている。何も変化を与えなければ来シーズンも同じことが起こるだろう。シンプルなのは補強。補強をしないならせめてコーチスタッフ、メソッドの大幅な刷新が必須である。

クロップのチームには再現性がある

画像出典:LFC公式Twitter

敗戦後につき、少々悲観的なまとめにはなってしまったが筆者は決して強がりではなくクロップが率いるリバプールの未来が楽しみで仕方ない。2005年にイスタンブールの”奇跡”を起こしたのち、2007年にクラブを買収したジレットとヒックスの悪質とも言える運営によりクラブは蝕まれて行った。最終的には経営的な問題が本格的に表層化し、主力は流出しチームは弱体化。その間にリバプールから離れてしまったサポーターもいるだろう。中にはチームを「沈みかけた船」と表現する選手すらいた。

画像出典:UCL公式Twitter

混沌の中、新オーナーのチーム再建が進むも結果は出ず。YNWAに囲まれながら、時にひとりでクラブを背負い続けてきたスティーブン・ジェラードがチームを去った半年後、ユルゲン・クロップがリバプールに到着。まだ3年も経っていないが、彼は停滞していたクラブに”ノーマルワン”として溶け込み、淡々と普通ではない結果を残している。1年目はシーズン途中からの着任でヨーロッパリーグとリーグ杯で決勝進出、2年目はトップ4フィニッシュ、そして3年目はチャンピオンズリーグ準優勝。2017年夏リバプールに加入したモハメド・サラーは個人賞を総なめにしてサッカー界を驚かせたが、ルイス・スアレスがチームを飛躍させたシーズンとは明確に状況は異なる。サラーは突然変異の様にクラブを引き上げたのではなく、チームの重要なピースとして組み込まれ、彼自身成長を遂げながら結果を残した。クロップが一貫した道筋で正しい判断を積み上げてきたことはプロセスとその成果を見れば明らかだ。そこには確かな再現性がある。

画像出典:UCL公式Twitter

リバプールがキエフの舞台に立てたことは決して”奇跡”ではない。これまで歩んできた様に、着実に強くなっていけばいい。敗戦の悔しさを滲ませながら、クロップとの冒険はここから更にどこまで辿り着けるのか空想すると、一サポーターとしてさまざまな感情が複雑に入り乱れる。それは間違いなくポジティブな未来を予想させるものである。

こちらのイベントでCL決勝についてもより深く話します(感情的な部分も含め)

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