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プレミアリーグ開幕から5連勝、5試合で2失点、それもプレミアリーグになってから初の開幕5連勝。さらにはCL開幕戦でも3-2で強豪パリ・サンジェルマンを撃破。シーズン開幕前から優勝候補に挙げる有識者もいるなど、評価は高かったが、今季のリバプールには期待させられる何かがある。クロップ4年目となる今季、リバプールは今までのプレッシングとショートカウンター中心の戦術をベースとしながらも、バリエーションを身に付け、進化している。今回はクロップリバプールの代名詞であるゲーゲンプレス、ハイプレスに注目し、考察してみたい。主に、プレミアリーグトッテナム戦を分析したものである。
リバプールの並びと2種類のプレッシング
まず、リバプールのチームとしての基本的な部分を整理する。リバプールのシステムは4-3-3、前線に破壊力のあるスリートップ、3センターにはフィジカル、ボール奪取、配給にも優れた3枚を並べている。そしてディフェンスラインには攻撃力のある2人のサイドバック、足元、スピード、空中戦の強さを兼備したセンターバックに、ゴールマウスには世界最高峰のゴールキーパーだ。補強の効果もあり、ベンチにもタレントを揃えているなど、今のチームには能力の高い選手が揃っている。そんな選手たちが集団でボールに襲い掛かり、ボールを奪えばすぐさまフィニッシュに繋げる、これが現在のリバプールであろう。では、具体的にどのようにプレッシングを行い、ボールを奪っているのだろうか。この部分を考察してみたい。
クロップリバプールのプレッシングを考えるうえで、今回はプレッシングを2種類に分けて考える。1つ目はボールを失った直後から周辺の選手が即時に切り替えてボールを奪いに行くプレッシング、一般的にゲーゲンプレッシングと言われている方法。そして2つ目は相手がディフェンスラインから陣形を整え、パスを繋いでビルドアップを開始しようとするときに行うハイプレスである。両方に共通しているプレッシングのコンセプトは、複数の選手が相手にプレッシャーを連続的に仕掛けることで、相手から選択肢、時間、スペースを奪うということである。どちらの局面においてもリバプールの選手たちが密集を作り出し、相手を囲んで自由を奪っている。
① ゲーゲンプレッシング
ではまずゲーゲンプレッシングの局面から考察していく。そもそも、このプレッシグの形が多く見られるのはリバプールがボールを保持し、遅攻を行っている時間帯である。クロップが就任してからのリバプールは格下相手の取りこぼしに苦しんできた。チームは試行錯誤を繰り返してきたが、昨シーズンあたりから被カウンターのリスクを管理しながらも、自分たちでボールを保持し崩しにかかる試合が増加した。特にリバプールの遅攻にはサイドからの攻撃が目立つ。サイドバック、ウィンガー、片方のインサイドハーフがサイドでパス回しを行い、そこにアンカーの選手やフィルミーノ、もう片方のインサイドハーフが絡んでいく。これは比較的左サイドで多くみられる形なのだが、この時点でリバプールの選手によって密集が作られていることになる。この状況でボールを失ってもゲーゲンプレスを発動させ、複数の選手で一気に畳みかけることでボールを奪う、もしくはロングボールを蹴らせてボールを回収するのである。クロップが就任してから取り組み続けているということもあり、さらに磨きがかかっている。他のチームと見比べれば明らかに失った後の切り替えが早く、ボールを奪われた次の瞬間には2~3人が相手に向かって走り始めている。また、熟成の結果密集から脱出され、オープンスペースへとボールを運ばれることも少なくなっている。
② ハイプレス
ここでハイプレスとは、相手が陣形を整えビルドアップを開始したのに対して、ボールを奪うことを目的として行うプレッシングのことと定義する。プレッシングを仕掛けるリバプールの布陣は4-3-3、もしくは4-1-2-3と表記することができると思う。敵ディフェンスラインがボールを持つとその前にスリートップがポジションをとり、その後ろに2人のインサイドハーフ、その後ろにアンカーが控えることになる(図1)。
このシステムの特徴上、中央に多くの味方選手が集まるため、リバプールはボールを奪いたいエリアを中央に設定している。2人のウィンガーは敵サイドバックもしくは、センターバックからサイドへ出されるパスを制限し、縦パスを誘導する。そしてスリートップと2人のインサイドハーフによって形成される5角形(図2)の中にボールが入ったとき、インサイドハーフによるプレッシャーと前線の選手のプレスバックによる挟撃でボール奪取を狙う。
ポイントは前線の選手のプレスバックであろう。この動きによって中央に数的優位を生み出している。仮にサイドへのパスで逃げられたとしても、そのサイドに密集を作り出し、連続してプレスをかけ続けることで相手に時間とスペースを与えずボールを奪いきってしまう(図3)。
実際トッテナム戦においては、スパーズがボランチへの縦パスを避け、ロングボールが多くなっていた。また、ボールがサイドにある局面においては積極的にサイドバックもプレスに参加する。その場合、逆サイドのサイドバックは中央へと絞り、リスクを管理している。
このように、相手チームが陣形を整えてから始めるビルドアップに対してもなおプレッシングを仕掛け、密集に相手を誘いボールを奪う。相手陣内から始められる相手ボールのスローインにおいて、密集を作った非常に面白い守備も見られた。大半の選手をボールサイドに配置し、スペースを埋め、スローインがスタートした瞬間からプレッシングを開始し、そのサイドでボールを奪いきってしまうのである。手からスタートするスローインにおいて、サイドチェンジの心配がないことは間違いないが、逆サイドのウィング、インサイドハーフまでもピッチの中央よりボールサイドに配置する守備方法は斬新と言えるだろう。スローイン専門コーチを雇った効果がこの辺りに出ているのかもしれない。スパーズ戦においてこの守り方が機能していたことは間違いなく、リバプールが相手ボールからスタートするスローインを好機と捉えていることが伺える。
チームの成熟と今季への期待
ピッチ上のどこかに密集を作るということはどこかにスペースを残すということになる。例えばハイプレスのフェーズから相手がサイドの逃げた時、もしくは相手ボールのスローインの際、リバプールの選手はサイドに密集を作るが、当然逆サイドには広大なスペースを残すことになる。しかし、今季のリバプールはこの辺りのケアも良くできている。クロップの熟成されたプレッシングは簡単には相手にサイドチェンジを許さず、仮にサイドチェンジを許したとしても、素早くスライドを行い、逆サイドに人数を配置しなおすことに成功している。大きなエネルギーを必要とする守り方であるが、今季のリバプールにはそれを継続できるだけのタレントが揃っている。
加えて、ここ数シーズンは弱点であった、遅功によるバリエーション、被カウンター対策やリスク管理についても改善が見られる。クロップリバプール最大の長所であるプレッシングに加え、ここ数年弱点と言われてきたポイントに改善がみられる上、強力な新戦力も確保した。クロップの戦術が熟成した今季、リバプールが何かを成し遂げてくれる可能性は十分にあるのではないだろうか。
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