ヘンリーの投資スタンス「トレンド・フォロー」を基にFSGのチーム運営を考察〜「トレンドの芽」を追う〜

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ヘンリー

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ヘンリーです。FSGやオーナーであるジョン・ヘンリー関連の記事を書いていこうと思っています。基本まったりとやっていきます。

2『過去』「FSGのチーム運営をトレンド・フォローに当てはめてみる」

①トレンド・フォローとマネーボール

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(アスレティックスGM  ビリー・ビーン)

この節では、マネーボールの本を基にしてレッドソックスが導入したセイバー・メトリクスの概念をトレンド・フォローに当てはめて考察を展開していきます。このマネーボールに登場した、選手を統計学的に分析するセイバー・メトリクスの概念は、ビル・ジェイムズという人物が自費出版した「野球抄」という冊子が基になっています。

マネーボールによれば、「野球抄」を最初に自費出版したのが1977年であり、そこから徐々に一般大衆へと広がっていくとしていますが、1980年代から90年代を通じてプロ野球関係者から反応をもらったのは2回しかなく、その反応も芳しくなかったそうです。

球団関係者からの評判は芳しくなかったセイバー・メトリクスでしたが、一般大衆に広がっていった要因として、マネーボールでは「ローティッセリー野球ゲーム」というオンラインでの球団運営シミュレーションゲームの存在を挙げています。

実は、ヘンリーはこのローティッセリー野球ゲームの熱心なプレイヤーであり、このビル・ジェイムズの「野球抄」の読者でもありました。マネーボールによれば、レッドソックスのオーナーになる以前、マーリンズのオーナーになった時もこのオンラインゲームをやり続けていたそうで、セイバー・メトリクスを駆使しながら勝ちを量産していたそうです。

このような経験から、ヘンリーはまだ野球界でデータに基づく選手分析が広まっていく前からその有効性を認識していたようです。マネーボールに登場したヘンリーのコメントを以下のように引用いたします。

 

「投資家も野球人も、信念と偏見に引きずられているんです。極端なことを言えば、そういう人たちをみんな切り捨ててデータだけを頼りにすれば、どんなにか有利でしょう。株式市場では、多くの投資家が、おれは他人より賢い、市場そのものにはどうせ知恵がない、ただの惰性で動いているようなもんだ、と考えています。球界でも多くの関係者が、おれは他人よりも賢い、グラウンド上の試合はおれが思い描くとおりの仕組みで進行している、と信じています。ところが、株式市場では、個人の認識や思い込みよりも、日々のデータのほうが尊い。野球だって同じです。」

マイケル・ルイス(2006)『マネーボール』ランダムハウス講談社 p142より引用

このデータを用いた球団運営をヘンリーは当時所有していたマーリンズでも行なおうとしたそうですが、球団内部の反対も多く、上手くはいかなかったようです。

その後所有したレッドソックスでは、当時セイバー・メトリクスに関する野球分析で最先端を走っていた、GMのビリー・ビーン擁するアスレティックスを参考にしながらデータ分析に長けた人材を登用していきます。その際たる例として、先ほど登場した「野球抄」の作者である、ビル・ジェイムズをアドバイザーに据えています。

ここでヘンリーが、どうしてアスレティックスとそのGMであるビリー・ビーンの球団運営のやり方を知っていたのか疑問に思いますが、マネーボールによると以前の記事でも紹介したセオ・エプスタインはビリー・ビーンと頻繁に接触していた間柄であり、そこからある程度情報を得ていたようです。

その後、ヘンリーはそのビリー・ビーンを引き抜こうとしますが、失敗し、前回の記事の通りエプスタインをGMに据えてデータメインの戦力補強を行なっていきます。

ここまでザックリとマネーボールを参考にセイバー・メトリクスとヘンリーについてまとめていきましたが、これをトレンド・フォローの面から考察したいと思います。

ここで注目したいのがヘンリーは、セイバー・メトリクスが野球界に広がる前からその存在を知っており、その導入を模索してきた点にあります。

エプスタインを通してビリー・ビーンがセイバー・メトリクスを使って球団運営をしている「状況」を確認しつつ、球団運営に取り入れていくなど、「トレンドの芽」を敏感に観察し、それが他チームに広がる前に球団運営に取り入れていったように思います。

この次の節では、少々強引になってしまいますが、リバプールと「トレンドの芽」を関連させながら考察していきたいと思います。

②トレンド・フォローとゲーゲン・プレス

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この節では、リバプールとトレンド・フォローを絡め、考察を展開していこうと思います。

前回の記事で紹介したように、リバプールはダミアン・コモリの下でレッドソックスと同じようにマネーボール戦略を推し進めますが、失敗しています。

その後、当時の監督だったダルグリッシュとSDのコモリの解任後、ロジャースが監督となりますが、どうやらFSGとしては最初からゲーゲン・プレスを導入することを念頭にチーム作りを行なっていたようです。

以下に引用するのは、サッカーダイジェストwebで公開されているジェームス・ピアースの記事です。

「クロップに話を戻せば、実はクラブ上層部は、ずいぶん前から彼の招聘を画策していた。最初は前述したホジソンのクビを切った2011年1月。その時は本人がドルトムントを離れたがらなかったから、リバプールは断念せざるをえなかった。12年6月にケニー・ダルグリッシュを解任した際にも、再びアプローチをかけたが、この時も断わられた(結局、ロジャースを招聘)。つまり、リバプールは5年近くに渡ってクロップを理想の人材と考えており、今回ようやくその夢を叶えたというわけだ。

http://www.soccerdigestweb.com/news/detail4/id=11804より引用

 

以上のように、FSGが買収した当初からクロップの招聘を画策し続けていたことが見えてきます。

前回の記事では、移籍委員会にも少しスポットを当てましたが、anfieldindex.comの記事によれば、移籍委員会はゲーゲン・プレスに適応し得る人材をピックアップし続けていたとしています。

Adam Lallana、Roberto Firmino、Phillipe Coutinhoは、彼らが選択され、遺伝的に強化され、若年時代からKloppian-wayでプレーするように見えるが、それはKloppが到着する前に委員会によって持ち込まれたように見えます。リバプールの移籍チームは、非常に特定のプロフィールを持つ選手、複数のポジションをこなせる選手、センターバックや守備的なミッドフィールダーなどのすべての選手を激しくプレッシングしている選手を一貫して特定しています。それは、Kloppが抜本的な入れ替えを行なうのではなく、最初の移籍ウィンドウでのわずかの微調整のみで済むことを意味しています。

 anfieldindex.comより引用

 

以上のように、FSGとしては一貫してゲーゲン・プレスを導入することを念頭に置いたチーム運営を行なっているように見えますが、この点にもトレンド・フォローが背景にあるように思います。

ヘンリーがホジソンを解任した2011年のサッカー界のWikipediaから、ドイツに目を向けるとクロップ率いるドルトムントがリーグを制覇し、香川真司らの若い選手を安くチームに引き入れ育成することで結果を残しています。

ここでクロップのゲーゲン・プレスに目をつけた理由として、マネーボールの時と同様に「過小評価された選手を安く買うことが出来た」ということだと思います。

以下に挙げるのは、web版サッカーキングの記事を基にした、2012-13シーズンのCL準優勝時におけるスタメンの移籍金です。

・2012-13CL準決勝 セカンドレグのスタメンと移籍金

ポジション 名前 加入年 加入時移籍金
GK ヴァイデンフェラー 2002 フリー
DF スボティッチ 2008 400万ユーロ
フンメルス 2009 400万ユーロ
ピシュチェク 2010 フリー
シュメルツァー ユースより昇格
MF ベンダー 2009 150万ユーロ
ギュンドガン 2011 550万ユーロ
ゲッツェ ユースより昇格
ロイス 2012 1750万ユーロ
ブワシュチコフスキ 2007 310万ユーロ
FW レヴァンドフスキ 2010 450万ユーロ

 

https://www.soccer-king.jp/news/world/cl/20130525/112210.htmlを参照

 

2011年ではなく、2012-13シーズンのものになってしまいましたが、ほとんど2011年当時のメンバーなので気にせずにお読み頂きたいと思います。

こう見てみるとマルコ・ロイスを除き、かなり少額の移籍金で獲得したメンバーで構成されていることがわかります。また、クロップがドルトムントの監督となったのは2008年のため、ほとんどのメンバーが、クロップが監督に就任してから獲得したメンバーとなります。

2012-13シーズンにCL決勝を戦ったバイエルンとドルトムントをはじめ、このシーズンから攻守の切り替えに強みを持ったチームが多くなっていきます。

それを踏まえゲーゲン・プレスが流行する少し前にクロップを監督に招聘しようとしていた点から、マネーボールの時と同じく、「まだ他チームに広がっていないこと」を導入しようとしており、それによって「過小評価された選手の発掘」を実現しようとしたとして、かなり強引ではありますが「トレンドの芽」を察知していたとします。

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2 件のコメント

  •  今回の記事も、すごく面白かったです。 ボクもMLBを見るのですが・・・

    マー君の「ボールの回転数データ」表示をみて・・・「そんなトコまで可視化すん

    の!?」って最近、驚いた次第であります。 

     「ゲーゲン・プレスの可視化」となると・・・やっぱり岡崎慎司だと思います。

    彼のプレイはワールドクラス!!っていう事実がデータで証明されるでしょうね♪

    •  背番号4さん、コメントありがとうございます。
      「ゲーゲン・プレスの可視化」と岡崎は面白い視点ですね!
      記事で書いているように、FSGは過小評価された選手の発掘を重点的に行なっていますが、まさに岡崎は既存の評価基準では評価しづらい選手だと思います。
       
       テクノロジーの発展と共に、新たな評価基準で評価されることが増えていくと思いますが、まさにそれは岡崎のような選手なのかもしれませんね!

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