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4『未来』「次のトレンドを考察する」
(フットボナウト)
①サッカー界のトレンドの芽 「練習におけるテクノロジーの導入」
この章では、「次のトレンドを考察する」と題しましたが、最初のコペルのコメントでトレンド・フォローでは「予測はしない」と書いてしまっています。矛盾するようですが、この記事は現在のサッカー界とMLBの状況を踏まえた筆者個人の考察にすぎないということでご容赦いただければと思います。
現在のサッカー界で、今後トレンドの芽となりそうなものを挙げるとするならば、日々の練習へのテクノロジーの導入があると思います。
この節では今シーズンのCL予備予選でリバプールと激突したホッフェンハイムの取り組みをラボでも紹介されていた記事とスポーツナビの記事を基にして、紹介したいと思います。
まずweb版サッカーキングの記事によると、ホッフェンハイムはオーナーが創設した、SAP社の協力を仰ぎながら、日々の練習にテクノロジーを導入しているとしています。同じ記事において、ホッフェンハイムではパスの精度を高めるトレーニングマシーンである、「フット・ボナウト」と周辺視野と認知を鍛える「ヘリックス」の紹介がなされており、ホッフェンハイムが行なっている、練習におけるテクノロジーの導入について言及しています。
(ヘリックス)
また、スポーツナビの記事では、iPadを使用したテクノロジーが紹介されています。この記事によれば、オレンジとブルーのユニフォームの選手が画面に登場し、どちらの色の選手が多いかを答える「less or more」という脳トレが紹介されています。これを行なうことによって、瞬時の認識能力や判断能力を鍛える効果があるそうです。
以上のように、ホッフェンハイムでは、練習においてテクノロジーを導入することによって選手の能力を底上げしようという試みがなされており、前に紹介したヘリックスはドルトムントも導入しているなど、練習におけるテクノロジー化が徐々に広まりつつあります。
この次の節では、テクノロジーの導入が進んでいる今シーズンのMLBで起きている、ある現象を紹介していきたいと思います。
②MLBにおけるトレンドの芽「フライボール・レボリューション」
(新指標 バレル) ※グラフが上に行くほど打球速度が早い。赤いゾーンが本塁打の出やすい角度
実は、今シーズンのMLBではある現象が起きています。それは「本塁打数」の急激な上昇です。メジャーのシーズンが始まって2ヶ月の6月時点の記事ですが、ベースボール・キングの記事では、1990年以降の被本塁打率ワースト6の内、5選手が2017年に投げている選手が記録しているとしています。
現在、MLBではシーズンも終わりに差し掛かっていますが、ISMの記事において今季の総本塁打数が史上最多を記録していることを紹介しています。
この記事にもあるように、あまりに劇的に本塁打数が上昇したため、日本でも問題になったように公式球が飛ぶボールに変わっているのではないかという指摘もありますが、今現時点ではメジャーリーグ機構が否定しているため、別の側面から見てみようと思います。
最近、MLBの中継や日本のプロ野球でのオールスター戦で「スタッド・キャスト」という中継映像が導入されているのを目にしている方も多いのではないかと思います。
(スタッド・キャストによる中継映像でのデータ)
Numberのコラムとスラッガー紙の記事によると、この「スタッド・キャスト」とは球場に設置された複数台の高感度カメラであり、それによって打撃面では「打球初速」「打球角度」など。投球面では「ボールの回転数」等を計測、数値化してデータ化することが可能となっています。
スラッガー紙の記事では、このデータの内、打球角度に注目した「フライボール・レボリューション」という現象が紹介されています。
この記事によれば、スタッド・キャストによるデータ分析により、本塁打が出やすい打球速度と打球角度が明らかになったことが書かれています。この新指標を「バレル」と言い、それによると、98マイル(約157キロ)の打球速度で、26度〜30度の角度でボールを打ち上げた場合、本塁打を打つための理想的な条件になると記事では書かれています。
それを踏まえ、各選手はその条件を満たすための練習を重ね、ボールの下を上手く叩き、スイングスピードを上げるよう工夫するようになったとしています。
ここまで、サッカーとは関係ないMLBでの現象を書いてしまいましたが、ここで注目したいのは、これまで選手個々の感覚で表現されていたことが「可視化」され、「共有化」されたことです。
去年のスポルティーバの記事で、本塁打王争いを行なっていた山田哲人選手について同じチームのバレンティン選手がその要因を以下のようにコメントしています。
「ボールを遠くに飛ばすのに重要なことは、体のサイズではなく、ボールの下を叩くことなんです。ボールにバックスピンをかければ、打球は遠くに飛びます。僕は山田が19歳のときから見ているけど、彼はバックスピンをかける技術に長けていた。だから、山田があのサイズながらホームランをたくさん打つことに驚きはありません。この技術は努力して身につけたというより、持って生まれた才能だと思います。早くから球場に来て練習するし、練習量も多い。それもホームランを打つことにプラスになっていると思うけど、もともとのベースはホームランを打てる才能を持っていたということです」
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/npb/2016/06/01/post_757/ より引用
以上のようにボールの下を叩けば本塁打が出やすいということは、一部の選手の感覚として持っていた部分でした。それがテクノロジーの導入によって「可視化」され「共有化」されたことが今回のMLBで本塁打が増加した現象の画期的な部分なのではないかと思います。
まとめ 「感覚の『可視化』と『共有化』をリバプールに当てはめる」
今回の記事では、ヘンリーの投資スタンスである「トレンド・フォロー」を基にして、過去、現在、未来の3つの視点から考察を致しました。
以上の内容をまとめるとFSGのチーム運営は、セイバーメトリクスと脚光を浴び始めた当初のゲーゲン・プレスに着目したように、その時々の状況を注意深く観察しつつ「他チームにまだそこまで浸透していないこと」を見つけ、「過小評価された選手を安く獲得する」というヘンリーの「トレンド・フォロー」の哲学に則ったものであると思います。
しかし、「現在」の考察で述べたように、その「他チームにそれほど浸透していないこと」がある種のトレンドとして広まってしまった場合、その優位性を維持するのは厳しくなってしまいます。それによって「過小評価された選手を安く獲得する」ことは難しくなっています。
ならば、次なる「トレンドの芽」は何かと考えた時に、私自身の個人的な考察としては、前の章で書いたようにサッカー界のテクノロジーの進化による「選手の感覚の可視化と共有化」が次のトレンドになると考えています。この「感覚の可視化と共有化」をリバプールに当てはめてみると、一つ、現在のチームの戦術で個人の感覚に委ねられている部分があると思っております。
それはグラッドさんがpax-footで記事にして紹介しています、「カバーシャドー」の部分ではないかと思います。
詳しい内容はグラッドさんの記事をお読みいただきたいと思いますが、プレッシングをした際に相手のパスコースを限定する「カバーシャドー」は、グラッドさんの記事でも指摘されているように、ララーナ、フィルミーノといった上手い選手とベンテケやスタリッジなどのそこまで得意ではない選手に分かれてしまっています。
この選手個人の感覚によって左右されている、「カバーシャドー」をテクノロジーによって可視化することが出来れば、戦術面でのさらなる進化の余地があるのではと私としては考えております。
もちろん、これから先のことは誰にも分かりませんが、個人的にこの「カバーシャドーの可視化と共有化」を実現に向かわせる人材は今のフロントにいるのではと思っています。
以前の記事で紹介したように現CEOのムーアはゲーム業界出身であり、VRなどの映像を使用する分野で多大なコネクションを持っていると想像出来ます。
また、記事で紹介した現SDのエドワーズはもともと選手のデータ分析や、選手の発掘に強みを持っています。(以前、エドワーズの記事でこの二人には交渉能力を重視していないのではないかと書かせて頂きましたが、ナビ・ケイタ獲得成功など、二人とも交渉能力は大いにありましたね。人知れずアンフィールドの方角に土下座しましたのでご容赦下さい。)
この二人の長所から、エドワーズによって「ゲーゲン・プレスに向いたプレイヤーの発掘」を実現し、その選手をムーアのコネクションを生かした「カバーシャドーの可視化と共有化の実現」によって伸ばし、量産するという育成に傾いた未来にリバプールは向くのではと個人的には推察しております。
この章で書いたものはあくまでも私の妄想なのでそうならない可能性の方が高いですが、もし現実味を帯びた時、それがFSGのチーム運営の一つの完成系なのではないかと思います。
以上で今回の記事を締めるとともにこれまで書いてきた一連の連載を一区切りとさせて頂きます。
次の記事からは、他クラブの経営陣との比較や残りのFSGのメンバーの紹介をメインに記事を書いていこうと思います。
今回の記事を含む一連の連載では長い記事や分かりにくい考察ばかりのものとなってしまい、申し訳ありませんが、読み続けて頂き、ありがとうございます。
参考
マイケル・ルイス(2006)『マネーボール』ランダムハウス講談社
『SLUGGER 2017年9月号 出野哲也「データ革命の最前線」』日本スポーツ企画出版社
・トレンドフォロー概要
http://www.panrolling.com/seminar/covel/
・ジェームス・ピアース インタビュー
http://www.soccerdigestweb.com/news/detail4/id=11804
・移籍委員会に関する記事
・wikipediaによる、2011年のサッカー
https://ja.wikipedia.org/wiki/2011年のサッカー
・web版サッカーキングによるドルトムントの記事
https://www.soccer-king.jp/news/world/cl/20130525/112210.html
・LA timesによる、なぜアスレティックスが勝ちにくくなったかの考察記事
http://articles.latimes.com/2009/sep/10/business/fi-hiltzik10/2
・ゲーゲン・プレス採用チームの移籍金参照
・スポーツナビのホッフェンハイムに関する記事
https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201704060002-spnavi
・ナンバーによる、スタッドキャストに関する記事
http://number.bunshun.jp/articles/-/823326
・フライボール・レボリューションに関する個人ブログでの考察記事
https://baseball.information0.com/pro-baseball/flyball-revolution-20170309/
・ベースボール・キングの本塁打数上昇に関する記事
https://baseballking.jp/ns/column/121331
・ismによる今季の本塁打数に関する記事
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170920-00000213-ism-base
・スポルティーバの山田哲人に関する記事
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/baseball/npb/2016/06/01/post_757/
・pax-footでのグラッドさんの考察記事
http://pax-foot.info/2017/01/29/gegenpressing/2/
今回の記事も、すごく面白かったです。 ボクもMLBを見るのですが・・・
マー君の「ボールの回転数データ」表示をみて・・・「そんなトコまで可視化すん
の!?」って最近、驚いた次第であります。
「ゲーゲン・プレスの可視化」となると・・・やっぱり岡崎慎司だと思います。
彼のプレイはワールドクラス!!っていう事実がデータで証明されるでしょうね♪
背番号4さん、コメントありがとうございます。
「ゲーゲン・プレスの可視化」と岡崎は面白い視点ですね!
記事で書いているように、FSGは過小評価された選手の発掘を重点的に行なっていますが、まさに岡崎は既存の評価基準では評価しづらい選手だと思います。
テクノロジーの発展と共に、新たな評価基準で評価されることが増えていくと思いますが、まさにそれは岡崎のような選手なのかもしれませんね!