キッカケとの別れ ~サディオ・マネに寄せて~

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かぴばろ
2018頃からの新参者です。池袋エリアのサウナに割と出没しがちです。体重だけならマティプとファンダイクに肩を並べられるおデブです。

「キッカケ」と「理由」は似て非なるもので、理由を聞かれているのについついキッカケの方を答えてしまうということがザラにある。

先日、後輩とLINEをしている中で僕が今ひっそりと追いかけているJリーグクラブの話題になり、追いかけるようになった理由を聞かれて「友達に連れて行かれたから」と答えたが、「それは理由じゃなくてキッカケじゃないですか」と一刀両断されて言葉に詰まってしまった。

ただ、こと趣味に関しては深入りするようになった理由よりもキッカケの方が語りやすいという人が多いのではないのかと勝手に思っている。好きになるという気持ちは理屈的ではない感覚的な部分が強く、人によっては特に語ることができるほどの深い背景も無くて「気がついたら何となく好きになっていた」くらいの簡単なものであったりする。

その点キッカケという部分は(話の厚みに差はあれど)具体的なエピソードを語りやすい。

全く何も無いゼロの状態から感覚的に足を踏み入れるという状況は著しく考えづらいものであり、その多くが何かしらの出来事を発端とした外的要因であるからだ。

色々それっぽい理屈は並べたものの、これはあくまで僕個人の体験から来る話でしかない。僕自身、リバプールFC以外に好きなものが多々あるけれど、例えば中日ドラゴンズにしても音楽フェス・バンドにしても、サウナにしても横浜FCにしても、そしてもちろんリバプールFCにしても…。どれもこれも深入りして好きになった理由に大したものはない。ただ、キッカケは全て外的要因。

中日は祖母が応援していた球団だからというキッカケだし、音楽フェス・バンドは中学生の頃、周りに便乗してUVERworldを聴くようになったからというキッカケだし。サウナと横浜FCに関してはどちらも同じ友人からの薦めがキッカケ。

そしてリバプールFC。自分が住んでいる国から遥か遠くにあるイギリスのサッカークラブを追うようになったキッカケはというと、サディオ・マネ。

画像出典:リバプール公式Twitter

話は4年前に遡る。

当時、僕は大学生。買ったばかりのPS4にテンションを上げ、先述のサウナと横浜FCを薦めてきた友人と共に「何か対戦できるゲームを適当に買おう」となり、幾つか中古のゲームをまとめ買いした中に混じっていたウイニングイレブン2017に現を抜かしていた。

色々なゲームを経てからウイイレにどハマりし、時間があるたびに対戦して遊びまくっていた。ついでに単位も落とした(ちなみに僕は最終的に大学を卒業できた。友人はカスなので中退した)。

その成り行きから「体育や遊びでやるの楽しー!でも未経験者だからオフサイドすら知らねー!」くらいのレベルだったサッカーを“観る”という行為にもいつしか興味が向き、運良くその年はW杯イヤーだったということもあって友人と日本代表を応援し続けた(友人はカスなのでちゃんとオフサイドを知っていた)。

大スターのハメス・ロドリゲス擁するコロンビアに大波乱の勝利をあげた日本代表。夜中、ふと見かけたスペインvsポルトガルの試合で大暴れしていたクリスティアーノ・ロナウド。僕にサッカーへの興味を持たせるには十分すぎる材料が揃っている大会だった。

そして僕は「せっかく日本代表の試合を見るのだからある程度予習してから楽しみたい!」という気持ちになり、対戦国の情報を調べた。サディオ・マネはそこで初めて存在を知った。

僕自身が無知すぎる故にセネガルという国についてはよく知らなかった。ただ、無知であることを差し引いて考えてみても正直日常生活の中でなかなか出てくるような国名ではないと思う。

ある程度サッカーを好きになった今となってみれば、マネ以外にも十分な実力を持ったクラスの選手がたくさん揃っている国という印象ではある。ただ、当時は本当にそんな印象も無いため、セネガル代表について書かれた記事を読んでいると「マネという選手はリバプールというチームで活躍している実力者で、あまり有名ではないセネガルを率いる英雄のような存在」という捉え方をするようになった(リバプールというチーム名はなんか聞いたことがある程度の認識だった)。

世界的に見ても決して大きい国ではないところから唐突に現れた大スター…。そんなマネに対して僕はいつしか強い興味を抱き、ロマン溢れる存在感にワクワクしていた。

試合中、マネに対して圧倒的な衝撃を受けた記憶は正直無い。そもそもセネガル自体が全体的に身体能力の高さを感じさせる国であり、(アフリカとアジアの人間のフィジカル差だから当たり前なのかもしれないが)マネ単体というよりもチームそのものに恐怖を抱いていた。

ただ川島のとんでもないパンチング&マネのゴールは今でも鮮明に覚えている。

ひたすら僕の中にあったのはマネという男への尊敬と憧れに近いワクワク感。W杯が終わった後もサッカーへの熱は絶えなかった。むしろ先述のロナウドの試合を見て鳥肌が止まらなかった経験をしたこともあり、海外サッカーを見てみようと思い至った。

そのときやはり頭に浮かぶのはマネの存在。母国を率いる偉大な男がどれほどの人間なのか目にしてみたい。そんな気持ちがリバプールの沼へと足を踏み入れるキッカケとなった。

時は流れて2022年。

僕は新参者ながらリバプールの沼にすっかりハマっていた。DAZNにも加入したし、リバプール関係の雑誌も幾つか買って読んだ。あれから更に深く掘っていき、ジョーダン・ヘンダーソンが好きになったので彼のユニホームを買った。

リバプールがキッカケで何人かの人とも仲良くなれたし、LFCラボで記事を寄稿するという経験もさせてもらえた。アンフィールドの奇跡を起こした試合では思わず叫んだし、眠い目を擦ってクラブのCL優勝を見届けた。クラブ初の日本人選手加入のニュースには心を躍らせ、早朝にマンチェスター・ユナイテッドを殴りまくるクラブを見て良い気持ちになりながらビールを飲み、その日の仕事に支障をきたしたりもした。

この数年間のリバプールに関する思い出は幾つかあるが、それら全てはマネが入口を作り上げてくれたからこそのもの。

そんなマネが先日、リバプールに別れを告げた。移籍先はドイツで絶対王者として君臨する名門バイエルン・ミュンヘン。

正直、悲しくはあるものの移籍を受け入れられないとかいうレベルでショックを受けているかと言われればそこまでの領域ではない。僕以上にマネのことを好きな人はたくさんいるだろうし、その人たちの感じている悲しみに比べれば僕の感情なんてちっぽけなものだろう。

ただ、こんなにも見ていて飽きない素晴らしいクラブの沼に足を踏み入れるキッカケを作ってくれた存在がもう居なくなるという事実を思うとどこかチクリとした痛みを心に感じる。

セネガルをその小さくも逞しい背中で引っ張るマネという男の存在感に惹かれ、それをキッカケとして多くの魅力的な選手を知ることができた。

マネが居なくなることにより、僕の頭には嫌でも一つの恐怖がよぎる。好きになった頃のリバプールのメンバーがいつしかクラブを去っていき、沼にハマり出した頃の選手たちが全員いなくなってしまうという恐怖。

スティーブン・ジェラードがいた時代にリバプールの沼にハマった人たちはとっくに乗り越えてきているであろう恐怖。新参者の僕はそれにこれから向き合っていかなければならない。

いつかは必ず来る別れに対しての覚悟は少しずつ構築していく必要がある。ひとまず今は一人のファンとして、マネに感謝の言葉を告げたいばかり。キッカケを与えてくれてありがとう、と。

僕が持ち合わせている幾つかの趣味に今後も深入りしていくのか、あるいはいつか離れてしまうのか。それは時が経たないと分からないことではあるが、趣味に足を踏み入れた“キッカケ”は素晴らしい出会いの証でもあるので、何があっても忘れないようにしようと思う。

ミュンヘンの地に去った男の後ろ姿が僕をそんな気持ちにさせてくれた。

画像出典:リバプール公式Twitter

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