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基本プロフィール
- 選手名:ディヴォック・オリギ
- 生年月日:1995年4月18日
- 国籍:ベルギー
- 身長:185cm
- ポジション:CF, LWG
- 背番号:27
- チームキャリア:リール(FRA/12-13~), リバプール(ENG/14-15~), ヴォルフスブルク(GER/lona:17-18)
- 市場価格:20.00 Mill. €
- 契約終了年:2024年6月30日
プレースタイル
ダニエル・スターリッジが去った今のリバプールにおいて、最も純粋なストライカーがこのディヴォック・オリギだろう。リバプールの前線における貴重なオプションであり、そのフィニッシュ・ワークには大いに助けられてきた。そんなオリギを、フィジカル、テクニカル、タクティカル&メンタルといった観点から分析してみる。
Physical
フィジカル的な観点から見ると、目を引くのが爆発的なスプリント能力。アジリティはより身軽なサディオ・マネやモハメド・サラーのレベルにはないものの、純粋なトップスピードという点では彼らに引けを取らない。
ストライドで優っていることに鑑みて、ロングスプリンターとしての才能だけを見れば、彼らよりも上といっても過言ではないだろう。一度スペースへの走り込みや裏抜けをさせれば、圧巻の加速で相手DFを置き去りにすることができる。
ただし、リバプールでは彼の最大の武器ともいえるロングスプリントを上手く発揮できていない。これは戦術的な部分による致し方ない理由と、技術的な限界による宝の持ち腐れともいえる2つの理由がある。
一見、リバプールの戦術と相性が良さげに見える彼のスプリンターとしての才能だが、残念ながら今のリバプールと対戦するチームはそのスピードを封じ込めようと必死である。容易く攻略できる広大なスペースなどほとんどなく、多くの時間を引いて守る相手のゴールをこじ開けようと腐心する。
それでもリバプールが勝ち続けられる理由の一つに、ロベルト・フィルミーノの天才的な発想と、それをピッチの上で実現できる技術、そして狭いスペースでも独力で攻略できるマネとサラーの傑出した個人能力にある。
卓越したアジリティやテクニックといった個人能力で局面を打開できる彼らとは違い、オリギは窮屈なスペースでプレーさせると忽ち存在感を失ってしまう。
もう1つは、技術的なクオリティの限界だ。いかに速く走られても、フットボールである以上はボールと共にあらねばならない。その点、オリギはトップスピードの状況下におけるボールコントロールには改善の余地を大いに残している。
センシビリティの限界によって、彼がトップスピードでドリブルを仕掛けてオープンスペースを強襲する、というシーンはほとんどお目にかかれない。ボールを受け取ったらまずは足元に収め、右足で細かくタッチしながら相手DFと対峙し、次のプレーに移ろうとすることが、最も彼が取ることの多い選択。
マネやサラーは自身がトップスピードの状態であったとしても、身体はぶれず、最高速度を維持したままドリブルすることができる。だが、オリギはそのスプリント能力をドリブルに組み込むことができない。
あまりに残念なことだが、この年齢までプレースタイルが変わらないことを考えれば、これから驚異的な変化はないように思える。
もっとも、彼ほどのスピードを持ちながら、トップスピードでもボールコントロールが乱れないドリブルのできるストライカーがいたら、とっくにリバプール以外のチームでレギュラーを張っているだろうが...。
その他、フィジカルの部分では、優れたジャンプ力を生かしたヘディングの強さが挙げられる。細身だが均整の取れた体格で、リバプールの前線に足りない高さという武器はやはり魅力だ。プレミアの屈強なCBを圧倒するようなパワーこそないが、少なくとも対等に渡り合える程度のパワーは備えている。
また、身体のコーディネーションは十分とはいえないので、ここも改善の余地あり。コーディネーションに磨きがかかれば、自身の持つフィジカルをより発揮できるようになるだろう。
Technical
フィジカルの部分で少し触れたが、テクニカルな観点から見たオリギを、ワールドクラスのアタッカーと比較した場合、明らかに見劣りすることは否めないだろう。
トラップ、ドリブル、パス、シュートと、どれもストライカーとして飛び抜けた技術を誇るわけではない。ただし、裏を返せば技術的に明らかに不足している点がないともいえる。
技術的なクオリティによって巨大な力を生み出せるわけではないが、ボックスの中における冷静なフィニッシュは、潜在的なクオリティの高さを感じさせる。少ないチャンスでもモノにできるというのは大きな武器であり、プレータイムに対する得点効率の良さは2試合につき1得点と、控えの働きとしては十分。
フィニッシュの局面のみに自身の最大値が集約されてしまっているのは残念だが、オリギに求められる役割を考えればそれほど悩むべきことでもないのかもしれない。
Tactical & Mental
オリギは既存のアタッカー陣の中で、最も戦術的な相性がマッチしていない選手かもしれない。しかし、そのようなチームの中に確固たる居場所を築き、自身の持てる能力を発揮できていることに鑑みると、適切な役割を与えさえすればおつりが出るほどの活躍をしてくれる選手でもある。
戦術の枠組みに無理やり収めるのではなく、オリギに対するタスクを減らし、力を発揮できる環境を与える。今さら言うまでもないのだが、そんなオリギを上手く使っているユルゲン・クロップは、やはり優れた監督なのだろう。
中央だけでなく、ワイドでもプレーできるが、どちらが向いているかはサポーターの中でも意見の分かれるところである。前提として、リバプールのCFはゼロトップであり、世界最高峰のWGであるマネとサラーを生かす設計がされている。攻撃時はCF(に入るフィルミーノ)が中盤まで落ちて、両WGが中央に絞り、トップ下+2トップのような形に可変するのだ。
フィルミーノと両WGが最も能力を発揮できるデザインであり、オリギにこのフィルミーノのタスクを任せることはできない。2ライン間で相手のブロックを崩す糸口を探しつつ、ネガティヴ・トランジションの際はプレスのスイッチ役となり、両WGが生きるようにスペースメイキングも行う。あまりにも多く、ここでは書ききれないフィルミーノのタスクをオリギに任せたら、きっとパンクしてしまうだろう。
そのため、フィルミーノと同時にピッチに立たせるのなら左のWGがベストな起用方だと考える。スターティングを決めるとき、スリリング・スリーのうちフィルミーノだけを休ませたいというときは、オリギではなく、よりフィルミーノに近いプレースタイルを持つ南野拓実を起用するべきだろう。もちろん、試合終盤にどうしても1点が欲しいというときは細かい話は置いておいて、全てを懸け、神に祈り、奇跡を信じてオリギ出すべきだが。
リバプールはWGがストライカーとして振舞うので、本質的にはストライカーのオリギにとってもプレーしやすいポジションであると考えられる。しかし、前述の通り、ワイドでの独力の突破という点では物足りなさが残るのが残念なところだ。
また、周囲を生かせるタイプではないので、縦関係を形成することになる左SBのアンディ・ロバートソンを生かすプレーができないのも残念な点。もっとも、この部分は試合を重ねるごとに深まる連携によってある程度の改善は期待できる。
右WGでもプレーできるが、ワイドで起用するなら左一択だろう。オリギのプレーはほぼ全てがゴールまで一直線のプレーであり、意外性はゼロに近い。カットインして利き足でフィニッシュのしやすい左ワイドの方がオリギのプレースタイルとは相性がいいだろう。そう考えると、逆足でも強烈なシュートを放つことができ、パフォーマンスのレベルが落ちないマネの凄まじさを改めて実感させられる。
このように、オリギは複数のタスクを同時にこなせるような器用な選手ではない。それでも、あれもこれもできます!というスペシャルなスリリング・スリーとは違う+αをチームにもたらせる選手である。
控えという立場を受け入れ、辛抱強く出場機会を待ちながら、得たチャンスで決定的な仕事をする。重要度の高い舞台でゴールを決めきる力を持っているのは、彼に優れたパーソナリティとメンタリティが備わっているからこそ。
総評
現在のリバプールにおいて、オリギのクオリティではスターティングとして常時試合に出場するのは難しい。それでも、スリリング・スリーをバックアップする選手としてオリギ以上に相応しい選手もそういないだろう。
オリギは自身の能力を正しく発揮し、極めて意識的な努力によって、リバプールの躍進を支えてくれている。ただのラッキーボーイでは語れない、素晴らしい選手だ。
エピソード・小ネタ
・デイリー・ミラーによれば、ヘンクのアカデミーに所属していたときに、マンチェスター・ユナイテッドへ移籍する可能性があったという。自身の成長のためにそれを断り、リールへ移籍したとのことだが、英断と言わざるを得ないだろう。
・2014年のブラジルW杯におけるオリギの活躍を受けて、ブルージュにあるボウデビン水族館に生まれたイルカの赤ちゃんが「オリギ」と名付けられたことが話題になった。しかし、このイルカは生まれて数日後に息を引き取っている。
・リバプールに移籍する際、リバプールについて色々と教えてくれたのが同胞のシモン・ミニョレだったそう。ミニョレはリバプールについて良いことしか話さなかったそうだ。
・マージーサイド・ダービーで負った怪我と戦っていたオリギに対し、クロップがかけた言葉は有名である。「1日で世界を変える必要はない。この時間は、君が成長するためにあるんだ」。とても良い言葉だろう。クロップのこのような心遣いや言葉の一つひとつが、今のリバプールを作り上げているのだろう。
・2016年2月14日、バレンタイン・デーに行われたアストン・ヴィラ戦でゴールを決めたオリギ。セレブレーションで、アウェーまで駆けつけてくれたKOPの近くにいくと、なんとその内の1人から熱烈なキスをされてしまった。オリギ曰く「バレンタインだったからちょっと感情が高まったのかもね。でも、嬉しかったよ」。
・2018年の夏に行われたリバプール・エコーのアンケートで、オリギは約70%ものサポーターが売却すべきと答えていた。18-19におけるオリギの尋常でない奇跡の連発を考えれば笑ってしまうような集計結果だが、実際にこの時期におけるオリギの評価はこれが妥当だった。見事その評価を覆し、クラブに6度目のビッグイヤーをもたらしたオリギの努力は、やはり美しいものがある。
・18-19UCL決勝において、試合の途中で投入され、見事に優勝を手繰り寄せるゴールを決めたオリギ。彼のゴールによって、サポーターは優勝を確信しただろう。しかし、解説を担当していた元イタリア代表のアンドレア・ピルロはオリギのプレーに納得いっていなかったようで、「本当に酷かった。ゴールを決めていなかったらどうなっていたか。この場に相応しい態度ではなかったし、自分は嫌いだ。」と、一刀両断。畏れ多いかもしれないが、オリギはかつてのフィリッポ・インザーギのようになればいいと筆者は思っている。ゴールさえ決めれば細かいことはいいのである。
・ヴォルフスブルクにローンで移籍していた期間も含めると、なんとオリギは1000日以上もの間、プレミアリーグでの敗北を知らない。オリギがスカッドに入った試合で最後に負けたのは、2017年4月23日のクリスタルパレス戦であり、この試合でオリギはフル出場している。18-19で唯一敗北を喫したマンチェスター・シティ戦で、オリギはスカッドにも入っていなかったので、この試合が、彼が関わって最後に負けた試合である。リバプールにおけるお守りのような存在なのかもしれない。
・19-20のUCLグループ・ステージでヘンクと対戦した際、「ヘンクはワールドクラスの選手を輩出しています。ケヴィン・デ・ブライネやカリドゥ・クリバリ...」と記者が言ったところで、すかさず「ディヴォック・オリギを忘れないでね。このクラブのレジェンドだよ」と返している。
・ジェームズ・ミルナーの自伝によれば、オリギは非常にゆったりとしたマイペースな人物だという。ミーティングの際は、遅刻こそ必ずしないものの、開始ギリギリの30秒以内に来たり、飛行機やバスに忘れ物があった場合、それは大抵オリギのものだったりするらしい。少し意外な一面だろう。正反対なミルナーとオリギの性格だが、オリギと出会っていなければ自身の人生はずっとつまらないものになっていたと思う、としている。
・プライベートでのオリギは、とても知的でインテリジェンスらしい。4ヶ国語を話し、心理学に強い興味・関心があるという。人間の脳や人格について学んでいるようで、引退したら学者になるかもしれない。もしかすると、数十年後、リバプールでスポーツ心理学者として働いてくれる、なんて想像をするのも楽しいだろう。
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