さよならのかわりに -ディヴォック・オリギの旅立ちに寄せて-

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こいぱに

こいぱに

ウリエ期終わり頃からのリバプールファンです。缶ビールとアンフィールド。

1番好きなサッカー選手は誰ですか?

唐突ですが、あなたの1番好きな現役選手は誰でしょうか。

選手個人を応援している方は即答できると思いますが、そうではないクラブサポーターや贔屓のチームを持たない方にとっては、簡単には決められないかもしれません。

その気持ちは非常によく分かります。
そもそも、決める必要もありません。

それでも捻り出すなら、ラボをご覧になっている方ならばOBを含めたリバプールの選手が多いのではないかと思います。

ひとことに「好き」と言っても、簡単ではないと思います。優秀なプレイヤーであることを理解していても興味の湧かない選手は人それぞれにいるものです。

誰もが単純に上手い選手、凄い選手を好きになるのであれば、世界人類にモハメド・サラー以外の選択肢はありません。

前置きが長くなりましたが、この記事では個人的に最も好きな選手とその魅力ついて、書いてみたいと思います。

2022年5月23日。
21-22シーズンの最終節となったウルブスとの試合はリバプールの逆転勝利で幕を閉じました。

ホームでのラストマッチ終了後、アンフィールドでは、ピッチに選手やスタッフの家族・OBらが集まり、シーズンを戦いきった事を労う恒例行事が催されます。
今年はその中で、クラブを去るレジェンドの功績を称えるためのセレモニーが行われました。

レジェンドの名前はディヴォック・オコス・オリギ
近年のリバプールを応援している人にとって、様々な意味で印象的な選手の1人ではないでしょうか。

彼についての話が過去のものとなってしまうのはとても寂しいですが、少しの間だけ、大好きな選手との別れが決まったファンの思い出話にお付き合い頂けると幸いです。

少なくともここ数シーズン、彼がリバプールにとって絶対的な主力ではない事は明らかです。
アタッカーのポジションである事を考慮すれば、レギュラー陣と比べゴール数も決して多くありません。

それでも多くのリバプールファンにとって、オリギは愛さずにはいられない選手であるはずです。
例外になく私にとっても、本当に愛着のある選手であり、今では1番好きな現役選手でもあります。

その理由は感覚的なものも大きいのですが、できるだけ言葉にしてみたいと思います。

ブラジルW杯

画像出典:LFC公式twitter

私が彼を知ったのはリバプールに加入する少し前、2014年のブラジルW杯の事です。
この時ベルギー代表を率いていたのは、日本のサッカーファンには馴染みの深い人物でした。
2002年日韓W杯のグループリーグで日本相手にバイシクルシュートを叩き込んだ、マルク・ヴィルモッツです。

当時、フランスはリール所属の19歳、ディヴォック・オリギは、このブラジルW杯で全試合に出場しました。

代表メンバーの前線にはロメル・ルカクをはじめ大変豪華な面々が揃っているにも関わらず、本大会でオリギは重宝されます。
そもそも最終メンバーに10代で選出されること自体、昨今では珍しくない事とはいえ、やっぱりとても凄いことだと思います。

迎えた本大会で、グループリーグは途中出場のみに留まりますが、2戦目のロシア戦で大きなインパクトを残します。

互いにチャンスを作りながら決めきれない均衡した状況で、エースのルカクに代わり投入されたオリギは、決勝ゴールを叩き込みます。

左サイドを突破したアザールの折り返しにマイナスの位置で合わせ、豪快に叩き込んだシュート。
名手アキンフェエフが反応したものの間に合わず、そのままネットを揺らしゴール。
決勝トーナメント進出を決定付けたシンデレラボーイとして、強烈な印象を残しました。
またこのゴールがオリギにとっての代表初ゴールでした。

2戦目にして決勝トーナメント行きを決めた事で、ベルギーは3戦目の韓国戦で主力を休ませることにも成功します。

決勝トーナメント初戦アメリカ戦は、他選手のコンディションの影響はあったとはいえ、グループリーグでのオリギのプレイを評価したヴィルモッツはスタメンに抜擢します。

この試合は逆に途中出場したルカクが延長戦で決勝点をあげますが、続く準々決勝のアルゼンチン戦もスタメン起用はオリギでした。
結局、このアルゼンチンに敗れてベルギーはベスト8で大会を去り、オリギ自身もロシア戦の1得点に留まりました。

しかし、何の気なしにベルギーの試合を観ていた私はオリギのスケール感溢れるプレーにすっかり魅了されていました。

熱心なフットボールファンの方や若手に詳しい方は、スター揃いの代表に十代にして選出された彼に注目をしていたかもしれませんが、前情報のない私にとって、オリギの印象は鮮烈でした。

ポストプレイ、ドリブル、シュート、スピード、フィジカル、身体能力。
それら全てが粗削りながら、いつか大化けしそうな雰囲気、たたずまい。
飄々とした表情もまた美しく、その全てが魅力的に感じました。

リバプール入団

画像出典:LFC公式twitter

それから少しして、幸運にも彼がリバプールへやって来る事が決まりました。

若手の育成に長けたブレンダン・ロジャーズの元でどれだけ伸びていくのか、どんな選手になっていくのか、沢山のリバプールファンが将来有望な若手フォワードに大いに期待したと思います。

彼が加入してからのリバプールは、まさに激動でした。
クロップの監督就任、それに伴う戦術の変化。所属選手は少しずつ入れ替わり、様々なコンペティションでタイトルを獲得。
文字通り大躍進の数年間を、オリギと「共に」歩みました。

そして、現在。

入団当時、10代のオリギは27歳。
気付けば彼がリバプールの選手となってから、8年の歳月が経っていました。

語弊があることを承知で言いますが、今現在も彼は、何も変わっていません

他選手と同様、日々ハードなトレーニングに励み様々な面で心身とも成長しているであろうことは勿論分かっています。

しかし、私のような主にメディアの情報やテレビモニター越しに試合を見ている英国外のファンにとって、練習中のことや日常的な場面については、なかなか多くを知ることはできません。
少なくとも試合を見る限り、端的なプレーに変化は感じたとしても、本質的には何も変わっていないように見えます。見え続けています。

某バスケットボール漫画で安〇先生がアメリカに渡った教え子のビデオを見て「まるで 成長していない・・・」と呟いた気持ちを、いつでもフレッシュに感じさせてくれます。

本職と言えるセンターフォワードで出場するとサイドに流れ、起点になってくれない。
逆に最初からウイングに配置すると、今度は「ここが主戦場」と言わんばかりに積極的に中央に入ってきて中央の選手とポジションが被っている。
ある日は、執拗なまでにサイドへ張り付き斬新なタイミングでクロスを上げ続ける。(案外、効果的だったりする)
今日は守備への意識が凄い!と関心していると、翌週には全く追わなくなっている。

監督の指示にせよ、誰かのアドバイスにせよ、どう見てもムラがある。質にばらつきがある。一貫性が、ない。

だけど時々、驚くような印象的なプレーをする。
歓喜に導く奇跡的なゴールを決める。

これらは「スケール感」、「伸びしろ」のように感じていた部分にも繋がるかもしれません。

オリギの魅力

画像出典:LFC公式twitter

恥ずかしながら、私は数年経ってから気付きました。

初めて彼を見た頃に感じていた粗削りながら可能性を感じるプレーは、若さのせいではない。断定は難しいですが、どうやらオリギという選手は単純に「そういう選手」である気がするのです。
気分屋とも天才肌とも言えるかもしれない、ナチュラルボーンのアーティスト。

凄い時は、彼のプレーがピッチ上の21人に混乱を巻き起こしているようにさえ見える。時には双方の監督さえも。

怪我人さえいなければ磐石と言える現リバプールのスカッドを考えると、計算できない選手をスタートから使う必要はありません。
正直に言って、劇的な変化でも無ければオリギがレギュラーとなる事は残念ながら無かったでしょう。

しかし皆様ご存知の通り、彼は限られた出場機会でアーノルドのクロスにピッタリと合わせて印象的なゴールを決め、十八番である左サイドからのカットインシュートで鮮烈なゴールを決めてくれました。
しかも、その多くを非常に重要な局面で。

何より驚くべきことは、私の見たワールドカップから、そうしたヒーロー性についても一切変わっていないことです。

「大舞台に強い」だけではしっくり来ないし、「持ってる」では少し抽象的すぎるかもしれません。
ただ、少なくともこの20年で1番といえる陣容が揃うリバプールにとって、唯一と言っていい不確定要素。
磐石のメンバーが全力で挑んでも越えられない壁を、打ち破るための唯一の切り札。「じゅもん」で言うなら”パルプンテ”。

オリギ自身にとって本意ではないでしょうが、そんな彼に私は惹かれ、いつしか虜になっていました。
こんなに見ていて面白い選手はなかなかいない。怪我がちな面も手伝い出場機会は限られていましたが、それでも1番と言えるほどにオリギというプレイヤーが大好きでした。

ここまで強く彼に惹かれたのは、もしかすると彼のプレイ、彼が生み出したドラマが「不安定なのに魅力的」な頃のリバプールの香りを、どこか思い出させてくれたからかもしれません。

いずれにしても、言語化が難しく理屈ではない力を備えた選手。
それが、私の思うディヴォック・オコス・オリギです。

その魅力はある種カルト的な人気を世界中で集め、”FOOTBALL WITHOUT ORIGI IS NOTHING” という言葉まで誕生しました。

彼はこの言葉の通り、フットボールの喜怒哀楽を全て与えてくれる、唯一無二の不変性を持ったロマンティックな選手なのです。

真のワンダー・ボーイ

画像出典:FIFA公式twitter

そんなオリギですが、複数カ国の言葉を操ることができ、フットボール選手になる前には脳科学を勉強しており、学力の高い選手であることも知られています。

統計のない偏見ですが、語学堪能であったり頭脳明晰な選手は多くいますが、そういった選手に限って以外にもインテリジェンスのないプレーで批判されることが多い気がします。(念の為断っておきますが、ロシアへ旅立った世界最高のセンターバックの事を言っている訳ではありません)

もしかすると、その前情報が邪魔をしたり、反面として目立ってしまうのかもしれません。
ただ、頭がキレるからこそ自身の長所短所を見極め、厳しいフットボールの世界で生き残ってきているのかな、と勝手ながらに解釈しています。

しかしオリギについては、どうもそれとも違うような気がするのです。
確かに彼はリバプールという環境である意味で自身の持ち味を出し、結果に結びつけ、愛される選手になりました。

しかし、そのプレーはどこか本能的かつ感覚的な部分を感じます。
それが魅力のひとつであることは確かですが、オリギというプレイヤーは数年見てきた今でも、謎に満ちているのです。

一昔前、「ワンダーボーイ」と呼ばれた馬主がいましたが、オリギこそ”ワンダーボーイ”と呼ばれて然るべきあると私は思います。

オリギのファッション

Instagramをご覧の方はお気付きかと思いますが、オリギはとてもお洒落です。
センスが良く、自分の見せ方を知っています。

スター選手にありがちなハイブランドを必要以上に誇張し執拗に纏うわけでもなく、スペイン方面のサイドバックに多く見られる、突飛な服装をしている訳でもありません。

それでも、わび・さびがありバランスのよい綺麗な着こなしをしていて、個人的にオリギのファッションは「めちゃめちゃイケてる」と思います。
自分の見せ方を知っているということは、客観的に自分を見ることができているからだと思うのですが、ピッチ上でそれが出来ているようには申し訳ないけれど見えない。これも謎です。

ファッションは好みもあるので人それぞれ印象が異なるとは思いますが、個人的にそんなところはフィルミーノと反対だなと思ったりしています。

これからのオリギ

画像出典:LFC公式twitter

冒頭で書いた通り、移籍先こそ公式なアナウンスはないものの、残念ながらオリギとのお別れは間違いない状況にあります。
もちろん、可能であればリバプールで輝く彼の勇姿を今後も見ていたかったですが、本人のキャリアを考えても移籍はやむを得ないと言えます。

あまりに有名なチャンピオンズリーグのゴールをはじめ、マージーサイドダービーの決勝弾など、オリギがもたらした名場面の数々は、彼がKOPとスタンドで交わした口付けのように激しく、甘く、濃厚に、私達の記憶に残り続けるでしょう。

ピッチでの活躍だけでなく、近年ではリバプール大学にオリギ独自の奨学金制度を設置するなど、彼の人柄も魅力のひとつとなっており、偉大な人物像が窺えます。何よりリバプールという街に愛情を持っている事が伝わってくるエピソードです。

冒頭でお伝えしたセレモニーの様子を見れば明らかですが、いつかのクロップの言葉を借りずとも彼ははっきりと「レジェンド」として、このクラブを去ります。

それも、どんな一流選手でも到底なし得ないような、独創的な道を辿ってレジェンドとなったことが、彼をとても良く表している気がします。

とはいえオリギはまだ27歳です。以外な気もしますが、実はここからがフットボール選手のピークとも言われる年頃になります。
この先、どんなユニフォームを着ていてもきっと変わらない彼のままで、フットボールファンを魅了していってくれる事と思います。

オリギのいちファンである私自身、まだまだ続く彼のストーリーに存分に期待するとともに、リバプールにおける彼の功績の数々に、改めて最大限の敬意と賛辞を贈りたいと思います。

あなたと一緒にここまでの旅を続けられた事、共に夢のような時を過ごせた事に心より感謝します。
この先も、たくさんの良い瞬間があなたを待っている事を祈っています。
本当にありがとう。
You’ll never walk Alone.

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