リバプールの窮地を救ったシンデレラボーイ、クイヴィン・ケラハーのファインセーブを振り返る

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藤井圭

小学生の頃にフェルナンド・トーレスの影響でリバプールサポーターになった20代男。他メディアにて学生サッカーの記事を寄稿中。

正守護神の負傷で巡ってきたチャンス

　その瞬間は突然やってきた。アリソンの負傷で離脱が決定。代役としてゴールマウスを守ったのはアドリアンではなくケラハーだった。試合前日に先発を言い渡された若き守護神だったが、いつか来るチャンスのため準備を怠らなかった。そして世界中が注目する大舞台で、そのチャンスが巡ってきた。

　ケラハーはUEFAチャンピオンズリーグのグループステージ第5節のアヤックス戦でスタメンに名を連ねる。勝てばグループステージ突破が懸かる一戦。大きなプレッシャーを背にオランダ王者へ立ちはだかる。その活躍ぶりは全リバプールファン、そしてユルゲン・クロップ監督の期待を大きく上回った。

　22分にはダフィ・クラーセンのヘディングをセーブ。結果的に判定はオフサイドとなったものの良い反応を見せると、31分のノゼア・マズラウィの枠をとらえたミドルシュートは右手で弾いて得点を許さない。56分にも左サイドを突破されて好機を作られるもケラハーのビッグセーブで凌ぐと、87分にはヤン・フンテラールの強烈なヘディングも両手で弾き、カーティス・ジョーンズが決めた1得点を最後まで守り切り1ー0で勝利。決勝トーナメント進出へ大きく貢献した。

　試合後クロップ監督はケラハーの下へ駆け寄り抱擁を交わした。若き守護神の活躍がクロップ監督にとってどれだけ嬉しかったことかはこの時の表情を見ればよく分かる。それほどクロップ監督は大きな期待を込めてケラハーを起用し、ケラハー本人にも自信となる一戦となった。

聖地に戻ったファンの前で

連戦が続くリバプールはアヤックス戦が行われた週末にはプレミアリーグ第11節が控えていた。この試合もメンバーリストの一番最初には62番の名前が入る。ミッドウィークにオランダ王者を完封した活躍は、ファンの不安視など全く感じさせないほどセンセーショナルだった。そしてウォルバーハンプトンとの一戦では9ヶ月ぶりにアンフィールドに戻ってきたファンの心をつかむ活躍を見せた。

　リバプールのピンチは16分、ダニエル・ポデンセがケラハーの位置を見てループシュートを放つ。ケラハーは下がりながら目一杯手を伸ばすとボールを指先で弾いて事なきを得る。

32分にペドロ・ネトに右サイドを突破されるものの、クロスボールはキャッチして簡単に処理。4ー0と大きく差が開いた79分にはアダマ・トラオレのクロスを逆サイドで受けたアイート・ノウリがシュートを放つも、ケラハーが落ち着いた対応を見せてシャットアウト。2試合連続の無失点で勝利し、アンフィールドに駆けつけたファンの前で存分に自らのポテンシャルを発揮した。

狙う先は正守護神

元々はビルドアップの上手さに定評があったケラハー。2試合を通しても安定感のあるボールさばきと精度の高いキックでポゼッション時にも積極的に顔を出していた。それに加えて188cmという長身を活かしながら、しなやかな動きでシュートをストップする。シーズン開幕前に出場機会があるとは本人も考えていなかったかもしれない。しかし、それでも怠らなかった本人の準備と指揮官の信じる力が、けが人続出中であるリバプールの窮地を救うシンデレラボーイを生み出した。この経験を活かして次に狙うのは正守護神の座。アドリアンとのサブ争いを勝ち抜いた先に待っているのは昨季のヤシン・トロフィーを獲得した世界最高のGKアリソン・ベッカーだ。センセーショナルな活躍と珍事も含めてリバプールファンに名前と強烈な印象を残したケラハー。2nd、そして正守護神へ。見据える壁は高いが、ここまでの活躍を見せられると超えてしまうのではないかという期待値も高まっている。