【名門クラブが向かう未来】 ユベントスのロゴ変更とリバプールFCのブランド戦略

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タクヤKOP
ビートルズからリバプールFCのサポーターになった珍しいKOPです。戦術的なことはあまり得意でないので、クラブやリバプールという街を色んな角度から掘り下げていきたいと思います。

サッカークラブにおけるエンブレムは、そのクラブが根ざした地域や歩んできた歴史を物語るものです。そこにはクラブのアイデンティティが詰まっており、文字通りクラブの象徴としての役割を果たします。

今回は、そんなサッカークラブのエンブレムにおける最先端事例を、2つの名門クラブを例に紹介していきます。

※本記事は下記の「サッカー界へ広がるデザイントレンド」を理解しておくとより楽しめます。

【なぜライオンの体は消えたのか】プレミアリーグのロゴ変更とサッカー界へ広がるデザイントレンド

2017.05.04

※サッカークラブのシンボルについて、LFC公式では「クレスト(Crest)」と呼んでいますが、この記事内ではより一般的な「エンブレム」で統一しています。また、紋章的でないより簡素なマークを「ロゴ」と呼んでいます。

 

衝撃を与えたユベントスの”ロゴ”変更

2017年1月、イタリアの名門クラブであるユベントスが新たな「ロゴ」を発表しました。

ユベントスの新ロゴ

 

Juventusの「J」を全面に押し出したこのロゴは、世界へ衝撃を与えました。一時期を除いてほぼ同じ形で構成されていた伝統の「エンブレム」から、全く別物となる「ロゴ」へと変わったのです。

ユベントスのエンブレムの歴史

ユベントスのエンブレムの歴史(画像出典:Juventus Logo, Juventus Symbol Meaning, History and Evolution)

 

変更されたデザインだけ見ると、これは世界のデザイントレンドにおける「ミニマル化(シンプル化)」の流れを汲んだデザインとなっています。ミニマルデザインの記念碑的なロゴです。プレミアリーグ同様に、露出機会の多様化、あらゆるデバイスでの見え方を意識したデザイン変更であることは間違いありません。

ユベントスの新ロゴの構成要素

ユベントスの新ロゴの構成要素(画像出典:We love the new Juventus logo and here’s why it’s so important – Goal.com)

 

ただし、プレミアリーグが「放送」を意識していたのに対し、ユベントスが意識したのは「マーケティング」です。

 

マーケティング活動のスタートは「ロゴ」

今回のユベントスのロゴ変更が、世界的なマーケティングを意識したブランディングの再構築であることは既に多く語られていることです。

※このブランディング戦略を担当したインターブランド社も日本法人がリリースを出しているとおりです。

何しろクラブのマーケティング活動というのは、サッカークラブにとっての3つの収入の柱の一つである「コマーシャル収入(スポンサー収入やグッズ収入)」の要になる部分です。残り2つの「マッチデー収入(チケット代等)」「放映権収入」に比べると自分たち次第でコントロールしやすく、ここを強化することはクラブの中長期的な発展にとって大きな意味合いを持ちます。

恐らくユベントスが最終的に狙っているのは、世界的な大企業との巨額のスポンサー契約を増やしていくことでしょう。クラブの収益に直接大きなインパクトを与えます。ただし、そのためにはやることがありました。

まずは足場を固めるブランディングが必要であり、その第一歩となるのがこのロゴ変更です。このニュートラルなロゴは今までフットボールに興味を持っていなかった層を呼び込むことが期待されています。また、そのシンプルな意匠はこれまでのエンブレムでは実現できなかったデザイン性の高いグッズ展開も可能にします。

そこで新たなファン層を獲得し、ユベントスが「フットボールクラブ」の枠を超えた存在としてブランド価値を向上させれば、自ずとスポンサー獲得も有利に交渉が進むことでしょう。

全ては計算されており、その全てのスタート地点にいるのがクラブのアイデンティティを象徴するロゴなのです。ユベントスは、まずそこに手を付けました。伝統のエンブレムを捨ててまで、です。

 

ユベントスの「ロゴ変更」の必然

サッカークラブにとって、ブランディングを強化しコマーシャル収入を増加させたいのはどのクラブも同じです。特にUEFAが制定するファイナンシャル・フェアプレー(FFP)を見据えても、更なるクラブ強化のために商業的な収益を上げることは重要になってきます。

ではなぜ、この改革を行ったのがユベントスだったのでしょうか。彼らはなぜ伝統のエンブレムを捨て、ロゴ変更を行ってまでマーケティングの強化に乗り出したのでしょうか。

そこにはいくつかの必然が存在します。

 

セリエAの衰退

ここで詳しく語るまでもなく、近年のセリエAは90年代の全盛期に比べて明らかに衰退しているといえるでしょう。特に経営面では顕著です。リーグのロゴマークを見ても明らかに他国リーグのものと比べてブランディングの面で取り残されており、この辺りからも国際競争力の低下が伺えます。

2015年にはセリエAの名門「パルマFC」の経営破綻も大きなニュースになりましたが、サッカー界に限らないイタリアの経済状況そのものの悪化を物語っています。

その中にいて、ユベントスは11-12シーズンから5シーズン連続でスクデットを獲得、16-17シーズンも独走状態です(記事執筆時)。低迷するセリエAの中ではチャンピオンズリーグの成績などを含めてもイタリア勢では圧倒的な成功を収めています。

 

伸びしろのあるコマーシャル収益

そのユベントスですが、商業面はどうでしょうか。2017年1月に発表になった世界のサッカークラブの収入ランキングを表すデロイト・フットボール・マネー・リーグ(2017)では世界第10位。イタリア勢ではもちろんトップで、この後に続くのが15位ASローマ、16位ACミラン、19位インテルとなっています。

欧州4大リーグの1つであるセリエAを5連覇、ヨーロッパの舞台でも悪くない成績を上げているクラブとしては10位は物足りない順位です。そして着目すべきは、全体収入に占めるコマーシャル収入の割合で、ユベントスは30%(€101.7m)となっています。

これが1位のマンチェスター・ユナイテッドはコマーシャル収入が53%(€363.6m)、2位のバルセロナは48%(€296.1m)、3位のレアル・マドリードは42%(€263.4m)、4位バイエルン・ミュンヘンは58%(€342.6m)と、ランキング上位と特に大きく差が付くのはここです。また、同じイタリア勢でもACミランは47%(€100.8m)、額にしてもほぼ同じとなっています。

つまり、ユベントスは成績の割にコマーシャル収益を上げられていない、逆にいうとまだまだ伸びしろがある状態であるといえます。

前述の通り、コマーシャル収入は自分たちの努力で上げることが可能です。セリエAやイタリア国内には期待できない以上、自力で世界へ大きく打って出る必要があり、危機感と野心が入り混じった中でユベントスのロゴ変更は行われました。彼らがこういった大胆な転換を行わなければならなかったのは、必然の流れに思います。

 

ユベントスが目指す姿

ユベントスのブランディング再構築の世界観は、下に発表されているイメージのとおりです。これで新たな市場を開拓していくことになります。

ユベントスの新世界観

ユベントスの新たな世界観(画像出典:Brand New: New Logo and Identity for Juventus by Interbrand)

 

ブランディングの再構築を行った彼らが真っ先に強化するのはグッズ展開でしょう。そして、そこで目指している姿として引き合いに出される例が、アメリカメジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースです。

ニューヨーク・ヤンキースのロゴ

 

彼らの「NY」というこのマーク。ヤンキースファン以外もこのロゴに親しみを持ち、ファッションアイコンとして認知されています。日本においても、このロゴが入ったキャップやリュックを明らかに野球ファンではない女子高生が持っていたりしますが、こういった姿がユベントスの目指してるところなのではないでしょうか。

そうなるためには、やはり以前のエンブレムでは主張しすぎてしまいます。フットボールファン以外の間でも日常的に溶け込むブランドとして市民権を得るには、今回のミニマルなロゴへの変更が必要だというのは納得できます。

ユベントスは、伝統のエンブレムを捨て、ミニマルなロゴへクラブのアイデンティティをシフトし、未来へ向けた第一歩を踏み出しています。これは大きなチャレンジであり、どのような結果がもたらされるのか、世界中が注目をしています。

さて、それではサッカークラブが未来に向け発展していくためには、今回のユベントスのような「エンブレム⇒ロゴ」への変化が必須なのでしょうか。

イングランドには、うまくエンブレムとロゴを使い分け、伝統を活かしながらも商業的にも成功を収めているクラブがあります。

リバプールFCです。

6 件のコメント

  • フットボリスタ#042(シャビアロンソが表紙)を見ていたらp.110「CALCIOおもてうら」にも、この「エンブレムのロゴ化」に関する記事がありました。
    こちらの記事は「デザイン」そのものよりも、「言葉の意味」特に『「J」という文字がイタリアでどれほど特殊か」という面からの解説が多めでした。
    記事曰く、「J」という文字がイタリア語では滅多に使われず、とても珍しい字らしいです。なので「JAPAN」などで「J」を見慣れている我々日本人などよりも、イタリア人にとっては、インパクトが強いロゴということになるのかもしれません。
    ただ世界的にはよく使われる文字だと思うので、その意味ではどうなんだろう?とは思いましたが・・・。

    「JUVENTUS」ってイタリア語ではなく、ラテン語(「若さ」「若者達」という意)なんですねぇ(‘Д’)

    • えばとさん、情報ありがとうございます!
      dマガジンのバックナンバーで読もうと思ったのですが、カットされてました…。。
      確かにイタリアでは「J」が特殊でも英語圏ではよく見るので、世界展開を考えるとその意味では疑問が残りますね…。
      まあ結局ユベントスがCL連覇とかものすごい強さを見せれば、一気にこのロゴの評価も変わってきそうですよね^_^;
      ということで今年のCL決勝はユベントスを応援します笑。

      • スペイン語圏でも「J」は珍しい文字ではないので、「世界戦略的」な観点からは「J」という「文字」のロゴ化という選択はビミョーかもしれないですね。
        ただ他にユベントスJUVENTUSを1~2文字、もしくは簡易なロゴに現すものも思いつかないので、「良い落としどころ」なのかなとは思います。
        CL決勝でユーべが勝ったら、速攻で大々的にロゴのPRが始まりそうですね(笑)。

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