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2020年1月1日。南野拓実は移籍金8.5m€でリバプールにやって来た。当時CLを制し、念願のプレミアリーグのトロフィーに向けて独走していた世界最強とも言えるクラブへの移籍は、KOPのみならず日本のサッカーファン全体に大きな夢を抱かせた。
しかし、南野にとってリバプールでの歩みは苦難の連続だった。恵まれない出場機会、明確なクオリティの差、時に容赦ない批判にさらされ、思ったような成果を挙げられない時期が続いた。今回は時系列で彼の今までの歩みを振り返り、それを材料に彼のリバプールで置かれている立場について考えたい。
苦しんだ1年目
南野のリバプールへの移籍が取り立たされたのは、レッドブル・ザルツブルクのメンバーとして臨んだ2019年10月3日CLグループステージでの事だった。「何かを示したい」との思いで試合に臨んだという彼は、その言葉通りペナルティエリア外からの豪快なダイレクトボレーで1ゴール、フィルジル・ファン・ダイクのマークを外してアーリング・ブラウト・ハーランドをアシストと大車輪の活躍を見せ、注目を浴びた。南野のゴール後のユルゲン・クロップの表情などがフォーカスされ、リバプール側からのアプローチであるとの噂があったが、後日、代理人を務める秋山祐輔氏がリバプール側に打診したことが本人の口から語られた。
移籍後のインタビューで「それ(リバプール移籍)に喜んでいるというよりはここからだな、という思いの方が強い」と語っていた南野だったが、1年目は非常に厳しいシーズンに終わったと言わざるを得ない。リーグ戦では10試合、カップ戦でも3試合に出場したが結果は残せず、決して良い内容のシーズンにはならなかった。ほとんどが途中出場で、フル出場できたのはわずかに1回。出場した試合も良いプレーを見せたとは言い難い。リバプールは選手を獲得してから時間をかけて順応させる傾向があるものの、それを加味しても適応に苦しんでいるのは明らかだった。本人も自身の貢献度には満足しておらず、リーグ優勝を祝うセレモニーではトロフィーを掲げることを躊躇ってしまう一幕も見られた。
激動の2年目
なんとしても結果が欲しい20-21シーズン、コミュニティシールドのアーセナル戦で移籍後初ゴールを決めると、カラバオ杯では2ゴール。その後停滞が続いたがクリスタルパレス戦で念願のリーグ初ゴールをマークした。ひとまず欲しかった結果を残したリーグ前半戦だったが、プレー全体として評価すると課題が多かったと言わざるを得ない。
フィジカルコンタクトのレベルが世界随一のプレミアリーグにおいて彼の当時のフィジカルは不十分だった。パスを受けても相手を背負いきれずに倒れてしまい、ボールをロストするシーンが散見され、ボールを持って前を向けることは稀。周囲の選手との連携が上手くいかず、ポジションが被ってしまい近くの選手のスペースを潰してしまう場面もあった。まだ信頼が得られていないのか、良いポジションをとっていてもパスが供給されない場面も見られた。持ち味のオフザボールの動きはやや空回り気味であったと言える。また、いささか比較相手がハイレベルすぎるかもしれないが、やはり彼が出場機会を争うフロントスリーやディオゴ・ジョタらのメンバーに対して、絶対的なスピードや課題のフィジカルは勿論の事、些細なボールコントロールや決定力、展開力などで劣っていた。
とはいえ、得点という結果以外に収穫がゼロだったわけでは無い。多少無駄に動くことがあったものの、それでもチームのために献身的な守備に走る姿が見られた。この部分では加入した時点から“控えのポジション”を争う選手には優位を取っていたと言える。
チームメイトや監督から評価する声が多かったのが練習に臨む姿勢と語学習得への意欲だ。練習姿勢を讃えるクロップの発言について「リップサービスではないか」との意見を目にすることもあったが、筆者はそうは思わない。出場機会が限られる中でも腐らずに練習に取り組むメンタリティへ高い評価を受けていることは紛れもない事実であるし、それは彼の大きな強みだ。
しかし、そういった部分に一定の信頼を置いていても、実際に彼を起用するかは全く別の問題ではないだろうか。当時のリバプールにはモハメド・サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノという絶対的なレギュラーがいた上に、その牙城を崩す勢いのジョタも加入。その他、追い込まれた展開での決定力に定評がありフィジカルに優れたディボック・オリギや、スピードやチャンスメイクが持ち味のジェルダン・シャキリも控えていた。南野がこうした選手に個人の能力や実戦でのパフォーマンスが及んでいないと判断されれば起用機会が限られるのは当たり前のことである。
この二つの事象を混同し、クロップの起用姿勢や南野への評価に疑問を投げかけるのは、クロップに対して失礼なだけでなく南野本人にとってもポジティブなものではない。語学習得に努力するのも少しでもコミュニケーションを円滑にし、連携に繋げようという気持ちの現れと考えられ、ピッチ外の努力がチームに認められたのは信頼を勝ち取り連携や起用に間接的に繋げるという意味で収穫だと言える。
2021年2月2日、サウサンプトンへのレンタル移籍が発表された。12月後半から出場機会が激減していたこともあり、リバプールでの未来を疑問視する声もあった。しかし、リバプール側が買取オプションを拒否したことからも、この移籍は南野がチームへ何らかの形で貢献することに期待しての前向きなものであったと考えられる。サウサンプトンでは初陣となったニューカッスル・ユナイテッド戦に初ゴールをマーク。さらにチェルシー戦ではシュートフェイントを駆使して冷静にチャンスをものにし、彼のテクニックが時にプレミアリーグで通用することを示した。
Calmness personified ❄️ @takumina0116 x @NathanRedmond22 🔥pic.twitter.com/hYVxtxLrws
— SouthamptonFC(@SouthonptonFC) February 21, 2021
一方、在籍した期間の18試合のうち出場は10試合に留まり、途中出場や交代などで90分フル出場を果たしたのはわずかに2回。積極的なプレッシング、守備にも献身的なメンタリティなど彼の持つ良さの部分はラルフ・ハーゼンヒュットル監督に評価されていたものの、リバプールと同じくポジション争いのライバルとなる選手たちに軍配が上がる部分が多くあり起用機会は限られたものとなった。ポジションを争っていたテオ・ウォルコット、スチュアート・アームストロング、ネイサン・テラ、ネイサン・レドモンドらはどの選手も南野と同等以上のフィジカルがあり、その上絶対的なスピード、パンチのあるミドルや決定力など攻撃面での特異な武器を持ち合わせている。一方の南野は守備こそ持ち前の良さであるプレッシングを初めとして存在感を放つものの、攻撃面で相対的に見てこれといった特徴が無く、見せ場を作ることが難しい。
身体能力などの改善の難しい要素以外での最も大きな原因は、展開によってプレーを変える柔軟性ではないだろうか。先発したものの62分にムサ・ジェネポと交代になったウルブス戦を例に出したい。南野のスタッツは対戦相手にとって脅威と言えるものではなかった。ボールタッチ数27回という中盤の選手としては少なすぎるプレー関与(この試合の南野はサイドハーフとして出場、この数字はCFのダニー・イングス、GKのアレックス・マッカーシーに次いでワースト3位)に加え、ボールロスト12回とタッチの半数近い機会でボールを失ってしまっている。
リバプールでもそうだが、南野は中央でのプレーを好む傾向がある。スペースの狭いことが多い中央でボールを要求しても、先程のようなスタッツではチームメイトもボールを供給する気にはなり難い。(先述のように、リバプールにおいてもポジションは悪くないもののパスを供給してもらえないシーンが散見された。このことからもボールロストが多いことが原因でチームメイトの信頼を勝ち取れていない可能性が推察できる。)
この試合で南野が選択すべきプレーは(ジェネポの役割を果たすことが能力的に困難であることは理解の上で)従来の自分が得意とするプレーではなく、ピッチで孤立してしまいボール関与ができない状態から脱出するための動きだったのではないだろうか。攻撃面で突出した武器のない南野のような選手は、バイエルン・ミュンヘンのトーマス・ミュラーがそうであるようにチーム構築の中心に据えられて真価を発揮することが多い。しかしリバプール、さらにサウサンプトンにおいても、南野の個人としてのクオリティは彼を中心にチームを作り上げるほどのものではないからだ。
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