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基本プロフィール

画像出典:LFC公式Twitter
- 選手名:アリソン・ベッカー
- 生年月日:1992年10月2日
- 国籍:ブラジル
- 身長:191cm
- ポジション:GK
- 背番号:1
- クラブキャリア:インテルナシオナル(BRA/13-14~), ASローマ(ITA/16-17~), リバプール(ENG/18-19~)
- 市場価格:€ 60.00Mill.
- 契約終了年:2027年6月30日
プレースタイル
ストロングポイント

画像出典:LFC公式Twitter
GKに必要なありとあらゆる全ての能力が揃った、このポジションにおける世界最高の選手だ。GKにとって最も重要な「ゴールを守る」という点、そして現代のGKに求められる守備範囲の広さやビルドアップ能力という点の、双方の観点から見てどちらも完璧に近い。
至近距離からのシュートを容易く防いでしまう爆発的な反射神経の持ち主でありながら、GKとして見ても十分な191cmというサイズを誇る。それでいて身体のコーディネーションも極めて優れており、動作はスムーズで無駄がなく洗練されている。
キャッチするか弾くか、飛び出すか飛び出さないか、といった判断全般も素晴らしい。仮に対応が後手に回ったり想定外のプレーを繰り出されたりしても、判断そのものに間違いがほぼない上に傑出したアジリティやクイックネス、パワーといったフィジカル能力を備えているため、最終的には水際で防ぐなんてことも彼に限ってはめずらしいことではない。
ただ反応してディフレクティングするだけでなく、相手選手がいない方向にボールを弾くことができる点も素晴らしい。これはピッチの上で起きていることを的確に読み取れている証であり、このことからも彼が優れた戦術眼の持ち主であることが分かる。
また、アリソンは信じられないようなセーブのできるGKだが、その実ド派手なセーブはあまりない。考えるにそれは、彼が極めて優れたポジショニングのセンスを有しているからだろう。常に集中を切らさず、位置取りのミスは皆無に近い。そのため(実際は相当難易度の高いセーブであるにもかかわらず)簡単にセーブをしているように見えてしまう。
飛び出しの技術も信じられないレベルにある。通常リバプールはハイラインを敷いており、最終ラインとGKの間には広大なスペースが広がっている。そういったハイリスクな状況において、例えばCBには被カウンター時に後手に回った際、相手選手に追いつき、独力で解決できるだけのスピードやパワーといった高いフィジカル能力が求められる。
それと同じくGKも自身の目の前に広がる広大なスペースを管理する必要があり、網を掻い潜って最終ラインの裏に抜け出したボールを処理する能力が求められるが、その点においてもアリソンは完璧。守備範囲は広大で、未だに「そこまで飛び出すか」と思うことも少なくない。リバプールのハイライン戦術は、GKにアリソンを擁するからこそ可能なものであると言って差し支えないだろう。
このように「ゴールを守る」という、GKにとって最も必要な能力で世界最高峰のクオリティを持つアリソンだが、オフェンシブな面での貢献度も抜群。ブラジル代表でポジションを争うエデルソン(マンチェスター・シティ)と比べると多少見劣りするが、長短問わずキックの質が素晴らしく、ビルドアップに参加することを苦にしない。相手選手にプレッシャーをかけられても、フェイントを織り交ぜながら涼しい顔でかわすだけの肝っ玉もある。
ビルドアップの局面においては、優れたプレービジョンと技術的なクオリティの高さは言うまでもなく、苦しい局面でもボールを要求し、難易度の高いプレーに積極的に挑む、という卓越したパーソナリティが下地となっているのだろう。ボール保持時において味方にとっては頼もしすぎる預け所であると同時に、相手にとってはプレスを掛ける際にフィールドプレイヤーが一人多いようなものなので的を絞りづらくなり、厄介な存在でしかない。
セットプレーや被カウンターなどのピンチを脱した後のリスタートの判断も素早く正確で、基本的にはSBにスローイングでボールを配球するシーンが多いが、機を見て放たれるモハメド・サラーを筆頭とするアタッカー陣に向けた矢のようなパントキックは感嘆の息が出るほど美しい。
アリソンのディストリビューションによって得点に繋がるシーンはめずらしくなく、リバプールの武器の一つであると言ってもいいだろう。絶体絶命のピンチをチャンスに変えてしまう彼の存在は、守備の改善どころか攻撃面でのクオリティ向上にも貢献している。
このようにアリソンは非常に完成されたGKであり、欠点という欠点は見当たらない。とはいえ、全ての能力が他のGKに比べて優れているかと言われれば、もちろんそういうわけではない。前述のように、キックの能力に限って言えばエデルソンに軍配が上がるだろう。シュートブロックだけなら、例えばヤン・オブラク(アトレティコ・マドリード)の方が優秀であると言える。他にも、PK戦の場面では彼よりも頼りになるGKもいる。
しかし、そういったなにか一つの能力がアリソンを上回っていたとしても、それら全てを合算し総合的に見たとき、彼を超えるGKは現時点で世界のどこを探しても見つからないだろう。少々本題とはズレるが、(GKに限った話ではないものの)各々のチームにおけるGKに求められる能力や役割は異なる。エデルソンやオブラクが今のような評価を得ているのは、彼らが自らの能力に適したクラブでプレーしているからだ。
例えばエデルソンがアトレティコでプレーした場合、彼のGKとしては異次元なレベルのキックを披露する機会は極端に少なくなり、最終ラインの設定が低いアトレティコでは守備範囲の広さも宝の持ち腐れとなる。それでいてシュートを打たれる機会がマンシティでのプレー時以上に増えるため、「最後の砦」としての性能でアリソンやオブラクに劣る彼では失点が増加するだろう。
逆もまた然りで、オブラクがマンシティでプレーした場合、ビルドアップのメカニズムに彼を組み込むことはできないため最後方からの組み立ては難しくなり、かつ守備範囲も広くないことから最終ラインの高さにも気を配る必要がある。マンシティは常にボールを握ってポゼッション率を限りなく高め、それによって守備機会そのものを減らすという戦術を取っているが、オブラクはその対極に位置するGKと言える。仮にオブラク個人の力によって防げる失点が増えたとしても、それ以上にポゼッション率及び得点が減るだろう。それでは元も子もない。
翻ってアリソンはどうか。おそらく彼であれば、アトレティコとマンシティのどちらのスタイルにも問題なく適応できるだろう。少なくともオブラク→エデルソンと、エデルソン→オブラクの置き換えほど明確な差は出ないはずだ。どんなチームで、どんな役割を要求されても高いレベルで応えチームを勝たせてくれる、アリソンとはそういうGKである。エデルソンを差し置き、ブラジル代表で正GKを務めているのもそういった理由からだろう。
もちろん、エデルソンもオブラクも素晴らしいGKであり、それに疑いの余地はない。ただし彼らが今得ている評価は、自身の能力を余すことなく発揮できるクラブでプレーしているからであり、異なるクラブでプレーしていれば今のような評価を得ていたとは思えない。そういったことからアリソンが最も優れ、完成されたGKだと筆者は考える。
そんなアリソンはパーソナリティの観点から見ても傑出しているとは前述の通りである。仮にミスを犯し、それが失点に直結しても自信を喪失することはなく、少なくとも次の試合までには切り替えていつも通り臨むことができるレジリエンスは本当に素晴らしい。リーダーシップも兼ね備えており、主将を務める3選手(ジョーダン・ヘンダーソン、ジェームズ・ミルナー、フィルジル・ファン・ダイク)が揃って欠場した試合では、選手の投票によって主将に選ばれたエピソードからもそれは伺える。
獲得時の移籍金はGKにおけるワールドレコードであり、求められたのはチームに勝ち点とタイトルをもたらす絶対的な守護神という立場。そしてその要求をアリソンは完璧に応えたと言っていい。ユルゲン・クロップの監督就任後、各ポジションが充実していったリバプールにおいてGKのクオリティは最大の問題であった。しかし、彼の加入によってタイトルを取る上で必要なピースが揃ったクラブは再び欧州を制覇し、念願のリーグタイトルも獲得することができた。リバプールにとってアリソンはまさに画竜点睛とも言える偉大な存在である。
ウィークポイント

画像出典:LFC公式Twitter
これまで述べて来たように、アリソンはフィジカル/テクニカル両方のどちらも非常にハイレベルであり、メンタルも強く、様々な戦術に対応できる万能性を持つ。そのような総合的に見て世界最高と位置付けるこのできるGKにウィークポイントなどないに等しいのだが、流石に弱点がない選手などはいないので(粗探しに近いが)探していきたい。
まず真っ先に思い浮かぶアリソンの弱点として挙げられるのが、ややリスキーなプレー選択だろう。足元に自信を持つため、キープしなくともいい場面でキープをしたり、繋がなくてもいい場面で繋いだりすることによって、ボールをロストするシーンが見受けられる。こういったGKのミスは即失点に直結する危険を孕んでいるため、この点でアリソンは一部のファンなどから不評を買っている。
ただし、ハイリスクということはハイリターンということでもある。彼のスタイルによって失点する確率と、そのチャレンジによって得点が生まれる確率を天秤にかけたとき後者に傾くことは間違いないため、そう簡単に改めるべきだとは言い切れないだろう。
しかし、やはりそのビルドアップ絡みのミスからアリソンが批判の的になることもある。顕著な例が、2020-21シーズンに行われたプレミアリーグ第23節マンチェスター・シティ戦だろう。この試合ではアリソンのパスミスから2失点を喫し、彼は批判の嵐に晒された。とはいえだ。あの2失点を彼のミスだけによるものと片付けるのもやや違うように思う。
あの試合におけるリバプールは、相手の圧力に屈して全くビルドアップ出来ず、前にボールを運べないためズルズルと後ろに意図なく下げざるをえなかった。そして最後にボールを託されたアリソンが出しどころを見つけられず、パスをミスすることによって失点してしまっていた。最終的に彼が責任を負い、批判を一身に受ける形になったのはGKというポジションの特性ゆえだろう。
もちろん、アリソンがリスクを顧みずボールを繋ごうとしたのは悪手だったと言わざるをえない。繋ぐのが難しければもっとシンプルに長いキックを選択するべきだっただろう(結局それはすぐ相手に回収されるだろうが、無理なビルドアップからミスをして失点するよりかは遥かにマシだ)。しかし、困難な状況にあってもこのようなチャレンジが出来ることこそ彼が彼たる所以でもあるし、だからこそ彼のような究極的なGKが形成されたとも考えられる。とどのつまり、簡単に逃げのロングキックを選択するような選手では頂点に辿り着けないのではないかということだ。
また、飛び出しによるミスも犯すことがある。しかし、これもアリソンだけに責任を押し付けるのは少々酷に思える。ストロングポイントの項で述べた通り、リバプールは彼のような広大なスペースをカバーできるGKを擁しているからこそ、最終ラインを高く設定することができる。最終ラインを越えたボールや相手の処理はCBやGKの個人能力に丸投げしている嫌いがあり、その処理をミスして失点したからといって全ての責任を押し付けられるのはあまりにも損な役回りすぎるだろう。
彼がビルドアップや飛び出しのミスによって失敗しようが、それをすることによって増える得点や、未然に防がれる失点の方が圧倒的に多いのは間違いない。リスクにはミスが付き物で、短所の一言で片づけるものではない。フィジカルや技術的な能力の高さは言わずもがな、自身のミスによって失点してもすぐに立ち直り、普段通りプレーできる彼のようなレジリエンスに優れ強靭なメンタリティの持ち主こそGKを務めるに相応しいともいえる。
そんな彼にとって玉に瑕と言えるのが、怪我による離脱がやや目立つ点だろう。大怪我によってシーズンを棒に振るような長期離脱こそまだないのだが、シーズン中に細かい怪我を負って離脱する頻度は少なくない。戦力的にも戦術的にも彼がいないとリバプールは相当なダメージを負うため、プライオリティの低い試合ではクイヴィン・ケラハーなどを起用し、ローテーションを活用しながら怪我による彼の離脱を極力避けたいところだ。
ただ、アリソンに関してサポーターが最も恐れなければならないことは、彼が衰えた/去ったときのことかもしれない。些か気が早いかもしれないが、世界最高のGKを味わってしまった後では、次にどんなGKが後任を託されても難しいはず。今はとにかく彼がリバプールのゴールマウスにいてくれることを感謝したい。
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