我らがキャプテン、ヘンダーソンの行動は、SNSでの誹謗中傷被害に一石を投じられるか

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クワエリョウ

クワエリョウ

KOP歴20年のWebリスクコンサルタント。イスタンブールの奇跡は恵比寿FooTNiKで観戦し、社会人一年目で酔っ払って出社したというエピソードあり。早起きは得意ですが夜更かしは苦手なので、明け方観戦派です。

レアル戦後に起きたこと

2021年4月6日に行われたチャンピオンズリーグ準々決勝の第一戦。1-3で敗れたレアルマドリードとのアウェイゲームの後に、リバプールファンとしてはとても悲しく心が痛くなる事件が起こってしまった。
その試合に出場していて精彩を欠いたと見なされたアーノルドとナビケイタに対して、Instagramにて非難コメントが相次ぎ、また中には黒人を揶揄するようなメッセージも含まれていたことが明らかになったのだ。この事態を受け、クラブはそうした行動を強く非難する声明を発表している。

そうした中で、キャプテンであるヘンダーソンがある行動に出た。サイバースマイル・ファウンデーションというNPO法人に自身のSNSアカウントの管理を任せるというメッセージを発信したのだ。その慈善団体はSNSなどのインターネットで誹謗中傷やハラスメントを受けた人を支援したり、そうした被害を減らすための活動をしている団体であり、ヘンダーソンは自身のアカウントを使ってこうしたメッセージを発信してもらうことにしたということだ。

実際に「サイバースマイル・ファウンデーション」から投稿された内容はこちら。

※ヘンドのInstagramでも同様の投稿がされている

このように、今後ヘンドのアカウントにて「サイバースマイル・ファウンデーション」からのメッセージが投稿されるようになる。その内容は、これまでにネット誹謗中傷の被害に遭った人のストーリーであったり、こうした被害に遭わせないためにどうするかといった啓蒙メッセージである。世界中でTwitter130万人以上、Instagram400万人以上のフォロワーが居るヘンドのアカウントからの発信は、これまでにこうしたメッセージに触れてこなかったファン達にも届くことだろう。そしてこのヘンドの行動は、サッカー界におけるネット上での誹謗中傷や差別が起こっている問題に、一石を投じることになるのではないだろうか。

サッカー界とSNSの中傷被害

サッカー界において、SNSの誹謗中傷と切っても切れない関係と言えるのが、人種差別問題。ご存知のように、プレミアリーグはもちろんのこと、Jリーグも含めた世界中のサッカーリーグで人種差別問題は大きく扱われていて、実際のスタジアムにおいても、またSNSなどのネット上においても、人種差別と捉えられる行動をした人に対しては、数年間のスタジアムへの入場禁止などの厳しい措置が取られている。
そうした流れを受けて、スタジアムでの人種差別的な行動はかなり減ったと言われており、同じチームのファン同士であっても現場でこうした行動をとった人が見つかればすぐにスタッフに突き出されたりするようだ。もちろんそれでも無くなっておらず、度々ニュースとして騒がせてしまっていることは事実であるが、それでも現地での被害はだいぶ良化したとは言えるかもしれない。(もちろん最近はコロナウイルスの流行によってそもそも現地で観戦できていない、というケースも多いとは思うが)
しかしこうした中で問題になってきているのが、今回の本題であるSNS上での行動なのだ。

日本人にとって身近であるJリーグにおいても、昨年9月に浦和レッズと川崎フロンターレが両者同時に「SNSでの差別的、誹謗中傷的な発言」を非難するメッセージを出したことは記憶に新しいし、昨年だけでも横浜FCや横浜Fマリノス、ベガルタ仙台など多くのチームがこうした行動に巻き込まれ、公式に非難メッセージを出している。また今年はJリーグとしても元日本代表の前園氏を起用した啓蒙動画を作成しているように、この問題に取り組んでいる。
プレミアリーグにおいては、昨年「ソーシャルメディアでの人種差別攻撃に対する措置」として、SNSで選手や監督、その家族に対する人種差別的なメッセージがあった際に訴えることが出来る通報システムを設立しており、人種差別的メッセージをすぐに通報して法的手段が取られるフローが整えられたのであるが、今年になってもマンチェスター・ユナイテッドのラッシュフォードやマルシャルが被害を受けており、こうした流れが嫌になりSNSアカウントを停止する選手も出てきている。実際に今回のこともありヘンドもアカウントを停止することも考えていたようだし、人種差別ではないものの、低パフォーマンスを非難するメッセージが多く届いたことが原因で、ロバートソンも2019年に一時的にアカウントを削除したこともあった。

Embed from Getty Images

こうしたネットでの誹謗中傷問題を長年扱ってきた私の意見を書いてしまうと、残念ながらこの問題は簡単ではない。
ある選手がSNSアカウントを停止したとしても、攻撃の矛先は別の選手に向くだけだろう。そして選手が傷つき、悲痛な顔で訴えたとしても、その効果は限定的でしかない。例えば昨年日本で起きたプロレスラー木村花さんの痛ましい事件(ネット上での誹謗中傷を苦にして自殺してしまった事件)が起きて、世間であれだけ大きく報道されたものの、一時的に収まったネットでの誹謗中傷は数か月すると元に戻ってしまった事実がそれを表している。

このように世界の至る所で直面しているこの問題だが、簡単な解決方法は見つかっていない。「ネットを実名にすればいい」という意見もあるが、その効果も限定的であるということが韓国で証明されている(詳しく知りたい人は「韓国 ネット実名制」などで検索してみると記事が出てくるだろう)し、不適切な行動をしたアカウントを即座に凍結したとしても、またすぐに別のアカウントを作られてしまい、いたちごっこになってしまう。だからこそ、地道ながらも着実に啓蒙活動をしたり、被害を受けた人への支援を行うことが重要なのだ。こうした文脈の中にあって、今回のヘンドの行動が持つ意味は大きいのではないだろうか。

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結果が出ない時こそ応援するのがKOP

ここで改めて今回の本題に話を戻そう。結果が出なかった試合の後に、選手に対して個人攻撃がなされる。その行動を同じサッカーファンとして、そしてリバプールファンとしてどう止められるのか。
我らがキャプテンは、啓蒙活動を通しての現状打破を目指すことを選択した。これはとても意義のあることだと思うし、少なからず改善に寄与するだろう。

そんな中で、遠く日本から応援する我々に出来ることは何か。それはイスタンブールの奇跡を、または2年前のCL準決勝での奇跡を、語り継ぐことではないだろうか。
あの奇跡を起こせた要因の一つは、現地のKOP達が諦めずに全力で応援したことなのは間違いない。イスタンブールでのハーフタイムの声援が選手たちを奮い立たせたことは選手たちの当時の回想録からも明らかだし、一昨年のバルセロナとの2ndレグも、満員のアンフィールドのKOP達が大いに後押ししたことも明らかだ。

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成功体験のあるリバプールファンとして、不振に陥ったからといって、低パフォーマンスだったからといって、選手や監督を非難することにプラスが何もないことを思い出し、やり場のない怒りがあればそれは誰か個人を対象にするのではなく、違う形で発散させて欲しい。自分にとっては何気ない一言だったとしても、その的にされた人にとってはあまりにも大きいダメージとなるのだから。それはもちろんファン同士にも当てはまる。自分も相手も匿名だったとしても、そのアカウントの向こうには生身の人が居るのだから。その事実を、ヘンドのアカウントは今後地道に発信していくことだろう。

2019年に発表されたスタンフォード大学の研究結果において、サラーが活躍することでマージーサイド地域において”ヘイトクライム”の発生件数が19%も減少していることが判明した。それと同時に、15万人のリバプールファンのSNS投稿を分析したところ、反イスラム主義的なコメントが50%も減少したことも分かっている。このように、選手の活躍はポジティブな影響も生み出しているし、選手たちのSNSでの発信に勇気づけられているファンたちも多く居るはずだ。だからこそ、そうした選手たちがSNSで傷ついて欲しくないし、リバプールファンは選手や監督に対しての攻撃はして欲しくない。
コロナ禍によりスタジアムで応援できない今だからこそ、ファンの声援はSNSで伝えるしかない。日本語での声援だって、ボタン一つで英訳されて本人にも伝えられる。You’ll Never Walk Aloneは、辛い時こそその素晴らしさが発揮される歌だ。コロナ禍という世界中での苦難、大不振に陥っているリバプールというフットボールクラブの苦難、そして「SNSでのヘイトや誹謗中傷」という苦難。それらに対して、今こそそのユルネバの精神を捧げたい。

Walk on walk on
With hope in your heart
And you’ll never walk alone

この歌を何よりも大切にしているリバプール。そのキャプテンであるヘンドの行動は、必ずこの苦難における希望になってくれるはず。リバプールファンだからこそ、それを信じたいと思う。

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【運営より追記】リバプール雑談ラジオでもこの記事にある誹謗中傷問題について話をしています。ぜひ聴いてみてください。

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