3年間のFSGによる補強方針の変化を考察する〜「リスク覚悟」で専門家に意思決定を委ねる〜

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ヘンリー

ヘンリー

ヘンリーです。FSGやオーナーであるジョン・ヘンリー関連の記事を書いていこうと思っています。基本まったりとやっていきます。

お久しぶりです、ヘンリーです。前回の記事からかなり間が空いてしまいましたが、今回は以前書いたレッドソックスとリバプールの強化体制を比較した記事の続きとなります。

マネーボールの作者、マイケル・ルイスの著書「かくて行動経済学は生まれり」にジョン・ヘンリーの言葉と共に以下のような興味深い記述が登場します。

「二○○四年、アスレティックスをまねたボストン・レッドソックスは、ほぼ百年ぶりにワールド・シリーズを制覇した。同じ手法で二○○七年と二○十三年にも優勝した。だが不本意な三シーズンを経た二十六年、レッドソックスはデータに基づく手法を捨て、専門家の判断に再び任せることにしたと発表した(「われわれはおそらく数字に頼りすぎたんだ…」と、オーナーのジョン・ヘンリーは言った)。」

『かくて行動経済学は生まれり P3より引用』

このヘンリーのコメントから、FSGによるレッドソックスのチーム運営に何かしらの変化が起こったと見ることが出来ます。興味深い点として、このコメントが出される1年前に、レッドソックスではデーブ・ドンブロウスキーが編成本部長に就任し、リバプールではクロップが監督に就任しています。

また、ドンブロウスキーがGMではなく編成本部長という立場に就任した点も注目です。この編成本部長という役職はGMよりも大きな権限を有しており、ドンブロウスキーの判断にかなりの信頼を置いていると見ることが出来ます。

これを踏まえて今回の記事ではドンブロウスキー就任後のレッドソックスの動きとクロップ就任後のリバプールの補強方針をリンクさせつつ、『かくて行動経済学は生まれり』の内容を引用しながら、前述したコメントについて検証していこうかと思います。

かなり読みづらい内容で、長くなってしまいましたので、時間のあるときにお読み頂ければ幸いです。では、始めます。

1. レッドソックス側の最近の動き 〜『経験の補強』と 『データ分析のアップデート』

①トニー・ラルーサという「経験の補強」とドンブロウスキーとの共通点

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写真右がラルーサ、左がドンブロウスキー

2017年にレッドソックスはトニー・ラルーサという人物を球団副社長とドンブロウスキーをサポートする、編成本部長特別補佐という地位に任命しています。

この、トニー・ラルーサという人物は、オークランド・アスレティックスやセントルイス・カージナルスの監督を歴任した経験豊富な人物であり、カージナルスではワールドチャンピオンにも輝いています。

また、監督業を勇退した後はアリゾナ・ダイアモンドバックスの選手補強を統括する、編成最高責任者も務めていました。ドンブロウスキーとラルーサは40年前にシカゴ・ホワイトソックスで共に仕事をして以来、常に連絡を取り合う仲だったそうです。

ボストングローブ紙の記事によると、ラルーサもドンブロウスキーと同様に、あまりセイバーメトリクスを使用しない「オールド・スクール」型の人物と言われていますが、実際にはセイバーメトリクスと経験に基づいたスカウティングの両方を活用するタイプであると自らコメントしています。

私が用いてきたことの1つは価値がありますが、一定のバランスが必要です。私がバランスについて話すとき、他の方々は私がセイバー・メトリクスを却下していると言いますが、それは私の考えとは逆なのです。」

https://www.bostonglobe.comより引用

このスカウトの経験に基づいたスカウティングを基に、データ分析の双方向から選手について判断するという面は、以前レッドソックスとリバプールの補強体制を比較した記事で引用したドンブロウスキーのコメントと相通じるものがあります。再度、以下のように紹介いたします。

私は皆さんの認識が何であるかはわかりませんが、可能な限りの情報を使用しています。我々が補強に関する取引をするとき、私たちはスカウトの意見を大いに活用しますが、統計を使ってそれを裏付けます。」

https://www.fangraphs.comより引用

以上のように、トニー・ラルーサという監督経験豊富でチーム編成責任者の経験もある人物をレッドソックスは補強しています。

次にレッドソックスのデータ分析に関しても変化が起きているそうなので、次の節で紹介していこうと思います。

②データ分析ツールを革新する〜「Carmine」から「Beacon」へ 〜

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ドンブロウスキー

以前の記事でも紹介した通り、もともとレッドソックスは選手のデータ分析を基にしたセイバーメトリクスを導入し、チーム運営を行っていましたが、他チームもデータ分析を積極的に行なうようになった結果、データ分析の面で遅れを取ってしまっていたようです。

ドンブロウスキーは以下のようにコメントしています。

「『レッドソックスがアナリスティクスの分野で最先端を走っていると思っていたが、私がレッドソックスに入ったときに驚いた』とドンブロウスキーは語った。 『彼らは最先端ではなかった。』」

http://www.providencejournal.comより引用

providencejournal.comの記事によると、以前よりレッドソックスでは、「Carmine」というデータ分析ツールを使用していたそうですが、別の記事でも紹介したStatcast等のトラッキングデータ解析の進歩に対応出来ていなかったという点と、データ分析チームの人員の変化により、Carmineを扱える人が少なくなってしまった点という問題点があるようです。

レッドソックスのデータ分析チームを総括している、ザック・スコットは以下のようにコメントしています。

「Carmineはパワーユーザー向けに設計されたものであり、正直言ってパワーユーザーの多くは去ってしまった」とスコット氏は言う。 「私たちはCarmineを最適化していませんでした。」

http://www.providencejournal.comより引用

この状況を踏まえ、ドンブロウスキーはデータ分析のアップグレードとデータ分析部門の人員を増やしたことをコメントしています。

「Dombrowski氏は次のように語っています。『私はデータ分析の現代化のためにはシステムをアップグレードする必要があると考えており、そのメンバーを追加しました。」

providencejournal.comより引用

その結果、新しいデータ分析ツールである、Beaconを開発し、それを徐々に置き換えることで現在のデータ分析の進歩に追いつこうとしているようです。

このようにデータ分析ツールを革新しているレッドソックスですが、興味深い点として、データ分析をメインに置くのではなく、あくまでもデータ分析をドンブロウスキーが選手獲得を判断するためのツールとしている点です。

ボストングローブ紙の記事でスコットは以下のようにコメントしています。

「私たちの部署は、チーム運営において意思決定者をサポートするために存在しています。ドンブロウスキーは仕事をするのに役立つツールについて尋ね、私たちは彼と協力し、最も効果的で最適なものを見つけ出しました。」

 https://www.bostonglobe.comより引用

 

以上のようにレッドソックスはデータ分析を使用してはいますが、データ分析のみに頼るのではなく、データ分析を補強における意思決定者であるドンブロウスキーをサポートするためのツールとして使用するように変化したようです。

また、ラルーサとドンブロウスキーの共通点として、「データ分析」と「旧来のスカウティング」の両方の面から選手の価値を判断することが出来るという点も挙げることができます。

この章をまとめると、レッドソックスはスカウトによる経験によるスカウティングという視点と、データ分析という二つの視点から、補強における最終意思決定者であるドンブロウスキーに検討材料を与えるという体制となっています。

これらを踏まえて次の章では、レッドソックスとリバプールの2015年以降の補強を比べながら記事を進めていこうと思います。

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