「リバプールのすべて」発売記念インタビュー。著者、結城康平に聞いてみたリバプールの話。

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「欧州最先端の戦術研究」に斬新な視点でアプローチし、“新世代ライター”として人気を博す結城康平さん

日本サッカーにポジショナルプレーの議論を持ち込んだともされ、アカデミックな英語文献を読み解くスキルを駆使した、その知識量は圧倒的だ。

そんな結城さんが独自の切り口でリバプールの秘密に迫った著書「リバプールのすべて “総力戦”時代の覇者」が7月29日に発売された。

普段から欧州最先端のフットボールを研究する結城さんが、「リバプール」だけについて深く掘り下げた内容ということで、世界を驚かし歴史を作る現在のリバプールの秘密を解き明かしてくれる、ファン必読の一冊となっている。

今回LFCラボでは、これを機に結城さんから、客観的に見たリバプールのさらなる魅力を聞き出すべく、インタビュー企画を実施した。
発売される「リバプールのすべて “総力戦”時代の覇者」と合わせて、読んでいただければ幸いだ。

現在のリバプールというチームについて

[マジスタ]
本日はよろしくお願いします!

まず初めにライターとして多くのメディアに寄稿されている結城さんに、客観的に見たリバプールというチームについて伺いたいと思います。

昨シーズンの欧州制覇、今シーズンのプレミア制覇と、継続して結果を残し、注目増すリバプールというチームの戦術をどのように見ていますか?

[結城]
あえて言語化すると ハイプレッシングの頻度を調整することで、中盤のエリアをコンパクトに保つ意識が高くなっていることは特徴の1つかと思います。

ゲーゲンプレッシングという言葉がクロップの代名詞になっている一方で、実際のリバプールはリトリートやミドルプレスに相手を誘うことでスペースを作ることが増えています。

そういう意味ではゲーゲンプレッシングのチームではなく、守備エリアやプレッシングのゾーンに合わせて様々なカウンターを仕掛けられる「変幻自在の守備」を誇るチームになっていると表現するべきでしょう。

[マジスタ]
ドルトムント時代から注目される「ゲーゲンプレッシング」では言語化できないチームになってきていますよね。このような変化はやはりペップ・ラインダースによる進言が大きいのでしょうか?

[結城]
ラインダースの進言も重要だと思いますが、クロップはドルトムント時代からゲーゲンプレッシングの先を見据えていたように思えます。なので、どちらかといえば変化を求めていたクロップがラインダースからアイディアを得たのだと考えます。

[マジスタ]
なるほど。徐々に課題が露呈しつつあったドルトムント時代にイメージしていたものを、リバプールで選手やラインダースらピースが揃い、完成させたのですね。

画像出典:Liverpool FC 公式Twitter

では今後のクロップリバプールはどのような展望が予想されるでしょうか?

[結城]
報道されているチアゴ・アルカンタラが加入することになれば、トランジションゲームにも対応可能なプレス耐性の高いパサーを得ることになります。守備面では抱えるリスクは大きくなるかもしれませんが、中盤にクリエイタータイプを加えることでリバプールのフットボールは一変するはずです。サイドバックなどの選手層は薄いので、補強や育成の重要度は増していくでしょう。 

[マジスタ]
チアゴ・アルカンタラ含めて、クリエイタータイプの中盤選手が継続して補強候補に上がっていることを踏まえると、チームはさらなる進化を目指す上で、クリエイティブな要素を加えようとしているように感じますよね。金銭的な事情が引っかかっているようですが、ぜひリバプールで見てみたい選手です。戦術的にリバプールが今後改善を図るとすればやはり、クリエイティビティの面が着手ポイントだとお考えですか?

[結城]
クリエイティビティという言葉自体、あまり具体化されたものではないので難しいところですが「ボールの前進にアクセントを加える選手」が求められるのは間違いありません。後述するブラントについても、ボールを保持しながらリズムを変化させるプレーを得意とします。

[マジスタ]
そのような選手が今のリバプールに加わった姿を想像すると胸が高鳴りますね。
ぜひ見ていたいです。

画像出典:Thiago Alcântara 公式Twitter

そんな現在のリバプールの中では最重要選手は誰だと考えておられますか?

[結城]
サディオ・マネですね。何よりもボールを失うとき、大半はクリーンに奪われずに中途半端なところに転がるのが大きいです。推進力があるのでボールを失っても、回収可能な局面になることも少なくありません。技術やスピードでは他の選手が上でも、この「ボールをクリーンに奪われない」という点はマネだけの特異性です。この能力があるからこそ、リバプールは前からのプレッシングで再度奪回を狙うことが可能になるのです。

[マジスタ]
マネ!本当に恐ろしい選手ですよね。 確かにマネのボールロストからカウンターを喰らう場面はあまり見たことがないかも。サラーではたまにカウンター喰らうことを考えるとやはり特異な能力ですね。

画像出典:Liverpool FC 公式Twitter

ではそんなリバプールに加入すればさらに面白くなりそうな選手はいますか?

[結城]
前述の通り、チアゴ・アルカンタラは最適かと思います。怪我のリスクをコントロールすることが可能なスタッフも揃っているので、そういった視点でも理想的な組み合わせになるかもしれません。
中盤では、ドルトムントのユリアン・ブラントなんかも良いかと。サイドバックの控えも欲しいところですが、ロバートソンとアーノルドはコストパフォーマンスが抜群だったからこそ、悩ましい部分はありますね。
ベン・チルウェルは人気ですが、移籍金も釣り上がりそうなので。高い移籍金を費やして、控えの可能性が高いサイドバックを買うのだろうか?というところは疑問です。
将来性を考え、ノーウィッチのジャマール・ルイスあたりは面白い選択肢かもしれませんが。
成功するかは兎も角、前線で観てみたいのはアダマ・トラオレです。あのくらいのインパクトが今の3トップに加わったとき、どんな世界が開けるのかは気になります。
CBだと人気銘柄ですが、ライプツィヒのダヨ・ウパメカノが獲得可能であれば最高かなと。 

[マジスタ]
どの選手が加入しても本当に面白そうですね。またブラントのプランBの選手として獲得したサラーが活躍した今も、中盤の選手として必要とされるブラントは興味深いです。

画像出典:Julian Brandt 公式Twitter

リバプールで素晴らしいチームを作り上げ、2024年まで契約を残しているクロップですが、難しいその後任は誰がふさわしいと考えていますか?

[結城]
ペップ・ラインダースこそ、ベストな選択だと思います。既にトップクラスの指揮官としての器を感じさせているので。ボルシアMGのマルコ・ローズなんかも見てみたいところではありますが。

[マジスタ]
結城さんにそこまで言わせるラインダースの力量凄まじいですね。ではジェラードがポスト・クロップとなることを夢見るKOPは多いですが、ジェラードの監督としての能力やポスト・クロップとしての評価はどのようにお考えでしょうか?

[結城]
スコットランドの名門レンジャーズへの加入は、ジェラードを指揮官として大成させるのには最適だったと思います。実力のあるスタッフに囲まれ、徐々に戦術家としても評価を高めています。ダービーで経験を積んだランパードのように、キャリアのスタートは理想的かと。

画像出典:Rangers Football Club 公式Twitter

注目人物、ペップ・ラインダースについて

著書「リバプールのすべて “総力戦”時代の覇者」でも登場する、ペップ・ラインダースについてお伺いします。

[マジスタ]
これまでリバプール以外のチーム(PSV,ポルト,NEC)で活動するなかで、彼はどのような人物や哲学から影響を受けてきたのでしょうか?

[結城]
戦術的ピリオダイゼーションとクーバー・メソッドの影響を強く感じるだけではなく、クライフからも強い影響を受けています。現代フットボールにおける主要理論のハイブリッドという感じですね。 

[マジスタ]
主要理論のハイブリッドという部分について少し詳しくお願いできますか?

[結城]
ラインダースは、ポルトガルを祖とする戦術的ピリオダイゼーションと、オランダに受け継がれたポジショナルプレーの思想を兼ね備える指導者です。故に、彼はフットボールを独特の視点から読み解いています。

[マジスタ]
独特の視点。興味深いです。
では実際にラインダースはどのような点で優れているのでしょうか?

[結城]
哲学者のような思考プロセスが最も興味深く、理論ベースで実際に起こっている事象を分析しようとするアプローチが魅力的です。

[マジスタ]
面白い!理論ベースでフットボールにアプローチするスタイルは現在のリバプールを象徴していますね。

画像出典:liverpoolfc.com

ポルトでは戦術的ピリオダイゼーションの提唱者フラーデ氏の元にいたようですが、どのような関係・影響を受けていたのでしょうか?

[結城]
フラーデに師事するだけでなく、彼の思想をプラクティカルに落とし込もうという意識が強かった1人です。 

[マジスタ]
なるほど。戦術的ピリオダイゼーションを直に学び、咀嚼した彼の存在はリバプールにとってとてつもなく大きかったでしょうね。

一度リバプールを離れ、監督として招聘されたNECではどのようなサッカーを志向していたのでしょうか?

[結城]
残念ながら短命に終わってしまったこともあり、NEC時代には彼の哲学が浸透したスタイルではなかったと考えています。ただし、現代的なトレーニングはオランダの人々を驚かせていたようです。

[マジスタ]
その後リバプールに戻り、素晴らしい仕事をするわけですね。

NEC時代は短命に終わってしまいましたが、改めて監督としてのポストクロップとしての可能性や評価はどうなのでしょうか?

[結城]
その評価は年々高まっており、個人的にはポストクロップの本命と考えています。育成理論・現代戦術の知識に長けていることに加え、コミュニケーションも巧い。ナーゲルスマンに近い指揮官かと。 

[マジスタ]
ナーゲルスマンやジェラードを後任に推す意見も多いですが、既にトップレベルの知識とクロップイズムを直に受け継ぐ適任者が近くにいたのですね。ラインダースリバプール楽しみです。

画像出典:liverpoolfc.com

その他結城さんに聞いてみたこと

[マジスタ]
その他たくさんの質問がリバプールファンから上がっております。

「リバプールのすべて “総力戦”時代の覇者」を書こうと思ったキッカケは?

ソル・メディアさんからの提案が最初だったと思いますが、個人的にも大きく変貌しつつあったリバプールは「今、最も戦術的に語るべきチームの1つ」と考えていたのも確かです。 

本の見どころを教えてください!

特に裏方について徹底的に掘り下げているところは、他のリバプール本とは少し違うアプローチかなと思います。
知られざる「科学者たちの部屋」の存在や、フィットネスコーチについて掘り下げています。詳細については、著書で… 

「今のリバプールはこういう見方をすると面白い」というポイントはありますか?

前からのプレッシングを意識的に使い分けるチームになっているので、フィルミーノと両ワイドがどのエリアからプレッシャーをかけているのか?は1つのポイントです。同時にビルドアップ時には、どのように立ち位置を変えながら相手を惑わしているかに着目することをお勧めします。 

サッカーを好きになった経緯を教えてください!

元々少年時代からサッカーをしていましたが、トップレベルのフットボールが戦略的に面白いと気付いたのはEURO 2004におけるチェコ代表の躍進やギリシャ代表の優勝でした。 

トップレベルのフットボールの面白さに気づいて以降、どのようにフットボールを学んだのでしょうか?

トップレベルのフットボールを観ること、以外にはありません。徹底的に試合を観戦し、その中で違和感や気付きを積み重ねる作業です。

イギリス留学に至った経緯を教えてください!

本場で一度英語の勉強をしたかったのと、大学院という環境で競い合ってみたかったというのがあります。性格的に知っている場所だと甘えてしまうので、海外を選びました。 

スコットランドだからこそ学べたことってありますか?

サッカーにおける「ドイツ的思想」は面白かったです。彼らはイングランドに敵対意識があって、ちょうど私が留学した頃にはドイツの手法が注目されていたので、スコットランドもドイツに近いスタイルを導入していました。 

なぜウィガンを推すようになったのですか?

ロベルト・マルティネスの3バックが、今でいうハーフスペースをゾーンで守ろうという戦術を採用しており、斬新な戦術思想に心を奪われました。

スコットランドのスーパーでファン・ダイクと喋ったときのことを詳しく聞かせてください!

当時セルティックで活躍していたヴァン・ダイクが、僕が通っていたスーパーを使っていたみたいで。スーパーに会員カードを持っていくと、イートインみたいなコーヒーを飲めるサービスがあったんです。そこに大学院の勉強途中に行って、気分転換に軽く食事をしながら地元の人や大学の友達と話すのが日課でした。そのような毎日を送っていたとき、突然知り合いになっていたスーパーの警備員が「君サッカー好きだったよね。ヴァン・ダイクが買い物しているよ」って教えてくれたんです。話しかけられずに躊躇していたら、地元のおばちゃんが連れてきてくれて。流石、どこでもおばちゃんは強いですよね。そんなこんなで、ヴァン・ダイクと話をすることが出来ました。むしろ彼が気を遣ってくれて、「学生なの?」とか「サッカーの仕事をしているの?」とか質問してくれて、「このスーパーは比較的選手たちが買い物にきても、あまり大騒ぎにならないから助かるんだ」と言っていました。 

画像出典:Virgil Van Dijk 公式Twitter

その他リバプール以外に注目しているクラブはありますか?

全てのクラブが興味深い要素を持っていますが、ビエルサ率いるリーズ・ユナイテッドは注目です。彼らとシェフィールド・ユナイテッドの対戦は垂涎ですね。

試合観戦時にこだわりがあれば 教えてください!

あんまりないかもしれませんが、基本的にコーヒーは横に置いてあります。

1ヶ月で何試合ほどを観戦するんですか?

完全に仕事の兼ね合いで、書き物が少ないときは15試合くらい観戦しているかと思います。ただ、多いときは全然観られないときもあるんですよね。書き物に関係する試合は、それでも観ていますけど。 

観る試合はどんな基準で決めていますか?

基準はないです!ただ、時間的に見やすいのでプレミアが多いです。 

どんなデバイス、環境で普段試合を観戦されていますか?

PCです。TVに繋いでいることもあります。

LFCラボというコンテンツに対する率直な感想 

凄くリバプールへの愛に溢れているライターさんが多く、ファンならではの情熱を感じるコンテンツが多い印象です。

ファン発信のコンテンツが増えていることに関して、プロのライターとしてどのように感じておられますか?

良いと思います!ただ、それを綺麗にまとめられないような媒体やコンテンツも少なくないというか、バラバラ感が残ってしまうのは勿体ないですね。

一般の人が書いたnoteなども普段読んでますか?

読んでますよ!ただ、最近はちょっと読む時間が無いかもしれません。 

この記事は読むべき/面白かった記事等あればぜひ!

サッカークラブツイート13万件比べてみた話~ぼっち女子サポの卒論・ブンデスリーガとJリーグのSNS利用の相違~
これは面白かったです。学術的なアプローチで、サッカーを分析する試みには常に興味を持っています。

最後に

[マジスタ]
本日はありがとうございました!
最後に一言お願いします!

[結城]
今回は、私のインタビュー企画を最後まで読んで頂きまして有難う御座います。リバプールサポーターの皆様が楽しんで頂ける1冊に仕上がっていると思いますので、是非お手に取って頂ければ嬉しいです。

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