ミロシュ・ケルケズのプレースタイル/プロフィール解説|リバプール選手名鑑

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お気に入りの選手はロバートソン。正統派SBが好き。 スコットランド代表も追ってます。

基本プロフィール

引用元:ケルケズ公式Instagram

  • 選手名:ミロシュ・ケルケズ
  • 生年月日: 2003年11月7日
  • 国籍:ハンガリー
  • 身長: 180cm
  • ポジション:LSB, LWB
  • 背番号:6
  • チームキャリア: AZ(NED/21-22~), ボーンマス(ENG/23-24~),リバプール(ENG/25-26~)
  • 市場価格:€45.00Mill.
  • 契約終了年: 2030年6月30日

プレースタイル

上下動を厭わないエネルギッシュなスタイルのサイドバック。まだまだ荒削りな部分はあるものの、ボーンマスでの2年間で攻守両面の能力を向上させ、順調な成長曲線を描いている。

ストロングポイント

引用元:LFC公式X

まずは、身体能力や基礎技術のストロングポイントについて見ていこう。

最大の強みは、バランスよく発達した耐久力のあるボディだろう。激しいコンタクトプレーとスピーディな展開のプレミアリーグで、最も重要な能力の1つといって差し支えないであろう、“体の丈夫さ”を持ち合わせている。実際に、ボーンマスで過ごした2シーズンで1度も負傷による欠場はなく(transfermarkt)、非常に怪我耐性が高い。また、重量感のある筋肉質な身体は、絶対的な球際の強さをもたらしている。サイズこそ180cmとSBとして及第点の範囲に収まるものの、優れたフィジカル的資質を持っているといって差し支えない。

強靭な肉体に裏打ちされたスタミナも、大きな武器である。長い距離を上下動することを厭わず、素早いトランジションから攻守両局面に積極的に参加する。現に、昨季のPLではダニエル・ムニョス、アントニー・ロビンソン、ブライアン・エンベウモに次いで4位となる845回のスプリントを記録し(Opta)、走行距離についてもPLでトップ5入りを果たしている。疲労を蓄積し、負傷を引き起こしやすいプレーを繰り返しているにも関わらず、負傷しないことからは、90分を走り抜くスタミナのみならず、シーズンを通して稼働し続ける長期的な体力にも優れた選手であることが読み取れる。

また、スタミナと並んで、SBとして、PLの守備者として持ち合わせたいのがスピードだ。こちらも十分なものを持ち合わせており、一瞬の加速、長距離のスプリント共に十分なクオリティを担保している。このように、スタミナ、スピード両面に優れたケルケズは、ポゼッション志向のチームで狙われやすいディフェンスライン背後の広大なスペースをカバーするという意味で、リバプールのディフェンダーに相応しい資質を持ち合わせていると言える。

基礎技術の面では、クロスが強みに挙げられる。Optaによれば、昨季PLにおいて、オープンプレーからのクロス成功数でケルケズの35回を上回ったのは、ロビンソンの42回のみ。クロス回数で言えば、ロビンソン、ペドロ・ポロに次ぐ3番目のスタッツとなる132回を記録している。ロビンソンのクロス回数が170回であることを考えると、クロスを上げきる能力を持ち合わせながら、その正確性も兼ね備えていると言える。このように、一定の正確性を担保しながら、その試行回数も稼ぐことができるケルケズのクロスは、明確なストロングポイントである。

また、このように多くのクロスを上げることができるのは、そのボールスキルの高さ故だろう。SBとしては十分な水準と言える足元の技術を持ち合わせており、さらにやや利き足が得意ではあるものの逆足の技術も全く問題ないレベルである。また、ファイナルサードやペナルティエリアへのドリブル突破も可能。昨季11月のマンチェスター・シティ戦、フィル・フォーデンを振り切ってペナルティエリアに侵入し、アントニー・セメンヨをアシストするクロスを上げたシーンは象徴的だろう。これらの点は、今までにあげた強みの中でも特に、前任者であり、ポジションを争うアンディ・ロバートソンよりも明確に優れた部分である。

引用元:ケルケズ公式Instagram

次に、より戦術的な技術やIQ、選手のスタイルを反映するようなストロングポイントを確認したい。

まず、最も大きな特徴は、縦への強い推進力である。特にドリブルによるキャリーの意識が非常に高く、ボーンマス時代には長い距離を1人で持ち上がるシーンが度々見られた。昨季は、90分あたり2.86回のプログレッシブ・キャリー¹(主に相手陣内でキャリーによって攻撃を推し進めたことを表す指標)に成功している(FBref)。スピードにも優れ、ボールスキルも持ち合わせたケルケズに相応しいプレースタイルであると言える。また、90分あたり4.29回のプログレッシブ・パス²(主に相手陣内でパスによって攻撃を推し進めたことを表す指標)に成功しており(FBref)、攻撃を推し進めるという意味では、パスの面でもやや優れた指標を残していると言える。

さらに、誤解されがちだが、ケルケズはポジショニングも強みの1つ。ボールを持っていなくとも、受け手としてビルドアップをサポートすることのできる選手だ。ボーンマス時代にも、CBからのパスを受けやすい位置を思考しながらプレーする姿や、ファイナルサードで受け手としての動き出しを積極的に行う様子が見られた。実際、プログレッシブパスの受け手としても、90分あたり5.31回と非常に優秀な数字を残している(FBref)。オンボールの動きに終始することなく、オフボールでは出口を作ってチームを前進させる意識も持ち合わせているのだ。このようにケルケズは、持ち前の推進力を中心に、様々な面から攻撃を効果的に推し進めることができる選手である。

また、主に相手陣内でのパスの受け手としても活躍していたことからも分かるように、持ち前のスタミナを活かした攻撃参加を厭わない。昨季のPLでは、オーバーラップ回数が3位、アンダーラップ回数は1位というスタッツを残している。身体的優位を活かした効果的な走り込みは、クロスやドリブルといった自身の強みをより際立たせることができる。また、昨季のアンディ・ロバートソンやコナー・ブラッドリーを見れば分かるように、アルネ・スロットはSBの攻撃参加、特にオーバー/アンダーラップを積極的に活用する監督である。ポケットを執拗に狙うという基本方針を鑑みても、この長所はスロットリバプールにフィットしている。

さらに、攻撃一辺倒のSBではなく、守備者としても優れた動きを見せる。その見た目から誤解されがちであるが、ケルケズが得意とするのは積極的なタックルによるオンボールの対人守備ではなく、むしろオフボールの組織の駒としての守備である。特に、得意のキャリーに繋げるインターセプトや、対面の選手にパスが入った際に距離を詰めて後退させるプレーなど、組織的な動きと危機察知能力を求められる守備が優秀な印象だ。

また、対人守備では粘り強さに光るものがある。一度置き去りにされそうになったり、逆を突かれたりした場合でも、すぐに体勢を立て直して着いて行き、決定的なチャンスには繋げない。アグレッシブにタックルを繰り返すイメージがあるかもしれないが、むしろ我慢して相手の出方を伺い、ここぞという場面でタックルを成功させるスタイルである。チャレンジの失敗回数³、ドリブル阻止率⁴で優秀な数字を残す一方、単純なタックル数など回数の多さを求められる指標は決して高いとは言えない(FBref)ことからも、彼の最後まで慎重に見極めて確実な選択肢を好む、我慢強いスタイルが見て取れる。

最後に、精神面にも触れておきたい。ケルケズは現在21歳だが、若くして優れたパーソナリティを持っている。エネルギッシュながら冷静さも持ち合わせ、向上心のある勤勉な性格。関係者からも評判は良く、リバプールはもメンタリティも高く評価して獲得しているだろう。エピソードで後述する、休暇にはSNSなどから距離を置いて自然の中で静養する習慣や、プレッシャーに対し”気にせずプレーに集中すれば良い”とする考え方からは、彼が若くして成熟したメンタルを持ち合わせていることが分かる。

補足

1, プログレッシブ・キャリー:直近の6本のパスにおける最も前進した地点から、相手ゴールライン方向へ少なくとも10ヤード運ぶプレー、またはペナルティエリアに進入する運び。自陣の50%で終わるドリブル(ボールキャリー)は除外する。

2, プログレッシブ・パス:直近6本のパスにおける最も前進した地点から、相手ゴールライン方向へ少なくとも10ヤード進める成功したパス、またはペナルティエリア内への成功したパス。自陣の40%で行われたパスは除外される。

3, ドリブル中の相手選手へのチャレンジに失敗した回数。

4, ドリブル阻止率: 相手ドリブラーに対するチャレンジ試行回数に対して、実際にタックル成功した割合。

ウィークポイント

引用:LFC公式サイト

改善を期待したい点は大きく2つある。

まず、空中戦についてである。落下地点や到達位置の予測を比較的苦手としている印象があり、エアバトルが得意なタイプではない。また、サイズについてもSBとして及第点レベルのため、フィジカル的な優位を取ることは難しい。次に指摘する欠点にも関連するプレーだが、開幕2戦目ではデュエルに敗れ、クロスに合わせたブルーノ・ギマランイスのヘディングによる得点を許している。圧倒的なフィジカル優位を取られているわけではない相手に対して後手を取ったことは、空中戦の拙さを象徴している。逆サイドからファーポストへのクロスが頻発するシチュエーションであることを考慮すると、ターゲットに仕事をさせないレベルまでエアバトルをブラッシュアップする必要性がある。

また、イメージに反して対人守備にも課題を抱えている。先述のように粘り強いスタイルの守備をするケルケズだが、慎重さのあまりか対面相手をやや離してしまう傾向がある。高い身体能力を持ち合わせているため、剥がされて決定的な仕事はされないものの、様子を伺う対面相手には隙を与えてしまい、“やり易さ”を感じさせる可能性がある。その傾向は数字にも表れており、先述のFBrefによる単純なタックル数など回数の多さを求められる指標は、無視できないレベルで低い。絶対数を必要とする指標と失敗回数の少なさや成功割合を求められる指標は、その性質上反比例の関係であることから、一概にスタッツが低いからといって弱点であるとするのは早計だ。しかし、実際のプレーを見て得られる“対面相手との距離感”という課題と、統計的な数字の間に関係性が見て取れる以上、改善が必要な点であるといっても過言ではないだろう。さらに言えば、これは彼のフィジカル的な資質や球際の強さといった武器を、より一層活かすための提案でもある。

ただ、決して守備が悪い選手ではなく、むしろ素晴らしいディフェンス能力を持っているといって差し支えない。空中戦や対人守備といった課題を解決した先には、世界最高峰のSBとして大成するビジョンがある。現在の年齢で攻守にバランスよく強みを持つことからも、ケルケズの未来は明るいと言えるだろう。

最後に触れたいのが、移籍直後の25-26シーズン開幕3節を終えた時点で強みが出しきれていないことだ。ボーンマス時代と比べプレーエリアが後退し、新しい役割と戦術への適応に時間を要していることが原因だろう。特に攻撃面の良さを活かしきれていない印象があるが、これはケルケズだけの問題ではない。周囲の選手も彼の使い方を100%理解しているわけではなく、未だ噛み合っていない部分は数多く存在する。ただ、ケルケズはこれらの役割に適応するだけの素養を持った選手である。後方からのビルドアップには、ボールスキルやポジショニングの能力を役立ててくれるだろう。彼の我慢強いディフェンススタイルも現在の役回りに適したものである。その他の強みも決してリバプールでの役割にマッチしないものではない。3節アーセナル戦では比較的良好なパフォーマンスだったことからも、ケルケズの能力そのものに疑いの余地は無い。彼には十分な時間を与え、スロットの指導による才能の開花に期待したいところだ。

エピソード

引用元:ケルケズ公式Instagram

◆セルビアのウルバスという街で生まれた。

◆祖母のルーツによりハンガリー代表の選択権を持っていた。14 歳の時にはハンガリー代表としてプレーする意思を固めていたという。

◆ドミニク・ソボスライとは国籍を同じくする親友。電話やテキストメッセージも頻繁に送り合う仲で、ケルケズがボーンマスに移籍する前からかなり親しい関係だったという。

◆語学に堪能で、セルビア語、ハンガリー語、ドイツ語、英語を操ることができ、イタリア語も日常会話レベルなら対応可能。

◆MaximusとHadという名前の犬を飼っている。

◆兄のマルコ・ケルケズは現在オランダのフォルトゥナ・シッタルトに所属するプロサッカー選手。

◆The Guardianのインタビューで、

My brothers were tough on me. They would tackle me, I would fall, my skin would be cut and bleed. I realised: ‘I like to do this.’ Cars would not be able to drive down the road because otherwise our ball would hit the cars… (兄たちは私に厳しかった。僕にタックルしてきて、僕は転んで、擦りむいて血が出て。それで気が付いた、”これが好きなんだ”って。僕らのボールが車に当たってしまうから、車はその路地を走れなくなったよ。)

引用元:https://www.theguardian.com/football/2024/dec/14/milos-kerkez-bournemouth-premier-league-football

と、幼少期に兄弟と路地裏でサッカーをしていた思い出を語っている。

◆ストリートでサッカーを楽しんだことが現在のプレーや精神を育んだ原体験だという。

◆夏の休暇はセルビアで過ごす。釣りやキャンプなどのアウトドアを楽しみながら、デジタルデトックスを行い、ピッチ上でのモチベーションを養うのだという。

◆プレッシャーについて問われたThe Telegraphの取材に対し、

“I grew up different,” he says. “Different than other European kids. I’m from Serbia, so everything is different with us. You asked me before about pressure and if you feel it on the pitch. It’s not pressure. You play football and you can have a bad game, but you still get paid. Pressure is when you don’t have a meal the next morning like some families. That’s what’s called pressure. What we do is no pressure. It’s just go out and do your job. You have to. It’s Liverpool, you have to always be on and that’s it.” (僕は違う環境で育った。他のヨーロッパの子供たちとは違う。僕はセルビア出身だから、すべてが違う。先ほど『試合でプレッシャーを感じるか』と聞きましたね。でもあれはプレッシャーじゃない。サッカーをして、たとえ悪い試合をしても給料は貰える。本当のプレッシャーとは、翌朝食べるものがない家庭のようなことを指す。それこそが“プレッシャー”。僕たちがやっていることはプレッシャーじゃない。ただピッチに出て、自分の仕事をするだけ。それがリヴァプールだから、常にそうある。それだけのこと。)

引用元:https://www.telegraph.co.uk/football/2025/08/09/milos-kerkez-liverpool-new-signing-unfazed-by-pressure/

と、21歳とは思えない重みのある言葉で返答している。

◆2021年にACミランに移籍した際には、テクニカルダイレクターだったパオロ・マルディーニから電話で直接誘いを受けたのだという。

◆ボーンマスに所属した24-25シーズンにPFA年間ベストイレブンに選出されている。

参考文献

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