ヘンリー
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3リバプールの強化担当者の変遷
①ダミアン・コモリ 『データ寄り』【サッカーにおけるマネーボール化の試み】
FSGがリバプールを買収した際、強化担当に就任したのが、ダミアン・コモリでした。
sports.vice.comの記事によれば、ダミアン・コモリは、レッドソックスが推し進めた「マネーボール」戦略のパイオニアであるビリー・ビーンと実際に会って話をするなど「マネーボール」の信奉者として知られています。
このコモリの強化担当者への就任から、買収当初のFSGはサッカー界でも選手の統計分析を基とした「マネーボール」戦略を導入しようとしていたことが読み取れます。
では、コモリがどのようにリバプールの補強を進めようとしたのかを見てみようと思います。
当時のガーディアン紙の「Secret Footballer」コラムによると、
- 一試合に30回以上「クロス」を上げる。
- ペナルティエリア内において40回以上ヘディング等でコーナーキックやクロスに合わせる
- ファイナル・サードで12回以上のボールの回収をする
以上の3つの条件をクリアすることでチームの勝率を上げることが出来るという分析をコモリが行なっていたようです。
それを踏まえて獲得したのが、アンディ・キャロル、スチュワート・ダウニング、チャーリー・アダムの3選手だったそうです。サイモン・クーパーのコラムによると、3人を獲得する前のシーズンにおいて、キャロルはクロスからのヘディングのゴール数、ダウニングはクロスの数がリーグトップクラスの成績だったそうで、セカンドボールの回収と前線へパスを届けるためにチャーリー・アダムを獲得しています。
しかし、この3人が揃った2011-12シーズンで、キャロルは度重なる怪我もあって本領を発揮できず、ダウニングはリーグ戦で0ゴール、0アシストと結果を残せずに終わり、チームも8位と低迷。このシーズンでコモリはチームを去っています。
この「マネーボール」のサッカー界への導入が不発に終わった理由についてworldsoccertalk.comでの記事では野球とサッカーでの構造的な仕組みの違いについて述べています。
野球では、ご存知の通り攻撃と守備が完全に分断されており、3アウトで切り替わります。攻撃では1番から9番まで各打者が担当することとなります。打線の繋がりという流れはありますが、基本的には各打者が個人の能力を個々に発揮することで得点を入れていくという構造です。実際にはここまで単純ではありませんが、個々の選手の成績が統計化しやすいスポーツと言えます。
反対に、サッカーでは攻撃と守備が流動的であり、基本的には45分ハーフの時間で区切られています。その中で各プレイヤーのパフォーマンスはチームの他のプレイヤーに依存しています。この記事では、例としてストライカーは周りの選手の適切なサポート、チャンスメイクが無ければゴールを挙げることができず、ゴールキーパーはディフェンスの選手やそれより前の選手の助けが無ければクリーン・シートを達成することは出来ないと説明しています。
つまり、コモリはヘディングが得意な選手、クロスが得意な選手、インターセプトが得意な選手という風に各プレイヤーの能力の単純化を行いましたが、いざ試合において噛み合わせてみると、それぞれの得意なプレーを発揮出来なかったという点が「マネーボール」化が上手くいかなかった要因と言えます。
また、コモリがリバプールに所属していた2011年頃は、プレミアリーグで「ホームグロウン」ルールが導入された年でもあり、イングランド国籍の選手の相場が上がり、移籍金が結果的に高くなってしまったという、プレミアリーグ特有の事情も含まれています。
②ブレンダン・ロジャースと移籍委員会 【主観VS 客観】
その次のシーズンから監督もロジャースに変わりますが、FSG は補強において移籍委員会を設け、ロジャースを含めながら話し合うという合議制の施策を採っています。
以下に挙げるのがThisisanfield.comに登場した、エアーのコメントを抜粋したものですが、移籍委員会を設立した狙いとして、ロジャースが獲得したい選手を挙げ、それをデータ分析を混ぜ合わせながら獲得しようという狙いが見えてきます。
「移籍委員会には、パフォーマンス分析のリーダー、スカウトのリーダー、ファーストチームの監督、私自身が含まれています。」
「そして、委員会における移籍交渉のプロセスは、ロジャースとそのアシスタントや我々のスカウトによるオールドタイプのスカウトと、ヨーロッパと世界の選手の統計分析という二つの要素を混ぜ合わせたものなのです」
「ロジャースは、各ポジションで最高の選手を獲得するために分析作業を行うチームを持っています。それは物事の組み合わせなのです。」
「委員会の中で、ロジャースは自分のチームで補強すべきポジションについて説明し、スカウトチームは推奨事項を提示し、委員会は価値と賃金の面でプレーヤーを総合的に評価します。」
同じ記事によれば、この移籍委員会の主要メンバーは以下のようになります。
- デイブ・フォールズ スカウト
- バリー・ハンター スカウト
- マイケル・エドワーズ パフォーマンス分析責任者
- イアン・エアー CEO
- ブレンダン・ロジャース 監督
- マイク・ゴードン FSG社長
このメンバーで選手獲得について、旧来のスカウティングやデータ分析、ロジャースの意向等を踏まえながら検討していたようなのですが、この移籍委員会が獲得を決めた選手とロジャースが実際に獲得したかった選手との間でズレが生じていたようです。
誰が移籍委員会が選んだ選手か、ロジャースが希望していた選手なのかは明確には分かりませんが、thisisanfield.comによれば、ロジャース監督期にリバプールが獲得した選手の内、マルコヴィッチ、モレノ、サコー、オリギは移籍委員会が選んだ選手であり、ロブレン、クライン、ミルナー、ララーナ、ベンテケはロジャースが選んだ選手であるとしています。
このように、移籍委員会がスカウティングやデータに基づいて獲得した選手と、現場で指揮を執るロジャースが自身の戦術や経験から欲しいと思った選手にズレが生じています。
このような状況になってしまった背景には様々な要因があると思いますが、個人的には、FSGがMLBにおいて培ってきた常識とサッカーとでは全く違うものだったのではと思っています。
MLBにおいて、現場で指揮を執る監督と選手補強を担当するGMや強化責任者は明確に差別化されており、基本的にはフロントが獲得した選手を、活用するのが監督という役割分担がされています。
それに対して、サッカーにおいては最近少なくなっているとはいえ、監督が選手起用だけではなく、選手補強も担当するというケースも存在しており、現場の意向というものも重要視されています。
以上のことを踏まえると、この章では、主観VS客観という表現をさせて頂きましたが、ロジャース自身の哲学からくる『主観』とエドワーズをはじめとする、データやスカウティングから総合的な判断を下す『客観』がぶつかり合ってしまったのはロジャースにとって気の毒な状況であったと言えます。
③クロップと移籍委員会 『主観寄り』【よりクロップの意向を踏まえたチーム作りに】
2015年からはクロップがリバプールの監督に就任し、そのしばらく後に以前、記事で紹介したように、マイケル・エドワーズがチームの強化責任者である、SDに就任しています。
移籍市場において、具体的にどのような意思決定で動いているかは、直接は分かりませんが、リバプールエコーのジェームズ・ピアースのインタビュー記事に現在の強化体制がコメントされているので、それを引用する形で紹介いたします。
ウォルター:「私はジェームズが、移籍委員会のプロセスがロジャース時代から現在までに合理化されていることを明確にすることを望んでいました。明らかにクロップはより強い影響力を持っていますが、スカウティングから交渉に至るまでのプロセスと役割はどのようになっていますか?」
ピアース:「クロップ以外にも、マイク・ゴードン、マイケル・エドワーズ、デーブ・フォールズ、バリー・ハンターなど、移籍交渉におけるプロセスでは、重要な人材が依然として大きなインプットを持っています。」
「フォールズとハンターは、スカウトの面で多くのバックグラウンド作業を行い、強化を必要とするチームの領域にショートリストを作成する手助けをしています。エドワーズは交渉を行ない、ゴードンは財布の紐を握っています。」
「クロップは確かにロジャースよりも強い影響力を持っていますが、クロップの意向に厳格というわけではありません。移籍交渉のプロセスでは他の人と良好な関係を持ち、彼らの意見を高く評価します。」
「変更されたのは、クロップの選手に対する判断がもっと信頼されていると言うことです。もしある選手が獲得可能で、クロップが彼を欲していると言い、彼が獲得する価値があると言うなら、リバプールはその選手とサインするだろうということです。」
以上のピアースの記事をまとめると、一つ前の章で紹介した、移籍委員会の主要メンバーは変わっておらず、エドワーズがエアーの代わりに選手交渉を担当していることが変更点となります。
- フォールズとハンター スカウティング
- エドワーズ 交渉
- ゴードン クラブの財政面からの意見出し
ここで以前の強化体制と変わっている点が、引用した記事でも述べられていますが、クロップの獲得したい選手を優先的にリサーチ、交渉している点です。
今夏の移籍市場では、クロップが獲得を希望している、ファン・ダイクとナビ・ケイタの獲得交渉を優先していることが知られているように、クロップの判断にかなりの重きが置かれています。
今回、レッドソックスとリバプールの強化体制を比較するにあたり、見えてきたものは、両チームがデータ分析を主体とする客観的な見方から、スカウトと自身の経験を重視するドンブロウスキーのやり方や、クロップの判断に基づくような、主観的な選手補強へと移ってきたのではないかという点です。
次のページではこれらを踏まえて考察とまとめを行いたいと思います。
こんにちは!! ボクの好きな「マネー・ボール」とリヴァプールが、こんな関係
で繋がっていたなんて!? とても興味深く読ませて頂き、勉強になりました♪
背番号4さん、コメントありがとうございます。
そう言って頂けて、嬉しく思いますし、励みになります!
現在書いている記事でも「マネー・ボール」が出てくる予定なので、お読み頂けると嬉しいです。