Yumiko Tamaru
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2018年、「ヨコハマ・フットボール映画祭」を皮切りに、日本国内数カ所で「YOU’LL NEVER WALK ALONE」という映画が上映されました。リバプールファンなら間違いなく楽しめる素晴らしい映画で、この映画を見たことがきっかけでリバプールファンになったという方もいるほどです。日本のアマゾンでDVDを購入できるようなので、未見の方はぜひご覧になってみてください。
この映画は、「You’ll Never Walk Alone」という歌が、リバプールを初めとする多くのフットボールクラブのアンセムとして親しまれるようになった過程を追っているドキュメンタリーなのですが、クラブ関係者やファンが「ヒルズボロの悲劇」と「ザ・サン」について語る場面があります。そこで、今回は「ヨコハマ・フットボール映画祭」実行委員長福島成人さん(@narito)の許可をいただき、「ヒルズボロの悲劇」と「ザ・サン」について、クロップ監督やクラブ関係者、そして「ヒルズボロの悲劇」の生存者たちが語っている部分を下に引用させていただくことにしました。
登場するのは以下の6人です。
1. キャンピノ(ドイツ人ミュージシャン、リバプールファン、クロップ監督の友人、父親はイングランド人)
2. ユルゲン・クロップ監督(リバプールFC監督)
3. フリーダ・ケリー(ザ・ビートルズ元秘書)
4. ジョージ・セフトン(アンフィールドのスタジアムアナウンサー、@VoiceOfAnfield)
5. アドリアン・テンパニー(ヒルズボロの悲劇の生存者、「ガーディアン」紙記者、@AdrianTempany)
6. ダミアン・カヴァナ(ヒルズボロの悲劇の生存者、@DamianKav)
最初に登場するドイツ人ミュージシャンのキャンピノは、Die Tosen Hosen(@dietosenhosen)というバンドでボーカルを担当している人ですが、2018年5月26日にリバプールがキエフでのCL決勝でレアル・マドリードに敗れた数時間後に、クロップ監督と一緒に肩を組み、「いつかトロフィーをリバプールに持ち帰るさ♪」と陽気に歌を歌っていた人です。
Klopp und Campino haben eine Nachricht für alle Liverpool-Fans.
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Quelle: https://t.co/qVz1RAvHug pic.twitter.com/ryCN2iQAZQ— chris bandicoot. (@onlinegott) May 27, 2018
映画内で語られた言葉(「ザ・サン」について語っている場面)
6人の言葉を(日本語字幕をほぼそのまま)下に引用させていただきます。まずは「ザ・サン」について語っている場面です。
キャンピノ(ドイツ人ミュージシャン、リバプールファン、クロップ監督の友人)
「彼(クロップ)は利口で街の空気をすぐ理解したし、自らを笑い飛ばせるこの街にあっているよ。サン紙に対する明快な声明もよかった。ここではあの新聞は20年ボイコットされている」
ユルゲン・クロップ監督
「売ってないし、読む人もいません。空港に降りたら、すぐ捨てないとダメだ」
フリーダ・ケリー(ザ・ビートルズ元秘書)
「サッカーは見ないけど、サンは買わない。絶対ダメ。家にあるのもダメ。誰かが持っていたら詰め寄るわ。民主主義だから、買いたければ買ったらいいんです。でも誰も買わない。それがリバプール。27年も前のこと? 関係ありません」
キャンピノ(ドイツ人ミュージシャン、リバプールファン、クロップ監督の友人)
「ドイツで想像できる? 25年以上も超大手新聞が買えない街。ここは徹底している」
ジョージ・セフトン(アンフィールドのスタジアムアナウンサー)
「あの新聞は煽情的な記事ばかり。南ヨークシャー警察が地元の新聞社にひどいデマを流してミスリードしました。どの新聞社に対しても。多くの新聞社は記事にするのをためらった。でもサンは恥知らずでモラルもない。新聞が売れたらいいんです。大きな字で一面に載せた。今も変わりません。平気で人を傷つける」
キャンピノ(ドイツ人ミュージシャン、リバプールファン、クロップ監督の友人)
「2年前のクリスマス。全国でサンは無料特別号を配った。宣伝さ。郵便配達人が配るんだけど、ここでは全員拒否。揉めに揉めた結果、解雇されなかった。郵便配達人が配達を拒否したのに。すごいよね」
映画内で語られた言葉(ヒルズボロの悲劇について語っている場面)
ここからは、事故(ヒルズボロの悲劇)について語っている場面です。
ユルゲン・クロップ監督
「誰でも大事故はショックです。自分の街や知っている人ならなおさら。でも、遅かれ早かれ忘れます。この街では違いました。25年間、誰もが一緒に悼んでいるのではなく、事実を認めて欲しいのです」
アドリアン・テンパニー(ヒルズボロの悲劇の生存者、「ガーディアン」紙記者)
「1989年、春。ヒルズボロへ行きました。暖かく晴れたいい天気でした。特別な日に思えました。あの日の思い出は”命より大事なものはない”。僕は19歳で、ファン歴6年目でした。FAカップの準決勝。1989年当時は混雑がひどく、席取りが大変で」
ダミアン・カヴァナ(ヒルズボロの悲劇の生存者)
「少し早めにスタジアムに行きました。2時半ぐらいにはゴール裏エリアにいました。特別なエリアですからね。ゴール裏の雰囲気はすごいですよ。熱心で、応援のしかたも熟練している。若い僕らは彼らに憧れていました。明るい未来を描いていた。そんな時、ゴール裏ではどんどん観客が増えていきました。」
アドリアン・テンパニー(ヒルズボロの悲劇の生存者、「ガーディアン」紙記者)
「1分か2分の間に2千人が狭いトンネルに殺到しました。その出口の幅は4メートル。しかも勾配60度の下り坂で、スタジアムに向かって下がっていくのです。ぎゅうぎゅう詰めですよ。人波は押されてトンネルに入り、スタジアムにはき出される。トンネルにいた友人はこの人波にさらわれて、もみくちゃのまま背中から入場したそうです。警察が制御できなかった。ファンは時間通りに来たんです。酔っていなかったし、チケットも持っていた。警察が観客誘導に失敗したんです。僕の一番の失敗は、腕を上げていなかったことでした。人に押されて、首から下はまったく動かせなかった。動かせるのは目、口、頭だけ。それだけ。観客はひどく圧迫されて、具合の悪い人も出ました。排泄物の臭いが立ちこめていて、顔色が悪くなっていきました。叫ぶ人たちも。左に大胆な奴が2人いて、人垣の上を泳ぐように移動して、フェンスにたどり着きました。上は有刺鉄線で危なかったですが、どうにかよじ登りました。でも、警官がピッチ側から来て、奴らを押し返したんです。外に避難しようとしたのに、警察は中へ押し戻したのです。死者96人。負傷者766人。観客が助け合わなければ、死人は増えたでしょう。僕たちは助けようとしました。でも、警察は何もしなかった。そして人が死んだのを僕たちのせいにした。ずっと真実を隠していたのです。23年もの間ね」
ジョージ・セフトン(アンフィールドのスタジアムアナウンサー)
「事故の3日後、サン紙に記事が出ました。サンを新聞とは呼びたくありません。新聞じゃないですよ。『真実』という大きな見出しで、『リバプールファンは死人から財布を盗んだ』とか、『警察に暴行した』だとか、ひどい内容でした。真っ赤な嘘ですよ。許せませんでした。それからサン紙の記事を読んだ人たちが、リバプールの人を罵倒した。もちろん私のことも含めてです。絶対に許すことはありません」
ユルゲン・クロップ監督
「普通は2、3年経てば『もういい』となります。真実は違うと誰もが知っているし。でも、ここでは違う。個人的には、このやり方がいいとは思いません。でも、ここはそういう人達の街だ。関わった人全員が同じ痛みを共有している。深刻な出来事が人々に絆を作ったのです。最終的な評決が下された時は、リバプールにとって歴史的な日になりました。支えてくれたエバートンの人たちにとってもね。決して屈しなかった。真実を明らかにするためにね。自分の大切な人の思い出を、悪く言われたままにしておけないと。そういう街なのです」
ジョージ・セフトン(アンフィールドのスタジアムアナウンサー)
「評決の後、死因審問会から出てきた犠牲者の家族や友人は、感情を爆発させていました。長年、中傷や嫌がらせを受けてきたのです。裁判所から出てきてカメラの前に立ち、You’ll Never Walk Aloneを歌いました。私たちの賛美歌です。リバプールの人々は、いつも追悼の場でこれを歌う。この歌が私たちを結びつける。どの視点から見てもリバプールの『国歌』(national anthem)です」
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以上です。ファン、リバプール市民、クラブ関係者、事故の生存者たちのリアルな証言を読んでいただいたことで、「ヒルズボロの悲劇」と「ザ・サン」についての理解が少しでも深まったようでしたら幸いです。
次の記事では、事故の2人の生存者(1人は上の引用にも登場したダミアン・カヴァナ)が、警察と「ザ・サン」が流した嘘によっていかに苦しんできたかを語っているビデオをご紹介します。
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