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ついに迎えたCL開幕、我らがリバプールはPSG相手に厳しい試合を強いられましたが、後半アディショナルタイムのボビーの劇的なゴールで3-2で勝利。GS突破を争うであろうPSGに対しホームでの勝利という結果を手にしました。
今期からPSG監督に就任したトーマス・トゥヘルとリバプール監督クロップの元ドルトムント対決にも注目が集まりましたが、敵将トゥヘルは智将の呼び声にふさわしい緻密な戦術でビルドアップを仕掛け、それに応じるようにクロップも用意されたプレーで応戦、結果のみならず試合そのものもエキサイティングなものとなりました。
というわけで、今回はその両チームのビルドアップvs守備という観点に立って、勝敗を分けたポイントを探ってみましょう。
スタメン・フォーメーション図
リバプールはほぼベストメンバーですが、フィルミーノはスパーズ戦での目の負傷によりベンチスタート。代わりにスタリッジが入っています。中盤の構成は試合によって異なるところがありますが、この試合ではヘンダーソンを中盤底で起用。今シーズンこれまで採用してきた3センター方式というよりは昨シーズンまでの1アンカー+2IHに近いのではないかと思います。
パリはヴェラッティが負傷中、代わりに本職CBのマルキーニョスがアンカーを務めています。リバプールと噂になったラビオは中盤IHで出場。以前から大注目ではありましたがW杯でさらに株を上げたムバッペ、同じくW杯で奮闘を見せたカバーニ、逆にやや評価を下げてしまった感のあるネイマールによる3トップは、リバプールのそれにも負けず劣らずの破壊力があります。
崩せなかったPSG
PSGのビルドアップvsリバプールの守備
まずはPSGのビルドアップの基本形を確認しておきましょう。
アンカーに入ったマルキーニョスが、サリーダ・ラボルピアーナの動きで両CBの間へ落ちます。リバプールの両WGがサイドに張り出している場合には、両IHのディマリアとラビオに簡単にパスを通すことができます。そこからは展開力のあるラビオならば長いパスをバックライン裏に落としてムバッペを走らせたり、ディマリアが受ければ落ちてくるネイマールやサイドに張ったベルナトとのコンビネーションで最終的にはネイマールのドリブル突破を狙う形が見られました。あるいは両WGがハーフスペースに下りてきて受ける形。これはリバプール風ですね。
それを恐れてリバプールの3トップが中央で3バックと同数プレスを仕掛けると、今度はロブパスで両SBへ展開。リバプールの両SBも対応したいのですが、ネイマール、ムバッペという強力WG陣にピン留めされ自由になりません。主にはベルナトへの展開が目立ち、ネイマールが下りてきて預けるパターンがよく見られました。
PSGのこれらの形のビルドアップは、後半35分あたりでカバーニ、ディマリアに代えてドラクスラー、シュポ=モティングが投入されネイマールトップ下の4-2-3-1に変化するまでは常に行われており、ビルドアップそのものとしては成功していました。3トップに対して3バックでビルドアップを試みるのはやや危険にも思われますが、両WGでリバプール両SBをピン留めできる点が大きく、逆にこれで成功すれば後の数的不利を解消することができるという狙いでしょう。
リバプールはどう止めたのか?
以上のように組織化されたパリのビルドアップですが、前半開始から20分ぐらいはそれなりのチャンスを作り出せたものの、それ以降は大きなチャンスを作ることが出来ずに進んでいきます。ビルドアップそのものには成功しているものの、その後の崩しの局面で打開できない状況が続いていました。
そもそも、パリの狙っていた崩し方は
- ネイマールのドリブル
- ネイマール、ディマリア、ベルナトのコンビネーションによるサイド突破
- ムバッペの裏抜け
の3種類。一方のリバプールの対処法はかなりシンプルで、
- 中盤3センターを中心とした組織的なプレッシング
- ファンダイク、ゴメスの個人能力
これら2つがかなりの高次元に達しており、パリでも崩せなかったというのが実情です。
まず①のシーンとして、37分32秒からを見ておきましょう。
キンペンベから今度は下りてきたネイマールへパスが入ります。TAAはネイマールをマークしながら下がってきており、他のリバプールの選手達はほぼ定位置です。ベルナトがその脇を駆け上がろうとしており、TAAはつり出されているのでここでスイッチされると完全に抜け出されてしまう場面です。
ここでのTAAの仕事は「絶対にネイマールに前を向かせないこと」。その通りに、TAAは密着マークでネイマールを激しく攻め立てます。その間にジニ、ヘンド、そしてサラーがプレスバック。ここを奪いどころと定め、一斉に襲いかかるようなプレッシングを見せます。
それでもダメならジニ、ヘンドと次々と襲いかかり、ヘンドの深いタックルでボールを掻き出します。結局サラーがボールを奪い、危険な場面を脱しました。このように、中盤3人が前後左右にハードワークすることを前提としつつ、ここと定めた狙い所で激しくプレスするやり方はリバプールに完全に浸透しており、この日の3センター全員が出色の出来を見せていたところも合わせて見事な守備を披露していました。
また、忘れてはいけないのがサラー、そしてマネの両WGの献身的なプレスバック。サラーはこのシーン以外にも、ベルナトにボールを展開されたところで下がってきてアーノルドと挟んで対応したり、カットインを阻止したり。PSGのビルドアップ後が立ち行かなくなった理由として、サラーの献身的な守備は確実にその一つとなっていました。
確かに2失点目の原因となったシーンと、その直前のシーンで2回連続横パスをかっさらわれた印象が悪すぎたこの日のサラーですが、こういった献身的なプレスバックと、この後説明する攻撃時にベルナトをピン留めする働きは十分に評価に値するものだったと思います。
②のゴメス、ファンダイクの個人能力については、まぁ言わずもがなでしょう。それ以前の場面で十分なプレスにより奪いどころがかなり定まっているのは彼らにとって非常に有利ですが、現在世界トップクラスのCBであるファンダイクはもちろんのこと、開幕から先発を続けるジョー・ゴメスも、持ち前のスピードと思い切りの良さを活かしてのびのびとプレー出来ています。
結局のところ、PSGとしては後半35分以降のネイマールトップ下4-2-3-1にしてネイマールが中央から突破を仕掛ける形にしてようやくチャンスを生み出していた様に思えます。トップ下に入ったネイマールは下がって受けにも行っていた関係でそれなりにフリーにボールを持って前を向くシーンがありました。そこからのドリブルに対してはミルナーが早い段階で潰したシーンが1つ、サラーのパスをカットされたところからカウンターになっていたためミルナーが間に合わなかった2失点目のシーンの2つが主に挙げられますが、正直この形の方がチャンスを作れたのではないかと思っています。
崩せたリバプール
リバプールのビルドアップvsPSGの守備①
対するリバプールのビルドアップも2種類用意されていたように思います。まずは一番の基本パターンで、PSGのビルドアップとほぼ同じ形。ヘンダーソンがサリーダし(この言葉はこういう風に使うのか?笑)両SBを押し上げ、WGはハーフスペースへ位置します。そこからのパスコースとしては、
- 両SBへ渡してサイド攻撃
- WGが下りてきて縦パス
の2つが主に考えられますが、ここまでパターン化されたビルドアップには流石に智将トゥヘルは対策を講じていました。
PSGは3トップがリバプールの3バックにプレス、特にWGはSBへのパスコースを作られないよう配慮しています。先ほどのPSGのビルドアップとほぼ同じなのに、あのときはロブパスで回避、今回はパスコースがないじゃあおかしいじゃないか!というご指摘はごもっともですが、リバプールの方が微妙にSBのポジションが低いかまたは3バックの幅が広い場合が多く、それだとロブパスは厳しいという状況が多く見られました。
それではと②のパターンを狙うと、サラーにはベルナトがしっかりとマークしており、ディマリアと挟み込んでボールを奪うパターンを狙っていたようです。そこからの派生系としては、サラーが受けて中へのパスを狙うもキンペンベにカットされた23分50秒あたりのシーン、サラーがキープしている間に外を廻ったミルナーへ渡した24分16秒付近のシーンなどがあります。
ちなみに、ここではヘンダーソンがバックラインに落ちる形で説明していますが、後半に入るとジニや特にミルナーが降りてくるパターンもよく見られました。これは以下で説明するヘンダーソンがアンカーに残るパターンに近いともいえます。
リバプールのビルドアップvsPSGの守備②
もう1つのパターンが、ヘンダーソンが落ちずにロボが残って左右非対称になるパターン。後半になると張り出したTAAへのロングパスで右サイドを攻略するパターンが非常に多く見られました。ここで重要なのは、サラーがベルナトをピン留めすることでTAAへのプレスができなくなるということ。多くの場合はディマリアがTAAに対応していましたが、TAAは突破力もあり、アーリークロスも上げられるのでほぼ確実にチャンスシーンにつなげることができていました。TAAのクロス精度は試合によってそれなりに波がありますが、この試合はかなり高い精度のクロスを右サイドから多く供給していました。例えば41分02秒からのプレー。
ゴメス、ダイク、ロボが3バックを形成。この直前は2CBしかいなかったのですが、ロボがそれを見て下りてきました。このとき左外に張ってるのは多分マネですか?
いったんロボに預けリターンを受けたダイクが右へ展開。セオリー通り左へ寄せてから右でアイソレーションを作ります。しかし、ダイクのロングキックのフォームは惚れ惚れする美しさですね。
受けたTAAは得意のアーリークロス。しかしこれはキンペンベに跳ね返されます。よく見ると、このシーンではサラーのマークをキンペンベに受け渡してベルナトはTAAへ対応しようと出てきていることが分かります。
ヘンダーソンが中央にいるもう1つの利点はこのこぼれ球に対する反応がしやすいこと。後半は特にこれが効いており、リバプールが一方的に攻め続けることができた理由の1つになっていました。
PSGのCBはチアゴシウバとキンペンベで、183cmと182cmと、CBとしては決して大柄ではありません(ちらっと調べたら、ウイイレのデータでは188cmになってるの何故ですか……?)。この日CFに入っていたスタリッジが188cmと、まぁ超長身というわけでもないですが、5cmの差は「それなりにある」と言えるでしょう。
興味深いのは、先ほど解説したシーンのたった2分後、43分ちょうどからのシーンでは、今度はジニが3バックに入りロボは外へ張っていることです。
ジニはロボに対しポジションの入れ替わりを指示しています。言われたとおりにジニが左CB、ロボが左サイドへ張り出す形になります。ダイクとジニが何度かパス交換し、ロボは先ほどより微妙に下がっています。何故2分前のシーンとは別のやり方にしたかというと、ロボが左外でパスを受けられる位置にいることにより、PSGの守備を先ほどよりも全体的にリバプール左サイド寄りにしたかったため。より丁寧にアーノルドのアイソレーションを作り出したのが1つ、そしてもう1つはベルナト、キンペンベ間でのサラーの受け渡しを難しくしたものと思われます。アーノルドが受けてから、ベルナトはなんと3回もサラーのポジションを確認、恐らく同時にキンペンベの位置も確認していたのでしょう。先ほどよりも長い距離のスライドになったため、ほんのわずかの距離感の違いではあるのですがキンペンベに受け渡せないと判断したベルナトは、より危険度の高いサラーへのマークを選択します。これにより、TAAにはパリのIHディマリアが急いで下がって対応しなければならなくなっています。結局抜け出したTAAがクロス、中でスタリッジがそらしましたがマネにはギリギリ合いませんでした。しかし大きなチャンスを作ったシーンといえるでしょう。
特に後半はこの形がはまり続け、TAAは常にフリーでボールを受けることが出来ていました。中でも目立ったのはやはりミルナー、ヘンド、ジニの3センターの働きっぷり。各々が時と場合に応じて3バックの一角を担い、そうでない場合にはTAAをサポートしたり(主にミルナー)、縦に走り込んで相手の守備のギャップを突いたり(主にジニ)、カウンターに対処しつつこぼれ球を拾ってポゼッションを継続させたり(主にヘンド)、まさに八面六臂の大活躍。個人的にこの試合のMOMはミルナーですが、3センターのうちの誰かであれば全く疑問はありません。
というわけで、極めて精緻な戦術に基づくハイレベルな攻防が繰り広げられた試合だったわけですが、全体としてみればリバプール勝利は妥当なものだったでしょう。このビルドアップをめぐる攻防を軸に、もう一度試合を見返してみると面白いのではないでしょうか。
それではまた。
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