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プレミアリーグのデザインが2016-17シーズンから大きく変更されているのは皆さまご存知だと思いますが、何故プレミアリーグはデザインを大幅に変更し、そのロゴからライオンの体を消したのでしょうか。
そこにはしっかりと理由が存在します。決して「 経費削減による簡略化 」ということではありません。
この記事では、プレミアリーグのデザイン変更の裏にある狙いを紐解き、他のリーグにも広がるデザイントレンドについて確認していきます。
プレミアリーグのロゴ変更
プレミアリーグは16-17シーズンからロゴデザインを一新しました。これはバークレイズのタイトルスポンサー契約(年間4000万ポンドといわれる)が切れることに伴って行われたもので、これまでの全身ライオンがサッカーボールを持っているものから、ライオンの顔のみがフィーチャーされたものへ変更されました。
ライオンの体は消え、サッカーボールも無くなりました。そして、バークレイズのブランドカラーである水色にとらわれない大胆なカラー展開も可能になっています。
Read more about the Premier League’s new look: https://t.co/FF56pOFlS9 pic.twitter.com/fCursGNkyQ
— Premier League (@premierleague) 2016年2月9日
このカラフルな色合い、現在は赤・水色・緑・黄色がバリエーションとしてありますが3年毎にアップデートされるそうです。こういったことが出来るのも、タイトルスポンサーが付いてないことの強みですよね。
なお、プレミアリーグは1992年の発足以来、これが4度目のロゴ変更です。
こうやって並べてみると今回のバージョンがいかに大きな変化であるか分かります。
今回のデザイン変更を手掛けたのは、DesignStudioというクリエイティブエージェンシーと、Robin Brand Consultantsというブランディングを行う会社です。DesignStudioは、民泊のAirbnbなども手がけたことでも有名です。
何故彼らはライオンの体を消さなければならなかったのか?それを知るためにまずは、ここ数年におけるデザイン界のトレンドをみる必要があります。
昨今のデザイントレンド~よりシンプルに力強く~
スポーツ業界に限らず、デザインにはトレンドというものが存在します。デザイナーは、デザインが視覚的に与える印象面も意識しながら、使いやすさや伝わりやすさの機能面も優れたものに仕上げなくてはなりません。
このプレミアリーグの新しいデザインは、いわゆる「ミニマルデザイン」です。ミニマルデザインとは、ここ数年で流行っているデザイン手法で、必要最低限の要素で構成し、立体感やリアル感などの装飾は極力排除して表現していきます。長らくデジタル領域においては、スキューモーフィズム(skeuomorphism)と呼ばれる現実にあるものをリアルに表現するデザイン(ボタンは立体的で押せる感じが良い等)が好まれていました。 しかし、現在のトレンドでいうと、よりシンプルで力強いものが好まれています。(理由は後述)
ミニマルデザインと似たような言葉で「フラットデザイン」というのもあります。これが脚光を浴びたのは2013年、iPhone5sに搭載されたiOS7でした。
この根底にあるのは「みんなもうタッチパネルに慣れたから、もう立体的に見せなくてもいいよね。その方がオシャレだし、容量も軽くなるし」という思想であり、この時期にAppleやMicrosoftがこぞってフラットデザインを採用し、WEB界隈では一気にフラット化の波が押し寄せました。
確かにデザイン性は向上しましたが、フラットデザインの弱点として「コンテンツ領域の区別が分かりにくい」「ボタンが押しにくい」などが挙げられました。要は、一気に平面的にしすぎちゃったわけですね。
そこで、2014年にGoogleが「マテリアルデザイン」というデザインガイドラインを提唱します。これは「シンプルにはするけど、そんなに極端にフラットにしすぎなくても良いよね。質感も大事にしよう!」という意識のもとで設計されたもので、今もほとんどのGoogleサービスで採用されています。このマテリアルデザインは一気に世界のWEB業界の主流になり現在(2017年)に至ります。
ただし、マテリアルデザインはGoogleのものであり、Googleによって明確なガイドラインが定められています。巷に溢れているものの大半は、根底の設計思想はGoogleのマテリアルデザインに倣い、それを独自にカスタマイズしているものなので、厳密にいうと「マテリアル風デザイン」となります。ここではこれを広義の意味として「ミニマルデザイン」と呼んでいます。いずれにしろ、世界のデザイントレンドは「シンプル化」しているのです。
さて、では何故ここ数年のデザイントレンドが「シンプル化」しているかというと、最大の要因は「表示されるデバイスの多様化」という環境変化です。スマートフォン、タブレット、スマートウォッチなどのタッチデバイスに加え、PCやTV画面や大型ビジョン、もちろん雑誌や新聞などの紙媒体など、あらゆるデバイスにおいて可読性を損なわず、均一的な表現が求められる時代です。デバイスが変わっても使いやすいユーザーインターフェースが必要になり、複雑な表現では都合が悪くなってしまいました。これがWEB業界においてデザインがシンプル化・フラット化していった最大の理由です。また、多様なデバイスでアクセスされることが前提になる場合、読み込み速度が早くなるというのもシンプルな表現の大きな魅力となります。
デザインのシンプル化の波はWEB業界に限らず、一般的な企業へも広がっています。もはやどんな企業もあらゆるデバイスでユーザーと接点を持つので当然の流れです。近年ロゴを変更した様々なジャンルの企業などを見ても、 このようにシンプル化している例は数多くみられます。
マスターカード
スターバックス
クアーズライト
プレミアリーグのデザイン変更の狙い
プレミアリーグもこの流れに沿って、リーグのVI(Visual Identity)を再定義しています。
デザインを担当したDesignStudioのエグゼクティブクリエイティブディレクターのStuart Watsonは、「まず最初にアプリのアイコンとしてどう見えるのかを考えて設計を始めた」と語っています。最近のWEB業界では、WEBサイトを作成する際に「スマホファースト(モバイルファースト)」で考えることが一般的になっています。インターネットの世界では圧倒的にモバイル端末からのアクセスが増加していて、それにあわせてスマホからの見え方を中心に設計していくというものです。
今回のプレミアリーグの場合は、ブランド全体の設計です。それをスマホのアプリアイコンから始めたというのはなかなか興味深いエピソードですが、今の時代を反映しているといえるでしょう。この作成過程において、ライオンの体は取り除かれました。
そして、プレミアリーグにとって重要な「放送」における見え方です。言うまでもなく試合の放映権収入はプレミアリーグの最も大きな収益源です。英国内ではまだまだTV視聴が多いようですが、世界においてはデジタルデバイスにおける視聴が増加しています。ここにも視聴環境の変化が大きく関係しています。
日本においても16-17シーズンから起きた大きな変化を思い出してみてください。プレミアリーグの視聴デバイスは大きく変わりましたね。スマートフォンやタブレット、TV画面などのどんなデバイスであっても分かりやすさはもちろん、見栄えも良くブランドイメージを確立する必要がありました。世界展開を強めるプレミアリーグにとって、ここは重要課題です。
そして作成されたのがあのロゴデザインであり、下記の映像グラフィックスです。とても洗練されていてカッコイイですね。
これはDixonBaxiというクリエイティブエージェンシーが手がけていて、明らかにデジタルデバイスでの視聴を意識したものです。半透明のカラフルな下地に、マテリアルデザイン的な気持ちのよいモーションは、画面の小さなスマートフォンで見たときにも適度に存在感を発揮し新たな視聴体験を生み出し、デザインの力でプレミアリーグのブランド価値を高めることに挑戦します。
デザインはロジカルな作業です。ひらめきも必要ですが、最終的には緻密なロジックで決定されます。 今回のデザイン変更は、プレミアリーグが狙う世界展開、そして試合の視聴環境の変化に対応しながら、リーグのブランド価値を高めていくために必要な変化だったのです。そこには既にプレミアリーグが築き上げてきた世界観があったことも大きく、今回のデザイン変更はそれをさらにミニマルで洗練された形へ昇華させています。よりシンプルで力強く。もはやプレミアリーグはロゴデザインでサッカーボールを出す必要は無いのです。
もちろん放送に限らず、新デザインのミニマルでカラフルな世界観はあらゆるシーンや表示デバイスにおいて最適化されていて、洗練された存在感を発揮します。タイトルスポンサーがつかなくなったこのタイミングで行うにはベストな変更だったといえるでしょう。
続いてそんな2017年において、各国リーグのロゴデザインはどうなっているか見ていきましょう。
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