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【序章】
今回はマネの左膝の怪我と手術に関する超マニアックな医学的考察記事です。
文字数は2,500字程度とそれほど多くはありませんが、内容がかなり専門的なものになっています。
膝痛で悩んでいる方には、是非ご一読いただきたい内容ですが、それ以外の方には正直・・・な内容だと思います。
それでは本編の始まり、始まりぃ。
【目次】
1.怪我の詳細-ECHOかBBCか-
2.半月板損傷と膝の痛みの関係-医学論文より-
3.膝痛になった時にやるべきこと-終章に代えて-
1.怪我の詳細-ECHOかBBCか-
エバートンとのダービーマッチでベインズと交錯し、左膝を負傷した我らがスピードスター、サディオ・マネ。
その後、保存療法ではなく手術が決まり、今シーズン絶望との報道がありました。
本人インスタグラムより
現地はもちろん、本ラボでも公式の記事が上がり、かなりのアクセスがあるようです。
今期絶望・・!?サディオ・マネの怪我状況についての続報。
サディオ・マネのシーズン終了が確定。来季に向けて手術へ。
クロップもその尋常ではない腫れ具合にこんなコメントを残しています。
「あんなに腫れていたら、そりゃわからないよ。だが、『監督、大丈夫です! 大したことありません! 蜂に刺されただけです』ということにはならないだろうね」
受傷直後は何とか歩けてはいたので、それほど重傷ではないだろうと思った方もいたと思います。しかし結果は最悪のものとなってしまいました。
今年1月、このセネガル代表がチームを抜けた時期に、勝てずに苦しんだことを考えると、あまりにも痛すぎる戦線離脱です。
実際、この怪我を負った試合でも、先制点は彼の左脚から生まれたものでした。
Many happy returns, Sadio! 🎂pic.twitter.com/vGXEOlHZdO
— LFC India (@LFCIndia) 2017年4月10日
ところで、手術の判断が下された診断名は、地元紙Liverpool ECHOによると「左膝の半月板損傷」とのことでした。
Liverpool’s Sadio Mane to undergo knee surgery and faces eight weeks on the sideline
The Senegal international is set to travel to London for an operation to repair the damaged meniscus in his left knee which has ended his season.
※meniscusが「半月板」です。
ところが天下のBBC様はcartilage=軟骨の損傷とのこと。
Sadio Mane: Liverpool forward to have knee surgery and will miss the end of the season
He damaged cartilage in his left knee in a collision with Leighton Baines in a 3-1 home win over Everton.
※半月板も「軟骨」の一種ではありますが、「膝の怪我」といった場合、区別することが多いです。
「どちらの情報を信じたらいいの?」なんて迷う必要は全くありません。
そこはリバプール番記者Pearce@JamesPearceEchoさん一択です!
「ロンドンまで行って手術を受ける」、「(半月板は除去手術もありますが)修復repair手術を受ける」とか、情報量がBBCをも凌駕!!!
という訳で、マネの手術の目的は「半月板損傷の修復」となります。
「それじゃあ、しょうがない」と諦めのKOPも多いかと思います。
2.半月板損傷と膝の痛みの関係-医学論文より-
最近、膝痛の説明で頻繁に出てくる「半月板損傷」。
「ハンゲツバン」という名前の仰々しさも手伝ってか、重傷感を漂わせますが、実は下記の論文の様に「半月板の損傷と膝の痛みには相関が無い」という研究がかなりの数あります。
無症状膝のMRIにおける異常所見の発生頻度(J Orthop Sci 掲載論文要旨 日本整形外科学会雑誌76 )
無症状膝のMRIから、加齢に伴う半月板の変性と変形性膝関節症との関連および円板状半月板の頻度を検討した。対象は膝に外傷の既往がなく、症状のない健常人115名であり、年齢は13-76歳であった。中略。内側半月板の後節部では全体の18.3%、60歳以上では41.7%に断裂を示すgrade3を認めた。
変形性関節症で半月板断裂の患者351人を対象に、関節鏡下半月板部分切除術と理学療法の治療効果を無作為化試験で比較。変形性関節症の評価尺度WOMAC身体機能スコアの平均改善度は、6カ月時で手術群20.9ポイント、理学療法群18.5ポイントと有意差はなかった。12カ月時の結果も同様で、有害事象の頻度も有意な群間差はなかった。
原文(英文)はこちらをどうぞ。
変性内側半月板断裂症状があり、変形性膝関節症ではない患者146人を対象に、関節鏡下半月板部分切除術の治療効果を無作為化試験で偽手術と比較。中略。運動後膝痛の術後12カ月時の変化に有意な群間差はなかった。
原文(英文)はこちらをどうぞ。
一応、NEJM(New England Journal of Medicine)と無作為化試験について簡単に説明します。
NEJMという医学雑誌は、あのThe S〇nの様ないかがわしいものではなく、「200年以上にわたる歴史を有し,世界でもっとも権威ある週刊総合医学雑誌の一つ」です(日本版公式サイトより)。
要するに、科学誌で言うところのNature、イングランド・サッカー界で言うとThe FAみたいな権威中の権威なんです。
次に無作為化試験(ランダム化比較試験RCT:Randomized Controlled Trial)です。
極簡単に言うと「介入者が患者を選べない状況で、A群とB群に別の治療を施し、どちらの群に行った治療がより効果があったり、より安全なのかを調べる」という試験です。
より詳しくはこちらをご覧ください。
しかも半月板を始めとした「軟骨」自体には、痛みを感じるためのセンサーである神経が存在しません。
wiki軟骨
軟骨(なんこつ、英: cartilage)は、軟骨細胞とそれを取り囲む基質からなる結合組織であるが、組織中には血管、神経、リンパ管が見られない。
私自身の数少ない経験からも、膝の痛みで来院された方が筋肉をほぐすと痛みがその場で改善することは多々ありました。
なので、今回の「半月板損傷」という判断による「手術」が本当に適切だったのか、大いに疑問が残ります。
しかし覆水盆に返らずです。
マネにはしっかりトレーニングを積んでもらって、来シーズン開幕からまたあの爆発的なスピードでプレイを見せてもらいましょう!!!
ちなみに膝の損傷部位としてサッカー選手、とりわけ女性に多いことで有名なものに前十字靱帯があります。
この前十字靱帯を断裂した際の再建手術も、保存療法と差がないという研究があります。
早期ACL再建術、転帰に差なし BMJ
急性前十字靱帯(ACL)損傷の若年成人患者121人を対象に、リハビリ+早期ACL再建術とリハビリ+待機的再建術の5年転帰を無作為化試験で比較。膝損傷・変形性膝関節炎転帰スコアのサブスケールの平均変化は早期群42.9、待機群44.9。早期手術、待機的手術(51%が施術)、リハビリのみの患者間で転帰に差がないことが示唆された。
原文(英文)はこちら。
こちらのBMJ(イギリス医師会雑誌:British Medical Journal)もNEJMと並ぶ世界五大医学雑誌のひとつです。
3.膝痛になった時にやるべきこと-終章に代えて-
「じゃあ膝を痛めた時はどうすればいいの?」とお嘆きの方にアドバイスを差し上げて、本記事を終わらせたいと思います。
答えは「運動」 です。
スポーツをする若年者ではありませんが、半月板の断裂に対して運動を推奨する論文があります。
中年者の半月板変性断裂に対する、運動療法 vs.関節鏡下半月板部分切除術の優越性を検討した無作為化試験の結果、2年時点で両群間に有意差は認められなかったことが、ノルウェー・Martina Hansens HospitalのNina Jullum Kise氏らにより発表された。
それではまた。
YNWA
いつも楽しく読ませていただいております。
ただ、今回の記事に関しては多少疑問がございまして、意見させていただきます。
まず、「有意差がない」ことと、「同等である」ことは全く別物です。
また、半月板は、血流のあるところとないところに分かれており、血流のないところでは修復はほぼ望めないため除去するのが適切だと思われます。
半月板のどこが損傷しているかを把握せずに議論することはできません。
勝手な意見で申し訳ありません。
リバプールファンとして、とにかくマネの早い復帰を望むばかりです。
コメントありがとうございます。
『「有意差がない」ことと、「同等である」ことは全く別物』という情報(統計の基礎?)は知りませんでした。ご指摘ありがとうございます!
こちらのサイトでも少し知識収集してみました↓
http://www.bayaspirin.jp/ja/home/imasara/series_index/toukei/no2/commentary2/
ただ「半月板が断裂していても無症状」という日本整形外科学会の論文もあるので、「半月板の損傷具合で、怪我の程度や手術の適否を判別する」のはいかがなものかという思いは拭えません。
ちなみに今回のマネの手術は、ECHOの記事によるとrepairなので、除去手術ではないようです。
ちなみにECHOはリバプール近郊の膝の専門家にも取材していて(どうしてこちらの医師に頼まなかったのかは不明)、そちらでも「除去術は回復は早いが、後遺症が出る可能性が高いから勧めない」みたいなご意見でした。
http://www.liverpoolecho.co.uk/sport/football/football-news/liverpool-sadio-mane-injury-season-12853313
部位については不明ですが、一般的に「半月板損傷」というと、「内側半月」を痛めることがほとんど、ということがある程度共通認識のようです。
http://www.zamst.jp/tetsujin/meniscus-tear/
しかしトップの画像からもわかるとおり、マネは膝の外側を触っています。
受傷直後過ぎて、痛みの部位を正確に把握できていない可能性も高いと思いますが、受傷肢位もいわゆるKnee Inだったので、「半月板」であれば外側を損傷するのが自然な流れかなと思います。
あと「膝を痛める」シーンの多くがKnee Inだと思います。
Outで痛めることはかなり少ないと思います。
このことは「半月板の損傷はほとんど内側半月の損傷」と矛盾しているように思います。
以上の様な、論理的矛盾があることから、「半月板の損傷を膝痛の原因」とすることには、どうしても納得いかないというのが、現在の正直な気持ちです。
またご意見いただけると幸いです。
あとはマネの順調な回復を祈るばかりです。
丁寧なご返信をいただきありがとうございます。
えばとさんの優れた知見に感激いたしました。
半月板の損傷のみで安静時に疼痛が出るかどうかは微妙ですが、McMurrayのように関節を動かした際に痛みは出ると考えられます。
内側半月・外側半月いずれにしても、一般的に手術を行う場合、血流のある部分が損傷している場合はRepair、無い部分の場合は除去手術ということであろうと思います。つなぎ合わせた後、血流によって回復するかどうかの問題ですね。
(おっしゃる通り本当に半月板損傷かどうかは分かりませんが…笑)
いずれにしても、マネは欠かすことのできないメンバーですし、しっかり治して、来シーズン元気に戻ってきてもらいたいですね。
これからもえばとさんの記事を楽しみにしております。
私見ですが、手術で切除、あるいは修復をすると膝関節に後々影響が出る可能性があります。しかし、保存療法ということになると膝のロッキングが起こる為、フットボール選手の場合、ほぼ、手術を決断すると思われます。
多くの症例をご覧になった上かと思われる、貴重ご意見ありがとうございます!
今回も「修復」のようなので、「選手生命が終わった後に、何かしら後遺症が出るかもしれない」くらいの説明はあったかもしれないですね。
(これだけ激しく毎週末サッカーやってたら、それだけでも何かしらの後遺症が起きても、全く不思議ではないとは思いますが(^^;)
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