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不振に終わった22-23シーズンを終え、反撃の狼煙を上げるべく移籍市場で動き出したリバプール。既に退任が決定しているジュリアン・ウォードが、最後の大仕事としてブライトンからアレクシス・マクアリスタをバーゲン価格で獲得した。後任にはヴォルフスブルク前MDのイェルク・シュマトケが就任し、次なる補強に向けて交渉が進んでいる。前シーズンの惨状、退団によるスカッド編成の変化を要因に、クアディオ・コネ、ケフレン・テュラム、ガブリ・ベイガといった中盤の候補が次々に上がっているが、私はそれと同じくらいディフェンスラインの選手獲得にも力を注ぐべきだと考える。今回は中盤が最優先と言われるこの夏、リバプールがディフェンスライン、特に左利きCBを獲得すべき理由について深掘りしたい。
昨季終盤の巻き返しを支えた3-2ビルドアップの功罪
昨季、中盤のクオリティ不足によって機能不全に陥ったリバプール。2-0-7とも取れる中盤が空洞化した構造はビルドアップの崩壊を分かりやすく象徴していた。一時的な復調は度々みられたものの、格下に取りこぼしを連発し、CL権確保に向けて後がなくなったアーセナル戦。ユルゲン・クロップはこの正念場で勇気を持って新戦術を敢行した。プレミアリーグ随一の展開力とロングキック、並々ならぬパスセンスを併せ持つトレント・アレクサンダー=アーノルドを中盤化する、所謂“偽サイドバック”を用いた3-2ビルドアップ(以下3-2ビルド)だ。苦しみながらも導き出したこの新たな解によって、チームフォームは上向いていくこととなる。
なお、運用当初からマンチェスター・シティとの類似点が指摘されているように、この構造はシティやアーセナルでも採用されており、昨今のトレンド戦術と言えるだろう。(シティは可変を担うのがCBのジョン・ストーンズである場合がある、など各チーム様々な違いが存在する。しかし、今回考えたい主題では、単純に3-2の構造を取ってビルドアップを行うという共通点を持ったチームを比較するだけで、有意義な考察が行えると判断した。よって各チームの細かな違いは割愛することをご容赦願いたい。)
ここで確認しておきたいのは、リバプールの3-2ビルド採用はシティやアーセナルに比べて計画性に欠けていることである。長期計画の一環として段階的に準備を進め、戦術を導入してきた2チームと異なり、その場凌ぎの策が偶然上手くいっただけに過ぎないリバプールは様々な面で課題を抱えている。この課題こそが、左利きCBを補強するべき理由だ。以下でさらに掘り下げていこう。
歪なスカッド構造
他の2チームが十分な準備期間を持ってこの構造を採用し、段階的に移籍市場での選手獲得を進めているのに対し、リバプールは突発的に戦術を切り替えた影響でスカッド構造の変革にまで着手できていない。実際にスカッドを確認してみよう。
(主なユーティリティプレーヤーについては複数ポジションに記載した。特にシティに関してアカンジはSBの位置もこなしていた、など例外があると思うが今回は趣旨に大きく影響しないので容赦願いたい。)
表を見れば一目瞭然だが、リバプールは他の2チームに比べて圧倒的に左利きCBが不足している。というか1人もいないのである。3-2ビルドを行わず、従来の433を続けていても問題になりそうなスカッド編成だが、アーノルドを偽SB化するこのシステムを継続するとなるとさらなる問題が生じる。攻撃時3バック化するこの戦術において、左 HV*(左SB)に求められる能力は多い。CBとして十分な守備能力に加え、ビルドアップに貢献できる攻撃性能も必要となるのだ。これを踏まえると、左HVを務めるのが本職SBのアンドリュー・ロバートソンかコンスタンティノス・ツィミカスというのは不適当と言わざるを得ない。ロングボールを当てられた際の空中戦には、身長といったフィジカル的な資質において不安が残る。加えて、ロバートソンは逆足頻度、精度が著しく低いことによるHVとしての攻撃タスクに、ツィミカスはSB起用時の様子を考慮すると地上戦の守備力において、それぞれ問題を抱えているだろう。ロバートソンらが左HVのファーストチョイスというのは心許ない状況であり、彼らを控えに追いやる高い能力を持った選手が必要だ。CBの面々を起用すれば良いのではないか、という声が聞こえてきそうだがそのような簡単な問題ではない。右利きの選手が左HVからビルドアップに貢献する、というのは不可能ではないものの、身体構造によるキックレンジや被プレッシャー時のボールの置き所、周囲との連携といった様々な部分に困難を抱えることになる。さらに言えば、右利きCBを左HV起用することでCBの枚数不足という新たな問題が発生するだろう。後述するが、CBの控えメンバーのクオリティがそもそも十分ではないという指摘もできる。
*HVはハルプフェアタイディガーの略。3バックのサイドに位置するCBのこと。
浮き彫りになった再現性の低さ
十分な準備期間や長期計画を持たない戦術は、当然ながら粗の多いものとなる。リバプールの3-2ビルドは、特に再現性の低さというポイントに脆弱性を抱えているように感じる。
まず、イブラヒマ・コナテ不在時にどのような施策で乗り切るべきか、という問題だ。大前提として、守備におけるコナテへの負担は余りに大きい。右大外からカウンターを受けた際には、相手ボールホルダーに対して右HVが完璧な対応をしなければ、即失点に繋がる。コナテが突破されてしまった際に右 CBの位置をカバーしているのがアーノルドというのもこの状況に拍車をかけている。さらに、広大なスペースをカバーしながらHVとして攻撃のタスクまでこなすのは相当レベルの高い超一流の選手にしか実現できない芸当である。コナテの怪我がちな傾向も加味すれば、不在時の再現性という意味で現在のスカッドには大きな疑問符が付く。実際、彼不在で臨んだ最終節サウサンプトン戦はカウンターからの簡単な失点が目立った。最下位で降格することとなったチームに対し、スタメンを数名入れ替えるだけでこのような状況に陥るようでは、タイトルを狙えるチームとは程遠い。
確かにコナテと同レベルの選手を獲得することは困難だが、現状の控えCBより能力が高く、将来性のあるプレイヤーを補強し、状況を改善すべきことは明確だ。年齢による限界が見え始めているファン・ダイク、ジョエル・マティプ(彼はこの夏チームを去る可能性すらある)や、クロスを中央にグラウンダーでクリアする悪癖などの要因でCBを任せるには不安が大きいジョー・ゴメスらのみで来シーズンを迎えれば、今季の中盤崩壊の二の舞となることは十分に考えられる。
また、このシステムの心臓を担うアーノルドの不在時に、引き続き3-2の構造を採用するのかという問題もある。今でこそ、リトリートを選ぶチームにはアーノルドの楔を皮切りに中盤から崩して行き、積極的に前に出て守備をするチームには、必然的に生まれる最終ライン裏のスペースに向けて、このタスクを十八番とするアーノルドを中心にロングボールを蹴り込むことで対応できている。しかし、アーノルド不在では見える景色が180度変わってしまう。引き下がる相手を崩せるかも怪しいが(ジンチェンコ不在のアーセナルを見れば困難なのは火を見るより明らかだ)、仮にそちらを中盤の適切な補強やコーディ・ガクポら前線からのサポートによってクリアしたとしよう。アグレッシブな守備を展開する組織に対し、切り崩すロングパスの回数、質は明らかにアーノルドに依存しており、プレスに嵌められボールを保持出来ないだけでなく、以前のようにビルドアップが機能不全に陥り、防戦一方になることは容易に想定できる。
この問題にリバプールはどう対処すべきだろうか。アーノルドは世界的にも稀有な存在であり、彼の控えを獲得することは非現実的である。となれば考えられるのは、控えも含めディフェンスライン全体としてビルドアップに貢献できる選手を補強し、チーム力として彼の不在を可能な限り埋めることである。この策はアーノルド離脱時のセーフティーネットとなるばかりでなく、彼が不調に陥ったり、試合中にコンディションの悪さを窺わせるプレーが続いたりした場合の有用なプランBをも齎す。だからこそやはり、守備陣の補強は必要不可欠だと考えるのだ。
今、リバプールに必要な選手とは
まず、ここまでの主張をまとめたい。リバプールは昨季、不調を抜け出す起死回生の一手としてアーノルドを中盤化し、3バックを形成する3-2ビルドアップという策を打ち出した。結果、一時はボトムハーフの懸念すらあったチームはEL圏フィニッシュまで復調を果たした。しかし、この戦術は長期計画や十分な準備期間を持ったものではなく、改善すべき課題は山積している。
新戦術の採用によって一層懸念が増幅することになった、歪なスカッド構造に起因する左利きCB不在問題。本職SBのロバートソンがこなしている左HVを担うのに適切な選手の獲得は急務である。
さらに、再現性の低さも大きな問題だ。コナテ不在時の守備の脆弱性を考えれば、CBの補強は喫緊の課題と言える。スカッドの高齢化も相まって、このままでは中盤と同じ結末を迎える可能性もある。アーノルド不在時には攻撃面で大きな不安が残るだろう。この問題は中盤の適切な補強によってもある程度の改善が見込めるが、世界的に希少な彼の能力を考えても、ディフェンスライン全体の攻撃性能を補強によって押し上げることは必要ではないだろうか。アーノルド不調時の交代策充実という副次的効果も得られる。
これらの理由から、リバプールはCB人材、とりわけ左利きのCBを補強すべきだと考える。現在、比較的確度の高い移籍の噂がある左利きCBとしてはミッキー・ファン・デ・フェンが挙げられるだろう。俊足が持ち味で、ドリブルを始めボールスキルにも一定の評価を得ており、守備面も概ね高い能力と言える。しかし、193 cmと長身ながら空中戦を弱点としている不思議な選手だ。新 SDのシュマトケが彼の所属するヴォルフスブルクで MDを務めていたこともあり、高信頼度の複数ソースからリンクする報道が飛び交っている。また、直近ではベンジャミン・パヴァールへのコンタクトも報じられている。こちらは右利きだが、CBもSBもこなすポリバレント振りとバランスの良い能力は守備陣の総合力、離脱への対応力を底上げしてくれるだろう。
最後に個人的な選手獲得の提案をしてこの記事を締め括りたいと思う。私がこの夏狙うべきだと考えているのは、ヨシュコ・グバルディオルだ。資金力に乏しいリバプールがそんな人気銘柄を獲得できるわけないだろ、とのご指摘を頂きそうである。確かに高額の移籍金が予想される選手だが、私も何の根拠もなくこの意見を主張している訳ではない。まず、この夏にジュード・ベリンガムを獲得すべく長年にわたる節制を続けてきたのだから、彼の獲得に失敗した分の資金はいくらか残っているはずだ。さらに、マクアリスタが格安で補強出来たことでより可能性が広がった。彼の保有クラブである RBライプツィヒはファビオ・カルバーリョの獲得を狙っているとの報道も出ており、取引に絡めることができれば有利な展開に持ち込むことも出来るだろう。(リバプールの選手層を考えればカルバーリョ本人にとっても悪い話ではない)以上の理由から、リバプールは完全にグバルディオルの獲得が不可能な資金難を抱えている訳では無いと考える。
ここまで財政面の話をしてきたが、言わずもがなグバルディオルは、今必要とされる選手かどうかという点でも太鼓判を押せる能力を持っている。左利きでSB,CBどちらもこなし、左HVがプライマリー・ポジションだと考えられること、さらにビルドアップへの貢献を始めとした攻撃性能、W杯で世界に見せ付けた申し分ない守備力、将来性の見込める年齢など、これ以上ないほどにリバプールの補強ポイントを抑えた理想的な選手だ。
無論、リバプールにとって中盤の補強は急務である。しかしながら、ディフェンスラインの補強もこの夏取り組むべき課題の一つであることに疑いの余地はない。少なくとも1人左利き CBを補強してくれること、願わくばグバルディオルに手を伸ばしてくれることを願いながら、これから加速するであろう市場の盛り上がりを楽しみたいと思う。
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