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稀代の戦術家が作り上げた両チームがぶつかった20-21CL第3戦アタランタvsリバプール。
注目の一戦で圧巻の3ゴールを奪い、世界に衝撃を与えたのは、リバプールが誇るトリデンテの誰でもない24歳のポルトガル人FWだった。
ディオゴ・ジョタ。
昨季ウルブズで出番を減らしつつあったアタッカーは、加入後14 試合で9ゴール。リバプールで5人目となるCLハットトリックを成し遂げ、今やプレミア王者の攻撃を変える存在という論調も展開される。
しかしシーズン開幕時の多くのファンの期待値は“3トップの交代要員”。世界屈指のトリデンテの牙城を崩すことは難しく、絶対的故に負担過多なエース達を休ませてくれる存在、というのが大方の意見だった。
本記事では、そんな予兆なく現れた若き才能ディオゴ・ジョタが残すスタッツから彼の特徴を考察し紹介したい。
マネを超えるドリブルスタッツ
ジョタのプレースタイルを定量的に考察するにあたり、昨季のリバプールの選手とウルブズ時代のジョタについて“SCA(シュートを生んだプレー数)”という指標を比較した。(この指標は直接的にシュートに結びついた2つ前までのプレーが各選手にカウントされる。)
90分あたりに換算したSCAからマネ、サラー、フィルミーノと遜色ないシュートチャンスを作り出していることがわかる。さらにSCAの内訳をトリデンテと比較すると、ドリブル(黄)とゴール前での被ファウル(赤)によりチャンスを多く作り出していることが確認された。
では実際にドリブルに秀でたスタッツを残しているのだろうか。
次項以降でジョタが記録したドリブルに関するスタッツを確認していく。
リバプールで誰よりも“前に”
特にショートカウンターを志向するリバプールにおいて、ドリブルでボールをゴール方向に運ぶことは極めて大切な役割となるが、この点でジョタは特異なスタッツを見せた。
ボールを動かした距離(全方向)のうち、どれだけをゴール方向(前方向)に動かしたかの割合を示した。
敵陣に近づくほどスペースが少なくなるため、一般にDFほど前進率は高い値を記録しやすいが、その中で今季チーム断トツの前進率を記録しているのがジョタだ。(昨季はプレミアリーグの全FWの中でも最も前進率が高かった。また昨季と今季で前進率はほとんど変わらなかったため再現性もかなり高いと考えられる。)
小柄ながら非常に“速く”、“背中の使い方”が抜群に上手い。一瞬の加速で相手の懐に潜り込み、背負いながらボールを動かすスキルの高さは、リバプール加入後幾度となく披露されてきた。とにかく前へ進む意識が強く、それを実行する技術も持ち合わせている。オープンスペースでも密集地帯でもボールを前進させるプレミアリーグトップクラス彼の推進力は間違いなく大きな武器だ。カウンター発動時でもゴール前での崩しの局面でもリバプールの攻撃を進化させうるはずだ。
ウルブズ時代にはマンチェスター・ユナイテッド相手にこんなゴールも。
リバプールで誰よりも“ドリブル突破”
続いて昨季ドリブルで抜いた人数をリバプールの選手と比較した。(リバプールは上位5人の選手)
昨季リバプールで90分あたりに最も相手を抜いたのはマネ。
理不尽なボディバランスとスピードで相手DFを文字通り引きちぎるセネガル人が、リバプール内で他を圧倒するドリブルスタッツを残したことに、驚きはないだろう。
そのマネを上回るスタッツを見せたのがジョタだ。
マネのような超人的なバネやスピードを持たない彼だが、柔らかいタッチと絶妙な緩急を武器に、既にマネを超える優れたドリブルスタッツを示している。1試合あたりマネが2.75人抜くのに対して、ジョタは3.38人。このポルトガル人は昨季、ウェルフレッド・ザハやアダマ・トラオレらについでプレミアリーグで6番目のドリブル突破スタッツを記録した。もちろんこの数字はリバプールではトップを走り、独力でフィニッシュまで持っていくことも出来る。CFとしても起用可能で、マネともサラーとも違ったスタイルを持つこのドリブラーがリバプールの攻撃に新たな抜け道を作り出しても不思議ではないはずだ。
両足で遜色なく扱うボールタッチ
続いてジョタのプレーを注意してみると気付かされるのが、左右両足で遜色なくボールを扱うスキルの高さだ。
昨季記録された全てのパスを左右どちらの足で蹴ったのかを示した。
アダム・ララーナを上回りリバプールで群を抜いて左右両足を使っていたのはディオゴ・ジョタだ。
何気ないショートパスも全て記録されるため、どの選手でも癖で自ずと利き足の使用割合は高くなるが、その中で35%のパスを左足で蹴るジョタの特徴は特筆に値するだろう。(昨季のプレミアリーグ全選手の左右比率を確認したが、出場時間が短く極端な割合を記録した選手を除き、ジョタは最も左右均等にパスを出した選手だった。)
さらにシュート足についても左右比率を示した結果がこちら。
得意足でのフィニッシュが顕著なサラー・マネに対して、両足でフィニッシュ可能なことがわかるジョタ。2019-20シーズンではちょうど五分五分、2018-19シーズンに至っては左足の方が多いという特異なスタッツを叩き出したのである。
実際に過去のジョタのプレー動画・スタッツを見てみると、左右問わず両足で得点期待値の低い難しいシュートを何本も決めている。小柄な身体からは想像のつかない強烈なミートはフィニッシャーとしてのそれを感じさせる。
利き足という制約にとらわれず、局面に応じて最適なプレー選択をすることができるこのポルトガル人は、刹那のチャンスが訪れるバイタルエリアや密集地帯での崩しの局面で左右問わず違いを見せてくれるはずだ。
(ウルブズ時代のジョタのベスト12ゴールも左右両足で豪快なシュート決めてるのでぜひ!)
DFラインとの駆け引きとゴールへの嗅覚
ジョタのさらに特筆すべき特徴は、相手DFラインとの駆け引きの上手さと裏に抜け出す一瞬のスピード、そして秀逸なファーストタッチだ。聡明なこのポルトガル人ストライカーは、この点でリバプールに新たな得点パターンを生む可能性を秘める。
アタランタ戦でのセンセーショナルな3ゴールを振り返ってみよう。
どれも彼のストライカーとしての技術が詰まったゴールだった。
🔴 Diogo Jota’s first hat-trick for Liverpool ⚽️⚽️⚽️#UCL | @DiogoJota18 | @LFC pic.twitter.com/UljxkeX0h4
— UEFA Champions League (@ChampionsLeague) November 9, 2020
1点目はポゼッション時に前方にスペースを見つけると、一瞬の加速でアレクサンダー=アーノルドからのボールを引き出し、大柄な相手CBを背負いながらフィニッシュ。
2点目はジョー・ゴメスからのロングフィードを、相手DFから離れて落下点に入って受け、柔らかい左足トラップから右足フィニッシュ。
3点目はカウンター移行時に、しばらくマーカーと並走。一瞬ペースを落とすことでマーカーを止め、持ち前の加速力で相手を振り切り奪ったゴールだった。
どれもスペースとパスコースを認知し、自らの動きによってパスを呼び込み生まれたゴール。昨季の16ゴール中10ゴールを、今季は9ゴール中5ゴールをワンタッチで決めていることからも、動き出しの上手さ・ゴールへの優れた嗅覚がうかがえる。加えて引き出したパスを正確に扱うファーストタッチの技術も秀逸である。コーディネーション能力も高く、前出のように左右両足でタッチ可能だ。
DFとの駆け引きから能動的にラインを突破するセンスと技術を持ったジョタは、手詰まった攻撃の中でも活路を見出すチームの糸口となるのかもしれない。
マネと類似する軌跡
ここまでジョタの特徴的なスタッツを見てきたが、最後にジョタのリバプールでの可能性に関する興味深いデータを紹介したい。
ジョタのリバプール加入が発表されてすぐに、Sky Sportsをはじめとする海外メディアは“セインツ・ウルブズ時代のマネとジョタのスタッツが類似している”ことを指摘。出場時間、ゴール数、シュート数、エリア内ボールタッチ、ドリブル成功数のスタッツにおいてジョタはマネと似通った数字を記録した。
また得点期待値(xG)はマネ19.47に対してジョタ20.31とセインツ時代のセネガル代表ストライカーをわずかに上回る値を披露した。実際の得点はマネ21ゴールに対してジョタ16ゴールと差をつけられたが、ジョタはマネ以上にプレミア中位のクラブでゴールを量産していてもおかしくなかったのである。
さらにSky Sportsは“パフォーマンスの波”に関する類似点も指摘している。
ジョタはウルブズ時代、2試合で5ゴールを決める大活躍を2度した一方、5試合連続無得点ということも5度あった。その結果もあって最後のシーズンでは7試合がベンチスタートと出場機会を減らしていたようだ。
しかし以前のマネも同様に調子の波に悩まされおり、セインツでの最後のシーズンでは、16試合連続で無得点。最後の13試合では5試合がベンチと、出場機会すら減らしていた状態だったのだ。マネが現在ワールドクラスのアタッカーであることに異論の余地はないが、リバプール加入時にここまでの成長を誰が予想できただろうか。
クロップはジョタについてこのように語る。
「彼がそのクオリティで我々を次のレベルに導いてくれるように、我々も彼が次のレベルに進むことを助けることができると思っているよ。」
お互いを必要とするクロップとジョタ。
ドイツ人指揮官の高い要求に応え続け、継続的なパフォーマンスを身につけることができれば、数年後彼がマネと同じ成長曲線を描くことも十分に可能なはずだ。
まとめ
ジョタは
- ドリブルによる局面打開と推進力に秀でる
- 左右両足で秀逸なボールタッチが可能
- DFラインとの巧みな駆け引きと一瞬の加速により好機を創出できる
選手だ。全ての長所はプレミアリーグトップクラスの数字を残しており、Sky Sportsが指摘する通り、継続的なパフォーマンスを見せれば大化けも期待される。
特に身体を上手く利用したプレミアリーグNo.1の前への推進率と、DFラインを突破するポジショニングセンスは、リバプールの攻撃に完全にフィットし補完しうる特徴だ。まだまだそのパス能力に余裕すら感じさせるチアゴ・アルカンタラとのホットラインの形成もありうる。(2人は怪我でまだ同時にピッチには立てていない)
またペップ・ラインダースが「プレッシングモンスター」「静脈に炎を持っている」と形容することから、リバプールで必要とされるプレッシングやパッション面での適正も高いと考えられる。
最後に
リバプールのスカウトが4年前から注視していたという才気煥発なこのポルトガル人はまだ24歳。ユルゲン・クロップも「まだまだ成長して適応している段階」と話すようにさらなる覚醒の可能性を秘めている。
ディオゴ・ジョタのリバプールでの旅は始まったばかりだ。確かな技術と熱い野心を秘めたジョタの想いが、ファンが待ち望むゴールネットに突き刺さるその瞬間を僕たちは待っている。
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