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いや〜敗北の味を知りたい!!
と、いうわけで皆様お久しぶりです。トリコレッズです。
スパーズとのプレミアリーグ第21節、正直相当厳しい試合ではあったのですが、前半に挙げたボビーのスーパーゴールを守りきって勝利。開幕21試合で20勝1分けという、もはやなんだかよくわからない結果を出しつづけています。海外某メディアの試合評にありましたが、「敗北の仕方を忘れてしまった」ような戦いぶりです。
とはいえ、このスパーズ戦、色々と紙一重だったことも事実。というわけで、この試合をじっくりレビューしていきます。
スターティングメンバー
スタメンは上の通り。
スパーズで注目すべきなのはやはりタンガンガでしょう。この日がプレミアデビュー戦となる20歳の選手です。GKはロリスが負傷中のためガッザニーガ、前線ではケインも負傷中で、この日はルーカス・モウラが出場しています。
一方のリバプールは鉄板のメンツ。マティプが怪我から戻ってきましたが、マティプ欠場中にすばらしい活躍を見せていたゴメスの牙城を崩せるでしょうか。
0分〜 狭く守るスパーズ、広く攻めるリバプール
まず始めに、サッカーの戦術の「基本のキ」みたいな話をします。それは、「守備は狭く、攻撃は広く」という話です。
まず、守備をする際には、いわゆる「コンパクトに」守るほうがよいです。なぜなら、その方がより攻撃側に与えるスペースが狭くなり、攻撃側は極限まで正確にパスやボールタッチをしなければ、こぼれたボールをすぐに守備側に寄せられてしまうからです。
その逆として、攻撃時には広く構える方が(基本的には)よいです。相手の守備陣を広げることにより、個々人が使えるスペースが広くなるからです。
ただし、パスサッカーを志向するチームにたまにあるのが、攻撃時にも選手間の距離を狭め、細かなショートパスを繋ぐことにより、相手の守備陣を振り回しながら守備のギャップを作ってそこを突く、という攻め方です。とはいえ、それには高い技術と高度に洗練されたコンビネーションが必要ですから、攻撃の基本はやはり広く攻めることです。
さて、この試合は非常にわかりやすく「狭く守るスパーズ」vs「広く攻めるリバプール」の勝負から始まります。しかも、極端に狭いスパーズと、極端に広いリバプールの戦いになっていました。
4-4-2で狭く守ってブロックを作ったスパーズに対し、両SBが幅を取って広く攻めるリバプール、というマッチアップです。ただし、厳密に言うと、スパーズの右サイドだけはブロックを崩していたように見えました。右SHのオーリエはロボを、右SBのタンガンガはマネを、マンツーマンのような形で見ていました。
(さらに厳密に言うと、“ロボのポジションに入った選手”や“マネのポジションに入った選手”をチェックしており、リバプールが流動的にポジションチェンジすればマークする対象は変わっていたのですが、まぁ細かい話です。)
ここから、前半によく見られたリバプールの前進ルートは二つ。
1.ヘンド右落ちパターン
もう一つ知っておいて頂きたいのが「サリーダ・ラボルピアーナ」、あるいは「サリーダ」や「サリー」。おしゃれなバーで出てくる、テキーラと南国系フルーツジュースをシェイクしたカクテルみたいな名前ですが、れっきとしたサッカー用語です。ちなみに僕は、将来的にはこういう名前のバーがやりたいです。どうでもいいですね。
さて、サリーダ・なんちゃらかんちゃらってなんやねんって話です。それには、言葉で説明してもよくわからないので、実例を見るのが一番でしょう。
このように、ヘンドが2CBの脇に落ちることにより、相手の2トップは迂闊にプレスに行けません。何も考えずに突っ込めば、数的優位を活かしたパス交換によってかわされ、前進されてしまうからです。このように、
- 4-4-2での守備が一般的になった現代のサッカーにおいて、2CBを補佐する意味でミッドフィルダーがCBと同じラインまで落ちる
- 基本的にはCBよりもパス出しが上手いであろうMFが、プレッシャーを受けにくい最終ラインまで落ちることで、自由に精度の高いパスを出せる4-4-2での守備が一般的になった現代のサッカーにおいて、2CBを補佐する意味でミッドフィルダーがCBと同じラインまで落ちる
という大きく分けて二つの意味で編み出されたのが、このサリーダ・ラボルピアーナです(他にも意味があったら、こっそり教えて下さい)。
ちなみに前はヘンダーソンが両CBの真ん中に落ちるパターンを多用していましたが、この試合は右に落ちるパターンの方が多かったかな?と思います。理由はそんなになさそうな気がしますが。
さて、とにかくこの試合でリバプールは有効にサリーダを利用して、最終ラインで相手のプレスをかわしつつパスを展開していました。
2.ジニ左落ちパターン
さっきと同じようで違うのがこのパターン。どちらかといえば、リバプールのビルドアップとしてはこちらの方が有効な方法で、今後リバプールはこっちを多様していくことになります。
なぜこっちの方が有効なのか?というと、スパーズの右サイドの構造によるところが大きいです。スパーズの右サイドは、先ほど言ったように、オーリエもタンガンガもリバプールの攻撃陣に対してマンマークのように狙ってついて行く形の守備をしていました。
とすると逆にいえば、ロボやマネが高いポジションを取ってしまえば、スパーズの右サイド守備陣はそちらに対応せざるを得ないため、リバプールの左サイド低い位置には比較的大きなスペースが得られます。
実際、ジニがCBの左脇に落ちると、エリクセンが長い距離を走ってプレスしに行くようなシーンが見られたのですが、それでは明らかに遅すぎます。逆に、一人になってしまったウィンクスの周囲に、リバプールのウィンガー陣やボビーが下りてきてボールを受けるためのスペースが生まれる形になっていました。そこにジニはボールを展開していました。
余談ですが、スパーズ的に前半決まらなかったのはウィンクスの守備。前に出るでもなく、下がりまくるでもなく、バイタルにおいて周囲にぽっかり空いたスペースを埋めきれず苦しんでいるように見えました。
また、前半早い時間帯にはジニが持って運ぶパターンも多用されていました。その場合には、相手の狭いMFラインの外側をジニが運んで相手を引きつける形になっていました。
40分〜 幅を取って守り始めたスパーズ
失点直後から、スパーズが動きます。それは、ルーカスとソンフンミンがポジションを入れ替えたことです。それによって、ルーカスが左SH、ソンフンミンが最前線に入りました。
ここで起きた変化は、スパーズが幅を持って守り始めたこと。リバプールはこの時間帯あたりから、サリーダせずにビルドアップしようとする場面が少しずつ出てきていたのですが、その際にパスを受けるのは、主に両SBです。そのため、そのSBにプレッシャーを与えるため、スパーズは幅を取ってSBへプレスし始めたのだと考えられます。これは、後半開始後にソンとルーカスがポジションを戻してからも続きました。
この理由は微妙ですが、スパーズは基本的にボールを奪ったら2トップへ速くボールを入れるロングカウンターの攻撃を徹底していたので、戦い方を変えて激しく攻め込んだりするよりも、まずは状況を膠着させ、さらなる失点を防ごうと思ったのかも知れません。
で、後半に入ると、リバプールはジニが下がる形をより多用し始めます。恐らく、後半になって少しずつ体力の問題なども出てきはじめる中で、より相手に長い距離のプレスを強いるジニ左落ちを多用し始めたのでしょう。
それにより、後半開始直後からはリバプールの時間が続きます。ボールをキープしながら、縦パスをしっかりと通し、スパーズゴールに迫っていきます。スパーズは前線にボールを付けることもままならず、ややじり貧に陥ります。
70分〜 ロチェルソ&ラメラ投入で一気に流れを変えたスパーズ
しかし、スパーズに大きな転機が訪れます。それは、70分弱に行われた、ローズ、エリクセン→ロチェルソ、ラメラという選手交代。これにより、スパーズのフォーメーションは以下のように変化します。
このフォーメーション変更の注目ポイントは三つ。
1.ロチェルソをIHに入れたこと
この選手変更が起きた直後、リバプールは自陣でのボールロストを連発します。その理由が、エリクセンをセンターハーフの一角に置いた4-4-2から、ロチェルソを右IHに置いた4-1-4-1に変更したことでした。
そもそも、スパーズのプレスがうまく効かなかった理由の一つに、リバプールの中盤(ヘンドorジニ)が最終ラインへ下りる形のビルドアップに対して、有効な対処法を持たなかったことにあります。
特に、後半にはジニがCBの左側に落ちてビルドアップする形を多様していたわけですが、ここに対して具体的に対策したのがロチェルソ投入でした。
ロチェルソを入れて4-1-4-1のフォーメーションにすることにより、先ほどまでの4-4-2でのブロック形成にくらべ、CBの脇に落ちていく選手(主にジニ)に対して、誰が行くのかという役割が明確になります。具体的には、ジニがCBの左脇に落ちたときに、ロチェルソが追いかけるという役割が明確になっていました。
かつ、ロチェルソはエリクセンよりもスピードがあります(少なくとも、この試合ではあるように見えました)。そのため、ジニに対して迫力を持ってプレスすることが可能になります。
その影響がもろに出たのが73分50秒からのシーン。ジニは、この試合これまでこのポジションでプレスを受けたことがありませんでした。ですが、いきなりスピードのあるロチェルソに思い切って寄せられたことにより、焦ってボールをロスト。大ピンチを招く結果となってしまいました。
この時間帯、急に危険な位置でボールをロストするようになったことで、いったい何が起きたのかと思った方も多いことでしょう。この時間帯に起きていたことをまとめると、
- ロチェルソが右IHのポジションで、リバプールのCB左脇に対してプレスを掛けるようになった
- リバプールは、この試合ここまで「安全地帯」としてきたポジションにプレスされたことにより焦った
- そのため不用意なロストを繰り返し、スパーズのカウンターの餌食になりかけた
スパーズの狙い所は、リバプールにとって一番上手くいっていた場所だったのです。このスパーズの対応は見事で、さすがにモウリーニョの対応力・修正力は見事だなぁと感嘆せざるを得ません。
ジニに対してプレスするだけでなく、ダイクに対しても積極的なプレスを仕掛けていたロチェルソ。試合通じてこれだけ強度の高いプレスを掛けることは難しいかもしれませんが、途中投入された選手として十分に価値を示してみせました。
2. アンカーになって自由を得たウィンクス
エリクセンとのダブルボランチでは、正直言って良さが全く出ていなかったウィンクス。しかし、エリクセンが下がってロチェルソがIHに入ったことにより、ウィンクスが1アンカーを務めることになったため、彼の良さがここからどんどん出ていきます。
具体的には、ウィンクスのボールタッチ数が増えたことと、より自由に前に出て行くことが出来るようになったこと。ウィンクスが中盤の底でさばくようになったことにより、彼自身のプレーのリズムがどんどんと出て行ったように見えました。
さらに、ウィンクスが積極的に前に出るようになったことで、リバプールにとってはこの試合最大のピンチを迎えることとなりました。81分50秒からのシーンを見ましょう。
アリが運びながら下りてきて、ウィンクスへ渡します。
ウィンクスは下りてきて受けようとしたロチェルソへ。
ですが、ロチェルソへのパスはやや流れ、ヘンダーソンが回収します。前半であればこれでスパーズの前進は終わっていたのですが……
まず、ロチェルソが素早く切り替えてヘンダーソンへスライディング。ヘンダーソンはボールを収めきれません。すると、ウィンクスがすかさず飛び出してきて、ボールを奪います。
これが4-1-4-1にしてウィンクスが自由になったことの効果でした。
そこから大外のソンへパス、ソンはカットインして逆サイドのオーリエへ。
オーリエからのクロスをロチェルソが逆サイドで上手く合わせ、完全にやられたと思いましたが、ロチェルソのシュートミスに助けられました。
これは、アリが下りて受けることと、ウィンクスがパスさばきにもその後の飛び出しにも自由な立場を得たことにより生まれたチャンスでした。
もちろん、1点ビハインドのホームゲームで最後10分以内であれば積極的に前に出てくるのは事実でしょうが、ウィンクスのプレーに輝きが見られたのは後半ロチェルソが投入されたからでした。
3. アリが下りて受けるようになったこと
これはどちらかと言えば付随的な影響なのですが、ウィンクスの1アンカーになったことにより、ビルドアップの時にはデレアリが積極的に下がってボールを受けるようになります。
これがまたいやらしいのです。アリはキープ力があり、ボールを受けることを厭わないタイプのプレーヤーなので、低い位置からボールを保持されてスルスルと持ち運ばれるシーンが散見され始めました。
そもそも、パスを繋いでくることを前提として守備する際に、一番嫌なのはドリブルしてくる相手です。ドリブルしてくる相手は放っておく訳にもいかないけど、プレスしてもそうそうボールが奪えるわけでもないのです。特にドリブルが上手い奴ならなおさらです。そう考えると、アリが下がって受けるようになったことにより、リバプールのプレスはより一層効きにくくなってしまったといえます。
結局、最後20分近くは防戦一方。スパーズがボールを奪って速く攻めるシーンも増えており、最終的にはトランジション勝負という様相を呈していました。
正直81分のロチェルソのチャンスシーンは終わったと思いましたが、なぜかよくわかりませんがシュートは外れました。サッカーの女神の加護もあったのか、そのまま試合終了。
ちなみに最後の交代はシャキリでしたが、ここで南野という選択肢はなかったように思います。後半最後はトランジション勝負の試合になっており、ここでプレミアの本気のプレースピードを一度も体験していない南野をプレーさせるわけにはいかなかったでしょう。リバプール相手に十分にやれた南野ならば適応した可能性もありますが、別に博打を打つ必要はありません。
関係ないけど誕生日おめでとう!ミナミーノ!!
私的マンオブザマッチ:ロベルト・フィルミーノ
私的っていうか、明らかに多くの方が彼を選ぶでしょうが、ゴールシーンだけではなく、ビルドアップ時の貢献も見逃せませんでした。
下りていってパスコースを作る動きが非常に多くかつ幅広く、うまくはまりきっていなかったスパーズのブロック守備に対してさらに混乱をもたらすような素晴らしいプレーぶりでした。
正直、モウリーニョのチームはかなり厳しい相手でした。ですが、チームとしての成熟度が高くなりきっていなかったこともあり、どうにか勝利を手にすることが出来ました。
冒頭にも書きましたが、21試合で20勝1分け。出来すぎどころか、伝説的なレベルです。このチームがいつか負けるのか、それすらよくわからなくなってきました。
ですが、次の試合はその唯一の「-2ポイント」ユナイテッド戦。引いて守って速いカウンターはスールシャール・ユナイテッドの十八番という感じもあり、またもや気は抜けない戦いが続きます。次の試合も勝利し、プレミアリーグを制覇する姿を見せつけたいものですね。
さて、ユナイテッド戦もレビューでお会いすることと致しましょう。いや実を言うとプレビューでもお会いすることになっているのですが、それはこれとは別の形ということで。それではまた、YNWA!!
(吉沢亮の後を務めるのは気が引けます)
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