望まない肩書(世界のベストNo.2)

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平野 圭子
LIVERPOOL SUPPORTERS CLUB JAPAN (chairman) My first game at Anfield was November 1989 against Arsenal and have been following the Reds through thick and thin

11月9日のアンフィールドで、Liverpoolはアストンビラを2-0と破ってプレミアリーグ首位を維持した。その試合のクリーンシートは、相手の攻撃をクィビーン・ケレハーが度重なる超スーパーセーブで阻止して達成したものだった。全国メディアや中立のアナリストは、異口同音にケレハーを絶賛した。ケレハーは、10月に負傷し長期欠場中のアリソンに代わってゴールを守るようになった6試合で失点は合計5と、堂々たる数字を記録していた。その5失点には、アーセナル戦(2-2)、チェルシー戦(2-1で勝利)も含まれていた。

いつも冷静なケレハーは、苦境に直面しても超スーパーセーブをしても表情一つ変えない。ビラ戦でも、チームメートから絶賛のハグを受けながらケレハーは、何事もなかったかのように淡々と次の動きに備える様子が印象的だった。

「物事に動じないのはずっと前からのことだった」と、ケレハーは母国アイルランドのメディアのインタビューで語った。「スポットライトを浴びるのが苦手で、フットボーラーとして成功すればそれは避けられないことだと理解してはいるが、決して楽しんではいない」と、ケレハーは苦笑した。ティーンエージャーの頃から長年連れ添っている奥さん(ガールフレンド)の名前が世の中に出たのもつい今年のことだったという。

「彼女はアイリッシュダンスが上手で、僕もうまくなりたいと思って練習を始めた。足の使い方が非常に緻密なので、本業のゴールキーピングにも役に立つ」と、ケレハーは笑った。奥さんはとても頭が良い人で、奥さんとフットボールの話をすることで自分のプレイの向上に繋がっているとケレハーは明かした。「僕がいつも冷静なので、よく言われる。あなたは何があっても動じないのね、と」。

そのケレハーが、9月のインターナショナル・ウィーク中に、アイルランド代表チームに行っている時のインタビューで、Liverpoolのクラブに対する怒りを表明するという超異例な行動を取った。現在25歳のケレハーは、Liverpoolでアリソンの控えのGKという役割を果たすようになって5年目になっていた。その間、2022年と2024年のリーグカップ優勝GKとなったことを始め、アリソンが負傷などで欠場した試合で立派な仕事を果たしてきた。

「ここ数年間に、僕はクラブに対してNo.1としてプレイしたいという意思を何度も明確に伝えてきた。このクラブにはアリソンがいるので無理だとわかっているから、試合に出られるクラブに行きたい、と。そして夏には来季からの戦力として新しいGK(※ギオルギ・ママルダシュビリ)を獲得したので、クラブは僕が別の道を進むことを容認したのだと思った。ところが、他のクラブからの話がいくつかあったらしいのにLiverpoolは全部断った。はたから見ると、僕が望んで今季もLiverpoolに留まったように映るかもしれないが、でも真相は、僕の意思はかなえられないということだ」と、ケレハーは歯に衣を着せない明白な言葉で不満を表明した。

この訴えに対して世間が驚いたのは、いつも冷静なケレハーが感情をむき出しにしたことに対してだった。話の内容は、誰もが納得することだった。

Liverpoolファンの間では、ケレハーが明かした事実関係については、誰もが推測してことだった。昨季はアリソンの長期負傷欠場があり、ケレハーは全26試合に出場し、No.1として通用するGKであることをイングランド中に表明した。そのケレハーが、いつまでもNo.2で満足しているとは考えられず、優秀なGKを求めるクラブに行ってしまうだろうと、誰もが覚悟を固めていた。昨季1月の時点で獲得に出たノッティンガムフォレストが、夏にも再度Liverpoolにコンタクトを取ったが移籍金などの条件が折り合わずに破断になったという噂が飛び交った。

移籍ウィンドウがクローズした時に、ファンの間では言うまでもなく、アリソンが欠場した時のためにケレハーが残ってくれたことにホッと胸をなでおろした。同時に、ケレハーはNo.2にはもったいないという意見も圧倒的だった。

ふたを開けると、10月5日のクリスタルパレス戦(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)で負傷したアリソンに代わって、ケレハーが毎試合でゴールを守ることになった。

「今のプレミアリーグの20人のNo.1の中で、確実にケレハーより上だと断言できるのはアリソンだけだ」と、Liverpoolファンの間では、ケレハー支持は更に上がっていた。

ケレハーに対する賛辞は他からも上がっていた。ノッティンガムフォレストの地元メディアは、ことあるごとにケレハーに対するラブコールを綴っていた。

2回のリーグカップ決勝に加えて今季のプレミアリーグの試合でもケレハーにやられたチェルシー陣営から、元チェルシー選手のアナリストであるジョン・カンディが、「チェルシーはクィビーン・ケレハーを獲得すべきだ」と声を上げた。「私が見るたびにケレハーはトップのプレイをしている。通常、控えのGKが出るとディフェンダーはバックパスを出さないようにするなど、チームのプレイが変わる。でもケレハーは違う。ここ18カ月間でプレミアリーグとCLの多数の試合に出ている」。

2022年のリーグカップ優勝の時に、ユルゲン・クロップがケレハーを「世界のベストNo.2」と称したことは有名な話だった。「アリソンは世界のベストGKだ。そして今日の試合でケレハーは驚異的なプレイをした。少なくとも2回の超スーパーセーブがあった。決勝戦でゴールを守るにふさわしいGKであることを披露した。ケレハーは世界のベストNo.2だ」。

9月のインターナショナル・ウィーク中に怒りを表明した後で、アリソンの負傷のためしばしLiverpoolで毎試合に出ることになったケレハーは、「世界のベストNo.2という肩書は、僕が望んでいるものではない。僕は毎試合に出られるNo.1になりたい」と、いつも通りの冷静な口調で改めて意思を表明した。

「ただ、今現在は将来の動きについては考えていない。次の試合でしっかり守ることに全力を注いでいる。先のことに気を取られて集中力を乱すことは自分にとってもマイナスでしかない」。

*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。

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