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12月6日、Liverpoolはアウェイで昇格チームのリーズユナイテッドに3-3と引き分けて、今季プレミアリーグ15戦7勝2分6敗、23ポイントで9位となった。2-0とリードしながら同点にされ、3-2で勝つと見えたところで試合終幕に同点ゴールを食らうという、ダメージが大きい試合だった。全試合の通算戦績は22試合2分9敗、急降下が始まってからの最近15試合では4勝2分9敗、プレミアリーグでは10試合で僅か8ポイントの2勝2分6敗となる。その間の戦績を1シーズン分の38試合で単純に計算したら30ポイントと、おそらく降格だろうという数字だった。
世間の目は必然的に、試合の度にアルネ・スロットのクビの行方に集まっていた。元々過剰反応のイングランドの全国メディアはさておき、アナリストは、概して監督のクビに対して慎重になる。ウエストハム、サンダーランド、リーズと、理論的には勝つだろうという3連戦を控えた11月28日の時点では、「スロットは昨季20回目のリーグ優勝を達成した業績による貯金はまだ残っており、Liverpoolのトップがパニックボタンを押す事態には至っていない」というのが圧倒的多数の見解だった。中でも最もスロット寄りのジェイミー・キャラガーは、Liverpoolがリーグ優勝監督をクビにしたことはクラブ史上一度もないという事実を強調した上で、その3試合で合計7ポイントを下回ればアラームが鳴るだろうと指摘した。
結果的に、最低ラインに満たない5ポイントに終わった(ウエストハム2-0勝、サンダーランド1-1)。
スキャンダル好きの全国メディアは一斉に、「プレミアリーグで次にクビになる監督オッズ」でスロットが首位に躍り出た記事を掲げた。それまではリーズ監督ダニエル・ファルケが一貫して首位だったが、リーズ戦の後で順位が逆転したのだった。一般の人々がSNSで監督や選手への罵倒をポストするオンライン・アビュースの統計で、最も矛先になっている個人としてマンチェスターユナイテッドのルベン・アモリムを抜いてスロットが首位になった。
地元紙リバプール・エコーや、アスレチック紙など親Liverpoolメディアのジャーナリストも、スロットを巡る記事の文面は微妙に変化していた。Liverpoolが深刻な危機に陥っていることは明らかだったが、果たしてスロットがそれを克服して再び勝てるチームに引き上げることが出来るか?という議論はしばらく前から展開されていたが、ネガティブな結論に至ることが増えてきた。
昨季は勝っていたから殆ど話題にならずに終わったが、形勢が不利になった今季、改めて引き合いに出されている事象もあった。ユルゲン・クロップとの差異も頻繁に話題に上がった。ファンの間でビル・シャンクリーと比較される程のカリスマ的な存在となったクロップは、選手たちを息子のように大切にし、選手たちから父親のように慕われていた。私生活でも、人格者の奥さんと共に地元コミュニティに溶け込み、地元住民の人気者だった。対するスロットは、ご家族がオランダにいる単身赴任生活で、インターナショナル・ウィークには帰郷と、地元に溶け込む余裕がないまま今に至る。代表チームに行っていない選手たちは、スロットが不在の間、アンダー21チームのトレーニングに参加している。
クロップはマインツで降格を経験し、苦境を克服してワールドクラスの監督になった。いっぽう、スロットは出世街道を順調に上り続けており、大きな挫折を味わったことがない。AZでもフェイエノールトでも一度も3連敗したことがないスロットが、おそらく最も厳しい環境といえるイングランドで、世界的なビッグクラブのLiverpoolで、4連敗の後で3連敗という泥沼に直面しているのだった。
そして、選手に対する非情ともいえる措置が、昨季まで遡って改めてクローズアップされていた。具体的には、開幕初戦のイプスウィッチ戦(試合結果は2-0でLiverpoolの勝利)で、若手センターバックのジャレル・クアンサーをハーフタイムに交代させたことがあった。クアンサーは自信を打ち砕かれ、その後は控えの戦力としてLiverpoolでの選手生活を終えた。今季はレバークーゼンに移籍し、水に帰った魚のようにバリバリ活躍している。4月にトレント・アレクサンダー・アーノルドがLiverpoolを去る決意を公表した後で、スロットは、トレントがトレーニングで全力を出さないことが時々あると語った。ファンの間では、トレントに裏切られたというショックの方が大きかったため大きな話題にはならなかったが、スロットの対応に驚いた人は少なくなかった。
チームが勝っている時は、選手たちは監督(ヘッドコーチ)を全面的に支持する。監督の方針通りに動けば勝てるからだ。負け始めた時には、信頼関係が厚ければ何があっても一緒に戦うが、そうでなければネガティブな方向に向いてしまう。その戦略は間違っているのではないか、それでは勝てないのでは、という疑問が沸けばパフォーマンスに影響を及ぼす。負のスパイラルに陥れば、監督と選手たちの間に致命的な亀裂が出来てしまう。
リーズ戦の後で、モー・サラーが爆弾発言をしたことは、アラームが最悪の事態に至ったかのように見えた。サラーは、昨季はスロットと非常に良い関係だったが、それが今は一変したとぶちまけた。
サラーのインタビューはそのものが十分にショッキングで、全国メディアのヘッドラインを飾ったが、スロットの行方に関する憶測記事も同じくらい大きなスペースを占めた。多くのメディアが、Liverpoolのトップが12月7日に緊急ミーティングを持ち、スロットのクビと今季末まで暫定監督を立てる計画が議事だという、引用元も不明瞭な憶測を掲げた。折しも、レアルマドリードがホームでセルタに0-2で敗れたことで、シャビ・アロンソがクビになるという憶測と、憶測同士の足し算で1たす1が3になり、レバークーゼン時代に深い信頼関係を築いたフロリアン・ビルツとジェレミー・フリンポンはアロンソがLiverpoolの監督になることを大歓迎している、という憶測が飛び交った。
Liverpoolファンの間では、依然として意見は二分していた。ただ、スロットの貯金はまだ残っていると主張する声は急速に小さくなっていた。そこに晴天のへきれきのように加わったサラーの爆弾発言は、チームの苦境をさらに悪化させたと、ファンの間で圧倒的多数が批判的だった。ただ、これほどの問題発言をしただけに、サラーがLiverpoolを出て行くことはほぼ確実に見えた。ファンの間では、たぶん、スロットもサラーもどちらもいなくなるだろうというのが多数の見解だった。
この先どうなるかは誰もわからない。ファンにとって、リーグ優勝監督と、クラブ史上に残るレジェンドというべき選手を、このような形で失うのは辛いことだった。ただ、いかなることがあろうとも、クラブが最も重要であることは間違いない。
*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。

















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