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7月3日に悲報が伝えられた時に、ディオゴ・ジョッタと共に働いた新旧チームメートたちから親身のメッセージが出た中で、最も悲痛だったうちの一つがクィビーン・ケレハーだった。内情を知らないファンにとっては意外なことに、ケレハーは私生活でもジョッタと一緒にスポーツ観戦に行ったり、結婚式にも出席したほどに親密な友人だったということだった。弟のアンドレ・シウバの試合を一緒に見た時の思い出などを語り、「大好きなジョッツへ。立ち直れないほど悲しいが、君と知り合えたことを光栄に思う」と締めくくったケレハーのメッセージは、ファンの心を直撃した。
「Liverpoolの選手たちは、毎日のトレーニングで顔を合わせるチームメートと悲しみを分かち合えることで慰めになるが、違うチームに行ってしまったケレハーは一人で耐えねばならないのだ」と、誰もが心を痛めた。
ケレハーがLiverpoolを出て、No.1として活躍すべくブレントフォードに移籍したのは1か月前の6月3日のことだった。ブレントフォードは、マルク・フレッケンがCLに出られるクラブを目指してレバークーゼンへと去っていったため後任のNo.1獲得を急務としていた。そこで、Liverpoolとの契約が残り1年だったため£12.5m(条件を満たせば最大£18m)という格安の移籍金で実績があり有能なGKが得られるということで、ケレハーに白羽の矢が立った。
「選手としての能力だけでなく、事前調査で多数の筋にヒアリングしたところ、人柄について全員が絶賛したという異例なGKを獲得できて嬉しい。ケレハーは温厚な人柄で常に冷静で、そして向上意欲が強い選手。わがチームで必ず活躍することは間違いない」と、ブレントフォードのスポーティング・ディレクターは目を細めた。
ケレハーは、Liverpoolでの10年間で、アリソンの控えのGKとして67試合、うちプレミアリーグ25試合に出場し、クリーンシート24を記録した。プレミアリーグ優勝2回、CL1回、FAカップ1回、リーグカップ2回、うち1回は決勝PKを決めたという業績を達成した。加えて、90分でのPKセーブは全6本中4本というのはLiverpoolのクラブ記録で、PK戦6回もクラブ記録だった。
Liverpoolファンは、「2022年のリーグカップ決勝では、優勝決定PKの偉業が顕著過ぎてあまり話題にならないが、GK対戦に行く前の10本の中にはセーブすべきPKもあった。そのケレハーが、PKセーブでクラブ記録を作ったのは偏に向上意欲のたまもの。ブレントフォードは貴重な人材を獲得した」と、うなずき合った。「アリソンが負傷などで欠場した時にもあまり心配せずに済んだし、ケレハーは常に期待に応えてくれた。特に昨季はプレミアリーグ10試合と、優勝の立役者の一人として胸を張る仕事をした」。
それほどの実績を持つケレハーに対しては、多数のクラブが狙っていたことが伝えられていた。具体的には、昇格チームのリーズ、アストンビラ、ニューカッスルという名前が飛び交っていた。その中でブレントフォードを選んだのは、ケレハーにとって最適なクラブだという判断の結果に違いなかった。Liverpoolの勝手な都合を言えば、アリソンが比較的負傷欠場が多いため、ケレハーのような有能なNo.2がいることは重要な利点だったし、選手にとっての利益としては、ベンチにいることで個人栄誉として優勝メダルを蓄積するチャンスがあることだった。その中で、ケレハーはNo.1として毎試合出場する道を選んだのだった。
「ケレハーの意思は尊重すべきだし、プロとしてあるべき姿だと敬意を感じる」と、ファンは納得した。「唯一の不満は、移籍金が安すぎたことだ。今の移籍市場だから、ケレハーなら£40mくらい出すクラブがあってもおかしくない」。
ただ、その£18m(£12.5m)という移籍金は、ケレハーを育てた古巣のリングマホン・レンジャーズにとっては、クラブの運命を変えるほどの大金だった。故郷アイルランドのコーク市にあるアマチュア・クラブのリングマホン・レンジャーズは、2015年にケレハーを移籍金£30,000でLiverpoolに送り出した時に、将来の移籍に際して20%の配当金を受け取るという特約を付けていた。その金額は£3.6m(確定分だけでも£2.5m)となり、アイルランドリーグ記録を一気に塗り替えることになった。
リングマホン・レンジャーズのチェアマンは、「ケレハーが古巣への恩返しとして稼いできてくれた大金は、トレーニンググラウンドなどの設備投資に回すことになるだろう」と、頬を染めて語った。
Liverpoolファンは、誰もがケレハーとリングマホン・レンジャーズに拍手を送った。「控えのGKが去ってこんなにがっかりするのは初めてだ。ケレハーがブレントフォードで成功することを心から祈っている」と、ファンは笑顔で語り合った。
ケレハーは、今は大切な友人を失った悲しみが大きすぎるかもしれないが、ただ、アンフィールド訪問の時にはスタンドから盛大な拍手で迎えられることは間違いない。
*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。
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