「兄弟のための勝利」

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平野 圭子
LIVERPOOL SUPPORTERS CLUB JAPAN (chairman) My first game at Anfield was November 1989 against Arsenal and have been following the Reds through thick and thin

10月29日の朝、Liverpoolがアンフィールドでノッティンガムフォレスト戦を控えていた時に、ルイス・ディアスのご両親が誘拐されたというショッキングなニュースが流れた。コロンビアからの報道によると、ディアスのお父さんルイス・マヌエルとお母さんシレニス・マルランダは、ガソリンスタンドで4人組のオートバイに乗った武装ギャングに拉致されたという。その後、お母さんは救助されたがお父さんは依然として行方が分からない状況だった。

ディアスはコロンビア代表チームの人気選手で、プレミアリーグの、しかも世界有数のビッグ・クラブの一つであるLiverpoolで主力として活躍している、コロンビアが誇るスター選手だったことから、コロンビア大統領グスタボ・ペトロが動いた。警察のトップが事件の捜査に当たり、直ちに事件現場ラ・グアヒーラから外に出る道路を封鎖した。130人の警官と110人以上の兵士を動員し、お父さんの救助に当たることになった。また、捜査に役立つ情報を提供した人に£40,000の報奨金を提供するという措置が取られた。

プレミアリーグのチームのファンである複数のコロンビア人によると、コロンビアでは身代金目当てで富裕層や金持ちの著名人の家族を誘拐するという事件は、「極めて珍しいとは言えない」ということだった。「ルーチョは世界的なビッグ・ネームだからヘッドラインを独占しているが、報道に載らない事件も多数ある」と、あるファンが苦しそうにつぶやいた。

事件の直後に、コロンビアFAが感情的なメッセージをポストした。「容疑者へ。君たちは悲惨な犯罪を犯しているだけでなく、コロンビアの国中を敵に回しているのだ。君たちだって試合の時にはコロンビア代表チームのゴールを喜ぶと思う。代表チームは国を団結させる存在なのだ。今すぐ、ルーチョのお父さんを解放して欲しい」。

2022年1月に£37.5mの移籍金でポルトからLiverpool入りしてすぐに主力として定着したディアスは、2つの国内カップ優勝に貢献した。そして、Liverpoolでの最初の半シーズンを終えた夏休みに母国に帰ったディアスは、ご両親の長年の夢をかなえた。コロンビアの貧しい地区であるバランカス・ラ・グアヒーラで家庭を築いたご両親は、教会で挙式するという、いわゆる伝統的な結婚式を上げていなかった。そこでディアスは、ご両親の結婚式を実現したのだった。

ディアスの奥さんと子どもさん、2人の兄弟のご一家と少数の近親者が見守る中、地元の教会で式を挙げた幸せそうなご両親に向かって、ディアスは言った。「お父さん、お母さん、僕はあなた方が大好きです。あなた方のお蔭で僕がいるのだから」。2022年6月のことだった。

その大切なご両親がギャングに誘拐されたという深刻なニュースをディアスが聞いたのは、ノッティンガムフォレスト戦の前夜にチーム一行が地元のホテルに合宿していた時だったという。

「ルーチョは家に帰りたいと言った。直ちに帰した。みんな心配して付き添いたいと言ったので、数人がルーチョの自宅まで連れて行った」と、試合後のインタビューでユルゲン・クロップは語った。「監督として1000試合以上勤めてきて、あらゆる事態を経験していると思われるかもしれないが、しかしこのようなことは初めてだ。どう対処すべきか、検討したことすらなかった。試合に集中できる状況でない時に試合の準備をしなければならなかった」。

試合は3-0でLiverpoolが快勝した。「今は、試合が最も重要という状況ではない。我々はみな、ルーチョが一刻も早く良い状態になることを祈っている。我々はファミリーで、選手たちにとってルーチョは兄弟だから、その兄弟のために戦った」と、クロップは続けた。

31分に先制ゴールを決めたディオゴ・ジョッタが、ベンチに走って行きディアスのシャツを掲げた場面は、Liverpoolの選手たちが「兄弟のために戦った」真相を表現していた。

「想像を絶するような苦境にいるルーチョに対して、我々はみな君のことを思っているのだと伝えたかった」と、ジョッタはマッチ・オブ・ザ・デイのインタビューで語った。「昨夜、ホテルで一緒だった。ルーチョはスタートする予定だったが、僕が代わって出ることになった」。

「(お父さんの救助に関して)僕たちに出来ることは殆どない。だから、僕たちに出来る最大のことは、兄弟のために勝つことだと思った」。

*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。

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