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先日行われたFAコミュニティ・シールド。新シーズン最初のタイトルを懸けて、昨シーズンのFA杯王者アーセナルと激闘を繰り広げましたが、結果は苦手のPK戦で敗北。昨シーズンの雪辱とはなりませんでした。
ですが、シーズン初の公式戦で、新シーズンの戦い方について見えてきた点も色々ありました。ということで、この試合を見ながら新シーズンの展望をしていきましょう。
この試合で僕が注目していたポイントは以下の4つ。
- ジニはどうなる?チアゴは獲得する?
- ネコ・ウィリアムズは右サイドバックの控えになるか
- 再び現れた新機軸「4-2-3-1」と南野
- CBの補強しなくていいの!?
では、上の焦点についてゆるゆる見ていきましょう。スタメンはこちら。
1. ジニとチアゴ、どうなる?
最近SNS上で話題になっている「ジニvsチアゴ」論。
まぁそもそもこの二人は比較できないと思うんですが、それは置いといて。
まずはこの試合でのジニの仕事ぶりから、彼が現状のリバプールにもたらしているものを考えてみましょう。
ジニの良さは「ポジショニングの正確さ」と「トランジションの速さ」
リバプールにおけるジニ・ワイナルドゥムの良さってなんでしょう?
ビッグマッチでの得点感覚や、キープ力、中盤での推進力など色々あるんですが、この試合をみて一番出ていた良さは「他の選手とのバランスを取るポジショニング」です。
たとえば試合中よく見られたのが、「ミルナーorジニがエルネニーを引きつけ、もう片方がパスを受ける」というシーン。
この試合のミリ—はかなり色々にポジションを変えており、左IHかと思いきや左サイドバック、右IH、果ては右サイドバックまで、至る所に顔を出していました、
ジニはそれに合わせてポジションを修正してボールを受け、受けたらさばいていました。一見地味ですが、チームのポゼッションとパス回しの流動化に貢献しています。
そしてもう一つのジニの特徴が「トランジションの速さ」。特にネガティブトランジション、攻撃から守備への切り替えの速さは特筆ものです。
後でも触れますが、この試合でネックになっていたのが「アーセナルのビルドアップ時、相手のWBを誰が捕まえるのか?」という問題。
アーセナルのビルドアップは、GK+3バック+2CH+両WBの計8人でビルドアップしていたのに対し、リバプールは3トップ+2IH+片方のSBの計6人でプレスしていました。特にフォーメーションのかみ合い上、アーセナルのWBを捕まえる人員がおらず、そこにパスを通されて展開されるシーンが散見されていました。
すると、やはり誰かが無理をしなければなりません。そこで輝いていたのがジニです。特に自分たちがボールを失った直後、激しい2度追いで、アーセナルにビルドアップの余裕を与えなかった33分20秒ぐらい(私のメモによります)のプレーは効果的でした。このシーンでは、ジニが瞬間的に無理をしてくれたことで相手WBまで捕まえることができ、ビルドアップの阻害に成功していました。
周囲を動かすパスの閃きはチアゴに軍配
では、チアゴにあってジニにないものは何でしょう?それはやはり、ボールを持ったときの創造力です。
もともとリバプールは、中盤から攻撃を構築できないという問題点を抱えています。昨シーズン苦戦した試合では、中を固められ、外からCBやTAAが放り込んで回収され、カウンターを受けて失点というパターンがよく見られました。
チアゴは中盤深い位置でボールを受け、相手守備陣の予想しなかったタイミングで予想しなかった場所に正確なパスを出すことのできる選手です。彼がいれば中盤から中央を経由して攻撃を構築することが出来ます。リバプールがより完璧なチームになるためには、必要不可欠なタイプの選手とも言えるでしょう。
同じように話題になったコウチーニョと比較すると、もちろん年齢等の問題もありますが、選手としての質に比べると値段は安め。普段のシーズンなら、すでに獲得が決定していたのではないかとすら思います。チームの財政のことは正直わかりませんが、プレーヤーとして考えれば確実に必要です。
4-2-3-1の導入がもたらした状況の変化
が、これには以下の条件が付きます。それは「現状の4-3-3を維持したまま中央突破を構築するというミッションにおいて、チアゴのような選手は確実に必要」ということ。
お分かりになった方もいるでしょう。最近、リバプールは南野を起用した4-2-3-1をオプションとして取り入れており、それによってチームの中央突破はかなり改善されています。
このコミュニティシールドや、その後行われたブラックプールとのトレーニングマッチを見てもわかりますね。
世界のイタツもこう言っています。
正直僕も同意見で、4-2-3-1においてはむしろ、気の利いたポジショニングとドリブルでボールをシンプルに前進させることができ、守備への備えも既に染みついているジニをキープするほうが優先度が高いように思えます。
2. ネコ・ウィリアムズは右サイドバックの夢を見るか
この試合、TAAの怪我からの回復が間に合わず、右サイドバックに入ったのが期待の新星ネコ・ウィリアムズ。
そもそも昨シーズンから両サイドバックの控えがいないという問題を抱えていた我らがリバプール。ロボしかいなかった(まぁミルナーはいたんですけど)左サイドバックにはさすがにギリシャからツィミカスを獲得しましたが、右サイドバックには今のところ新戦力を迎えていません。
というのも、昨シーズン終盤、明らかにクロップが目を掛けていたこのネコ・ウィリアムズの存在があるからでしょう。とはいえ、ネコちゃんは世界最高右SBのTAAの控えとしてふさわしいのでしょうか?彼のプレーから考えてみましょう。
まずは、TAAと比較したときの、ネコの長所と短所を見てみましょう。
ネコの長所
- 狭いスペースでも飛び込んで仕事が出来ること
- インナーラップのタイミングの良さ
ネコの短所
- 全般的なスピードのなさ(走力、認知・判断力、キックスピード等)
- キックの精度
大まかに言うとこんなところです。広い展開も可能なTAAと、より相手を押し込んだ状況で狭いスペースで活躍できるネコという感じでしょうか。
で、この試合はもろもろの事情によりネコの短所が出やすい試合でした。ちょっと見てみましょう。
この試合はお互いボールを握って前進したいチームどうしの対戦でしたが、どちらかといえばアーセナルの方が後方からのビルドアップの意識が強く、アーセナルのビルドアップのシーンが印象的でした。アーセナルのビルドアップ時のポジション図はこちら。
リバプールが4-3-3、アーセナルはティアニーが左に開いて、左右やや非対称の3-4-3です。すると、ポイントになるのがサイドの攻防。アーセナルのWBが浮くので、ここをどう捕まえるかがリバプール的にはネックになっていました。
アーセナルのCBは共に右利きなので、右サイドからの前進が主。そして、右WBのベジェリンから、逆サイドのウィングであるオーバメヤンあたりへ長めのボールを放り込むシーンがよく見られました。
すると、ネコはリーグでも屈指のウィングストライカーであるオーバメヤンと対峙することになります。これはまだちょっと彼には厳しいでしょう。出たてのTAAがユナイテッド戦で狙い撃たれたシーンを思い出した方も少なくないはずです。
もう一つネコの守備を見ていて思ったのが、ゾーンディフェンス→マンマークへの切り替えのタイミングがまだ最適化されていないこと。
守備時、リバプールのSBは基本的にバックラインと並んでゾーン守備をしていますが、相手ウィングにボールが入ったら1対1で止めるためにマンマークへと移行する必要があります。
一般的に、SBにとって非常に大切なのが、この「ゾーンからマンマークへの切り替えのタイミング」です。タイミングが早すぎれば、ゾーン守備に穴を空けてしまい、ウィングにボールを入れるフェイクから中を使われてしまうこともあるでしょう。しかし、遅すぎればウィンガーに余裕を持ってボールをトラップさせてしまい、追いついた瞬間に縦にぶっちぎられるというような、守備での劣勢を強いられてしまいます。
ネコは、この切り替えのタイミングがまだちょっと遅いです。見る限りウィンガーへの展開のボールが蹴られてからターンを始めていましたが、それだと(特にネコのスピードでは)間に合いません。そのタイミングや守備の感覚は試合をこなしながら掴んでいく必要があるでしょう。
また、この日のアーセナルのように長いボールで深く押し込まれると、奪い返しても長い距離のカウンターを打つ必要があります。これも彼の得意とするシチュエーションではありません。
ということで、この日のネコが昨シーズン終盤のような活躍を見せられなかったのには、かみ合わせ的に彼の短所が出やすいシチュエーションだったことが大きかったのかな、と思いました。まぁそもそもアーセナルが高レベルの相手なので難しかった、ということは言えますけどね。
とはいえ、中堅以下のチームを相手にすればネコは十分なパフォーマンスを見せられるSBですし、今挙げたような短所は、いずれも試合をこなしながらプレミアのスピード感に徐々に慣れていくことで目立たなくなるでしょう。
結局、ネコは右SBの控えとしてまだまだ不足点はあるけれども、将来的には十分なポテンシャルを持っているということも見せてくれた試合でした。彼の若さを考えるに(ライバルとなるTAAもめちゃめちゃ若いから問題なんですが……)、彼に定期的な出場機会を確保してあげてほしいですね。
3. 再び現れた新機軸「4-2-3-1」と、輝きを放ち始めた南野
さて、この試合で一番話題になったのが南野拓実でしょう。
昨冬に加入してから、攻撃陣としては不可欠のゴール・アシストなどの数字を得られなかった南野ですが、見事にリバプール加入後初ゴールを記録。その後、ブラックプールとのトレーニングマッチでも1ゴール1アシストと、今シーズンは最高の滑り出しを見せました。
さて、南野は約60分からの出場だったわけですが、チームはこの時間から4-2-3-1へとフォーメーション変更しています。数シーズン前にはシャキリを主に右で使った4-2-3-1で相手のブロックを崩そうとチャレンジしていたわけですが、昨シーズンはほぼほぼ4-3-3(4-1-2-3)でプレーしていました。なぜここで4-2-3-1が復活したのでしょうか?そもそもこの4-2-3-1の特徴は何なのでしょうか?
4-2-3-1の特徴:狭いスペースでプレー出来るフロント4で、中央をゴリゴリと突破
このときのフォーメーションを確認しておきましょう。
この試合ではゴメスが右SBに回り、ファビーニョがCB(ちなみに、ファビーニョのCBについてはまた後で触れます)。2CHにジニとケイタで、右からマネ、ボビー、南野で最前線にサラー。とはいえ、前線の4枚はポジションがあってないようなものでした。
この4-2-3-1、「狭いスペースでもプレー出来る選手を中央付近に4枚起用することで、狭いスペースでのコンビネーションで中央を突破できる」という狙いがあったように思います。
そもそも、昨シーズンのリバプールの弱点は中央突破のパターンの無さ。リバプールは中盤にハードワーカータイプを揃えており、中盤からクリエイティビティを発揮するタイプはいませんでした。
そして、攻撃の構築をサイドバック、有り体に言うとTAAに頼っていたので、そこからのロングボールが基本で、うまく中央突破を構築することができていませんでした。ヘンドが右IHに入ったときには上手く中央とサイドを繋ぐ役割をしていましたが、彼がいないときには本当に放り込みが基本。とはいえリバプールの前線は高さがあるわけでもないので、収めきれず奪われるシーンが続発していました。
というわけで、中央突破の構築が重要な課題だったわけです。チアゴの移籍話が大きな話題になったのも、彼なら中央から攻撃を作れるからです。
それに対するアンサーが、この4-2-3-1なのかもしれません。狭いところでもプレーできる前線4枚にまずボールを預け、そこから4枚が絡み合って狭いところをこじ開けていくようなプレーが印象的でした。フォーメーション変更前と比べると、マネやサラーが落ちてきて受けるシーンもかなり増えていたように思います。
その中で輝きを増しつつあるのが、我らが南野拓実。そもそも南野の大きな特徴は、狭いスペースでもボールをコントロールし、ターンして前を向ける技術の高さと、スペースへ飛び出していくタイミングの感覚の良さ。さらにはシュートも上手く、落ち着きもあるため得点力もあります。これらの良さが、同じように狭いスペースでもプレー出来る前線3枚と絡み合うことで、かなりよく発揮されているように感じました。
また、3トップとの関係もかなり改善されてきているように感じますね。中断期間含め、良いトレーニングを積めたのではないかと予想します。
そんなわけで、この4-2-3-1は、昨シーズン抱えていた中央突破の問題を物量と質で解決する、一番現実的な手段のように思えます。南野の出場機会も増えますし、試合終盤、特にじれるような展開の終盤ではこの形が度々出てくるかもしれませんね。
昔もシャキリを投入した4231を取っていましたが、あれはどちらかといえばサラーを1トップに置くことで中央に強さを作ることが重要だったように思います。今年の4231とはちょっと運用が違いますね。
ゴメス右SBからの3バック気味の形は、マネに自由なスペースを提供
ちなみに。4231になってゴメスが右SBに入ったわけですが、ゴメスが上がらずに3バックのようになる、左右非対称の形も見せていました。
これ、理由は色々考えられますが、恐らくマネを自由にすることが重要だったのかな?と思っています。
昨シーズンは一人でなんでもできるところを見せたマネ。ロボとのコンビネーションも大きな魅力ですが、この試合の前半ではミルナーがちょっと下がりすぎることで、むしろ左サイドが停滞していた感じにも見えました。
ということで、まずはボールを奪われないマネが自由に受け、そこから前線4枚が絡むというのは論理的かもしれませんね。実際、マネが下がって受けるシーンも増えていました。
4. CBの補強、しなくていいの!?
南野投入直後にリバプールがもう一つ試していたのが、ファビーニョのCB。そもそも「世界最高CB」ロヴレンが移籍してしまい、CBの頭数はかなり足りなくなっています。ファンデンベルフやクメティオなど期待の若手はいるものの、さすがにいきなりリーグ戦出場を望むのはやや酷では?とも思う状態です。そう考えると、CBは補強あるいは他の選手のコンバートをしなければならないでしょう。というわけで、この試合途中から右CBを務めたのは、普段はアンカーを務めるファビーニョでした。
まず前提として、アンカーとCBは全く違うといって良いでしょう。何が違うかは色々ありますが、最も違うのはプレーの最優先事項。アンカーは食いついてボールを奪うことも許されますが、CBはまずはスペースを埋め、相手とゴールを結んだ直線状に自分を置いた上で、そこを突破されないためのポジショニングと距離感を把握する必要があるのです。
その前提で言うと、この試合のファビーニョはイマイチでした。自分のカバーすべきポジションを見失い、ウロウロした末に空いたスペースをダイクがカバーするというシーンもありました。
というわけで、理想としては補強が必要だと思います。ついでにいうと、左利きCBが欲しいです(贅沢)。クメティオも1試合だけ見ましたが、まだちょっと体をつくっている途中じゃないでしょうか。でかいことはでかいんですが。
ただ、ファビーニョはサイズもスピードもあるので、アーセナルのような強豪クラブは難しくとも、ある程度の相手ならカバーできます。現実的には、それでだましだましシーズンを過ごしていくのが、コロナの影響もある今シーズンの過ごし方かもしれませんね。
色々言いましたが、今年もリバプールは恐らく強いです。あと、アーセナルも試合によってはかなり強いと思います。アルテタが作り上げたチームは、論理的でテクニカルないいチームです。正直、もう少し語りたいぐらいでした。
マンチェスター・シティやチェルシーも、コロナ禍などないかのように積極的な補強を展開。とくにチェルシーは、どこからその金が出るわけ?という超積極補強を見せています。彼らも要注目ですね。言いたくはないですが、ユナイテッドやエバートンも嫌な補強を進めています。
優勝も30年ぶりなら、ディフェンディングチャンピオンとして迎えるシーズンも30年ぶり。決して楽なシーズンにはならないでしょう。
それでも、今のリバプールはサッカーの歴史的に言っても最強クラスの強さを誇るチームです。勇んで向かってくる挑戦者達に、王者の貫禄を見せつけようではありませんか。
早速ですが来週の開幕が楽しみでたまりませんね!それではまた。
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