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11月2日のランチタイム・キックオフでニューカッスルがアーセナルを1-0と破り、プレミアリーグの優勝争いはますます面白くなった。そのニューカッスルの選手だったかもしれなかったジョー・ゴメスが、Liverpoolがブライトンに2-1と逆転勝ちを収めて首位に返り咲いた試合の主役になった。
今季開始前の夏の移籍ウィンドウで、ニューカッスルが財政フェアプレイ順守のために泣く泣くアントニー・ゴードン放出を企てた話はあまりにも有名だった。ジャレル・クアンサーとの交換をLiverpoolに持ち掛けたのに対して、Liverpoolはクアンサー放出を拒否し、代わりにゴメスを提案した。ゴードンとゴメス+£45mの交換移籍が進む過程で、ニューカッスルが他の選手の収益金で財政面が解決したため破断となった。ニューカッスルは、ゴードンを出さずに済んだとほっと胸をなでおろした。
いっぽう、Liverpoolがゴメスを積極的に放出したかったか否かは未公表だったが、ゴードンとの交換移籍が破断になったことで、ゴメスの立場に焦点が移った。誰もが気づいたことは、クラブから不要戦力という烙印を押されたに等しいゴメスは、果たしてどうするのか?という疑問だった。ゴメスの動きがないまま移籍期限日が近づく中、ゴメスの行く先に関する憶測記事が毎日ヘッドラインを飾った。ゴメスに対して最も好意的なはずの地元紙リバプール・エコーですら、ゴメスが出るのは自明のことという記事を掲げた。
更に、ゴメスが開幕戦のアウェイでのイプスウィッチ戦(試合結果は2-0でLiverpoolの勝利)のチームから外れたことで、エコー紙は、「ゴメスは移籍の準備のためにマージーサイドに残った」という見出しで、行く先としてアストンビラ、フラム、チェルシーが興味を示しているという記事を掲げた。その時点ではファーストチームの負傷者がゼロに等しかったLiverpoolは、必然的に試合のメンバーから外れる選手は多数あったが、ゴメスに関しては拡大解釈されて憶測記事が乱れ飛んだ。
そして、移籍ウィンドウがクローズした9月1日にLiverpoolに残ったゴメスは、11月2日のブライトン戦で0-1とリードされていたハーフタイムに負傷したイブラヒマ・コナテに代わってセンターバックに入り、Liverpoolの逆転勝利に大きな貢献を果たした。今季はプレミアリーグでいずれもサブでの僅か3出場だったが、ゴメスは落ち着いて実力を発揮したのだった。
試合後に、主将のフィルジル・ファン・ダイクはゴメスを絶賛した。「ジョーは、夏には大変な日々を過ごしたというのに、ピッチ内外で模範的なプロという態度を貫いた。彼は経験豊富な選手の一人として、日々のトレーニングでも責任を果たし、若手はもちろんチームメート全員から敬意を抱かれている重要な存在だ」。
実際に、2015年夏に故郷ロンドンのチャールトン・アスレチックからLiverpool入りし、27歳になったゴメスは、現在のチームの中では唯一、3人の監督を経験している最年長の選手になった。センターバックとして入って来たが、最初の監督だったブレンダン・ロジャーズがゴメスを高く評価し、試合に出すためにと手薄だったポジションのレフトバックで使ったのが発端だった。ユルゲン・クロップはゴメスをセンターバックに戻したが、急務の際には経験を生かして左右フルバックで使うことも多く、ゴメスはバックフォーの全ポジションをこなす貴重なディフェンダーとなっていた。
ブライトン戦の後で、アルネ・スロットは、「私が入って来た時にみんなから言われたことの一つは、ジョーがトップ・トップ・プロだということだった」と、ファン・ダイクの言葉を裏付けた。「どのポジションでも彼は常にチームのためにベストを尽くす」。
ファンの間でも、ゴメス支持の声は一定して高い水準を保っていた。同時に、Liverpoolで10シーズン目になるゴメスが1ゴールも取っていないことは、ファンの間でも折につけ話題になっていた。昨季ファーストチーム・デビューを果たしたばかりのクアンサーにもゴールでは先を越されてしまったゴメスに、ファンはスタンドから熱烈な声援を飛ばしていた。ブライトン戦では、ファンの祈りもむなしくヘッダーが相手GKにセーブされた。
「あれが決まっていたらイエロー覚悟でシャツを脱いだと思う」と、試合後のインタビューでゴメスはジョークを言って笑った。スタンドからファンのゴメス・チャントが最大音量になった場面だった。破断になった夏の交換移籍の後で、ゴメスの態度は全く変わらないことを、ファンは見抜いていた。
「ファンの声援は常にスペシャルだ」と、ゴメスは頬を染めた。「Liverpoolは僕のホームだ。このクラブは僕にとって全てだ。もちろん、最も重要なことはチームが勝利を収めたことだ」。
*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。
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