究極のゴールはバロンドール?

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平野 圭子
LIVERPOOL SUPPORTERS CLUB JAPAN (chairman) My first game at Anfield was November 1989 against Arsenal and have been following the Reds through thick and thin

10月26日、トレント・アレクサンダー・アーノルドがスカイスポーツのインタビュー番組に出演し、自らのキャリアに関する5つの質問に答えた、その回答内容が話題になった。おそらく事前に歯止めをしていたらしく、番組中では契約更新いかんの話題は間接的にも一切なかったが、番組が放映された直後に、トレントはLiverpoolを出てレアルマドリードに行く決意を固めたと、大騒ぎになった。

質問というのは、1)最も印象的なアウェイのスタジアム、2)最も見習いたいチームメートの資質、3)Liverpoolの最大の有望若手、4)これまでの最大のハイライト、5)トレントの究極のゴール、というものだった。例えば1)の選択肢はグッディソン・パーク、オールド・トラッフォード、エティハド、エミレーツの4つで、トレントは今季のオールド・トラッフォードで、ゴール祝でTVカメラにキスした時の裏話を披露した(試合結果は3-0でLiverpoolの勝利)。VARの調査で直前のオフサイドが発覚しゴールは無効になったが、あの瞬間に、少年時代の憧れのスターだったスティーブン・ジェラードの2009年版(試合結果は4-1でLiverpoolの勝利)の真似だと誰もが気づいた。「あれをやろうと決めてから7年間ずっと待ったのに」と、トレントは爆笑しながら明かした。「今度はアンフィールドでもいいから得点したらやる!」。

2)最も見習いたいチームメートの資質では、フィルジル・ファン・ダイクのリーダーシップとモー・サラーの一貫した高レベルの2つに関して熱烈な称賛を語り、「毎日一緒にトレーニングできるだけで光栄と感じている」と添えてサラーを選んだ。4)これまでの最大のハイライトとしては、選択肢は2019年CL準決勝のバルセロナ戦の決勝コーナー(試合結果は4-0、通算4-3でLiverpoolが勝ち抜き)、同じく2019年CL優勝を決めたディボック・オリジのゴール(試合結果は2-0)、30年ぶりのリーグ優勝に貢献した2020年プレミアリーグ13アシスト、ユーロ2024のスイス戦のイングランドの決勝PKで、トレントはCL優勝を選んだ。

ここまでは、いかにもトレントらしい回答だった。ただ、残り2問の回答が深読みされて尾ひれがついたのだった。地元紙リバプール・エコーは、「トレントは自分がLiverpoolを去った後の後任を選んだ」という見出しで、3)Liverpoolの最大の有望若手の回答をつるし上げた。選択肢はコナー・ブラッドリー、ベン・ドーク、ステファン・バイチェティッチ、ハービー・エリオットの4人で、トレントは全員を誉めた後で、「同じポジションということもあって、コナーとは一番よく会話しているので」と、ブラッドリーを選んだ。「自分と同じくアカデミー・チームで育ったブラッドリーが戦力として身を立てつつあるから、トレントは安心してLiverpoolを出て行けると思ったのだろう」と、同紙は主張した。

同じ紙面の別記事で、トレントはバロンドールをキャリア究極のゴールとしていることを取り上げて、レアルマドリードに行く決意を固めたと同紙は指摘した。5)トレントの究極のゴールの選択肢は、Liverpoolの主将になること、もう一度CL優勝すること、イングランド代表チームで優勝すること、そしてバロンドールだった。「Liverpoolの試合にアームバンドを着けて出たことがあるので、これは除外」と、トレントは真っ先に言った。「クラブ主将になるというのは自分が決めることではないし」。CL優勝とW杯もしくはユーロ優勝の魅力を語りながら、トレントはバロンドールを選んだ。

「Liverpool在籍中にバロンドールを受賞したのは1人だけで(2001年のマイクル・オーウェン)、レアルマドリードは通算11回も出していることを考えると、バロンドールを取るためにレアルマドリードに行くという決断は筋が通っている」と、リバプール・エコー紙は痛烈な文面で書いた。

バロンドールの件は、Liverpoolファンの間でもショックを受けたという反応が圧倒的だった。「チームの優勝より個人の栄誉を重要視する利己的な考え方は、Liverpoolの伝統に反している」と、厳しい意見が出た。実際に、スカイスポーツのインタビュアーも、「バロンドールだけは絶対ないだろうと思っていた。個人の栄誉だから」と、同じ反応を見せていた。

それに対して、トレントは、「子どもの頃から、潜在的な素質があると言われて、そこに到達してきた。引退後に振り返った時に、何が最も重要かというと優勝杯の数ではない。自分の最大限に至れたかどうかが最も大切だ」と、説明した。「フルバックとして史上初のバロンドール受賞者になって、フットボール史上に残る業績を作りたい」。

トレントのバロンドール宣言を機に、それまで契約更新の行方について腫れ物に触るように扱ってきたリバプール・エコー紙は、地元紙として最終的な判定に至ったかのように、トレントが出て行く予想の記事を連ねた。その一つは、黄金時代の80年台に主力としてLiverpoolの優勝に貢献し、現在はアナリストとして活躍しているマーク・ローレンソンの見解だった。

「トレントは、地元出身でアカデミー・チームで育ったワールドクラスの先輩としてジェラードを尊敬していることは周知の通りだ。ただ、ジェラードは悲願のリーグ優勝を達成するために引退直前までLiverpoolで尽くしたのに対して、トレントはプレミアリーグ、CL、FAカップ、リーグカップと全優勝杯を手にして、やり残したことは何もない。レアルマドリードで新たなチャレンジに臨むという本人の意思を尊重すべき」と、ローレンソンは語った。

いっぽう、地元出身で有名人(総合格闘家)パディ・ピンブレットは、Liverpoolファンとして悲痛な叫びをあげた。「トレントは、Liverpoolに留まれば、Liverpoolでもっと多くの優勝杯を取ってゆくゆくは主将としてクラブ史上に残るレジェンドになる。でも、出て行けばスティーブ・マクマナマンと同じ扱いを受けるだろう。僕はマクマナマンとは会ったこともあって、とてもいい人だ。でも地元ではいい人とは思われていない」。

トレントと同じく地元出身でアカデミー・チームで育ち、ファーストチームの主力として9年間プレイしたマクマナマンは、1999年にフリーエージェントとしてレアルマドリードに行った、Liverpoolのクラブ史上初のボスマン移籍をやった選手だった。契約更新にサインを拒否してフリーになり、移籍金ゼロでレアルマドリードに入ったマクマナマンは、4年間の在籍中にリーグ優勝2回とCL2回の成功を収めた。ただ、Liverpool陣営では、マクマナマンがLiverpoolの選手として達成した業績よりも、アカデミー・チームで育てた大切な戦力を無償で手放さざるを得なかった残念な事例として語る存在になっていた。

トレントにはそうなって欲しくないというのが、地元のファンの気持ちだった。「今季末にトレントが去るならばそれは仕方ないことだ。クラブよりも大きな選手はいない」と、ファンは悲しい笑顔で頷き合った。

*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。

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