トリノは泣いている(フェデリコ・キエーザ)

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平野 圭子
LIVERPOOL SUPPORTERS CLUB JAPAN (chairman) My first game at Anfield was November 1989 against Arsenal and have been following the Reds through thick and thin

プレミアリーグ開幕前の事前予測で、主要メディアのアナリストはほぼ一斉にLiverpoolの連覇を唱えた。もちろん、昨季の優勝チームが評価を集めるのは自然の成り行きで、夏の移籍ウィンドウで有能な戦力を補強していたことから、中立のアナリストが揃ってLiverpoolを優勝候補筆頭に掲げたことは想定できることだった。ただし、1年前には同じアナリストたちが自信満々に、Liverpoolのトップ4落ちを予測したという真相を考えると、事前予測がいかに宛てにならないかの証明と言えた。むしろ、余計なプレッシャーをかけられる分迷惑とすら言えた。

そのような背景で、開幕戦のボーンマス戦(試合結果は4-2でLiverpoolの勝利)の後で、アリソンが、「多数の選手が入ってきて、同じくらいの数の選手がいなくなったのだから、戦力入れ替えが落ち着いて本来のチーム力が出せるようになるまでに時間がかかる」と反論した。「入ってきた選手たちは全員有能だから必ず順応すると確信しているが、ただ、少なくとも数試合、あるいは数か月かかるのが通常だ」。

そして、アリソンは、1年かかってやっとプレミアリーグ初ゴールを決めたフェデリコ・キエーザについて、暖かいコメントを出した。「彼は常に一生懸命トレーニングに励んできた。希望通り試合に出られない時にも文句ひとつ言わず、とにかく努力を続けた。だから彼が決勝ゴールを決めたことは本当に嬉しかった。チーム全員の喜び方は、みんながいかに彼を大切に思っているかの表れだ」。

昨季は主としてカップ戦での合計14出場のみで、下位リーグのチーム相手にFAカップで1ゴール、リーグカップで1ゴール、プレミアリーグは合計で104分0ゴールに終わったキエーザは、この夏の移籍ウィンドウでLiverpoolを出てイタリアに帰還するだろうとは、ほぼ確定のように見えた。試合に出られなければW杯の代表入りはないとイタリア代表監督から通告を受け、試合に出られる移籍先を探すためにLiverpoolのプリシーズン・ツアーから外された。

そのような状況の中でも、トレーニングではチームメートと笑顔を交わしながら全力で走るキエーザの姿は、ファンの好印象を強化した。

「昨季のリーグ・カップ決勝(試合結果は2-1でLiverpoolの敗戦)では、全員がダメダメだった。サブで出てゴールを決めたキエーザだけは胸を張って帰ることができた、というくらいに」と、ファンは振り返った。「それでもキエーザは、次の試合だったエバトン戦(試合結果は1-0でLiverpoolの勝利)ではベンチ入りすらさせてもらえなかった。はた目では、気の毒な扱いを受けているように見えたのに、でもキエーザは、母国のメディアで監督に対する不満をぶちまけたりということは一切せず、試合に出れば常にゴールを目指して頑張った」。

重要な試合ではチーム入りすらできなかったのに、スタンドで熱心にチームを応援し、チームの勝利には明るい笑顔で喜びを表明するキエーザは、次第にファンの人気者になっていった。

同時に、アルネ・スロットがキエーザを使わなかったのは理由があるからだということも、ファンは薄々理解していた。そんな時に流れた情報では、2024年夏にLiverpool入りした時に、キエーザの状態があまりにもひどかったことでメディカルチームはショックを受けた、ということだった。それは、ユベントスで注目若手として名を上げた後の2022年に、じん帯の負傷でほぼ1年を棒に振ったキエーザが、負傷からの復帰にひどく苦戦し深刻な自信喪失に陥っていたことが原因と見えた。そして、ユベントスはキエーザ放出を決めてチームのプリシーズン・トレーニングにも参加させないまま、ひどい状態でLiverpool入りしたのだった。

Liverpoolファンの目には、キエーザはユベントスに捨てられたように映った。そして、Liverpoolでは、チームとファンから大切にされてチームの勝利に貢献する戦力になるという願いが、キエーザの歌に集結した。

トリノではみんなが泣いている

フェデリコは、勝つためにここに来た

アルネ・スロットと言葉を交わした瞬間に、チャオ!と言って

ユーべなんかいらない。僕は今やコッパイトだ

ナナナナナナナ

We can hear them crying in Turin,

Federico, he’s here to win.

One chat with Arne Slot and he said ‘ciao’,

F*** off Juve, I’m a Kopite now.”

Na na na na na na na na na

(※ディーン・マーティン「スウェイ」のメロディ)

そして、キエーザの歌はあっという間にアンフィールドのスタンドの定番となった。

8月15日のボーンマス戦では、Liverpoolが優位に立ち1-0とリードしていた前半から既に、キエーザの歌が響いていた。通常、ファンが試合に出ていない選手の歌を歌うのは、試合の流れからその選手を出して欲しいというリクエストであることが多い。ただ、キエーザ場合は例外で、ファンにとってキエーザは例外的な選手だという実態を表現していた。そしてキエーザは、同点にされた後の82分にサブで出場し、88分の決勝ゴールでファンの期待に見事に応えてくれた。

試合後のインタビューで、ファンの歌に対する感想を聞かれてキエーザは、「すごく嬉しかった。ファンのためにゴール出来て良かった」と、頬を染めた。「このゴールは監督にも捧げたい。監督はいつも親切にしてくれるので」と、キエーザは笑顔で語った。

スロットは、「昨年は、キエーザはなかなか調整ができなかった。プリシーズンがないままプレミアリーグに来れば苦労するのは仕方ないことだ」と語った。「でも、今の彼は全く違う。今日の試合で見た通り、明らかに良くなった」。

スロットの言葉に応えるかのように、「Liverpoolに留まりたい。このクラブでチームの優勝に貢献したい」と断言し、キエーザは続けた。「10分でも15分でもいいから、監督が僕を信頼してくれて試合に出してくれた時には、必ずチームの勝利に役に立てるよう全力を尽くす」。

移籍ウィンドウがクローズする9月1日にはどうなっているか、誰もわからない。ただ、ファンはキエーザが今季もLiverpoolの選手として頑張ってくれることを祈って、キエーザの歌を歌う。

*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。

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