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6月22日、英国首相サー・キア・スタマーが辞意を表明した。地方選での大敗を始め政治的な失態が続き、与党労働党内で支持を失った末のことだった。しばらく前から圧倒的な支持を誇っていたグレーター・マンチェスター知事のアンディ・バーナムが、首相になるために補欠選で国会議員に復職したのをきっかけにスタマーの辞任となった。7月の党首選では、対立候補が出ないままバーナムの首相就任が決まると見られている。
さっそくBBCは、バーナムの略歴を紹介する2分程度のミニ・ドキュメンタリーを放映した。リバプール市のベットタウン出身のスカウサーで、筋金入りのエバトン・ファンであるバーナムは、30代で閣僚入りする精鋭政治家だった。その中で、バーナムが最初に大きな挫折を味わった出来事として、スポーツ大臣を勤めていた2009年4月15日に、アンフィールドで行われたヒルズバラ悲劇20周年メモリアル・サービスがあった。
まだ遺族グループが再審を求める闘争を続けていた時のことで、コップ・スタンド前でスピーチを始めたバーナムが首相からの伝言として追悼の意を表明した時に、スタンドから大きなブーイングが沸き起こったのだった。明らかに動揺したバーナムがスピーチを再開したのに対して、コップ・スタンドは、「96人に正義を(Jusice Fore The 96)」チャントで遮った。その時の、バーナムの青ざめた表情が、BBCのドキュメンタリーで再現された。
Liverpoolファンにとって、97人(※この時は96人だった)は国家権力に殺されたのであり、国家権力が保身のために97人と生存者を加害者に仕立てていた。だから、97人を追悼する場に国家権力が入り込むことは受け入れられなかった。ヒルズバラ悲劇の時の首相はマーガレット・サッチャーで与党は保守党だったのに対し、バーナムは労働党でその時の首相はゴードン・ブラウンだった。ただ、Liverpoolファンにとっては、政党が違っても国家権力であることは変わらなかった。
Liverpoolファンの真意を受け取ったバーナムは、震える声でスピーチを終えた。「悲劇の日に、私はもう一つの準決勝に行っていた(※ビラ・パークでエバトンがノリッジを1-0と破って決勝進出を決めた試合)。ヒルズバラ悲劇はマージーサイド全体の悲劇だ」。これに対しては、Liverpoolファンは拍手を送った。
「96人に正義を」と言って壇上を下りたバーナムは、この人たちのために絶対に再審を実現しなければならないと誓ったのだった。
そして、バーナムはその翌日にブラウン首相に直談判し、ヒルズバラ再審を求める議案を国会で審議するよう動き始めた。ヒルズバラ生存者であり、のちのリバプール市長となったスティーブ・ラザラムと協力して、バーナムは再審を実現するために秘匿文書の発掘・公開へと奔走した。
3年かかって2012年に再審が実現し、2016年には、97人は違法行為によって殺害された犠牲者であり、生存者のLiverpoolファンは何ら責めを負わないという判決が下りた。27年間の闘争の末に、やっと、97人と生存者が加害者ではないという真相が公式になった。
国会でのバーナムのスピーチはパワフルだった。遺族グループの果敢な闘争を強調し、この判決の直前にがんで亡くなったアン・ウィリアムズを始め、27年間の闘争中に命を落とした人々を追悼した。「大切な家族を失った上に加害者に仕立てられて、その汚名を晴らすために遺族と生存者は威厳を持って闘い続けた。その闘争を27年間もやらねばならなかったということは、政治に改革が必要だという事実を証明している」。
かくして、2014年の25周年メモリアル・サービスで5年ぶり2度目にコップ・スタンド前に立ったバーナムは、スタンドから総立ちの温かい拍手で迎えられた。
「5年前に変化が起こったのは、あなた方が私にそれを教えてくれたからだ」と、バーナムは語った。「あなた方がコップスタンドで発した声が国中に伝わり、そして国家にその対応を強要した。あなた方が正しかったということを認めさせた」。
今でもバーナムは、「Liverpoolファンが、自分の政治家としてのキャリアで最も重要なことを教えてくれた」と振り返る。
ヒルズバラ悲劇を二度と繰り返さないために、法的な仕組みを整備する目的でヒルズバラ法案が審議されている。バーナムが首相になった時には、解決しなければならない政治的な課題はまだ山積みだった。
*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。

















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