アンフィールド・サウス

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平野 圭子
LIVERPOOL SUPPORTERS CLUB JAPAN (chairman) My first game at Anfield was November 1989 against Arsenal and have been following the Reds through thick and thin
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FAカップ4回戦の週末だった2月9日、Liverpoolはアウェイで2部のプリマスに1-0と敗退した。3日前のリーグカップ準決勝2戦目で、最強のチームで臨みトットナムに4-0と快勝して通算4-1で決勝進出を決めたばかりのことで、アウトフィードの10人総取り換えでプリマス戦に臨み、玉砕したという結末だった。リーグ順位で言うとプレミアリーグ首位のチームが2部最下位に低迷しているチームに負けたという番狂わせで、何事にも過剰反応のイングランドのメディアは、大喜びでアルネ・スロットに厳しい質問を突き付けた。

プリマスはFAカップ3回戦で、同様に控えのチームで臨んだプレミアリーグのブレントフォードを1-0と破っていた。必然的に、相手を過小評価したことを後悔しているか?という批判を込めた質問が出た。これに対してスロットは、いつも通りの冷静さで、チーム編成の意図を説明した。トットナム戦と同じチームで臨んだとして、前試合の疲労からリカバリしていない選手たちを出すリスクはさておいても、対戦相手のプレイスタイルを考えると絶対に勝てたとは言い切れない。実際に試合に出た選手たちもロングボールは苦手だが、戦略的に不利であることは変わらないのだから、過密日程を戦い抜くために試合に出ることが必要な選手たちを起用した。結果として、負けたということだった。

いっぽうで、Liverpool陣営では地元メディアもファンも、今回の敗戦に対しては全国メディアとは相当な温度差があった。そもそも、トットナム戦に出た選手たちはマージーサイドに残り、片道300マイルの遠征時間をトレーニングの時間に充てたという事実が、スロットが抱いている優先度を物語っていた。リーグカップ決勝進出が決定した時点では、今季四冠の可能性があったLiverpoolを、全国メディアは「ヨーロッパ最強」と騒いだが、Liverpool陣営では四冠を目指すリスクを認識していた。最終的にプレミアリーグとCLをあと一歩のところで逃し、リーグカップとFAカップの国内カップ二冠に終わった2021-22季と、3月のFAカップ敗退を機に調子を崩し、リーグカップだけで終わった昨2023-24季を振り返るまでもなく、ファンの間でも「四冠」という言葉は禁句扱いになっていた程だった。

「敗退を悔しく思わない人はいない。ただ、FAカップ敗退によって今季の目標を3つに絞ることができるようになった利点は重要だ」と、地元紙リバプール・エコーは断言した。プレミアリーグとCLが最重要であることは誰もが一致していたが、国内カップ戦のどちらが優先かという時に、決勝進出が決まっているリーグカップを上げる人は圧倒的だった。

両カップ戦の伝統を考えると、1871年に創立された世界最古のカップ戦であるFAカップの方が上であることは明らかだった。ノンリーグを含めFA配下にある全クラブ(今季は745)が8月に予備戦を開始し、5月の決勝戦まで大会が続くFAカップに対して、リーグカップは1960年に開始し、文字通りイングランドのプロリーグに所属する92チームだけで戦われている。従って、より優勝杯の重みがあるFAカップは最強のチームを投入し、リーグカップは控えの選手と若手にチャンスを与えるという慣習が、上位のクラブの間で続いていた。

しかし、プレミアリーグが世界的な人気リーグとなり、CLの重要性が高まるにつれて、国内2カップの重みも変化してきた。5月末(※今季は5月17日)まで大会が続くFAカップは、勝ち残ればシーズン終幕に過密日程を余儀なくされるため、リーグ戦に影響する。いっぽうリーグカップは決勝戦が2月末か3月初め(※今季は3月16日)と早期に完了するため、残り日程はリーグに集中できる上に、シーズン最初の優勝杯を取ることで大きな自信が付くというメリットもある。CLで勝ち残っているビッグクラブにとっては特に、リーグカップに力を入れる傾向が高まっている。今回のLiverpoolの例のように、リーグカップは最強のメンバーで3日後のFAカップは控えの選手と若手という、逆転現象も珍しくなくなってきた。

「FAカップ5回戦から決勝までの最多で4試合がなくなったことは、ましてやCLの試合数が増加した今季は重要な要素となる」と、エコー紙は続けた。「スロットは、プリマスからの帰途に着いたと同時に3日後のエバトン戦に頭を切り替えたことは間違いない。スロットにとって初のダービーでもあり、グッディソン・パークでの最後のダービーでもある。エバトンのチームとファンは、最後を飾りたいと感傷を込めて宿敵を迎えるだろう」と、同紙は、地元ファンの優先度を掲げた。

「スロットのチーム編成は的確だった」と、Liverpoolファンは、エコー紙の主張を裏付けた。「7日間にリーグカップのトットナム戦、FAカップ4回戦、プレミアリーグのエバトン戦が続く時に、主力を休ませるべく試合は明らかだ。フォワードのメンバーを見るとプリマス戦も勝つ算段でチーム編成したことは明らかで、残念ながら勝てなかったという結末だ」と、ファンは頷き合った。

Liverpoolにとって、通算8回優勝のFAカップは重要なカップ戦であることは明らかだった。そして、リーグカップは通算10回と大会史上最多優勝回数を誇っていること、どちらも決勝戦はウェンブリー・スタジアムで行われることから、ファンの間で第二のホームと言えるくらいに通いなれたスタジアムいう意味で、ウェンブリーを「アンフィールド・サウス」と称している。リーグカップ決勝進出が決まった瞬間に、「今年もまたアンフィールド・サウス行きだ」と、ファンは歓喜した。

「アンフィールド・サウス」という呼称を知っているか?と質問されて、スロットは、「それだけ何回も決勝戦に出ているという意味だね」と、笑顔で答えた。そして、1992年ヨーロピアン・カップ(※CLの前身)でバルセロナがサンプドリアを1-0で破った試合を引用した。「ロナルド・クーマンとヨハン・クライフが優勝杯を掲げたウェンブリー・スタジアムは、オランダ人にとってもスペシャルなスタジアムとして語られている」。

「ただ、スペシャルなスタジアムにするには勝たなければならない」と、スロットは締めくくった。FAカップは今季は見送りとなったが、スロットは必ず取るだろうと、ファンは確信している。

*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。

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