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9月7日、Liverpoolのクラブ史上に残る名主将ロン・イエーツが亡くなったという悲しいニュースが流れた。86歳で、今年1月にアルツハイマー病を患って病棟生活に入ったと伝えられた末のことだった。Liverpool FCは、イエーツを追悼してアンフィールドとアクサ・トレーニング・センターで半旗を掲げると公式声明を出した。
訃報を聞いたLiverpoolファンの一人がポツリと言った。「ビル・シャンクリーにとってイエーツは、ユルゲン・クロップにとってのフィルジル・ファン・ダイクのような存在だった」。両者ともに長身のセンターバックで、監督が切望してサインし、信頼に見合う仕事をした偉大なクラブ主将という共通点があった。
イエーツが、同国人であるシャンクリーから熱烈に望まれて母国スコットランドのダンディーユナイテッドから、当時2部リーグにいたLiverpoolに入ったのは1961年のことだった。シャンクリーは、188cmのイエーツをお披露目した時に、記者団に向かって、「コロッサス(※)」と、誇らしげにイエーツを紹介した。
※古代ギリシャの巨大アポロ像に由来する言葉で、巨人という意味を持つ。
そしてLiverpoolは、コロッサスが入ったシーズンに2部リーグで優勝し、待望の1部(プレミアリーグの前身)昇格を果たした。その後Liverpoolは、2シーズン目に1部リーグ優勝に輝き、1965年には待望のクラブ史上初FAカップ優勝を達成し、文字通りイングランドの頂点に立った。そしてイエーツは、1971年までの11年間で1部リーグ優勝2回を含む454出場、うち400超試合で主将を勤め、クラブ史上2番目に長い主将となった(1位はスティーブン・ジェラード)。
当時のイングランドでは、FAカップの評価が高く、1部リーグ優勝よりもFAカップ優勝の方がより栄誉があると言われていた。そのFAカップの優勝杯を掲げたクラブ史上初の主将となったイエーツは、名実ともに偉大な主将としてクラブ史上に刻まれた。
その時既に物心ついていたベテラン・ファンが振り返った。「お父さんがLiverpoolのシャツを買ってくれて、お母さんが背番号5を手縫いで入れてくれて、そのシャツを着てイエーツになったつもりでフットボールを蹴っていた」。
別のベテラン・ファンが、当時あまりにも有名になった、FAカップの表彰式のエピソードを語った。FAカップ決勝戦の前日に、Liverpoolの主将としてイエーツは王室から電話を受け取った。表彰式ではエリザベス女王が直々に優勝杯を授与することになっており、労働者階級のスポーツのプロ選手が、女王に対して無礼な振舞いをしないようにと事前に通告を受けたのだった。「優勝杯を授与される際に、もし女王が質問した場合は答えても良いが、くれぐれも会話はしないように」。イエーツは、分かりましたと言って電話を切った。
ところが決勝は延長にもつれ込み、Liverpoolが2-1とリーズ・ユナイテッドを破ってクラブ史上初優勝を達成した時には、イエーツは疲労と感激で冷静さが薄れていた。女王が「お疲れでしょう」と声をかけたのに対して、イエーツは「もうクタクタです!」と答えてしまった。女王は一瞬言葉を失った後で威厳を取り戻して、「そうだと思いました」と笑顔で返した。
その話には続きがあった。15年後の1980年に、女王がリバプール市を公式訪問した時にアンフィールドにも立ち寄ることになり、Liverpool FCはクラブを上げて女王をお迎えした。代表者が女王に選手やスタッフを紹介して歩いた、その列の最後に、当時クラブのアンバサダーとして働いていたイエーツがいた。すると女王は、紹介される前に、「ミスター・イエーツ。お元気でしたか?」と言ったという。
女王に覚えられた程の、Liverpoolのクラブ史上で特別な存在となったイエーツは、その後、1986年から2006年までLiverpoolのチーフ・スカウトとして働いた。イエーツが発掘した選手の中では、1999年にビレムIIから僅か£2.6mで獲得したサミ・フピアがいた。長身のセンターバックで後に主将になったフピアを見出したコロッサスは、現役時代に偉大な主将としてファンから慕われただけでなく、後々のチーム増強にも実力を発揮したのだった。
現役時代の思い出を聞かれた時に、最も誇りに思うのは2部リーグ優勝とFAカップ優勝だと振り返ったイエーツは、Liverpoolがイングランドのトップに立ちヨーロッパを制覇する勢力になった、その土台をシャンクリーと共に築いたかけがえのない存在だった。
RIP コロッサス
A true colossus.
— Liverpool FC (@LFC) September 7, 2024
Rest in peace, Ron ❤️ pic.twitter.com/3WFVkgkRj4
*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。
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