アイリッシュ・ローバー

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平野 圭子
LIVERPOOL SUPPORTERS CLUB JAPAN (chairman) My first game at Anfield was November 1989 against Arsenal and have been following the Reds through thick and thin
平野 圭子

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1月5日、Liverpoolはアンフィールドでマンチェスターユナイテッドに2-2と引き分けた。ユナイテッドはクラブ史上最悪の19戦6勝4分9敗という深刻な不調で14位と低迷していただけに、事前予測ではLiverpoolの圧勝を掲げる声が圧倒的で、ふたを開ければLiverpoolの方が本来の調子には程遠い出来だった。中でも、2失点に繋がる守りの悪さで86分に交代させられたトレント・アレクサンダー・アーノルドに世間の非難が集中した。スカイスポーツのハイライト番組で、ロイ・キーンは、「トレントがレアルマドリードに行くという話題で満載だが、今日のような守りをすればトランメア(※地元マージーサイドの3部リーグのクラブ)の方がふさわしいだろう」と、厳しい口調で批判した。

実際に、このビッグマッチを控えた12月31日に、レアルマドリードがLiverpoolに対して£20mの移籍金でトレントを求める正式なコンタクトを取ったことで、イングランド中のヘッドラインを独占していたところだった。トレントのLiverpoolとの契約が今季末までで、契約更新しないままフリーエージェントとしてレアルマドリードに行くだろうという噂がさんざん出回っていた矢先に、レアルマドリードがそれを裏付けた形になった。というのも、獲得を狙う側のクラブが相手先のクラブに対して正式なコンタクトを取るということは、選手本人の合意は既に取れていることを意味するとは、誰もが知る移籍の実態だった。

それにしても何故、今?という疑問が上がった。半年待てばレアルマドリードはトレントを移籍金ゼロで獲得できる。ライトバックの負傷状況により1月に欲しい事情が発生したことは確かだが、半年前倒すことで£20mの出費が増える。中立のメディアは、「レアルマドリードはLiverpoolに対して敬意を示す意図で正式なコンタクトを取った」という好意的な説を唱えた。いっぽうで、レアルマドリードがトレント陣営と合意した条件として、サインオン・フィー(※契約金としてレアルマドリードがトレント個人に対して支払う一時金)£100mという法外な金額があり、1月に前倒す場合はLiverpoolに支払う移籍金を差し引く(=レアルマドリードが支払う金額は変わらない)という憶測もあった。

かくして、Liverpool対マンチェスターユナイテッドという、イングランドを代表する二大名門クラブの直接対決が、試合そのものよりも一選手の移籍話で完全に話題が埋め尽くされる結果となった。そして試合では、当のトレントが悲惨な出来で世間の非難の的となった。

「レアルマドリードの行動は、Liverpoolに対する侮辱だ。レアルマドリードは、自分たちが望む選手は絶対に獲得できると傲慢な態度で来たが、Liverpoolは伝統がある名門クラブだ」と、ガリー・ネビルは紛糾した。「このビッグマッチの前にこんな事態になって、トレント本人が影響を受けないはずがない」と、トレントを擁護した。

ただ、スカウサーでワールドクラスのスーパースターであるトレントは、そんな事態だからこそ良いプレイをしてチームの勝利に貢献し、世間の騒音にピッチ上で答えるべきだったのに、真相はレアルマドリードよりはトランメアに近いと言われる出来で、火に油を注いでしまった。

皮肉なジョークで有名な全国メディア「スポーツバイブル」は、トレントが試合を通して一対一で全敗だったという数字を上げてたたみかけた。「交代で出場したコナー・ブラッドリーは最初の一対一に勝ち、トレントが86分間に一度も出来なかったことを1分でやりのけた」。

Liverpoolファンの間では、トレントを失う打撃と並行して、長期負傷欠場から復帰したブラッドリーを歓迎する声が盛大に響いた。「ケビン・デ・ブルイネと並べて語られる程の正確なパスを出すトレントと、伝統的なフルバックというタイプのブラッドリーとは比較の対象ではないが、少なくともレベルの高いライトバックが後任として育っていることは確かだ」と、ファンは頷き合った。昨季、トレントが負傷欠場した時に代わって出たブラッドリーは、マン・オブ・ザ・マッチのプレイを見せるなど、既にプレミアリーグで通用するライトバックとしての実績は積んでいた。

そして今季も、トレントの負傷欠場の穴を見事に埋めた試合の一つが11月27日のアンフィールドでのCLレアルマドリード戦だった(試合結果は2-0でLiverpoolの勝利)。何より、相手キリアン・エムバペが絶妙のチャンスを作った時にピンポイントの正確さでボールを奪った果敢なタックルは、この試合のハイライトとしてLiverpool陣営はもちろん、全国メディアからも絶賛を引き出した。このタックルの瞬間に、スタンドから「オンリー・ワン・コナー・ブラッドリー」チャントが高々と響いた様子は、動画になってインターネット中を飛び交った。

Liverpoolファンのブラッドリー熱はこの試合を機に更に高まった。創作力のあるミュージシャンのファンが、ブラッドリーの母国アイルランド(※)の伝統的フォークソング「アイリッシュ・ローバー」のリズムに乗せてブラッドリーの歌を作ってファン向けのメディアで披露し、大きな話題となった。
※代表チームは北アイルランドだが、ブラッドリーの故郷カウンティー・タイローンはUKよりはアイルランド寄りの地区

コナー・ブラッドリーはLiverpoolの方針でプレイする。
コナー・ブラッドリーはカウンティー・タイローン出身で、
コナー・ブラッドリーはLiverpoolファン。
相手ディフェンダーをなぎ倒す。
コナー・ブラッドリーは決して一人では歩かない(you’ll never walk alone)
シュートも出来るしパスも出来る。
芝の上を駆け回りキリアン・エムバペを打ち負かす
彼がウィングを走るとコップは歌い始める
「コナー・ブラッドリーはアイリッシュ・ローバー!」と。
Conor Bradley can play in the Liverpool way,
Conor Bradley from County Tyrone,
Conor Bradley‘s a Red, leaves defenders for dead,
Conor Bradley you’ll never walk alone,
He can shoot, he can pass,
covers every blade of grass,
turned Kylian Mbappe right over,
When he runs down the wing and the Kop starts to sing
Conor Bradley the Irish Rover!’

残念ながら、ブラッドリーはレアルマドリード戦の試合中にハムストリングを痛めて交代してしまい、その後1カ月余りの欠場に入ってしまったため、力作「アイリッシュ・ローバー」のスタンドでのお披露目は先延ばしとなった。

「堅い守りに加えて攻撃力もどんどん向上している。まだ21歳のブラッドリーは、この調子で成長すれば数年後には絶頂期のアンディ・ロバートソンを彷彿させるワールドクラスのフルバックになるだろう」と、ファンは笑顔で頷き合った。「アイリッシュ・ローバー」がスタンドの定番に加わる日は近い。

*本記事はご本人のご承諾をいただきkeiko hiranoさんのブログ記事を転載しております。

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