クロップリバプールは「引いた相手」をどう崩すのか〜弱きを助け強きを挫く〜

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UMIYA
戦術分析から軽い紹介記事まで、リバプールに関することや、プレミアリーグや他リーグのこともネタがあればkop目線で様々な記事を書きたいと思っています。よろしくお願いします。

1月、プレミアリーグで1勝もできなかったリバプール。2月に入ってもハルシティに勝つことができませんでした。しかし、ハル戦から1週間後,アンフィールドでのスパーズ戦では2-0の勝利。内容はスコア以上の大差であり、今季のベストゲームの一つに数えても良いのではないでしょうか。思い返してみると、スランプにあった1月においても、マンチェスターユナイテッド、チェルシーというビッグクラブとの対戦では好ゲームを披露していました。

しかし今季、リバプールに泥をつけたのはバーンリー、ボーンマス、スウォンジー、ハルと残留を目標にしているチームばかりです。このようなチームは多くの場合、自陣に引き籠り、カウンター狙いに徹してきます。以前、キャラガーもコメントしていましたが、6強以外のチームが今後リバプールを相手にしたとき、ペナルティーエリア内にバスを止めるとういう選択をしてくることでしょう。その時、リバプールはどうすればゴールを奪うことができるのか?今回はそのようなテーマで考察してみたいと思います。

過去のクロップによる引いた相手との戦い方

クロップの代名詞はボールを保持している相手に対して繰り出される前線からの強烈なプレッシングです。そして、そこから始まる破壊力抜群のショートカウンターが最大の強みでしょう。当然、対戦相手はこういった持ち味を消しにかかります。そこでラインを低く設定し、リバプールの選手たちが速い攻撃を仕掛けるためのスペースを埋めてしまいます。そんな相手に対してリバプールはボールは保持しますが、なかなか突破口を見つけ出せず、やがてミスからボールを奪われカウンターを受けてしまうという1月でした。

しかし、リバプールと対戦する相手がゴール前にバスを止めるなんて今に始まったことではありません。シーズン前半戦も多くのチームが守りを固めてきましたが、クロップレッズはその壁を突破してきました。また、クロップはドルトムント時代に、ブンデスリーガ連覇を達成していますが当時も下位のチームはクロップのチームに対してラインを低く設定し、守りを固めてきました。特に前年チャンピオンとして臨んだシーズンはその傾向は顕著になっています。しかし、そのような状況でもドルトムントは連覇を達成しました。このように、クロップは引いた相手に対してもしっかりと結果を残しています。ではどのようにして相手の守備を突破していたのでしょうか?

・クロップドルトムント 引いた相手の崩し方

まずクロップがドルトムントを率いていた時、どのように自陣に立て籠もる相手からゴールを奪ってきたかを振り返っていきたいと思います。

当時もクロップのチームはビルドアップは得意ではなく、引いた相手に対し華麗なパスサッカーで崩していたわけではありません。当時のドルトムントではシンプルなロングボールが多く使われていました。前線にはレバンドフスキがおり相手との競り合いを制してよくボールが収まり、レバンドフスキを前線の選手が追い越していくことで迫力のある攻撃を生み出していました。また、レバンドフスキがロングボールを収めれなかった場合でも、レバンドフスキがファーストディフェンダーとなり、ゲーゲンプレスがスタートしました。いくらラインを低く設定し、守備を整えてくるチームといえども、前線から人数をかけてプレスをかけてきた相手にボールを奪われれば陣形が整う前にゴールを落とされてしまいます。やはり、クロップのチームの肝となるのは前線からのプレスであり、奪ってからの縦に速い攻撃でした。

 

クロップはドルトムント時代、自陣に立て籠もる相手に対してレバンドフスキをうまく使うことで勝利を重ねました。レバンドフスキがバイエルンに引き抜かれると、ドルトムントが不振に陥り、一時は最下位まで転落したことがその存在感の大きさを証明しています。しかし、リバプールにレバンドフスキはいません。ロングボールを収めることができるベンテケもプレスサッカーに馴染むことができませんでした。昨シーズン終盤、オリギが前線でターゲットマン、プレスのファーストディフェンダーとして機能した時期もありましたが、今季はそれほどのインパクトを残せていません。しかし、今季前半戦、クロップは勝ち星を積み上げました。どのようにしてリバプールは引いた相手を崩してきたのでしょうか?

・リバプール 今季前半戦に見る引いた相手の崩し方

リバプールにレバンドフスキはいませんが、クロップが引いた相手を崩すために取った手法はドルトムント時代と同じメカニズムでした。クロップが狙う形はヘンダーソンやCBからまず、全線の4枚(コウチーニョ、フィルミーノ、マネ、ララーナ)に縦パスを送る。ボールを受けた選手が前を向き、そこから4人のアイデアや連携、個人技、もしくは他の選手も絡みながらできるだけ速く、シンプルにゴールを目指すというものです。仮に縦パスが入った後に全線の選手がボールを失ったとしてもそこからプレスをかけるという二段構えです。

ドルトムント時代との違いは、攻撃のスイッチを入れる縦パスに浮き玉が減ったことと、縦パスの受け手が増えたことです。それに伴い受け手の位置も変化しています。レバンドフスキは最前線で相手を背負ってボールを収めましたが、リバプールの選手はMFタイプの選手が多く、2ライン間で受けることが多くなります。2ライン間は守備側からするとマークの受け渡しが難しいところであり、誰がプレスに行けばいいか曖昧になり易い場所なため、ここで上手くボールを引き出せれば、前を向くことができ、そこから始まる全線の選手たちによる攻撃の破壊力は前半戦で証明済みです。

なぜリバプールは勝てなくなったのか?

ではなぜリバプールは急に勝てなくなったのでしょうか?レバンドフスキみたく、絶対的な選手がいなくなったわけではないのに。マネはアフリカへ行きました。これはチームにとって痛手でしたが、果たしてマネがいればこれほどの大不振には陥らなかったでしょうか?私にはマネがいればこうはならなかったとは到底思えません。選手のパフォーマンスは軒並み悪く、プレスも全く機能しませんでした。こうなってしまった原因を2つあげてみます。

①疲労

これが最も大きな理由だと思います。1月の試合では、選手1人1人が本来のパフォーマンスを発揮できていないのは明らかでした。特にララーナ、エムレ・ジャン、コウチーニョ、ミルナーあたりは完全にキレを失っていました。そのため、攻撃時に選手の個の力によってアクセントを加えることができなくなり、攻撃が停滞してしまいました。リバプールの前線の選手が良い位置で前を向いてボールを持ち、以前なら2~3本パスをつなぎ、シュートまで行けていたところを、パスミスや判断ミスから簡単なエラーが発生していました。

また、トランジションの部分でも疲労は色濃く現れていました。疲労が蓄積されると、体が重く感じるようになり、頭の切り替えも遅くなるため、最初の数歩のスピードが遅くなります。これはクロップサッカーにとって致命的です。実際、ハル戦ではボールを失った後の全くプレスがかかっていません。ボールホルダーに寄せた時の距離が遠く、相手はそれほど怖くなかったのではないでしょうか。そして守→攻の切り替えも非常に遅かったです。スパーズ戦では味方がボールを奪った瞬間からサポートがありましたが、ハル戦では全く見られませんでした。そして、パスコースを作る動きが非常も非常に遅かったです。果たしてダイレクトのタイミングで動き出していた選手が何人いたでしょうか。

②相手チームの守り方の変化

そしてもう一つの理由は相手の守り方の変化です。今季前半までのバスを停めてくる相手は最終きラインに人数を割く守り方が多かったです。しかし、リバプールを相手に守り切るには全体のバランスを崩さずに、中盤を厚くしたほうが効果があるようです。

ここではハルの守備を例にあげます。ハルが採用したシステムは4-1-4-1でした。終始バランスを崩すことなく、全体をコンパクトに保っていました。そして、マルコ・シウバはリバプールの2列目の選手を徹底的に封じにかかりました。コウチーニョ、マネ、ララーナが2ライン間でボールを受けた時の2~3人による寄せは非常に早かったです。また、ハルシティの中盤の選手たちはリバプールの2列目の選手に入る縦パスには非常に敏感でした。リバプールの1失点目、マネの縦パスがカットされ、コーナーにつながりましたが、ハルの選手2、3人がマネの縦パスに反応していました。このように、リバプールは中盤に防波堤を築かれ、2列目の選手が自由にプレーさせてもらえないと厳しいゲーム展開となってしまいます。

 

どうすれば引いた相手に勝てるようになるか?

今後のリバプールの一番の課題はいかにコンディションを回復させるかでしょう。幸い、次節レスター戦まで2週間あります。この期間をうまく利用することが重要だと思います。やはり、クロップサッカーの肝はボールを失った瞬間からのプレスです。それは相手がバスを停めてきても変わりません。ゲーゲンプレスを再び機能させるためにはコンディションの回復が絶対条件です。そして、前線の4人(コウチーニョ、マネ、ララーナ、フィルミーノ)のパフォーマンスが戻れば引いた相手を崩すことができるでしょう。

 

しかし、今後も堅固な2ラインブロックを敷き、中盤を制圧してくるチームも現れるでしょう。そんな時には中盤を省略したロングボールが効果的になると思います。ハル戦でもこのようなボールからチャンスになりかけた場面もいくつかありました。私はこのようなボールをもう少し多く使っても良いのではないかと思います。そのために、オリギの起用回数を増やしても良いのではないでしょうか。欧州との二足の草鞋を履くであろう来季のことを考えると、攻撃のオプションを増やすことは必須であり、その候補にオリギは当てはまります。クロップもドルトムント時代、ロングボールを攻撃のスイッチとした戦術も採っており、ここからのシーズン終盤、オリギの活躍にはひそかに期待しています。

>>UMIYAさんのインタビュー記事

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5 件のコメント

  • 左右寄せからのヘンド経由のダイアゴナルパスで右左SBを深い位置まで進入させて、相手のディフェンスを左右上下に揺さぶる崩しがクロップの狙いかなと思っています。
    ‪問題は2つあって、ミルナーが右利きのせいでワンテンポ遅れるのと、疲れによる切り替えの遅さかなと。‬恐らく切り替えさえ早ければ失点はせず、殴り続けてこじ開けられると思います。
    スタリッジは言わずもがな、オリギも切り替えが遅すぎて使えないですね。

    • やっぱり疲労は大きいですよね。切り替えの速さを継続できれば負けないんですが…
      そして、オリギの切り替えの遅さは仰る通りだと思います。ただ、そこは意識することで改善できることだと思うんですよね。そして、スタリッジは明らかに走力が落ちちゃってますから、残念ですが放出濃厚ですかね。

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