「パス」の面白さ 〜現代サッカーのパスの名手から読み取る空間と時間の創造〜

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マジスタ#7
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ラボも賑やかになり、着実に読者の方が増えていることを非常に嬉しく思います。

前回の記事https://lfclab.jp/match/review/640で多くのPV・コメントをいただき、ご共感して下さった方もいらしたので、今回は「効果的な無駄なパス」や「パスの質」にフォーカスし、それをリバプールに置き換えるとどのような効果が期待出来るか、という展開でご紹介させて頂こうと思います。

サッカーは同状況というものが正確には存在しないので、全てにおいて効果があるわけではないですが、サッカーを観戦する上で「このパスが実はこんな役割をしているんだ〜」や「この位置にはあんなパスを出したいな〜」など面白い見方が広がればと思いいくつか紹介してみます。

サッカーにおいて大切なこと。それは点を取ること です。極論を言えばキーパーからロングフィード1本でFWに送り、それを決める。もしくは圧倒的なドリブルスキルを持った選手が全員抜いてゴール。これが最も簡単で最短のゴールの奪い方であるはずです。ただ、もちろんそんなこと滅多に出来ることではなく、相手も1番危険なところは簡単には空けないでしょう。そこで生まれたのが「戦術」であり、それが「ゴールまでの過程」というもの。

この「ゴールまでの過程」には監督・チームによって様々な信念がありますが、チームコンセプトに違いがあれど、ゴールまでの過程で最も重要で奥が深いのが、「パス」だと思います。

サッカー選手の中には、普通にパスを出す選手と、上手いパスを出す選手がいます。では何が上手いパスで、何が下手なパスなのでしょうか。試合を見ていて「あっ」となるような鋭いスルーパス、これが1番、目に見えやすい上手いパスでしょう。しかし今回紹介したいのは、普段何ともなく見過ごしているパスの効果や、逆にどのような背景からいいパスを出せる状況を創ったか、というものです。

遅いパス

現代サッカーにおいて、よく言われていたこと、「パススピードをあげろ、」ですが、パススピードをあげることが100%良いことなのかと言われれば答えはNOです。

しかしパススピードをあげることは相手のプレスを無効化したり、撹乱することが出来たり、単純に攻撃もスピーディーになったりするのでもちろん大切なことです。(スペイン代表や全盛期のバルサのパスを見ていると、速く正確で惚れ惚れするようなショートパスを繋ぎますよね)ただ、これらは基本的に相手がボールに近い位置にいる前提であって、バスを停めるようなリトリートをしてくる相手にはそれほど効果を発揮出来ません。(動かし方を工夫すれば話は別ですが)

実際リバプールが引いた相手と試合をする時、ボールを左右に動かすだけで全くゴールに近づけませんよね。それはパスを回しても相手が「相手にしてくれない」から。リトリートする相手のプランはパス回ししてるボールを奪うことではなく、ゴール前に自分達が有利な網や壁張り巡らせて、壁内に入れさせない、もしくは網に入ってきたところを捉えることが目的なので、「取れる!」と思わない限りプレスには来ません。そこで有効なのが「遅い」パスです。

このパスの使い手として有名なのがシャビであり、日本が誇る遠藤保仁ですよね。遠藤選手のパスに関する考察は非常に深く、ぽっちゃりおじちゃんですが、世界トップクラスの崩しに対する考察を持っています。それもそのはず、遠藤選手は横浜フリューゲルス時代にクライフ政権にバルセロナのコーチを務めたレシャックから指導を受け、後に「最も影響を受けた指導者」と語っているそうです。

遠藤選手と一緒にプレーしたFWは「ヤットさんから受けたパスはそのパスのメッセージに従って次のプレーが選択出来る」と言うほど、一見何気ないパスに「仕掛けろ」や「相手を誘き出す、リターンしろ」などのメッセージが感じられるそうです。

シンプルな例で遅いパスの有効性を示すと

これを相手が引いてゴール前を固めて守っているとします。よく攻めあぐねている状況ですよね。

なかなか攻めれない…→素早くサイドを変えて空いてる場所に行けばいいんだ!という発想から多くの選手は速い横パスでサイドを変えようとします。(もちろん相手のオーガナイズを崩す段階で前回紹介したように「相手の予測を上回るスピードでボールを動かす」ということは大事なのですが…) しかしいくらスライドさせてもただ同じテンポで平行に移動しているだけでは、相手の後ろの枚数は足りているのだから、それほど効果は感じられません。いつも下位チームとする時はこんな感じだと思います。

そこで遠藤選手などが愛用するのが遅くて緩いパスです。この位置で取れそうな遅いパスを出せば十中八九相手は食いつきます。しかしこれはパサーが仕掛けた巧妙な「罠」です。パスが無駄に速いから相手は引いて平行にスライドするのであって、遅いパスで「取られそう所」を作ることで相手を引っ張ることが出来、穴が生まれます。


もちろんここで相手を引きつけすぎてボールを失えば元も子もないので、十分に釣り出せたたらリターンします。これにより中盤のセンターラインにギャップを生みゴールへの最短ルートが開くというものです。

遅いパスで相手を釣り出すことで、フィルミーノへのコースが開くだけではなく、PA内のマネへのスルーパスや、ララーナ、ワイナルドゥムが飛び出るスペースが生まれることがお分かりいたたげると思います。

速くサイドを変して崩す、では通用しないんですね。だからあえて遅く引っ張る。

つまりパスで空間を操るわけです。トップクラスの選手は空間を創る無駄なパスを多様しているのでフォーカスして観戦すると面白いです。

今のリバプールはサイドを変えるだけでこのようなパス交換が非常に少ないです。クロップの戦術は基本的にゲーゲンプレスによるショートカウンターなので、速さを求めることも大事ですが、引いた相手には、意図として穴を生むプレーが必要となってくるでしょう。

ペップ全盛期のバルセロナがなぜあそこまで崩せたかというと、もちろんメッシの活躍も大きいですが、中盤でシャビ、イニエスタ、ブスケツが絶妙なパススピードとコースで相手を徐々に引っ張っていたから、があると思います。

もちろんこの位置で相手の引きつけを計算した、遅いパスを出すことはリスキーでもあり、キックの精度も要するかなり高度なプレーです。完全に使いこなすには相当な技術が必要ですが、リトリートした相手にはただ速くサイドを変えるのではなく、どこかで相手を引き付けられるパスを出すことで相手のオーガナイズをコントロールすることが大切だと思います。また現在は逃げるパスが多くてあまり確認されませんが、ララーナやヘンダーソンのボール技術とセンスがあれば、このように「遅いパス」を使って相手を誘き出すことは可能だと考えています。

パスの上下と俯瞰力ーサイドチェンジー

俯瞰力とはご存知の方も多いと思いますが、ピッチ全体を上からテレビで見ているように感覚で捉える力のことです。

上手い選手はこの力が本当に強いです。ただ実際に肉眼で見てピッチ全体を把握するのには限界があるので、俯瞰力は「今こういう状況だからFWのやつはあそこらへんで動き出していて、逆サイドはフリーの選手がいるんだろうな〜」というものです。

選手の「今日は調子が良い・悪い」というのがありますが、これはもちろん単に体のキレもありますが、俯瞰する想像力が冴えているかが関与しています。(プレーヤー経験のある方ならわかるかもしれませんが、プレーする時、調子のいい日は後ろの相手の位置からパスコースまでほとんど感覚で脳内に入って来る感覚があるものです。)

これがテレビで観戦している我々にも「え、そこ出す!?」と言うようなパスを生んでいるんですね。

リバプールで言えばヘンドやコウチーニョがこの力が非常に強い選手で、最近のヘンドのロングパスには目を見張るものがありますよね。

ではこの2人の力を最大限に活用するにはどうすればいいか。それは、こと引いた相手には対しては「必要以上にサイドチェンジをしない」だと筆者は考えます。

リバプールは実際ボールを保持し、右から、左からサイドを変えて攻撃を試みますが、相手は元々守備を固めて穴を無くしているので、サイドを変えても穴が出来ないようにポジショニングが組まれています。もしこの状況でサイドを変えるとどうなるか。そもそもサイドチェンジは数的優位を作るために行いますが、どの位置にも一定の守備が揃っている相手にサイドチェンジを行っても数的優位どころか、逆サイドの味方選手が孤立した状態でパスを受け1VS1の状況になることも。この状態でボールを失えば……手薄なサイドを一気に制圧されますね。寧ろこれを初めから狙い目にしているチームも多いです。

一見良いプレーに見えるサイドチェンジですが、実はあまり役に立たないこともあるのですね。(もちろん状況によっては相手のウィークゾーンを突く最高の戦術でもあります。)

サイドチェンジを好むイメージのあるボランチのプレーヤー―――シャビや遠藤、アロンソ―――も実はサイドチェンジは優先度の低いプレーだそうです。不利な状況を生む場合もあるので、必要な状況を察知してサイドチェンジを行うということでしょう。何も考えず闇雲に行ってよいプレーではないのですね。

そこで無理にサイドを変えずに真ん中の選手を用いて、ストロングサイドでボールを繋ぎ崩すことを優先します。今のリバプールは少し守備が硬そうと思ったらすぐにサイドを変えたがりますが、あまり効果的とは言えませんし、非常にもどかしい試合となりますよね。相手が均等ならば上記の無駄なパス等を用いて崩せることもあるはずです。

もしサイドチェンジするのであればライナー性のボールが好ましいです。ロブレンやミルナーなどはフワッとした浮き玉でサイドチェンジを行いますが、ボールの滞空時間というのは長いものでその間に相手はスライド出来ますし、サイドチェンジの本来の意義がなくなってしまいます。このパスに関してはロベルトカルロスなどが高精度で速いライナー性のサイドチェンジを行う印象があります。これは次の2手先を見据えているから速いパスを出すのでしょうね。単純なビルドアップでのボール回しにも適当に蹴っていそうな選手と、先を見据えて蹴る選手。ここに注目するのも選手によって違いがあり非常に面白いです。

これを考えれる選手が「時間」を創造するプレーヤーということです。パスの質で受け手の猶予をコントロールするのですね。セスクやヘンダーソンなんかは「時間」を創造出来る選手だと思います。

つまり浮かしたパスを利用するのは、浮かさないと通らないから、逆に言えば「浮かしてでも通せばチャンスになる場所」になります。それはリバプールで言えばマネやコウチーニョの前のスペースです。そしてこの穴があるベストなタイミングは動き出しと噛み合う一瞬ですので、この位置を逃さずに見れる選手、先程示した俯瞰力のあるコウチーニョやヘンドのような選手が利用するのに適しています。ヘンドやコウチーニョの斜め前への浮き玉は観戦していても驚くチャンスボールを蹴ることが多いですよね。

またこの位置への浮き玉は例え繋がらなくても、相手がヘディングで跳ね返したのを拾える→お得意のゲーゲンプレスに繋がります。実際クロップはロングボールでわざと相手にボールを跳ね返させて、そこを奪ってカウンター という戦術を使っていたこともありました。

 

つまりサイドチェンジは必ずしもいいプレーではないので、リバプールの試合を見ていて、一見良いプレーに思われるサイドチェンジに「それ必要か?」と異を唱え、本当に効果的にスペースを使うにはどうすればいいか を考えるのものもいいかもしれませんね。「時間」を創造するパスについて意識して観戦するのも見方が広がって面白いものです。

バックパス

これに関しては色んな意見があり、既に効果をご存知の方も多いと思いますが、改めて有用性を話してみたいと思います。

ペップが就任する前の話、バルセロナの現地のサポーターは非常にコアで独自の攻撃的な美学を持っているので、バルセロナが消極的なバックパスを行うとブーイングが起こり批判が殺到したという話もあります。(ペップはバックパスの重要性を理解していたので、その効果性を説き、当時最強と言われたポゼッションバルサを作り上げたそうです。)

バックパスは逃げのパスでもあり、多様するとダメなプレーヤーとなってしまいます…(ポグバックbyグラッドさんを聞いた時は笑いました笑)

ただ効果性をわかった上で、バックパスの後に適切なポジショニングをすれば、特に前線からプレスをかけてくる相手に対して良い打開策になります。

これは本当にシンプルな例で申し訳ないのですが、このように相手を背負っている状況とします。

これをバックパスします。どこのチームでもよくあるシチュエーションですよね。これがいいバックパスになるか、ただのバックパスに終わるかはAとBの選手次第。
Aの選手がバックパスの後にほんの2,3歩次のパスを受けようとズレるとします。(画像ではペンの扱いの難しさでかなりズレています。笑)
そうすることでCの選手の位置を意図的にズラせて、Bの選手が飛び出すスペースを作ったり、またBの選手が動くことでFWの選手が落ちるスペースを作れるというもの。

これはリバプールでも何回かは見られていますね。Bの選手の飛び出しのマークををDの選手がディフェスに受け渡すのは至難の技なのでDの選手を引っ張れますし、そのスペースに落ちたFWの選手を相手CBが深追いすることは少ないと思います。深追いしてきたら今度はゴール前のスペースが開く……。というようにバックパスでもその後のほんの2,3歩のAの選手の移動でこれだけチャンスを作ることも可能なんですね。

例がシンプルすぎて当たり前のことですし、そんなに上手く行くこともない!とお思いになる方もいると思いますが、この僅かな動きを1試合を通して繰り返していれば、相手の網はだんだん緩んでくるはずです。

このようにパスを出したあと選手がどう動いているか?どう動けばスペースが開くのか?に注目して試合観戦することもとても面白いです。一見普通のパスに見えてもその後の2,3歩で「無駄じゃない」パスに変わるんですね。

バックパスが上手いと思ったプレーヤーはモドリッチやチアゴといった選手が上手い印象です。地味ですが、レアルやバイエルンの試合において彼らの働きはこういった部分にも表れているんです。

またこの2,3歩の動きのように「間接的に試合を動かす」プレーは非常に効果的です。所謂フリーランというものですね。皆さんご存知、フィルミーノのリバプールにおけるこの働きは大きいですよね。フィルミーノのように大きく相手を移動させるフリーランだけでなく、2,3歩の「フリーウォーク」で試合を動かしている選手もいるので、何故こんなにいいパスが入るのだろう?と思った時には、このような選手の役割にも注目してみて下さい。

 

以上長々と3つのパスについてを紹介してきましたが、簡単なパスにおいても相手を動かす重要な役割があることや、蹴る球種、状況によっても効果的だったり、逆に不利な状況を生んだりすることがわかります。どれも最も簡略化した状況で退屈された方もいるかもしれませんが、ここから更に深く考えを発展させていくことが可能です。

この記事が今後KOPの方、サッカーファンの方が試合をより深く楽しむためのキッカケになればと思います。

また今回の記事においてリバプールの選手の登場シーンが少ない!リバプール関係ないじゃん!と思ったKOPの皆様すみません。筆者は熱狂的な生粋のKOPですのでご安心を。笑

今後もリバプールに関する楽しい小ネタ記事や今回のような戦術記事を書いていきたいと考えています。お気軽にコメントをしてもらえたり、いいね!して頂けると今後の励みになります!!また記事にして欲しいトピックがあればお気軽にコメント、Twitterでお伝えください!ご期待に添えるかわかりませんが、全力で記事にさせて頂きます!(Twitterアカウントを開設したばかりであまり皆さんと交流を持てていないので、良ければ交流していただけると嬉しいです。笑)

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マジスタ#7

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