マンチェスターシティVSリパプールレビュー 5つのポイントから見るプレミア頂上決戦

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UMIYA
戦術分析から軽い紹介記事まで、リバプールに関することや、プレミアリーグや他リーグのこともネタがあればkop目線で様々な記事を書きたいと思っています。よろしくお願いします。

はじめに

シティ戦は2019年に入って初戦だった。現地時間、1月3日20時キックオフのゲームは昨シーズン王者のマンチェスターシティが今季首位を走るリバプールをホームに迎えるという構図。リバプールはここまで無敗、状況は昨シーズン首位を無敗で走っていたシティに対して、1月にリバプールがアンフィールドで初黒星をつけた時と酷似していた。両チームのファンだけでなく、世界中から注目されたこの一戦は、昨年の仕返しと言わんばかりにシティが2-1でリバプールに勝利。リバプールに今季リーグ戦初黒星を与えた。

この試合は今季、いろいろなチームのゲームをたくさん見てきた中でもトップクラスの好ゲームで、終始高い質のプレーが繰り広げられた。リバプールファンの筆者は試合前からドキドキと興奮が収まらず、試合が始まってからも、体の震えが止まらず、落ち着くことができないような感覚は昨シーズンのCL決勝トーナメントと同じであった。

画像出典:LFC公式Twitter

そして、結果は1-2で敗北…

リバプールファンとしては非常に悔しい敗戦であることは間違いないが、少し誇らしかったのも事実だ。自分がリバプールを応援し始めて10年に満たないが、これほど内容の濃い、欧州トップレベルの試合を演じたという記憶はない。ペップとクロップの対戦は近年、常に高レベルの争いとなっているが、その中でもこのゲームは一つのミスも許されない高次元の戦いになったのではないだろうか。今回はそんな試合のポイントを振り返っていきたい。

ポイント① トランジション

試合開始から両チーム強度が異常に高かった。両チームともに方法や哲学は多少違えど、GKからボールを丁寧に繋いで前進し、守備時は高い位置からプレスをかけるというサッカーを志向しているため、自陣でのミスが致命傷になることを全選手、そしてファンが理解していた。一方で、守備側にとっては中盤、もしくはそれよりも前でボールを奪うことができればチャンスである。絶対にボールを奪われてはならない攻撃側と、ボールを奪いたい守備側の中盤におけるデュエルは白熱し、お互いが体を投げ出してボールを守り、もしくは奪おうとする闘いは凄まじかった。

このような各所におけるトップレベルの肉弾戦が大きな見どころとなったこの試合だが、両チームともに攻守の切り替えのスピードがとてつもなく早かった。ペップは今季前半戦でリバプールと対戦した際、リバプールを相手にオープンな戦いを挑むのは自殺行為であるというような発言をしていたが、まさに、この試合でも絶対に相手にスペースと時間を与えて、カウンターを受けないようにしていた。ボールを奪われるとすぐに守備に切り替わり、ボール周辺の選手はボールを取り返しにプレスへ、それ以外の選手も素早く陣形を整えるという動きを両チームが常に適切に繰り返したために、この試合において、トランジションの局面で陣形が崩れてスペースが生まれ、そこからカウンターが発動するという場面がほとんど見られなかった。コーチ陣がこの「カウンターの機会を与えないための高速トランジション」というゲームプランを用意したのであろうと推察できるが、それを試合を通して遂行できるのは、彼らがトッププレイヤーたちであり、両チームのやり方が成熟しているからであろう。

ポイント② プレスをめぐる攻防

上述のようにこの試合では、高速トランジションによって、切り替え時に発生する、陣形が崩れたカオス状態を限りなく失くしたことで、カウンターからの決定機というシーンがあまり見られず、中盤の肉弾戦でも優劣がはっきりしなかったために、両チームの攻防は片方がビルドアップを始めるともう一方がプレスをかけるという構図になった。しかし、両チームともにGKも含めて物怖じすることなく、パスが出せると判断すればアリソンもエデルソンも中盤にパスをつけるという豪胆さであった。そして、両チームともにプレス回避に多用したのが浮き球であった。通常前線の選手は自分の後ろにいる相手プレイヤーへのパスコースを遮断しながら、自分の前にいる選手にプレスをかけるわけだが、浮き球で自分の頭を超えるパスを供給されると、遮断していたはずの場所にボールを通されてしまう。両チームとも激しいプレスと緊張感の中で、グラウンダーでボールを繋ぐことでさえ難しいのに、その中に浮き球をなんなく織り交ぜ、そして処理する技術力はさすがであった。

また、浮き球と同様にプレス回避の手段として使用されるのがドリブルによる突破だ。もし、目の前にプレスに来ている相手を抜くことができれば、そのディフェンダーが遮断していたパスコースにパスをつけることもできるし、さらにドリブルで前進することもできる。ロバートソンやアーノルド、ワイナルドゥムなどはこのプレス回避の方法を得意としているように感じる。

しかし、お互いに常にプレスを回避してビルドアップに成功するわけではないので、中盤でボールを奪われると、すぐさま切り替えて陣形を整えて、またプレスを開始するという流れになる。

ポイント③ フェルナンジーニョ

この試合を見ていて明らかだったのはフェルナンジーニョの活躍であろう。シティが相手陣地でボールを保持している際は後方で待機しているのだが、いざリバプールの攻撃が始まりそうなシーンになると、アンカーの位置を飛び出し攻撃の芽を摘むタックルを次々と成功させていた。しかし、本来アンカーが自分の位置を飛び出してボールを奪いに行く行為にはリスクが伴う。アンカーが空けた位置を相手に使われれば、センターバックが無防備にさらされることになり、大きなピンチである。パスコースを切りながら飛び出したり、飛び出した先で潰しきることができれば問題はないが、勇気のいる守り方である(実際、今季出番を得始めたころのファビーニョは飛び出して奪いきれず、空けた中央を使われることが多かったし、W杯のベルギー戦におけるフェルナンジーニョもそうだった記憶がある)。しかし、この試合ではフェルナンジーニョがいなくなったスペースをコンパニが埋めるという仕組みによって、フェルナンジーニョが迷いなく飛び出せる状況を作り出していた。そして、コンパニがいなくなった中央のスペースはこの日サイドバックに入っていたラポルテを絞らせて埋めるのである。

ポイント④ サイドの攻防

マンチェスターシティの攻撃の要はサイド攻撃である。筆者は今季のシティの試合を見てきてそのように感じてきた。シティはウィンガーにサイドラインギリギリまで広がって幅をとらせ、サッカーのセオリー通りピッチを広く使って相手を揺さぶって攻撃するが、今季は中央よりもサイドを攻略し、チャンスを作り出すシーンが多い。シティは下に図示したスペースにボールを運ぶことを目的としている。(見苦しい図ですみません)

見苦しい図ですみません

この位置にボールを運ぶことかできれば、中で待っている味方にグラウンダーでボールを入れるだけでビッグチャンスが生まれる。そのためにウィンガーにボールが入るとインサイドハーフやアグエロ、サイドバックの選手が絡んでこのスペースを狙うのだが、攻略にはいくつかのパターンがある。ウィンガーが独力でサイドバックを抜き去り、このスペースに侵入することもできれば、インサイドハーフやアグエロがこのスペースに抜け出し、ウィンガーからパスが出るという動きもある。また、ワンツーによってサイドを突破することも可能だ。実際に前節、サウサンプトン戦の先制点もサイドのこの部分を攻略することで得点につなげている。

このリバプールとの試合においても数多くサイド攻撃を仕掛けてきた。しかし、リバプールも対策を行っていたように見える。敵ウィンガーにボールが入るとまずサイドバックが対応するが、サイドバックがサイドに引き出されることで、センターバックとサイドバックの間にスペースが空くことになる。

できればセンターバックはクロス対策として中央に残しておきたい(特にファン・ダイク)ので、このスペースをインサイドハーフに戻ってこさせて埋めさせたのである。プレス時は中盤に入ってくるボールにプレスをかけ、激しいデュエルを戦い、そこが突破されるとサイドバックのカバーに回るのだから、とてつもない運動量である。しかし、ワイナルドゥムとミルナーの2人は立派に役目を果たしていた(特にミルナーのカバーリングは異常で、一切サボらなかった、右サイドはロブレンがカバーリングタイプなのでロブレンに任せるシーンも多かった)。
そして、相手がサイドバックを攻撃に加えるとマネやサラーが戻ることで数的同数を確保した(ダニーロに比べてラポルテがほとんど上がらなかったこと、サラーは攻撃要因として前に残しておきたかった、などの理由でマネの方が守備参加は多かったが、マネの守備力は非常に高い!)。

このような対応で、完封とは言えないまでも、比較的しっかりとシティのサイド攻撃を抑えてはいた。とはいえ、失点を喫した2つのシーンがサイドを起点にやられたように、いくつかのピンチを招いたことは間違いなく、それは比較的右サイドからが多かった。左サイドはもともとロバートソンの守備能力が高く、1対1で突破されることがほとんどなかった上に、ミルナーとマネの守備参加は非常に強力で、かつその後ろにはファン・ダイクが控えているなど、鉄壁だった。中でもロバートソンやファン・ダイクは相手が上記のスペースを狙っていることを意識した上での守備が何度か見られた(分析したことを90分間実行し続けるのは本当に凄すぎる、本来は自分が守りやすいやり方なんかもあるわけで…)。一方で右サイドもアーノルドがサネに対してなぜだかわからないが非常に相性が良く、ワイナルドも役目をきちんとこなしていたが、ファン・ダイクと比較してしまうとやはり能力的に劣るロブレンと、アーノルドの経験的な部分での不足(としか表現できない…)によって失点を招いてしまったと言える。

画像出典:LFC公式Twitter

ポイント⑤ ロブレン

最後の項目は、悪い意味で少し目立ってしまったロブレンである、が筆者としては失点につながった場面もその他のシーンでも、ロブレンのミスはあまりなかったのではないかと考えている。ミスというよりも、ロブレンの能力的限界値があそこであったという見解である。ペップはインタビューで「選手のクオリティーや特徴を抜きに戦術を語ることはできない」と話していたが、まさに戦いの基本である「相手の弱点を突く」ということをリバプール相手に実行している。今回の対戦に限らず、ペップはリバプールと対戦するときに、アグエロにファン・ダイクにはプレスをかけさせるが、ロブレンには行かせないのである(いつからこれをやり始めたか、記憶は定かではないが今季前半戦での対戦時は行っていたし、昨シーズンもだったと思う)。これによって、ロブレンは、敵は誰も来ていないがパスコースがどこにもなく何をしていいかわからない状況、に陥ってしまう。もしこれほどフリーなら、ファン・ダイクやジョー・ゴメスであれば前線にフィードをつけたり、強力な縦パスを入れるなどロブレンにはできないことができるかもしれないが。

ロブレンを放置していたシティディフェンスだが、プレスのスイッチが入った状態ではロブレンにもプレスをかけてきた。後ろを向いてアリソンに返す余裕もないこのような状況下で、ロブレンにできる選択肢は前に蹴るということだけであった。上述したように、相手の頭の上を越して味方に繋げるロブパスとドリブルで相手を剥がす能力もロブレンにはなかった。この点、ゴメスはドリブルで剥がすことを得意としている(いつかミスしそうで怖いのだが…)。

このように、この試合でプレーした22人の中ではロブレンは少し能力的に劣っていたように感じる。むろん、ロブレンを下手くそというわけではない。世界最高レベルであったこの試合においては少し浮いていたように感じるというだけだ。世界最高ではないにしても、トップクラスのディフェンダーであることは間違いないので、中位以下にはもちろん、強豪相手でもチームによっては信頼して起用できる選手であると感じている。

少し主観が入ったが、先制点を与えた直前のシーン、サネに千切られた場面にしても、すでにイエローカードを一枚もらっていたロブレンにとってサネと並走して止めるのは不可能である。このシーンはロブレンとサネが並走するという状況が作られてしまった時点で、シティが一枚上を行ったと考えるべきであろう。そこで、サネがどのようにして抜け出したかを見てみると、アーノルドがサネを見失い、ボールに視線がくぎ付けになっていることがわかる。その隙にサネは裏のスペースへと抜け出し、ロブレンが釣りだされてしまった。その他のプレーを見る限りでは、サイドにおけるサネの対応は完全にアーノルドに任されていた。よく守れていたのだが、このワンプレーを許してしまうかどうかが「経験」という部分ではないだろうか。

そして、失点シーンのアグエロに前に入られたシーンだが、ロブレンはクロスが入ってくる前に首を振って中央に相手がいないか確認している。そして、そこにアグエロはいなかった。その前のシーンでアグエロはゴールエリア付近で倒れていたのである。そこからクロスが入ってきそうになるとしれっと復帰、ロブレンの視界から逃れてラインのうちへ戻るとロブレンの前でボールを受けてしまった。アグエロにボールが渡ってからのロブレンの対応は、少し距離が遠かったとは言え間違ってはいなかったと思う。むやみに足を出せば股抜きシュートを打たれる可能性があり、そうするとアリソンにはノーチャンスだ。ファーのシュートコースを制限して、ニアに打たせてキーパーにとらせるという判断があの場面では適切だったであろう。しかし、アグエロにとってあの位置は近すぎた。たとえ逆足でニアしかコースがなくともあそこに決めてしまうのだから圧巻である。

と、ここまで書いてきたように、この試合におけるロブレンのパフォーマンスは批判を浴びるようなものであったのかもしれないが、個人的にはロブレンが下した判断等にミスがあったのではなく、単純に能力が足りていなかったという話なのだと思う。できないことをやれと言っても無理なのだ。しかし、一つだけロブレンには言いたいことがある。恐らくファン・ダイクも同じことを怒っていたのだと思うが、最後の放り込みの場面である。アディショナルタイムにファン・ダイクをフォワードにして放り込みを始めたリバプールはセンターバックにヘンダーソンを下げ、引いた相手にとってはプレスをかけにくい、サイドの自陣に近いスペースに、それぞれクロスの上手いアーノルドとロバートソンを配置し、角度をつけた場所からフリーで放り込むという合理的な放り込みの布陣であった。にも関わらず、ロブレンは最後のシーンで角度のないセンターサークル付近から、しかも逆足の左足でドカン。このボールほどディフェンスにとって跳ね返しやすいボールはないし、フォワードにとって決めるのが難しいボールもない。一体ロブレンは何を思い、あのプレーを選択したのだろうかと考えてしまう。

とはいえ、そんなロブレンよりも筆者はアーノルドが試合後、相当悔しがっているだろうと推察する。サネの対応を任されたのに2点の起点になられてしまったのだから。2つともアーノルド自身に大きなミスがあったわけではないが、対応を任された相手を2度見失い、2つの得点を許してしまった。2失点目の後のアーノルドの悔しがり方も尋常ではなかったし、本人にも感ずる何かがあったのだろうか。しかし、まだ若い選手にとってはこのような経験が危機察知能力の向上といった部分につながるのかもしれない。小さな部分かもしれないが、トップレベルではそういったことが結果を左右する。アーノルドの更なる成長には大きな希望を抱いている。

おわりに

少し長い文章になってしまい、その上まとまりもそれほどなかったであろうから、ここまで読んでくれた方には感謝しかないです。ありがとうございます。そのうえで、最後にさらに雑感を付け加えさせてもらいますが、先にも述べたようにこの試合のレベルは非常に高く感じ、とてつもなく面白かったです。負けて悔しい気持ちは当然あるのですが、多少のやり切った感もあったのでマッチレビューのようなこの記事を書いてみました。やはり、両チームともに、相手を分析してそれをもとに戦い方を設定していたのだと思いますが、1週間もない中でこれほど対シティ、対リバプールを完成させてしまう、両監督はさすがだし、そのチーム構想の通りのゲーム運びを実際にしてしまう選手は凄すぎるなと感じました。選手個人でも自分のマッチアップ相手の分析は行っているはずで、そこで得た対策を実際に試合で実践してしまえるのが、両チームが昨年、そして今年と強さを見せている要因なのだと思います。また、マッチレビューとは自分がこの試合をどう解釈したかであり、試合の見方、解釈はひとそれぞれだと思うので、ここに書かなかった内容以外にも何かコメントや質問等があれば連絡お願いします。最後までお付き合いありがとうございました。

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2 件のコメント

  • マッチレビュー、楽しく読ませて頂きました。

    ポイント3の「武闘派フェルナンジーニョ(笑)」をいなすために

    ファビーニョを投入して良い流れになったのですが・・・残念です。

    でも、あっという間の90分、極上の時間でした♪

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